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フィルイックと保存食の配達。

いきなり森林に行くのはちょっとナメてました。

 森林地帯の主と遭遇し、命からがら逃げ出してきたエルモとスージー。

 野営しながら、ノマリ族との酒宴となった二人は、酒宴を盛り上げたことで、ノマリ族から特別に彼らに伝わる伝承を聞かせてもらうことになった。


「ウィ〜、ヒック。リルドラケンの尻がー。尻がー。」


 聞かせてもらうのは良いのだが、スージーの頭に残るかは謎だった。

 フラフラするスージーを捕まえながら、エルモが話を聞く姿勢をとった。


 ノマリ族の老婆が語る。


「この森には北の塔がありましてな。その塔の最上階に水の精霊がおるそうじゃ。その水の精霊はちょっとしたゲームを挑んできますのじゃ。この精霊、癖でそのゲームには必ず最初に6を出し、最後に1を出す、と言う話が伝わっておりますでのう。そなたら、冒険者の役にでも立てば酒宴を盛り上げてくれたお礼として語った甲斐があると言うもの、」


 かく言う、エルモもノマリのかなり強い酒で意識を失う寸前だった。忘れないうちに、羊皮紙へと走り書きをする。 何とか書き上げたところで、エルモも意識を失った。


「おー?だらしねぇなー、えるもぉー。あー、回るー。世界が回るー。」


 そう言って、スージーも気を失って酒宴はお開きとなったのだった。


 翌朝、スッキリと起きれたエルモとは対照に、かなり酒が残っていて動きに精彩がないスージーだった。


「眠ったのに、眠れた気がしねぇよ。なんて強い酒だったんだ……。次あったら、もっともらおう!」


「懲りると言うことを知らないのだなぁ、グラスランナー というのは……。」


 まだ飲み足りないとでも言うスージーに対して、エルモは呆れ顔だ。冒険に支障が出るようなら、酒は控えろと言いたいところだ。


 日付はコルガナ地方についてから4日目となっていた。今日は主がいた方向と別の道を探索するつもりだった。


「早いもんだね。もう4日目か。ヴィルマはもう生贄になっちまってるかなぁ。このあと、どうやって逃げようかな。もう故郷に帰る当てもないしなぁ。」


 そんなことを言いながら、意味ありげな視線を送ってくるスージー・ニック。あえて何も言わないエルモ。


 探索をしていると、鬱蒼とした森に遺跡が埋もれていることに気がついた。石畳の小道や壊れた噴水、焼け落ちた瓦礫がかつての栄華を物語るようだ。

 わずかな痕跡とともに今は草木の中で静かに眠っている。


 もう少し足を伸ばせば、山岳地帯にも行けそうだが何が出るかわからない以上、そこまでの冒険を冒すつもりはなかった。


 主の気配は中州に移動したようだった。森の木々がざわざわと蠢いている。


 ある意味では、安全なところに行ってくれたな、と思った。今の自分たちはあの中州へと移動する手段がわからない。わからない場所に行く事はない。


「そうだ、フィルイック!フィルイックさーん!!いませんかー?ご飯届けにきましたよーっ!」


 スージーが探し人の名前を叫んで探し始めた。すると、遺跡の奥から人が現れた。エルフの男だ。


「僕のことを呼んだかい?もしかしたら、アレかな。食料を届けに来てくれた人かな?悪いね、こんなところにまで届けてもらっちゃって。僕の名前はフィルイック。君たちは?」


「わっちがスージーで、そっちはエルモ。ご依頼のお届けもんだよー。何か届けた証明をおくれ。」


 スージーがそう言うと、エルモを突く。ああ、そう言うことかと背中の背嚢から届け物の食料を取り出していく。


「ありがとう。これが僕のサインだ。定期的にやってもらってるから、この証明で報酬は受け取れるはずだよ。」


「なるほど、このサインで良いのか。後で練習しておこう。」


「バカ、ギルドに居られなくなるぞ。」 


 スージーの冗談?にエルモは真面目に答えた。それがおかしかったのか、フィルイックは声を出して笑い始めた。


「あっはっはっはっは!面白いね、君たち。いや、人間に久しぶりにあったものだからね。笑わせてくれたお礼に、いくつか面白いことを君たちに教えようじゃないか。」


 そう言って、フィルイックは今森の遺跡について話してくれた。


「この遺跡は魔動機文明時代初期に栄えて、魔神によって滅ぼされたトゥリパンナ国の都だよ。森林の遺跡の地下には聖域である中洲に続く転移の魔法陣がある。だけれどね。今は魔力の供給が途絶えて久しくてね、使用できないんだ。」


 一息ついて、保存食をかじりながらフィルイックが続けた。


「その中洲なんだけれどね、どうやら魔域に飲まれていると思われる。ただ、誰もあそこには行ったことがないからね。どのくらいの魔域だとかはわからない。結界が貼られているから、リルドラケンが空から侵入するとかもできない。侵入経路は皇宮跡の地下にある転移の魔法陣だけだろうね。」


時折、もぐもぐと保存食を食べながらフィルイックが続ける。ちょっとスージーが興味を示している。主に食べ物のほうに。


「そのためには、魔力供給の塔を再稼働させないといけないのだけれど、妖精が守っている。トゥリパンナの皇族の証が必要になるんだけれど、持ってないんだよね。パルアケの古物商にそれらしいものがあったって噂は聞いたことあるんだけれど。」


