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名無しの□は混乱する

最初に感じたのは、痛みだった。どこが痛いと明確に言えるわけでは無い、全身が痛むという事だった。


「!!」


その痛みで目を開く。そもそもこの痛みの原因という物を、自分は全く覚えていなかった。

覚えていないせいで恐怖心が募る。

また、繰り返される。

頭の中で形取った思いはそう言っており、一気の血の気が引き、傷の痛みのせいで熱を持っているのだろう体が、あっという間に凍り付いたように寒く感じられた。

逃げなければ、でも、逃げていくあてなんて自分にあるのか?

混乱した頭がいくつもの、無理な指示を飛ばしてくる。

逃げろ、立ち上がれ、逃げろ、復讐しろ


だれに?


誰に復讐しろというのか。無理な指示を飛ばしてるのは自分自身の意思なのか。

それももうわからなかった。それくらい混乱していて、めちゃくちゃな頭の中だった。

そして、立ち上がろうにも、体の痛みや重さやその他の色々な負の症状のために、どうあがいても立ち上がる事がかなわなかったのだ。


「……ひゅうっ、げほっげほっ!」


冷え切った体で呼吸をしようとして、一気に咳き込んだ。咳き込んでからしばらく咳を続けていると、自分の寝ている、見慣れない場所、……そもそも記憶が曖昧なせいか見知った場所であったのかも判別の難しい……の扉がバタンと開き、そこからぼさぼさの頭髪を一つにくくって豚の尻尾のようにした、男性が姿を現した。あまり体の線に沿っっていない、誰か他人の衣類を強奪した後のような衣装を来た、男性だった。

前髪も全て一つにまとめている結果なのか、頭髪が後退した男性のおでこは、つるりと形の良い物で、眉毛は剃ったのか、表情の読みにくい顔をしている。

そんな顔の男性が、目を丸くしてからこう言った。


「+++、************!」


「ひゅっ……」


言葉が、わからない。相手の言葉が何一つ理解できない。

目を見開いて凍り付いたのは、未知との遭遇のせいだった。いいや、自分は言葉も違う誰かに会った経験が果たしてあったのだろうか。

それらも思い出せなかった。

そして、凍り付いた顔をしたこちらに、その男性は気付いた調子だった。


「++? ******、****?」


何を言われても理解できない。ただじっとその男性を見ているほかなくて、その男性がまいったなと言いたげな顔をしたから、困らせたのだと伝わった。

困らせたいわけでは無い。本当の本当に、言葉がわからなくて、途方に暮れているのは自分も同じだった。

その男性は、しばし黙った後に、身振り手振りで何かを訴えてきた。

それから、何かを書き取り、それを見せてくれた物の、何かののたくった後のような形を、読めるわけも無く、自分の態度からそれが伝わったらしい。

彼は本当に参ったな、と言う調子で首をすくめた。

それでも彼は、飲めと言わんばかりに、水差しから何かを注ぎ、自分が横になっても飲めるようにと言う事か、漏斗を口に突っ込んできて、どぼどぼと注ぎ始めた。

一瞬面食らったが、自覚すると喉の渇きはすさまじくて、彼が注ぎ終わるまで、自分はその液体を飲み続けたのであった。

味はよくわからなかった。ただ苦い気がしたので、苦い何かの混ざった……まあ毒では無い何かにちがいなかった。

そしてそれを飲むとまた意識をとどめておく事が難しくなってきて、世界に霞がかかり、重たくなりすぎた瞼に負けて目を閉じると、世界が暗転した。




燃えている。何かが燃えている。


悲鳴が一つも聞こえてこないのに、たくさんの声が悲鳴として響き渡っている気がして仕方が無い。


助けを求める声がする。助けてと泣いている声がする。


いたい、くるしい、だれか、だれか。


その声の持ち主達を助けたいと思うのに、駆けだしてそちらに行こうとすると、ぐんっと何かに押さえつけられたようにつんのめって、足に足枷がはめられている事実に気付く。


必死に叫んだような気がする。いまいく、いますぐ、みんな、みんな。


どうあがいてもそれ以上進めない状態の中で、必死に誰かの名前を呼び続けたような気がする。


燃え尽きたどこか。炎の赤色と光が消えて、自分以外何も居なくなった暗闇。


そこで、足の爪の先しか見えない何かが、こう言った。


「それでもおまえは×××××?」


何と答えたのか意識する前に、世界が暗転した。


のろってやる。


暗転する間際に、気が狂いたくなるほどの恨みのこもった声が耳に入り込んで、もうやめてくれと叫び……次に意識が戻った時、顔を覗き込まれていた。


「ひでえ++++、ふなばん+++++++++。おまえ********?」


顔を覗き込んでいるのはまた見知らぬ男性で、何かの作用で色がやや脱色した黒髪に、日焼けでは無い肌色の濃い肌をしていて、瞳は一番透き通った時のお月様みたいな銀色をしていた。

顔立ちは整っている方なのだろう。そもそも美醜うんぬんが、正確にわかっているわけでも無かった。

そしてその男性が自分を見下ろして、不意に手を伸ばしてきたのだ。

誰かの手が伸びてくる、それが恐ろしくて体をこわばらせると、その手はゆっくりと自分の頭をなでて、男性がこういう。


「夢*****? まあ*******。」


そこまで彼の言葉を聞いて、片言ばかり、言っている意味がわかった事に気がついた。

どういう作用なのだろう。

そこまで思って口を開こうとして、その男性が不意に、自分の胸元に手をやった。

その動作で、自分の首に何かがぶら下がっている事に気付いたが、彼は遠慮無くそれをつかむと、自分の首からそれを外した。


「……」


見慣れないけれど懐かしい気がする形だった。それを示して、彼がこういう。


「代金++++++。ゆっくり********?」


……怪我の治療の代金がそれだと言っている調子で、多分そうだった。

こっくりと頷くと、彼はそれを無造作にズボンのポケットにしまい、あの髪を縛っていた男性と同じ液体を、男性より若干慣れない手つきで、飲ませてくれたのだった。

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