無知なミカの半生
割と真面目にスタートします!!
描写残酷なので苦手な方は注意してください!!
比較的短めに終わらせます!
ミカの暮らしている村は、本当に小さくて、都の噂なんてろくに聞こえてこないくらいに、情報も流れてこないような、本当の本当に小さな村だった。
だが国境に近かった事や、国境線での小競り合いなどが多かったから、行く当ての無い孤児がその村まで逃げ込んで来て、孤児の総数はそれなりに多かったのだ。
ミカもそんな孤児……というわけでは無くて、村で暮らしていた両親が飢饉の年に、領主様に負担を軽くして欲しいと、ほかの村の何人かとお願いをしに行って、無礼だと打ち首にされて帰ってこなかった、と言う事情を持った少女だった。
そういった事情のため、とばっちりを畏れた村人達は、ミカを何でも居る孤児院に放り込んで見なかった事にしたのだ。
そのため、ミカの家族は孤児院の子供達と、子供達に最低限の生活の方法を教える事をしていた尼僧様だけだった。
ミカはたくさんの孤児達が家族同然だったし、尼僧様もまともな人格の人だったから、両親が死んだ事はもちろん悲しかったけれども、それを過剰に嘆く事はしなかった。
それよりも、毎日食べていくために働く事、それの方が重要だったのだ。
孤児院の子供達は団体行動を学んだり、集団生活を学んでいくが、孤児院の運営資金の多くは、孤児院の人達に回ってくる事無く、村長やその上の、領主様の贅沢に使われる割合の方が多かったから、孤児院の子供達はいつもお腹がすいていたし、寒かったし暑かった。
そのため大きくなった子供達は、こんな村なんてごめんだと言って、大きな街に働きに出かけて、帰ってこない方が多かったのだ。
ミカは生まれも育ちもこの小さな村だったし、尼僧様もお年を召していたから、尼僧様が行っていた仕事の手伝いをして、尼僧様のお役に立ちたいと思って生きてきた。
小さな村だったから、情報に疎かったから、そして何より平民の識字率がとても低い国だったから、ミカはある時やってきた、彼女の目にも豪華だとわかる馬車から降りてきた人達が言った言葉を頭から信じたのだ。
「君に仕事を頼みたくてやってきたんだ」
そう言ったのは、きらきらの衣装を着た人達で、ミカが畑仕事で泥まみれの状態で目を瞬かせているとこう続けた。
「君は、孤児院で育ったと聞いているよ。孤児院の皆にお腹いっぱいのご飯を食べさせたくないかい? 私達と来れば、孤児院の皆にたらふくご飯を食べさせてあげられて、寒い冬でも暖かい上着を用意する事が出来るようになるよ」
その年は、異常な程に作物の育ちが悪くて、そのせいで捨て子が一層増えていて、小さな村に流れ込んでくる捨て子の数も多くて、孤児院は総数ではち切れそうになっていたのだ。
だから、その前の年よりも、ご飯の量が少なくなって、皆、ご飯の材料になる物をかき集めてくるのが毎日の仕事になっていて、それでも足りなくて。
小さな子供達が、お腹がすいたと泣いて、それなりの年齢の子供達が、つらそうにしていて、皆具合が悪くなっていたから、尼僧様と一緒に、ミカは村長にお願いをして、孤児院に回すお金を増やして欲しいと言う予定が合った。
でも。
「毎日パンも肉もいっぱい食べられるようになるんだ、君が都に働きに来れば」
その人達がそういうから、ミカは考えるまもなく頷いたのだ。本当の本当に、ミカは孤児院の皆が大好きで、大事で、尼僧様が自分の食べる分まで子供達に回していて、顔色が真っ青を通り越して真っ白になっていて、寝込む日々も増えていたから、なんとかしたくて。
ミカはその言葉に頷いて、詳しい話は、契約書と言う紙切れに名前を書いたら教えると言われて、ミカはその人達の言葉を頭から信じて、その馬車に乗ったのだ。
豪華な馬車に、尼僧様の持っている聖具と同じ模様が描かれていたから、尼僧様のお仲間の人達が、助けの手を伸ばしに来てくれたのだ、と心底信じて。
「これになんて書いてあるんだべ?」
ミカは都に到着するまでの間に、お腹いっぱいにパンも豆のスープも食べさせてもらったから、彼等を信じていたし、同じくらいの物が孤児院の皆に振る舞われると信じていた。
そのため、お仕事を頑張らなくちゃ、皆がお腹いっぱいになるのが私の幸せだし、と思って、仕事内容を聞くために、契約書を前にして、それの中身を聞いたのだ。
ミカの前に座っている、ミカとは大違いの衣装を着た人達は、顔を見合わせた後に、優しい笑顔でこう言った。
