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平原の地下室

ノマリ族によく会うのは、割と普通ですかね?よく会うんですよ。

その度にスージーが飲みます。何もなくても飲みます。

 エルモとスージーは平原を移動していた、狙いは主と呼ばれるペドロヴァイパーの強個体だ。もしかすると、行方不明になっている巡回兵士も平原の主に襲われたのかもしれない。

 そうなれば、遺品だけでも回収できるかもしれないと思ったのだった。

 

 「うーん、手持ちが1000ガメル切ると心許ない、心許ないなー!まぁ、いざというときは食い逃げするしかないよねぇ!」


 平均的なグラスランナーの発言と取って良いのか悩ましいところだが、遵法意識から遠い発言をスージーがしている。

 しかし、側の相方からはリアクションはない。もはや、慣れてきたまであるエルモ。

 もう、グラスランナー というのはこう言う種族だと言うイメージまで固まりつつあるが、多分そう遠くはない。


「それよりしっかりと気をつけておいてくれよ?主に不意打ちなんて食らいたくないからな。」


 油断していそうなスージーに気を引き締めてもらう意味でエルモが言った。


「うーん、大丈夫大丈夫。とはいえ、わっちはタダの旅芸人なので、そこら辺はあまり期待しないでおいてくれる?」


 スージーが軽口を返してくるが、エルモも慣れたものだ。


「はいはい、冗談はそこらへんにしてしっかりと探索してくれ。俺も黙っておくから。」


 その後は静かに探索が続いた。最も、静かにしていたのはエルモだけで、すぐにスージーは喋り始めたのだが。



 平原にはなだらかな丘がいくつかあり、その丘を越えてエルモたちが現れる。

 エルモたちの歩む先にポツリポツリと針葉樹の林が点在していた。その林の中から何かが現れた。

 目を凝らしてよく見ると、前にも見た独特な模様を持った服装をしたノマリ族だ。


「お!おばあちゃんたち、また会ったね。」


 スージーが親しげに声をかけると、ノマリの長老は笑みを浮かべて答えてきた。


「お前さんたちか。元気そうで何より。」


「おばあちゃんたち、兵隊さん見なかった?5人くらいでここいらを巡回してるみたいなんだけれど。」


 ノマリの長老は思案げに手をひたいに当てて考える。


「さぁてねぇ。私らが見たのは3日も前のことよの。その時は、丘向こうの洞窟のあるあたりに向かう途中だと言っておったよ。」


「本当か?それは手掛かりになるな。助かるよ。」


 エルモが礼を言う。目星となる情報が出たおかげで、もしかしたら、行方不明の兵士たちは生きているうちに探し出せるかもしれない。希望を持って探索を行うことができる。


「なんのなんの。今夜も我らは酒宴を開くが参加するかね、冒険者のエルモ殿とスージー殿。」


「わ、名前覚えられちゃったか。そりゃ、飲まないわけには行かないねぇ!」


「程々にしておけよ。俺は今夜は口をつける程度にして、明日に備えさせてもらうよ。」


 スージーは飲む気満々だが、エルモは付き合い程度で切り上げるつもりだ。さすがに、二人ともベロンベロンに酔ってしまうわけにもいかない。

 酒宴になる前にノマリの薬をいくつか分けてもらう。街の薬屋などには置いていない、ノマリ独自の技術で作った薬だ。疲労回復と毒に対する薬を買い込む。

 これで、ほとんど財布の中身は無くなってしまったが、その分稼ぐつもりなので深く考えないようにした。


 酒宴は盛り上がったようで、エルモが寝付く頃には出来上がったスージーが上機嫌でいくつもの歌を歌い上げているのが聞こえていた。


「いやぁ、昨日は楽しいお酒だった。朝も気持ちよくスッキリ迎えられたわ!」


「ほう、酔い潰れなかったのは驚きだよ。」


「へへん、そう毎回潰れるわけじゃないぜ。ところで、興味深い話も聞けたぜ。どうやら、古い時代の海賊たちがアジトにしていた洞窟がもう少し先のところにあったって言う話があるんだって。」


 スージーがノマリの長老から聞くことのできたここら辺に関する伝承を披露する。


「財宝が隠されてるって噂がずうっと続いてるんだってさ。地下にあるアジトの扉は魔動機文明語で合言葉を言わなくっちゃいけないって言う話でね。もちろん、合言葉もしっかりと覚えてきたぜ。」


 やけに上機嫌なのは、その噂を聞けたせいなのか。エルモも冒険者の端くれとして、そう言う話は好きだった。


「魔動機文明語なら俺が喋れる。内容は覚えてるなら、訳せるよ。」


「ふっふっふ、旅芸人を舐めないでいただきたい。バードであり、セージのわっちはいくつもの言語を操るスペシャルなグラスランナー 。魔動機文明語くらい朝飯前よ。」


 ドヤ顔を決めるグラスランナー を尻目に前を歩き出しながら、エルモがスージーに話す。


「そう言うことなら、任せたよ。それよりも先に行こう。兵士たちを早く探すに越したことないからね。」


「生きてるのかねぇ。」


 スージーが縁起でもないことを言い出したので、頭を小突いて平原の洞窟があると言う場所を目指して出発した。


 クルツホルムを出て3日も過ぎた。ここまでくると、イーサミエの街並みがはっきりと見える。海も少し先に見えてきた。

 そんな中、前方に村が見えてきた。しかし、魔神による襲撃にでもあったのか、打ち捨てられた小さな村の家々はみる影もなく破壊されている。


 スージーが見渡し、エルモに言う。

 

