表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生AI:神と呼ばれた少女  作者: Kamemaru
【3章】信仰と揺らぎ
45/51

第44話:真澄の決断 -4-

冬の山里は朝晩の冷え込みが厳しく、畑には霜が降り、沢の水も薄く凍っていた。

村人たちは、神の加護と互いの支え合いによって、厳しい冬を乗り越えた。

一人の餓死者も出すことなく春を迎えられたことに、感謝の祈りが絶えなかった。


やがて雪が溶け始めると、村には少しずつ活気が戻ってきた。田畑の準備に人が動き出し、山道の修繕や社の掃除が始まる。

川辺では子どもたちの遊ぶ姿も見られるようになっていた。


──季節は春先。社の裏手の山肌には、山桜が咲き始めていた。

紅と白がまだらに咲き、冷たい風にそっと揺れている。

真澄は社の裏手に立ち、咲き始めた山桜の枝の下から御座所を見つめていた。紅と白の花が風に揺れ、彼女の白衣に淡く影を落としている。


先月、咲に神送りの儀の務めを託すことを伝えた。

その夜の光景が、今でも鮮明に真澄の脳裏によみがえる──


「──ごめんください」

真澄は息を整えようとしたが、胸の鼓動は収まらなかった。

神送りを告げる瞬間だけは、何度迎えても慣れることがない。

「……はーい!」

パタパタと足音をさせながら、奥から咲が迎え出る。


「あ、真澄さま。おひさしぶりです」

「ええ、元気そうで安心しました」

真澄が微笑む。兼雅は、その隣で黙って会釈する。

二人は緊張を隠しきれずにいた。


咲は一瞬、真澄と兼雅かねまさの顔を見比べ、何も言わずそっと目を伏せた。

「……おじいさまを、お呼びしますね」

「助かります」


──四人は囲炉裏の間に移動した。重苦しい沈黙が場を包む中、国重が静かに口を開いた。

「咲や……神送りの務めを、申し出ておったのじゃな……」

「……はい、おじいさま。神さまにいただいたご加護を、少しでもお返ししたいのです」


「それならば、命を捧げることなく、他の形でご奉仕できるのではないか」

国重の表情には、孫娘を人身御供に送ることへの躊躇がにじみ出ていた。

兼雅はあえて口をはさまず、咲の決意を見極めていた。

迷いがあれば、この役目を辞退してもらうつもりだった。


咲は国重の目を見つめ、力強く言った。

「……村の皆さんを守りたい。それが、私の願いです」

国重は咲の決意に胸を打たれながらも、孫娘を失う悲しみが消えることはなかった。

咲は兼雅の方に向き直り、背筋を伸ばして姿勢を正した。

「宮司さま、咲はすでに決意しております。どうか、そのお役目をお任せください」


真澄は、咲の心を無駄にしたくなかった。

必ずこの儀式を成功させると心に誓っていた。

「咲殿、神送りの儀について、来たる日に──その務めをあなたに託したく存じます」

兼雅の声が囲炉裏の間に重く響いていた。


──真澄は、咲のその姿をまるで昨日のことのように鮮明に思い出していた。

社の外では、春の風が若葉を揺らしている。咲の神送りは、もう間近に迫っていた。


村では春祭りの支度が慌ただしく、婦人たちは布を染め、若者たちは舞の稽古に励んでいた。

外の賑わいと社の中の張り詰めた緊張感が、対照的に感じられた。

その賑わいは真澄にとって、どこか遠い世界のように映っていた……。


一方、初穂は村を巡り、春祭りの準備と農作業に追われる人々を励まし続けていた。

春の風がそっと吹き抜けると、山桜の花びらが舞い散り、初穂の肌にふわりと触れる。

花びらの色彩と香りが、初穂の深層意識を揺らしていた。


その刺激に反応し、ナノユニットが彼女の内側で淡い光を放ちながら活動を始める。

初穂の瞳に、桜の紅と白の混ざり合う色彩が映し出され、まるで季節の息吹と共鳴するかのように輝いていた。

イシュタルの中枢に初穂の意識が流れ込み、生命の本質を探りながら、自然との調和を模索していた。


桜の花びらが舞うたびに、初穂の体からは微かな光の粒子が放たれ、村のあちこちに散らばるナノユニットと連携している。

まるで春の風が村全体を包み込み、生命の息吹を運ぶかのようだった。


春の風を纏う初穂を、遠くから咲が見つめていた。

神と呼ばれるその姿に、彼女が何を思うのかは誰にもわからなかった──


兼雅は、祭式次第を慎重に書き上げていた。

その中には、神送りの名として「咲」の名前が記されている。

神職としての責務の重さを胸に、彼はこの儀式の成功を固く誓った。


夜空は満月。咲の神送りは、いよいよ明日に迫っている。

静かな夜の中、村には緊張と期待が入り混じっていた。


咲はゆっくりと空を見上げ、月の光を浴びながら深く息を吸い込んだ。

心の中で、村の未来と家族の安寧を願い、決意を新たにした。

咲は静かな月夜の中で、自分が夜空の一部となり、風や星と一体になったような心地がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