退転、そして装備新調
結構、プレイングミスとかありますよね。
ウチでは日数表とか間違えて、日数分と勘違いしてえらい目にあいました。
通常の7倍速。そりゃ、大変になるわけです。
魔神の群れを退けた後平原には静けさが戻り、その日は夜営となった。
「もう、寝るよ。寝る。せめて、疲労を取りたいよ。全く、大した1日だったよ。」
ぶつくさと文句を言うスージーだが、無理もない。まだ怪我は完治はしていないのだ。
「まだ痛むようなら、<ヒールスプレー>は使える程度にカードは残ってるよ。どうする?」
「もう、かすり傷だからなぁ。このくらいの怪我にヒーリングポーションはもったないしなぁ。」
じわりと痛む傷口に顔をしかめるスージー。プリーストどころか、魔法使いがいない二人組にはちょっとした怪我を治すのも一苦労だ。消耗品を使って直すしかないので、本当に少しの怪我は自然治癒に任せることにしていた。
「ここからだと、昼間にはイーサミエも近く見えたな。」
エルモが話題を変える。イーサミエは港のある街だ。自分たちでも受けられる依頼がいくつかはあるかもしれない。
「イーサミエね。行ってみるのも良いんじゃない?」
軽い口調で答えるスージー。その数分後には、彼女は眠りに落ちていた。会話を続ける相手もいなくなったので、エルモも眠ることにした。
翌日になり、場所を移して探索を行ったが、兵士たちは見つからなかった。まだまだ平原は続いており、緩やかに起伏した草原が広がっていた。
波打つ海原のように見える一見すると平和そうな場所だが、西方から不吉な気配が漂っていた。言葉では言い表せないが、この草原に入るとピリピリする感覚があった。
「嫌なところだな。西方にはハルーラの神殿があったそうだが、そこに魔域があるんだったな。ソレのせいか。」
そんな話をしていると、背後から魔神の大集団が崖を駆け上がってこちらに向かってきた。準備をしている暇がなくあっという間に囲まれてしまう。
「一戦交えることになりそうだ、覚悟しておいてくれよスージー。」
「ぐえぇ、なんの覚悟だよ。こちとら、まだ魔神どもに噛みつかれた痕が可愛いおケツに残ってるんだぞ。」
先手をとられ、魔神の群れはエルモに襲いかかった。低級魔神の群れとはいえ、大集団に囲まれて四方八方から牙や爪でやられて、エルモは大怪我を負ってしまった。
バトルダンサーの舞うような動きは重い鎧を着用しては思うように動けないので、エルモも例に漏れずその大きな武器とは不釣り合いに防具の類はポイントガードと呼ばれる要所要所を守る簡素な鎧しか装備していない。
心臓などの急所以外は剥き出しのこの防具は回避には有利だが、攻撃を受けるとモロに負傷を受けることとなる。
「くっ、さっそく<ヒールスプレー>の出番かっ!後手に回るとろくなことがないな!!」
そう言って、ランクAカードを2枚取り出し、自分に叩きつけるように使った。瞬間的に負傷が治っていく。
お返しだと言わんばかりに、攻撃を行っていく。モールを振り回すだけではなく、外れれば引き返して命中させる技量も持ったエルモだが、群れの数に翻弄されてなかなか狙いを絞りきれずに少しづつとなるが低級魔神どもを倒していく。
スージーも呪歌モラルを吹いて命中力を上げていく。
「あっぶなー。こっちに来てたら多分死んでたわ。」
「危ないところだった。やはり、前衛で任せられるタフなファイターは欲しいな。俺だと、防御力に欠けるから不安定になりがちだな。一気に追い詰められるうと、カード頼りの戦い方しかできないな。」
低級魔神の大集団はかなりの強敵で、気付いたらボロボロの有り様になっていた。スージーも回復のポーションを飲んで急場を凌ぎ、エルモも常に<ヒールスプレー>を自分にかけながら戦う有り様だった。
「死にはしないけどヨゥ、酒が飲みたいよう。酒が飲みたいの。」
「街に帰ったらな。ここじゃ酔い潰れるには危険すぎる。」
「もう頼むよ、さっさと倒してよね。こんなことなら、終律も<夏の息吹>を覚えておくべきだったよ。」
「次に覚えるレパートリーに加えておいてくれ。これは、一度街へ戻って補充をしないことにはどうしようもない。」
激しい消耗で、思ったよりもカードを使っていた。スージーもヒールポーションなどを買い直すつもりだ。
このままでは、主を倒すどころの話ではない。大人しく街へと戻る方針に舵を切り替えた。
帰り道は季節外れの嵐にあい、とことんついてない二人であった。特にスージーは、吹き荒れる嵐に飛ばされかけて、散々な目に遭っていた。
