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転生AI:神と呼ばれた少女  作者: Kamemaru
【3章】信仰と揺らぎ
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第34話:月下の襲来 -4-

月明かりが境内を淡く照らす中、初穂は静かに立っていた。

その瞳は赤く光り、山刀を手にした男たちを鋭く見据えている。

男たちは距離を保ちつつ、互いに視線を交わしながら、襲い掛かる機をうかがっていた。


簡単な仕事のはずだった。

だが、仲間が何もできずに倒れた光景を前に、男は足を止め、慎重に様子をうかがっていた。

この娘はいったい何をした……?

得体の知れない武器でも持っているのか……。

夜の静寂に包まれた境内を、張り詰めた緊張が支配していた。


(……毒針か?あの娘、何か仕込んでやがるな……。その指、使えなくしてやる)

男が一歩踏み出した、その刹那。

初穂の眼が赤く閃き、光の刃が男の眼を貫いた──


眼球内部に収束したナノユニットから、赤色波長のレーザーが発射された。

その光線は、眼球膜に形成された収束レンズによって増幅され、一時的に深刻な視界障害を与える。

初穂の眼差しは、男の視神経を寸分違わず捉えていたのだ。


(レーザー照射:視神経外縁部に命中)

(出力:1.2W)

(照射時間:0.05秒)

(対象の視界喪失を確認。空間認識機能が著しく低下)


「……なっ、なんだ!」

赤い閃光が走った瞬間、網膜の中心が白く灼け、視界が一気に歪んだ。

周囲の輪郭が滲み、形が溶けていく。

遠近の感覚が狂い、空間が平らになったようだった。

灼けるような痛みが眼球の奥を突き抜け、視神経が痺れ、震えた。

「……っ、目が……見え……」

目を覆っても、残像が網膜に焼き付き、世界は歪んだままだった。


初穂が首を鋭く巡らせ、短弓を構えた男を冷ややかな目で捉えた。

「……っ、くそっ!」

男は慌てて矢を放つ。しかし、初穂とはまるで別の方向へ飛んだ。

男は一瞬、自分がどこを向いていたのかさえわからなくなった。


月明かりに照らされた少女が、目を見開き、こちらを見つめてくる……。

男は恐怖を振り払うように、震える手で矢を弓につがえた。

「……はぁ、はぁ……」

動悸が激しく、息が詰まりそうだった。


張り裂けそうな胸の鼓動を押さえ込み、初穂めがけて再び矢を放った。

矢は逸れた。なぜ、狙ったはずなのに──

男の顔が引き攣る。初穂の姿が二重に揺れて見え、自分がどこを狙っていたのかも、定かではない。

いや、なぜ照準が合わないのか。

なぜ距離感がつかめないのか……。


──すでに、弓を持った男の三半規管は完全に狂っていた。

男たちが村に侵入した時点から、木々に宿ったセンサーが彼らを捉え、分散型の指向性超音波装置が、弓を持った男の耳元に向けられていた。

気付かぬうちに、三半規管の異常が進行する。

超音波に晒され続けた男の聴覚は鈍り、視界は歪み始めた。

耳鳴りが始まり、平衡感覚が崩れ、吐き気が男の意識を濁らせていく。

もはや、標的に矢を放つどころの話ではなかった。


境内に足を踏み入れた瞬間から、彼の狩人としての本能は、木々から放たれる超音波によって奪われていた。

男は初穂に背を向け、逃走を計ろうとするが、すでに遅かった……。

見えない何かが、頭の中を激しく揺さぶるような感覚に襲われる。

男は体勢を崩し、膝を突くと同時に嘔吐した。


初穂は静かに歩み寄り、喉元に指を押し当てた。

耳鳴りと共に世界が回転し、男は抵抗もできずにその場に崩れ落ちる。


山刀を持った男は、よろめきながら足を踏みしめた。

視界は戻らない。だが、音と気配から、狩人の男が倒れたことは察していた。

感覚の乱れは止まらず、次第に身体が自分のものでないように感じはじめる。

呼吸が浅くなり、足元の感覚が徐々に消えていく。


「……なんだ、お前は。俺も……殺すのか」

男はひどく汗をかいていた。口元が震えていた。

死を、受け入れるしかないと悟っていた。


「いいえ、あなた方は誰も死にません。翌朝、村の外れで目を覚ますことになります」

初穂は静かに近付き、男の瞼にわずかに指先が触れる。

視界が失われた今、初穂の気配だけが 鮮明に感じ取れた。

「あなたの目は、ひと月の後に見えるようになるでしょう」

「……」

初穂の声に、思考も感覚も縛られているようだった。


「しかし、次この村に現れたとき、あなたの目は永久に閉ざされることになります 」

男は、静かにうなずいた……。

そして、喉元に指が押し当てられ、意識が遠のいていった。


──柚葉は、わずかに開いた戸の隙間から、震える視線を外に向けていた。

恐怖で、目の前の出来事が現実なのかどうかもわからなかった。


初穂が戸に気付き、こちらを振り向いた。

赤く光る瞳が、ゆっくりと柚葉を捉える。

──目が合った。

柚葉は、走った。初穂から逃げるように……。


寝所の隅に身を滑り込ませ、口を両手で塞いだ。

恐怖で呼吸が落ち着かず、喉が焼けるように乾いていた。


外から微かに聞こえる足音……。

遠くから感じる、何かを引きずる気配……。

涙が、止まらなかった──


……いつの間にか、寝てしまっていた。

あの後、すぐに寝たのかどうかもわからない。

戸の隙間から差し込む光が、少し強くなっていた。昼が近いのかもしれない。

朝のお務め……。

もはや、どうでもよかった。


昨日の出来事が夢であり、寝坊のお叱りを受ける。

そうであれば、どれだけ幸せであろうか……。

ふと、頬が濡れていることに気づいた。

柚葉は、涙が流れていたことさえ覚えていなかった。


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