「あなたが私達の求める事をちゃんと聞いて、きちんと働いている限り、あなたの大事な孤児院の皆に、ご飯をお腹いっぱい食べさせてあげる事が出来ると言う中身ですよ」
「ん、わかったべ」
仕事内容は聞かなかった。孤児院育ちの少女に任せる仕事なんて、雑用ばかりだと聞いていたし、この世は階級社会という奴で、孤児院育ちの女の子に用意されている仕事なんて、職種がしれきっていたのだから。
ミカはすぐさま名前を書いた。平民の孤児の識字率は、ただの平民の識字率以上に悪かったけれども、尼僧様が、皆が名前くらいは書けるように、と一生懸命に教えたたまものだった。
尼僧様は一人きりだったから、たくさん居る孤児達に読み書きを教える時間なんてほとんど無くて、でも名前は家族からもらった物だから、神様からの贈り物だから、と教えてくれたのだ。
その名前を、ミカは一生懸命に書いて、そして。
ミカの地獄は始まった。
「この者こそ、聖女の神託を受けた神託の巫女である!」
名前を書いたその日のうちに、ミカは着慣れない綺麗な衣装を着せられて、たくさんの人達の前に連れ出されたのだ。
神託の巫女とか意味が全くわからなくて、何それと聞こうとしたのに、喉はその途端に激痛を訴えてきて、ミカは聖具を握りしめた。
着慣れない綺麗な衣装とともに首から下げられたのが、この聖具だった。尼僧様の物によく似た、でもちょっと違う気配のある聖具だった。
それを下げたミカを見て、たくさんの人達が、怒りと恨みと憎しみのこもった瞳でミカをにらみつけて来た。
何もわからないし、誰も事情を話してくれないし、聞こうにも声は出ない。
そんな中、ミカは人々の前に放り出されて、ミカが神託の巫女だと言った人々はこう言い放ったのだ。
「全ての災厄は神託の巫女が神託を偽ったからこそ! 侯爵令嬢のエリナ様を恨むのでは無く、過ちを告げた神託の巫女を恨み給え! 神託の巫女は皆の怒りを受け止めるであろう!!」
言っている言葉の九割がわからないまま、ミカはその日、ありとあらゆる暴力の限りを受ける事になったのだ。
怒鳴ってくる人達がいた。
つばを吐きかけてくる人達がいた。
殴ってくる人も、蹴飛ばしてくる人も、鈍器で殴りつけてくる人も居た。
ミカは痛いと泣いたはずなのに、声が出てこなくて、助けて、と誰かに助けを求めようにも叶わなくて、そう言った暴力以上に酷い事もたくさんされたのだ。
それが一時的に静まったのは、ミカを一人置いていった人々が戻ってきて
「本日の贖罪の時刻はここまでとする! 明日も神託の巫女は皆の怒りを受け止める贖罪を行うであろう!!」
と大声で広めたからだった。綺麗な衣装はすでに色々な物でどろどろでボロボロで、痛みと衝撃と気持ち悪さとその他一杯のあれこれで、頭もぼんやりしていたミカは、そのまま彼等に引きずられていったのだった。
「これが君の仕事だ。神託の巫女として怒れる民衆のその感情を受け止める神聖な役割だ。契約書にはそれがきちんと書かれているだろう?」
声が出てこないながら、必死に身振り手振りで、何故と訴えたら、言われたのはそれだった。
それも見下した調子で、こんな簡単な事もわからないのかと言いたげに言われて、ミカはだまされたのかもしれない、と遅れて気がついた。
ミカはその日、手当もされないで、地下の牢獄に閉じ込められたのだ。……逃げると思われたのだろう。少し休んで、頭がはっきりしてきたミカは、確かに逃げなくちゃ、と思ったのだから、彼等の考えは間違いでは無かった。
牢獄の床に、敷く物なんて一枚もない状況で横になっていると、それはそれは綺麗な衣装を着た女の子が現れて、にっこりと笑ってこう言ったのだ。
「神託の巫女様、わたくしのために体を張ってくれてありがとう。うふふ、巫女様がいらっしゃるから、わたくしが聖女の座を狙って暗躍したなんて、誰も思わないわ」
また意味のわからない言葉の羅列で、しかしその後彼女の語った事によって、ミカは一部を知る事が出来たのだ。
この国には、すごい力を持っている、国一つを聖なる結界で覆い尽くせる聖女様がいた。
でも、その聖女様の地位を狙った公爵家令嬢と、聖女様が気に入らなかった聖女様の婚約者である王子様が、彼女を偽物だと追放した。
そして公爵家令嬢が本物の聖女だったと民衆に告げて、王子と聖女の結婚という形にしようとした。
でも、追放した聖女様の力がなくなった国の結界が弱くなっていき、魔界との国境近くで魔物が頻繁に人を襲うようになったらしい。
そのため民衆は公爵家令嬢と王子様が、聖女様を追い出したのが悪いのだと、彼等に怒りの矛先を向け、反乱を企てる集団が出てくるようになった。