命からがら逃げ帰るように街に戻った二人は、街の衛兵が驚くのにも構わずにさっそく街の魔法道具を扱う店に駆け込むとヒーリングポーションや回復のための賦術のカードを買いあさった。
「はい、毎度あり。だが、おたくらどうしてこんなに買いなさる。神官や妖精使いはいないのかね?」
道具屋の主人が不思議な量を買い込む二人に疑問を持ったらしい。それもそうだ。二人とも、尋常じゃない勢いで買い込んでいく。
「その通りだ、ご主人。俺たちは二人で旅をしてるんでね。」
「そりゃ、酔狂なことだ。何故に他の冒険者と組まんのだ。」
道具屋の主人に質問されると、二人とも答えに詰まった。別に、当てがあるなら組んでいる。当てがないから組んでないのだ。実は、クルツホルムのギルドで他に組める冒険者がいるかを聞いてるのだが、答えは「今はいない」と言うものだった。
二人の身の上話を聞いて、主人も納得したらしく。何もできんが、せめて危険な目に会うことがないように祈っておく、と言われた。なら、ちょっと安くしてよと思うスージーだったが、ここは言わぬが花と黙っていた。
道具屋からの帰り道、スージーはエルモに思うことがあり道を別れた。
「うーん、ちょっと街のバードにもう2つくらい呪歌を教わってくるね。どうも、ちょっと甘く見すぎてたみたい。2つくらいだったら、あっという間に覚えてくるから。ちょっとそこらへんで時間潰していてー。」
言うが早いか、スージーは知り合いになったこの街のバードに呪歌を覚えにいくと飛んでいってしまった。このフットワークの軽さはグラスランナー 特有なのか、とエルモは思ったものだった。
しかし、呪歌なんてそうホイホイと覚えられるものなのだろうか?もしそうなら、天才か。それとも、手を抜いて才に甘えていたか。後者かもしれないとエルモは考えながら別の考えが浮かび武器屋へと向かって歩いて行った。
宿で休んでいると、別れてだいぶ経ってからスージーが宿へと戻ってきた。
「お待たせしたね!目覚めの<アーリーバード>と癒しの終律<夏の息吹>を覚えてきたよ。今度は音程もバッチリだ。わっちは天才だから、あっという間に覚えてきたんだよ。褒めて褒めて。」
訝しげな目線をぶつけるエルモ。たじろぐスージー。
「いや、ちゃんと覚えてなかっただけで頭の中にはイメージはあったんだってば。今度は、ちゃんと実戦で奏でられるようになってるから、安心しろってば。」
「まぁ、何も言わないよ。今度の冒険には、その呪歌を使ってもらえるわけだから、こちらとしては文句はないよ。俺からも報告をしよう。大枚をはたいてモールを魔法の武器に新調した。これで当てやすく、打撃を通しやすくなった。」
言われると、エルモの側にあったモールが不思議な輝きを帯びていた。魔法の武器と言われる強化魔法を施したモールに買い替えたのだった。
そのおかげで、普通のモールに比べ軽々と振るうことができるのに、強烈な打撃を打ち込むことができるのだった。
「なるほどね、そっちも買い物してたんだ。実は、わっちも買い物してきたんだ。このリュート!こいつは値打ちもんだよ。終律に必要な前奏を少し省略できるんだ。楽素を省けるって言うと、エルモにわからないかなー?」
なんだかよくわからんが、魔法みたいな呪歌の中でも、より魔法のような効果を持つ終律を放てるテンポが速くなるらしい。
ドヤ顔で言ってくるスージーに何か思うところがなくもなかったが、大事な旅の仲間なので心の片隅にポイ捨てしておく。
むしろ、思うところがあったので口に出してしまっていた。
「リュートということは、歌を歌えるようになったってことか。」
「そうだよ、戦場に響くわっちの歌声。聞き惚れるなよ、エルモ?」
まぁ、スージーの歌声は綺麗なソプラノの音質で、聞いていて心地が良いのは疑いようがない。強いていうなら、それがスージーから出ているということに不思議な感覚があるのだが、これも心の片隅にポイ捨てしておく。そのほうが、双方のためになると思ってだ。
宿を出て再びクルツホルムから平原地域へと舞い戻ってきた。
もはや親しみすら覚えるような野営地を通り抜け、北の方の平原に足を踏み入れた。
「今度は主も倒してやるぞ!今までのわっちらとは違うのだ!!」
「そのいきだ。俺も新調したモールでどこまで行けるか試させてもらおう。」
やる気に満ち溢れた二人は、再び平原地域の冒険を再開したのだった。
スージー 語録
まあ、イーサミエに行っちゃってもダメではないはず。
なんか巨大なロボットが暴れそうな。(時事ネタ)