表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AND LOVE  作者: 雪芳
2/8

第二話

静かにサイレンの音だけが響いている。


 暗転。数秒の静かな暗闇。


 ゆっくりと、光がともる。

 僅かな光。徐々に懐かしい感じの音楽。


 光の中に、こずえが立っている。


 もうひとつ浮かび上がる光。そこには、こずえの父である大貴がパソコンに向かっている。

 二人が浮き上がってから、全体ライト。


 場面転換、父の書斎。

 ドアをノックするこずえ。


こずえ「お父さん、ごはんだよ」


 こずえを無視してパソコンに向かい続ける大貴。

 こずえ、ため息をついてドアを開ける。つかつかと大貴に近づくと、大貴の背中にチョップ。


大貴「む!」

こずえ「こんばんは、ごはんですよ」


大貴「ふぁあ、もうそんな時間か」

こずえ「もうそんな時間って、お父さん、最近まともに食べてないじゃん」

大貴「嘘! 食べてるぞ」


こずえ「ああいうのは食べてるなんて言わないの。はい、原稿片付けて」


大貴「う〜ん」


 こずえ、床に散らばった本などを拾い、まとめる動作。

 大貴はパソコンとこずえを交互に見つめている。


こずえ「もう、何してるの? 早く片付けて。冷めちゃう」

大貴「でもなぁ」

こずえ「はーやーく」


大貴「今、いいところなんだよなぁ」

こずえ「いいところっていいところって、もう、いい加減くぎりを付けてよ」


大貴「でも、なぁ」

こずえ「一応は休筆中ってことになってるんでしょう。なのに毎日かいて、意味ないじゃん」


大貴「でもこずえ、ほらね、作家の性? 今書かないでいつ書くのか〜! 俺が書かないで誰がかく〜! オーケイ?」

こずえ「ふーん、そうですか、ま、いいですけどね。そうやっていつまでもご飯食べないでお風呂にも入らないで一生書いてればいいんじゃないの? お腹が空きましたって夜中にゾンビみたいに出てこられても、ゾンビにあげるようなご飯はウチにはないですけどね」


大貴「すみませんでした」


こずえ「分かればよろしい。さぁ、立った立った」


 くるりと回れ右、歩き出すこずえ。

 だが、パソコンをなごり惜しそうに見つめ、椅子から立ちあがらない大貴。

 いつまで立っても立ち上がらない大貴に、こずえ、あきれる。


こずえ「もう、お父さん! いい加減にして、三秒数えるよ。三、二、一、」

大貴「でも! こずえ! 今ね、すっご〜く、良いところなんだ。お父さん史上に残る最高傑作の、お父さん人生で一番輝きを放つであろう、最高の、傑作の、お父さん的名シーンなんだ!」


 パソコンにしがみついて叫ぶ大貴に、こずえ、ため息。


こずえ「お父さん史上って、ずいぶん狭いね」

大貴「でも、傑作だよ、それも最高の」


こずえ「最高、ねぇ。 いっつも取材やらサイン会やらで、自信なさそ〜うにしているお父さんが、最・高・傑・作、ねぇ。 お父さん、閻魔さまに舌を切られるよ」


大貴「嘘じゃないやい! そんなしょうもない嘘、ついてどうするんだよぉ」


こずえ「ふっう〜ん……。じゃあ、読ませて。最高傑作かみてあげる」

大貴「駄目」


こずえ「ええ? なんでぇ?」

大貴「駄目だから、駄目」


こずえ「いいじゃん、ケチー」

大貴「駄目ったら駄目だ。完成するまでの、お楽しみです」


こずえ「完成ってお父さん、完成させるの遅いじゃん。ねえ、今みせて」

大貴「駄目だ」


 こずえ、パソコンをみようと行動。大貴、それをディフェンス。


大貴「駄目」

こずえ「もう、いいよ」


 歩き出す、こずえ。だが振り向く。大貴、すかさずディフェンス。


大貴「駄!」

こずえ「う〜、もう、いい!」


 頑なな大貴の態度にふてくされて後ろを見せ歩き出す、こずえ。その姿に呟く、大貴。


大貴「お前が高校を卒業したら、な」

こずえ「え?」


大貴「さぁ〜、ごはんだ。そういえばだんだんお腹が空いてきたよ」

こずえ「あー、もう。変なのー」


 ゆっくりと立ち上がる大貴、歩き出す。と、途端に頭を抱え、大きな音を立てて倒れる。


大貴「うう……」


 その音に驚く、こずえ。大貴に走り寄る。


こずえ「お父さん? お父さん!」

大貴「あ、あたまが……」


 そのまま動きが緩慢になってゆく大貴。やがて全く動かなくなる。

 狼狽し、大貴を揺らす、こずえ。


こずえ「やだ、お父さん! お父さん! お父さん! ……あ、う、お母さん……」


 こずえ、うろたえながら必死で父親の体や机を触る。机の上から、携帯電話を見つけたし、何度も電話を押す。


こずえ「お母さん、お母さん。やだ、ちがう、やだよぉ、ちが、これじゃない、これじゃない」


 こずえ、ようやくダイヤルを押す。だが、呼び出し音が続くだけ。

 携帯、やっと反応。


こずえ「お母さん!」


電子音「おかけになった電話は、現在電波の届かないところにあるか、電源が……」


 電子音を聞き、こずえ、必死に携帯電話をかけなおす。

 父親の傍により、再び父親の体を揺らしながら、電話が取られるのを待つ。

 無常に響く、コール音と電子音。


こずえ「お母さん、出て、お母さん、早く、早く……」


 こずえの願いもむなしく、電話には誰も出ない。そのまま、ゆっくりとフェードアウト。

暗闇に、こずえの声と電話の音だけが響く。

 しばらく、闇が続く。

 暗転。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