第五話
光量が少なくなる。場面転換、謎の空間。
スポットライト。中に、こずえ。
こずえは一人でうずくまっている。
こずえ「お父さん。お父さん。お父さん」
ゆっくりと立ち上がる、こずえ。父親を探すように周囲を見渡す。
こずえ「お父さん、お父さん、お父さん」
だが、あたりは薄暗い。こずえは周囲を見渡してから舞台の端に移動。
こずえ「お父さん……」
そのまま、再びうずくまる、こずえ。
そのとき、暗闇から弱弱しい声。こずえは声に無反応。
大貴「こずえ、こず、え。……かぁさ……と」
ようやく、顔をあげるこずえ。
遠くに父がたっていることに、気付く。立ち上がる。
こずえ「お父さん!」
ゆっくりと父親に近づこうとするが、何故か近づけない、こずえ。
こずえ「お父さん! お父さん!」
大貴「(何かを呟くようにしゃべっているが、聞こえない。口パク)」
こずえ「聞こえないよ、お父さん、聞こえない!」
大貴「(同じく、口パク)」
こずえ「お願い、ちゃんと言って、聞こえない。私には聞こえないよ、ちゃんと言ってくれなきゃ、なにも聞こえないよ! 何も言わないでいかないで。あの時みたいに、何も言わないで行かないで、お父さん!」
こずえの願いむなしく、徐々に消えてゆく父親への光源。
こずえ、お父さんと叫び続ける。
父親、ついに消える。
こずえ、膝を落とす。
徐々にフェードイン。
暗闇。
しばらくしてから携帯の着信音。
場面転換、こずえの寝室。
ベットにうつぶせに眠る、こずえ。ゆっくりと起き上がる。
こずえ、携帯の着信音に気付き、けだるそうに携帯を手に取る。
画面を確認し、息を深く吸ってから携帯にでる。
こずえ「もしもし」
百合子「オッス、オラ百合子」
こずえ「はいはい、分かってますよ〜」
百合子「ふふふ。ねぇ、こずえちゃん、今週の火曜日のお昼から、おばさんとデートしませんか?」
こずえ「(あくびをしてから)どうしようかなぁ? この前も外につれてってもらったし、なんだか悪い気がする」
百合子「ふふふ、そういわれてもね、こずえちゃんに拒否権はないのだよ」
こずえ「ええ〜」
百合子「なんなら金斗雲で迎えにいっちゃうもの!」
こずえ「はは。でも、百合子さん、仕事はどうなの? 編集のお仕事って忙しいんじゃないの?」
百合子「仕事、仕事、確かに忙しいですけどね、この業界は結構なんとかなるもんなのよ」
こずえ「嘘! この前、ご飯を歩きながら食べてるって愚痴こぼしてたじゃん」
百合子「それは、まぁ、大人っていうものは暇を作るために働いているみたいなものだから、その点はご安心を」
こずえ「……あんまり無理しないでよ。過労で倒れたって、知らないんだから」
百合子「過労、家老。バカ殿様に出てくるアレね」
こずえ「ごまかさないで」
百合子「ちこう寄れ、ってか。企業戦士を舐めるなよ〜。ちこう寄れ、ちこう寄れ!」
こずえ「あー、もう。分かった。デートね、何時ですか?」
百合子「やったぁ、では海峡メッセのグローブフィッシュにて十二時にお願いしまする」
こずえ「ははー、かしこまりました、ご家老様」
百合子「ではでは、失礼しますです」
こずえ「はい、お仕事がんばってね」
百合子「はーい、じゃあね」
ぷつりと途切れる携帯。ツーツーという、音。
こずえ、ちょっと微笑んでから立ち上がる。
眩しそうな表情。
ゆっくりとカーテンに近づくと、カーテンを手に取る。少し考えてからカーテンをきっちりと、閉める。




