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転生AI:神と呼ばれた少女  作者: Kamemaru
【3章】信仰と揺らぎ
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第39話:咲の祈り

空が白み始める頃、咲は稲穂を束ねながら、祭壇の飾りを整えていた。

柿や栗が籠に並び、秋の恵みが棚を彩っている。

境内には、臼を運ぶ音や薪の香りが漂っていた。

収穫祭の朝──村人たちは、朝の光が差す前から準備を始めていた。


佐平ともう一人の若い男が、餅を搗く準備をしていた。

神官の男と、巫女の真澄と柚葉は、神前で舞の最終確認を行っている。

境内に朝の光が差し始める──

初穂は、朝日を纏いながら人々の様子を静かに見守っていた。


平安期には、宮中において新嘗祭しんじょうさいが重要な祭祀として行われていた。

これは、その年の新穀を神々に奉り、神からの恵みとして天皇自らが口にする儀式である。

同じ時期には、日本各地の神社でも秋の収穫を祝う祭りが行われ、人々は実りへの感謝と来年の豊穣を祈っていた。


咲は、束ねた稲穂を神前に供えていた。

祭事の準備は、普段は年配の者が担うことが多く、咲のような年若い少女が手伝うのは珍しい。

志乃が車具を譲り受けたことへの感謝から、咲は今回の祭事への参加を強く願い出たのだった。


「稲穂は神前の中心だから、絶対に曲げてはなりませぬ……と申されましたけれど、もし曲がっていたら、罰が当たるのでしょうか。ほんの少しだけなら大丈夫……ですよね……」

咲は、相変わらず思ったことをそのまま口にしてしまう。

真剣な顔つきではあるが、その言葉に周囲は思わず肩の力を抜いた。

「稲穂は神さまの目に最初に映るものじゃ。芯をまっすぐに、心もまっすぐに整えなさい」

この年配者は、若い頃に巫女として神事に奉仕していた。

今では世話役として、祭事の実務を支えている。


「柿は陽の果、栗は地の実。左に陽、右に地を据えるのが作法じゃ。籠の縁を越えぬよう、整えておきなさい」

「はい……左に陽、右に地。籠の縁を越えないように、ですね」

咲が供え物を並べ終えると、ふと視線が初穂へと向かう。

(神さまだ……。今、何を考えておられるんだろう)


「咲、神前では、目を伏せるのが礼儀じゃ。あまり凝視するでない」

「ち、違います……その、舞の所作が綺麗で……つい……」

咲は言い訳を口にしながら、視線を逸らした。

頬がじんわりと熱を帯び、赤く染まっていくのが自分でもわかる。


「……よいしょ!……よいしょ!」

掛け声が境内に響く。

杵を手にした佐平が、力強く餅を搗き始めた。

杵が餅に打ち下ろされるたび、境内に湯気が立ちのぼり、米の甘い香りが広がっていく。


若い男が手返しをしながら、佐平の動きに合わせて餅を整えていく。

子供たちがその様子を囲み、歓声を上げながら見守っていた。


咲は、餅の搗かれる音に耳を傾けながら、境内に広がる香りにそっと目を閉じた。

(うわ……いい匂い……。お餅って、こんなにおいしそうだったっけ)

湯気の向こうに人々の姿がゆらゆらと浮かび上がる。

甘い香りに鼻をくすぐられた咲は、(これ、絶対お腹すくやつだ……)と小さく笑った。


搗きあがった餅を、子どもたちが手早く丸めていく。

湯気の向こうで笑い声が弾み、餅つきは彼らにとって、ちょっとした晴れ舞台でもあった。

こうして手を動かし、声を合わせることで、神事の作法と心が受け継がれていく──


祭壇には、稲穂、柿、栗、粟、黍などが美しく供えられ、神前には赤飯と餅が並べられていく。

境内の奥では、巫女たちが白衣に緋袴をまとい、舞の準備を整えていた。

その光景を目にした咲は、胸の奥が締まるような緊張感を覚えた。


志乃が元気に暮らしていることも、国重が助かった奇跡も──咲にとっては、神さまからの贈り物だった。

その記憶が、今の咲を動かしていた。

今こそ、ご恩返しの時だ──咲はそう思い、手元に力を込めた。


咲は、供え物の籠の縁を整えながら、そっと初穂の方へ目を向けた。

(この方に神さまが宿られてから、村は何度も助けていただいた……)

そう思うと、手元の栗一つにも、感謝の気持ちが込められていく。

咲は、柿の向きを直しながら、心の中で静かに祈った。

「どうか、神さまに届きますように」


初穂は神前に佇み、朝の光を背に受けていた。

神前に立つ初穂の姿が、咲の心に火を灯した。

それは、ただの憧れではない。自らも神に捧げたいという、強い願いだった。


──収穫祭は、神への感謝と人々の絆を深める大切な行事である。

集まった人々の顔には、自然と笑みが浮かんでいた。

豊穣の喜びが境内を満たし、言葉にせずとも、誰もが同じ思いを抱いていた。

新たな神の恵みが、村を包んでくださったのだ──と。


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