 ついに我慢しきれなくなったスージーは保存食に手を出した。笑いながら、フィルイックは快く了承してくれる。


「へー、わっちらのとは保存食の中身がちょっと違うよ。何かオーダーしてるの?」


「エルフだからかな、動物性のものよりも植物性も素材で作ってもらってるよ。菜食主義ってわけでもないけれどね。肉よりは、豆と果物の方が好きってくらいさ。」


 水を飲んで、落ち着いたところでフィルイックが切り出してきた。


「君たちに一つ頼みたいことがある。この森の中には東の風の塔と、北の水の塔があるんだが。その二つを起動させて欲しいんだ。そうすれば、転移の魔法陣に魔力が供給され、さらに遺跡の調査が捗るんだよ。ただ、シルフとウンディーネがいて、僕じゃ太刀打ちできないんだ。他にも、火の塔とか土の塔とかあったはずなんだけれどね、魔神の襲撃の時に破壊されてるらしくてね。その二つしか残ってないんだ。」


 フィルイックはやや早口で、続きを語る。


「風の塔の最上階で魔法文明語で『トゥリパンナの求めに応え、風よ蘇れ』と唱えて欲しい。水の方では『トゥリパンナの求めに応え、水よ蘇れ』だ。どうだろう、受けてくれるかい?」


「わっちとしては、腕の立つ冒険者とかじゃなくて、ただの芸人なんでね。」


「まぁまぁ、聞いてくれ。うまく行ったら6000ガメル支払うよ。」


「受ける。」


 スージーの見事な掌の返し様で、エルモは思わず吹き出しそうになった。

 

「だけど、トゥリパンナの遺品がなけりゃ、話にならないんだろ?パルキアかあ。パルキアに行くにも、実力が足りてないな。」


 スージーのぼやきに、エルモは真っ直ぐに中洲の方を見据えて決意を発した。


「一度帰ろう。俺たちはあの主に対して、まだ弱いと思う。フィルイックさんの頼まれごとはやるにしても、ここいらを歩くにはまだ実力が足らない。」


「そうだね、一旦帰って報酬もらって、それから考えようかー。そゆことで、またね。」


 スージーがフィルイックにこちらの考えを伝える。フィルイックも命あっての商売だと言うことを理解してくれたらしく、こちらの考えを肯定してくれた。


「では、気が変わったらこっちにきてくださいな。その時に君たちに伝えたいことももう少しあるからね。」


「あぁ、必ず帰ってくるんで。その時まで、少し待っててください。」


「うん、うん、覚えてられたらね。」


 そう言って、エルモたちはフィルイックに別れを告げてクルツホルムへと戻って行った。


 帰り道の途中で、またノマリ族に出会い、酒宴を開いてベロンベロンに酔っ払ったスージーがいた程度で、大きな出来事はなく無事に街へと帰ることができた。

 エルモは、スージーは酔うと他種族の尻の幻覚を見ると言う、摩訶不思議な酔い癖があることを知ったが、それは割とどうでも良いことだった。


 街に戻り、一息つく。スカーレットスタンプとの戦いで自分は強いつもりでもまだまだだったと言うことが分かった。冒険者なんて、油断したらお終いの稼業だと言うことを思い出させてくれた一件だった。

 

 「うー、頭いてー。水買いに行く。」


「なら、先に宿に行ってくれ。俺はクエスト達成の報告をしてくる。」


 クルツホルムのギルドへ向かい、フィルイックのサインの書かれた羊皮紙を手渡すと、6000ガメルの報酬をもらう。


「あの人変わってるでしょ?もう、10年もあそこで研究を続けているのよ。優秀な研究者だから、ギルドから補助を出して遺跡の調査を続けてもらってるんだけれど、ここ数年は研究が進んでないみたいなのよね。もう少しで先に進めそうだ、って返事は帰ってきてるんだけれどねー。」


 ギルドの受付員は、さらりとした髪を三つ編みにしてメガネをかけた女性だった。結婚指輪をして、既婚者らしい。話上手なのか、話好きなのか色々とここら辺のことを教えてくれる。


「あと、もし行き詰まってたら平原地域の方を探索してみて。あそこら辺は、結構ここら辺りでは弱い部類の魔物が生息しているわ。ちょっと鍛えたい時にぴったりよ。魔域の攻略や、魔神討伐なんかは随時やってるから、いつでもお願いね。」


 エルモは時折相槌を打ちながら、愛想の良い笑みを浮かべて会話を続けていたが、そろそろ時間なので、と礼を言ってギルドを去った。


 宿に戻ると、スージーの姿がなかった。


 なんとなく、酒場の方に足を向けるとホールのど真ん中で歌を歌いながら、酒を飲むグラスランナー を見つけることができた。


「あいつ、頭が痛くて水が飲みたかったんじゃないのか……。」


 エルモが頭を抱えていると、スージーがこちらを見つけて近寄ってきた。片手には木製のエールジョッキが握られていて、中身はほとんどない。


「エルモー、次の冒険は平原にしようぜー。わっちらにちょうど良い連中がいるっぽいんだ。森林はここら辺じゃ、ちょっと難しい方だったってよ。リルドラケンのネーチャンが言ってた。急がば回れって言うしね。平原に行こう!」

大人しく平原から再出発です。


スージー語録

なんか酔っ払ってただけだった気がするね。

これ、どうですか?(リプレイ小説)書けそうですか?

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