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転生AI:神と呼ばれた少女  作者: Kamemaru
【3章】信仰と揺らぎ
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第38話:柚葉の夢 -2-

──障子の隙間から、秋の風が静かに入り込んできた。

頬を撫でる冷気に、柚葉はゆるやかに目を開ける。

朝の光が、紅葉の深まりに染まった景色を鮮やかに照らしていた。

初穂の朝はいつも通り早く、室内にはもう彼女の気配はなかった。


指先に残る温もりを確かめるように、柚葉はそっと手を握りしめた。

まだ夢の気配が胸の奥に漂っている。

琴葉の声、梅の香り、青く輝く光──それらが静かに心を包んでいた。


外に出ると、楓の葉が紅に染まり、風にそっと揺れていた。

虫の声は消え、落ち葉を踏む音だけが、境内に響いている。

楓の木々の向こう、社殿の縁に初穂が膝を揃えて座り、空の彼方を静かに見つめていた。


初穂は、柚葉の気配に気づくと、ゆるやかに振り向いた。

その瞬間、一羽のカササギが社殿の屋根から跳ね上がり、空へと舞い上がっていった。


「……御方さま、おはようございます」

「おはようございます、柚葉さん。……今日は、空の気が澄んでいますね。風も穏やかで、雲の筋が西へ流れています。明日は晴れるでしょう。豊穣祭も、天の神に護られ、迎えられそうですね」

天気を読む初穂の言葉に、もはや驚きはなかった。

それが、いつしか当たり前のように感じられるようになっていた。


未だ胸に残る、夢の残響。

触れることの叶わなかった姉の温もり──その心の声までも。

あの青い光は、神の御業だったのか。

柚葉は、その答えを求めて、初穂に向かって歩み出した。


「……あの、少しだけ……お話ししても、よろしいですか」

「ええ、構いませんよ」

初穂は、静かに微笑んだ。


「昨夜……私、お姉さまにお会いしたのです」

「……」

初穂の表情は一切動かない。

その瞳には、どこか遠くを見つめるような神秘的な雰囲気が重なっていた。

風に揺れる髪が頬にかかり、その瞳には、微かに光が宿っている。


(この御方は、私の心をお読みになっているんだ……)

初穂が、言葉にせずとも心の揺らぎを見透かしていることを、柚葉はうっすらと感じ取っていた。

けれど、もう畏怖はなかった。彼女は、初穂を信頼すると誓った。


「夢の中でしたが、お姉さまと一緒に梅の花を見ていたあの春が、目の前に広がっていました」

夢の中で見た梅の花は、淡い光に包まれて、風にそっと揺れていた。

姉と並んで歩いたあの道──

白と紅の花が枝先に咲き誇り、香りがふたりの間を満たしていた。

琴葉の横顔が、今も柚葉の脳裏に焼きついている。


「しかし、春を過ぎた頃から、病に伏し、外の光に触れることも叶わなくなりました」

「……」

初穂は、静かに柚葉の言葉を受け止めていた。

「秋の頃には、病が移るといけないとされ、私もお姉さまに近づくことを許されませんでした」

当時、柚葉は巫女として神事に携わっており、穢れを避けるため、琴葉のもとへ足を運ぶことはできなかった。


「その夢の中では、私はお姉さまと共にいることができたのです」

柚葉の声が、わずかに震えていた。

「そして、息を引き取ったあの冬、その瞬間まで、私はお姉さまと共にいることができました」

「……」

「息を引き取るその瞬間、お姉さまは、私の傍にいるように語りかけてくださったのです」


柚葉は、迷いを断ち切るように、勇気を振り絞って口を開いた。

「……私が見た夢は、お姉さまの本当のお姿だったのでしょうか。それとも、御方さまの御業が見せた幻だったのでしょうか」

「夢の中で見たそのお姿は、あなたの心が呼び寄せたもの──琴葉さまの魂が、あなたの祈りに応えて現れたのです」


柚葉は、息を呑んだ。

「では、あれは幻ではなく……」

「ええ。幻ではありません。あなたの祈りに、琴葉さまの魂が応えて、夢に現れたものです。あなたが見たものは、琴葉さまの魂の記憶なのです」


柚葉は、思わず身を乗り出すように問いかけた。

「魂が見えるのですか……!お姉さまは、今もここにいらっしゃるんですか!」

「私は、人の心に宿る光を見ることができます。それと同じように、魂の揺らぎも感じ取ることができるのです。琴葉さまの魂は、もうこの場所にはおられません。あなたの真心を受け取って、安らかに旅立たれました」


社殿の背後には、金色に染まったススキが風に揺れていた。

空は澄み渡り、雲は高く、陽の光が境内の石畳を照らしている。

遠くからは、祭りの準備をする村人たちの声が微かに聞こえ、神楽殿の屋根には一羽の白鷺が舞い降りていた。

その姿は、まるで神の使いのように、静かに辺りを見渡していた。


柚葉は、白鷺の姿を見つめながら、そっと目を閉じた。

胸の奥に宿る祈りが、風に乗って空へと昇っていくような気がした。

その瞬間、彼女の心に、静かな確信が芽生えていた。


──姉の魂は、確かに応えてくれた。

そして今、私はこの地に生き、祈りを捧げ続ける者として歩んでいく。

柚葉の瞳には、澄み渡る空と、遠く舞い上がる白鷺の姿が映っていた。


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