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AND LOVE  作者: 雪芳
7/8

第七話

 ゆっくりと、フェードイン。


 場面転換、病院の廊下。

 長めの椅子に、こずえと香織が座っている。二人は、対面していない。


香織「さっきは、ごめんね」

こずえ「え?」


香織「叩いて」

こずえ「……そんなこと、ないよ。酷いこと言った、し」


香織「……こずえ、ごめんね。いつもお母さん、こずえに黙って仕事ばかり、してた。こずえ、ごめん。ごめんね」


こずえ「謝らないで。謝るのは、違うよ。だって、私はただ、」

香織「こずえはまだ子供よ。子供なのに、小さいころから色んなことを押し付けてしまっていた」


こずえ「……お母さん、私ね。全部お母さんが悪いんだって、思い込もうとしてたの」


香織「……」

こずえ「電話をして、お母さんが出なかったのは、仕方ないことだって、分かってた。お母さんの仕事が生半可なものじゃないって、知ってた。なのに」


香織「こずえ……」

こずえ「あのね、お母さん」

香織「なに?」

こずえ「お父さんね、お母さんの小説を書いてたんだよ」

香織「そうなの?」


こずえ「女性救急救命士の物語。その人は、色んな人を助けるの。色んな命を、救うの。お母さんは知らなかったと思う。私がね、お父さんにお願いしたの。お母さんの話を書いてって、お願いしたの」


香織「え?」


こずえ「頑張ってるお母さんにって。お父さんも私も、お母さんを応援したかった。寂しくなかったって言ったら、うそになるけど。本当はお母さんの仕事を誇りに思ってた」


香織「そうだったの」


こずえ「ねえお母さん。お父さんのパソコンのパスワード、なんだと思う?」

香織「なぁに」


こずえ「家族三人の、名前だよ。こずえ、だいき、かおり」


香織「そっか、お父さんらしいね」

こずえ「だけどね、私はそんなことすら忘れていたの」


香織「……」

こずえ「クラブに夢中になって、家族のことも、お父さんが書いている小説のことも、忘れてた。思い出したのは、お父さんが死んだ後。私それまで、どうしてお父さんが休筆期間に入ったのか、分からなかった。最高傑作の意味も、全然分からなかった。またお父さんが変なことを始めた、そんな感じにしか思っていなかった。本当は、お父さんを見ていなかったのはお母さんじゃなくて私」


香織「そんなこと言わないの」


こずえ「ううん。お母さんはお父さんや私のために頑張って働いていたんだもの。なのに、私はお母さんを責めて。自分のせいなのに、お母さんを責めて、百合子さんのことだって、私が」


香織「こずえ、違う。駄目よ、自分を責めないで。そんなことをしてほしくて、百合子ちゃんはお母さんとこずえを会わせたわけじゃないよ」


こずえ「でも、私がちゃんと見てさえいれば良かったんだよ。そうしたら百合子さんはこんなになるまで働かなかったし、お父さんだって、死ななかったんだよ」


香織「それは違うよ。お父さんは、急性の脳溢血なんだから。こずえのせいじゃない。こずえのせいなんかじゃない」


 香織、こずえの手を軽く握る。こずえは一切の抵抗を示さない。


香織「こずえは、そんな風に思っていたんだね」

こずえ「……」


香織「お母さんもね、こずえに言っていないことがあるの」



こずえ「え?」

香織お母さんね、働かないと、怖いの」


こずえ「怖い?」


香織「……お父さんが死んでから、こずえと二人きり。お父さんにまかせっきりだったことを、ちゃんとやらなくちゃって、こずえを私が守るんだって、思っていたの」


こずえ「うん」

香織「こずえに寂しい思いをさせちゃ駄目だって、思っていたの」

こずえ「……」


香織「だけど、出来なかった、怖くて、出来なかったの」


こずえ「どうして?」

香織「お父さんから呼ばれているような気がするの」


こずえ「どういう、意味?」


香織「通報が来ると、それがいつもお父さんのことのような気がするの。性別だとか、年齢だとか、関係なくて。お父さんが苦しんでいるような気がするの」


こずえ「……」


香織「駆けつけたくて、たまらない。行かなければ、怖いの。お父さんを見殺しにしてしまうようで、恐ろしくてたまらないの」


こずえ「そんなこと」


香織「お母さん、寂しかった。お父さんが死んで、悲しかった。だけど行けなかった。だからかもしれない。必要以上に、働いてしまう。こずえときちんと話をしなければならないのに、こずえとの時間を割いて、通報を待ってしまうの」


こずえ「お母さん」

香織「こずえ、ごめん」


こずえ「お母さん、私、気付かなくて」

香織「こずえ、ごめんね、本当にごめんね」


こずえ「……お母さん!」


 手を握り合い、抱き合うように寄り添う二人。

 そのとき、白衣を着た人物が二人のもとに歩み寄ってくる。


白衣「準備が出来ました。どうぞ」


 白衣、二人を導くように退場。


 こずえ、香織、ゆっくりと立ち上がり、白衣についていく。手をつなぎながら歩みだす二人。

 支えあうように、歩む。

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