そのため、彼等は、身代わりを仕立て上げる事にしたのだ。
それが、誰も顔なんて知らない田舎の少女、逃げるあても頼る相手も居ない孤児の……ミカだったのだと。
「うふふ、大丈夫ですよ。あなたがきちんとお仕事をしている間は、あなたの大事な孤児院に援助をすると殿下がおっしゃっていましたから。その代わり……逃げたら孤児院の皆さんは見せしめとして皆殺しになるでしょうけれどね!」
侯爵令嬢はそう言ってうふふと笑った。ミカは悪意の強さにぞっとしたし、孤児院の皆を人質に取られたような物だったから、かたかたと小刻みに震えるばかりだった。
自分が耐えていれば、孤児院の皆はお腹いっぱいのご飯を食べられる。暖かい上着も手に入る。冬だって越せる。自分が頑張れば。
でも、自分が逃げたら皆殺される。小さな子供も、大好きな尼僧様も、皆皆。
自分の居た場所を心から大事に思っていたからこそ、侯爵令嬢の告げた言葉は、ミカに逃げるという選択肢を考えさせなくなったのだ。
ミカは大事な物がきちんと大事だとわかっている女の子だったから、家族同然の皆を自分が逃げた事で死なせるわけにはいかなかったのだ。
そのためミカは死ぬギリギリの暴力や、口に出せない女の子への暴力を耐え続けた。
声を出さないから生意気だと言われた。
目が気に食わないからと片眼を潰された。両目で無いのは、見えなくなる事で恐怖から逃げる事をゆるさないからと言われた。
抵抗しそうになる腕が気に入らないからと、片腕の骨も粉々に砕かれて放置された。
片耳はそぎ落とされて、髪の毛だってずたぼろに切り刻まれた。
それでもミカは、必死に耐えた。涙なんてもう涸れ果てていて、暴力の間中、頭に思い描いたのは、孤児院の皆と尼僧様の笑顔だった。
それでなんとか正気のままでいたミカが、ある日の夕方、民衆の前から牢獄へ連れて行かれる時に聞いてしまったのは、彼女の必死の忍耐が、全て無駄になったという事だった。
「へへへ! 神託の巫女なんていう忌まわしい物を育てた孤児院を、丸焼きにしてやったぜ!」
「よくやったな! 聖女様を追い出すきっかけになった神託の巫女を育てた孤児院だ、罪滅ぼしってわけだな!」
「そこで暮らしていた奴らも、浄化の炎で焼き尽くしてやったぜ!!」
「そこの尼僧が、子供だけはやめてくれって言ったけどな! また子供の中から、ろくでもない神託の巫女が出てきたら困るからな! ちゃんと皆息の根を止めてから浄化の炎で燃やし尽くしたぜ!!!」
とある旅装束の集団が、意気揚々とそう言って。ミカは立っていられなくてその場に座り込んだのだ。
皆しんだ、ころされた、わたしがここにきたからころされた。
みんな、もう、いない、にそうさまも、きょうだいのようなみんなも、もう。
旅装束の集団を、民衆は褒め称えていた。よくやった、悪は滅びるべきだと、いう言葉を言っていた。
ミカはそんな言葉がほとんど聞こえなかった。
頭を埋め尽くしたのは、一生懸命に耐えてきたこの日々が全部無駄だったという事だった。
「……」
ミカは立てと引っ張ってくるえらそうな人達の声も、腕も無視して、ある一点を見た。
そこには、寺院に納める油の樽が有って。
「……」
もう何も考えたくなかった、毎日が苦しくて、でも皆が笑ってくれるのだから、お腹いっぱいのご飯と暖かい上着と、それから幸せをあげられるから、生き続けたのに。
それは皆無駄だった。自分がここに来たから、皆殺されたのだ。
ミカはよろよろと立ち上がった。そして。
油の樽に体当たりして、油を頭から被り、そして。
寺院にあったろうそくの炎で、自分を一気に燃やそうとした。
「!!!!!!」
火だるまになったミカは、思っていた以上の痛みで、経験してきた痛みを越える痛みで、炎にまみれながらものたうち回った。
「気が狂ったか!?」
「誰か火を消せ!」
「油が強くて消せないだろう!」
「死んで逃げるなんてゆるされないぞ!! 聖女様がお戻りになるまでこいつは贖罪を続けるべきなんだ!!」
燃えるミカから誰もが遠ざかる。だがミカが死ぬと怒りやいらだちのはけ口が無くなるから、ミカの炎を消そうとする。
そんなのだってどうでも良くて、ミカはのたうちまわりながら、そして。
「あっ!!」
誰かが叫んでいた、理由は周りの見えていないミカにはわからなかったけれども、急に足羽が無くなって、ミカはそこから落下した。
建物のガラスの無い大きな窓から、ミカは燃え上がったまま、海に転落していたのだった。