「村は全滅だな。どこもかしこも無事な家は無さそうだ。でも、何か手掛かりはあるかもしれないな。ちょっと調べてくるぜ。もしかしたら、どこかの焼け落ちた家の中に隠れているかも、兵隊さん。」


「そうだな、もしかしたらここに立ち寄っているかもしれん。探索は頼んだぞ。俺はここら辺で何か襲いかかってくる敵でもいたらすぐに動けるようにしておく。」


 エルモはこう言う時に役に立つことは少ない。敵の存在がいた時に待機していた方が良いと判断して村の広間に待機した。

 スージーは何か手掛かりはないか、念入りに調べ始めた。すると、焼け落ちた屋根の下に地下室への階段が埋れているのを発見した。


「エルモなんかあるぜー、こっちにきてどかすのを手伝ってー。」


 呼ばれたエルモが見ると、非力なグラスランナーの腕力では到底持ち上がりそうにない瓦礫をエルモがその膂力で退けると、そこには地下室へ続く階段が現れた。

 エルモがランタンに火をつけ持ち、スージーが先頭を行き罠や崩れ落ちそうな気配の壁などがないか調べながら進んでいく。


「お宝ないかな。お宝、お宝ー。」


 スージーは簡単な曲調の歌を歌いながら、地下室の階段を一歩一歩降りていく。エルモの方は神経を尖らせて敵の襲撃に備えている。どこまでいっても対極的な二人だった。


 少し大きめの部屋に出ると、スージーは敵の気配を感知し、エルモにハンドサインで場所を素早く入れ替わると、前方からバサバサとはためくような音が聞こえた。


 ランタンの明かりの中に入ってきたのは、肘から先の腕が右腕と左腕が交差するようにして、まるで蝶のようにはためかせながら飛び回る存在だった。

 

 スージーの知識の中に相手のことが引っかかる。エルモに向かって何が出てきたのかを叫んだ。


「フライングハンズだ!死んでも死に切れないヤツが腕だけ飛んで生者に襲いかかってくるってヤツ!両腕で攻撃してくるから気を付けろ。遠慮なく叩き落としてやれ、エルモ!!」


「言われなくとも、こんな気味の悪い存在を野放しにするつもりはないよ!」


 エルモがモールを構えて接近に備える。スージーは呪歌のモラルを歌い、エルモの命中を補佐する。

 接近してきたところにエルモがフライングハンズ目掛けてモールを振り抜いた。空気を引き裂く音を立てる一撃に避けることもできず、右腕の手首ら辺に直撃して骨が砕ける。左腕にも腕の中ほどの部分に命中しその肉と骨を砕いた。しかし、それだけでは飛び回る腕の動きを止めることはできず、反撃をしかけてくる。


 二つの拳がそれぞれ襲いかかるが、エルモは冷静にその攻撃を体捌きだけでかわしていく。魔神の群れのように囲まれて回避が困難でなければ、バトルダンサーとしての回避能力は決して敵に遅れを取るようなことはない。


「ぐへへ、新しいリュートはたまんねぇな!歌える上に、終律の楽素がすぐに回ってくるぞ。さぁて、食らっておくんなアンデッドッ!」


 スージーがモラルを歌うのを切り上げて、終律<春の強風>を奏でて攻撃を行った。名前とは裏腹に強烈な魔力を伴った風が叩きつけフライングハンズの右腕に致命的な一撃となって滅ぼすことに成功した。

 残る左腕にはエルモが強烈な一撃を叩きつけて気味の悪い飛び回る腕はその動きを停止した。

 

 

「さすがにこんな飛び回る死体に良いもんなんか期待できないか。何もなかったぜ。」


 冒険者の習いとして、倒した相手から何か得られるものはないかとスージーが探したが特にこれといったものはないようだった。


 その後、スージーはそれなりに広い地下室に何かめぼしいものはないかと、エルモからランタンを預かって探索し始める。

 エルモの方は完全な暗室ではない限り、ルーンフォークの特性で暗視が出来るので動くことに支障はない。


 スージーが地下室を探し回るが、めぼしいものは見つからない。


「おかしいなぁ。わっちのカンだと何か出てくると思ってたんだけど。うーん、今日は日が悪いのかもしれない。一度、出直そう。どうも、調子が出ない気がしてならんわ。」


「そう言うことなら、一度イーサミエに向かってみよう。ここからなら、すぐ先に街が見えた。さすがに巡回の兵士が向かうとは思えないが。イーサミエで懐を潤す依頼があるかもしれん。先立つものが無いからな。」


 そう言うことで、一度イーサミエに向かうことに二人は決めた。


 地下室で倒した両腕は表に出して弔っておいた。プリーストがいるわけではないので、正式な礼法に則ったわけではなく、腕のはいるほどの土を掘って葬っただけの略式だが。それでも、地下室に放置しておくのもどうかと思い、二人で弔いの真似をしておいた。


「こんな時に、<鎮魂歌>の呪歌でもありゃ格好が付くんだけれどな。悪いな、名もわからない人。気持ちだけは込めといたぜ。」


 しんみりとした音楽を奏でながら、スージーは鎮魂歌の代わりとした。

 ルーンフォークは神の存在を認めてはいるが、加護を感じることができない種族だから、神に祈りをあげる習慣が乏しい。ルーンフォークにはプリーストはいない。

 こう言う時の適切な作法を知らないわけではないが、さりとて詳しいわけでもない。なので、スージーの曲が少しの慰めになれば良いと思いながら土をかぶせていった。


兵士の探索を打ち切ってイーサミエに行ってるように見えますが、本人たちは打ち切ってはいません。

ただ、即金が欲しくてイーサミエにすぐに受けられる依頼が無いか立ち寄ってます。


スージー語録

今回はなし。

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