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船長キッドの拾い物

「なんだ、こいつ」


「お頭、どこをどう見たって人間だろうが」


船長キッドが船の修繕その他手入れのために、その入り江に船を動かし、周囲を散策して見つけたのはそれだった。

一瞬ぼろきれかと思うような有様のそれは、行動を共にしている船医のルークに突っ込まれてようやく、人間だとわかる物だった。


「難破船から流れてきたんじゃねえのか。この辺りは運が悪けりゃすぐ沈む」


「だから俺達がこの隠し入り江に入って、船の手入れが出来るってわけだろうが」


「そうだがな。……にしても、こいつ、ずいぶん色々船でやらかしたんだろうな。見ろよ、片耳はそがれてるし、目も片方つぶれてやがる。こんな真似をするのは、俺達の同類だろうよ」


キッドはそのぼろ人間をしゃがみ込んで検分し、そう判断した。

陸の人間はよほどの事が無ければ、人間の耳をそがないし、目もつぶさない。そういった残酷な所業を簡単に行うのは、掟の厳しい海賊……つまりキッドの同類達と相場が決まっていた。

見てわかるような罰の印は、それを受けた人間にとって、”自分は掟を破った事があります”と誰が見てもわかる様になるため、精神的苦痛をあたえやすく、二度目は無いと警告するにふさわしい罰だった。


「ぼろきれに隠れてたが、片腕もめちゃくちゃだな。こいつ何したんだ? 仲間を裏切ったか、それとも財宝の取り分を仲間からちょろまかしたか、それとも」


「お頭。もう死人を検分するのはやめましょうや。適当に穴でも掘って埋めてやりましょう」


「へいへい、元聖職者様はお優しいことで」


キッドは茶化すようにそう言った。彼の船の船医が、元々は戒律の厳しい東の地方の聖職者だった事は、船の誰もが知っている。

癒やしの技を使う人間が、東の地方では聖職者である事は、非常に多い話だった。

聖職者という、人を救う事を目的とする人間達だからこそ、癒やしの術を覚えるという事かもしれなかったが。

キッドがぼろ人間から少し下がると、ルークはそのぼろ人間に近付いた。そして黙祷し、雑ではあるが運ぼうとした時だった。

彼の顔色が変わったのは。


「お頭、こいつ生きてやがる」


「はあ?! こんな状態で? この大火傷で?」


「呼吸と脈がある。……どうします? オレの考えで扱っても?」


「何したいんだ?」


「いやー、この前仕入れた古代魔法の付与された道具を、使ってみたかったんだ。船の人間はオレのそういった研究には近付いてくれやしないから、ちょいとばかり研究のための人員が」


「わかったわかった、お前のやりたいようにしろ」


「へい、お頭」


べらべらとしゃべり出しそうなルークに、キッドはあっさりとそれを許可した。と言うのもルークは、元聖職者であるが、元と頭に着く理由は、人を救うために人で実験や研究を行うと言う所業が、上に知られて神殿を追われた人間だからである。

この研究熱心さのおかげで、キッドの船の船員達はほかの船よりも病気や怪我で死ぬ確率が下がったが、わざわざ実験に協力する命知らずはいなかった。

キッドはルークの技術も研究熱心さもそれなりに買っているが、実験の対象になる選択肢は選ばない。

船を統括する男から許可をもらったルークは、えっちらおっちらとそのぼろ人間を運ぼうとし始めたものの、一人で運ぶのも難しい位に、そのぼろ人間はボロボロだった。

ゆえに。


「お頭、運ぶのを手伝ってくれ」


「お前なあ、自分でどうにかするんじゃ無かったのかよ」


「一人で運んだらこいつ、バラバラになっちまいますよ」


「うるせえ野郎だ」


ルークの言葉に、キッドははいはいと返事をして、ルークは足を、キッドは腕を持ってそのぼろ人間を持ち上げた。

異常なほどに軽い。あまりにも軽くてぎょっとするほどに軽い。


「……こいつ、なんなんだ?」


キッドは何回目かわからない疑問を口にする。

そのぼろ人間が、とてつもない訳ありで有る事は、確かそうだった。

その時だ。

そのぼろ人間が……いきなり目を開けたのだ。


「!」


「意識を取り戻したのか!」


この状態から意識を取り戻すとは思わなかった二人が、一瞬息をのみ、キッドが言うと、そのぼろ人間はじっとキッドを見て、口を開いた。


「アルケイア国によってはならぬ。アルケイア国は長年のつけを支払わされている」


それだけを言ったぼろ人間のまぶたが閉じる。また意識を失ったのか、体の力が全て抜ける。


「……」


「お頭……今のは……」


二人の海賊は顔を見合わせた。彼等は全身に鳥肌が立っていて、それはそのぼろ人間が一瞬見せた気配が、ただの人間のそれではない事を示していた。


「こいつはとんでもない拾い物だぜ、ルーク。……どうしたって命を助けにゃならない。出来るな、ルーク」


「へい、お頭。腕が鳴りまさぁ」


そう言い合って、彼等は修繕中の船の有る、入り江の方に戻っていったのだった。

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