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逃げる

そろそろ、ファイターなし、プリーストなし、魔法使い技能なしが効いてきます

 宿をとり、列車での長旅の疲れを癒したエルモとスージー。


 夜にもう一度酒場へと繰り出し、森林地帯の情報を再度あたりに行っていた。

 今度は良心的な情報料で情報を仕入れることができ、森林についても情報を仕入れることができた。


「昨晩はいい飲みっぷりのやつがいてなー。打ち負かしてやったわー。」


 えらく上機嫌のスージーだが、それなりに使い込んできたらしい。エルモは子供みたいな相手に飲み比べて負けたという相手が無念にも思えた。


 それはともかく、スージーが集めてきた情報によると。森林はかつて、メリアが統治していた皇国があったが、魔神によって滅ぼされたとのことだった。その遺跡が残っていて、スカーレットスタンプという魔物が暴れており、皇国が魔神に対抗するために解き放ったものだと伝えられている。


「確か、森に用事があったよね。学者先生に食料を渡すってやつ。森林に行ってみるか?」


 ちなみに、壁の守人の情報は高すぎて手に入らなかった。


「やっぱ、あそこで脱ぐか踊るかしないから場がシラけちまったんだよ。踊り子だろ、エルモー。」


「俺は断固として言うが、戦舞士だ。踊り子じゃない。」


 そんなことを言い合いながら、二人は森林地帯へと足を踏み入れた。


 街で保存食は3週間分ほど買い込んである。エルモの背負い袋はパンパンになっている。これで森をどの程度まで抜けることができるのか。


「今夜のお酒とおつまみはあったっけ?」


「それはスージー、君の金で買えと言ったよな。」


「森は暗いな♪おっかないなぁ〜♫」


 森に着く頃には、すっかりと日が暮れて夜になろうとしていた。


「ランタンの油はもう少しあった方が良かったかもな。」


 エルモが自分の準備不足を気にしていた。4回は晩を超えることはできるだろうが、この森を抜けるだけで何日かかるのだろうか。


 鬱蒼とした森の中、葉が邪魔で星の光も見ることも難しい。

 ランタンの明かりだけを頼りに、少しづつ歩いていく。


「早いもんだなー。もうこっちに着いてから2日目の夜かー。酒場で飲んで歌って踊っていたいなぁ。」


「それに関しては、概ね同意だね。」


「エルモ、お前踊れ。」


 無駄にキッパリと言い切ってきたスージーに対し、青筋を立てながらエルモが反論する。


「何で俺が踊るんだ。俺は踊り子じゃない。戦士だと言ってるだろう。」


「知ったこっちゃね。」


「おい、どう言うことだ!?」


 夜に騒いでいると、遠くで何かが動く音が聞こえた気がした。

 噂のスカーレットスタンプだろうか。まだ、遠くの音だと思うのだが、用心に越した事はない。

 この闇夜だ。不意を打たれるのだけは避けたい。

 ただでさえ息苦しさを覚えるこの森の中では、どこから狙われても不思議ではない。

 

 遠くから狼の遠吠えが聞こえた気がした。


 すると、スージーが急に真面目な顔をしてあたりを見渡し始めた。


「来る気がするな。戦いの準備をしておいて。」

 

 スージーが言うのと同時に狼の群れが襲いかかってきた。スージーの声がけで不意を打たれる事はなく、こちらから打って出る。


「スージー、得意な曲を流してくれ。あとは臨機応変に戦うよ。」


「いいね、臨機応変。わっちの好きな言葉の一つだ。ほらほら、かかってこいよ。」


スージーは余裕ぶって挑発すらしている。


「挑発は状況を見てから行ってくれ。囲まれてるから、そっちをかばう事はできないからな?」


「やべ。帰っていいかな。」


「帰るのは倒してからだな!さっさと呪歌を頼む。」


 そう言って、エルモは巨大なモールをブゥンと振り回し、群れる狼をなぎ払っていく。それにギリギリ間に合う形で命中力を上げる呪歌「モラル」がかかっていく。

 士気の上がった攻撃はなぎ倒すと言うのがしっくりくる当たり方で狼どもの頭を打ち据えた。


 狼はあっという間にモールの攻撃の嵐に飲み込まれ、散り散りに散っていった。

 

「なぁんだ、余裕だったじゃねぇか。うーん、毛皮はダメだな。商品になるほどの毛皮にならんわ。仕方ない、諦めるか。」


 スージーがガックリと肩を落としつつ、倒した狼たちの検分を終えた。


「夜も深くなってきた。これ以上はもう動くのは危険だな。ここでテントを張って野営するとしよう。」


 絵エルモがパンパンの背嚢から、4人用のテントを引っ張り出して、テキパキと組み立てていく。軽く、あぶった保存食の硬い肉と簡単に焼いたパンを食べて腹を満たす。


食事の匂いに釣られたのか、再び森狼の群れが現れたが、エルモのモールによって一蹴されたのだった。


「これで、もう襲いかかってくるのはいないだろう。寝るとしよう。」


 その晩にはさすがに襲いかかってくる魔物や動物はいなかった。完全に熟睡はせず、たまにチラッと起きていたが問題はなかったようだった。

 同じテントの中のスージーは爆睡していたようだったが。


 翌朝、話し合った結果北の道を進むことにした。


 すると、前方から蠕動運動しながら近づいてくる巨大な芋虫のような生き物が現れた。


「コイツァ、スカーレットスタンプだ!気合入れてけ、エルモ!!」


 ランタンを腰に下げて、エルモはモールを握り締めた。エルモは起動して2年しか立っていない。一般常識は教わっているが、人間関係は浅い。死んで生き返るときに穢れない代わりに、記憶をなくしてしまうルーンフォークとしては、せっかく見つけた主人との思い出をなくすのは痛手だった。


「流石にこんなところで死ぬ訳にはいかない!トロンとの関係すらも忘れてしまう。そんなのは嫌だ!!!」


「逃げるか、逃げるか?」


 もう、浮き足立っているスージーに同意し、逃げる準備をする。

 

 エルモは大なぎに払われた尻尾をまともに受け、内臓を痛めたらしく口から鮮血を吐いた。


「やばいな、逃げるよエルモ!」


「言われなくたって……。」


 魔物に背を向けて、全力で逃げる二人。

 スージーの背中に向けて、スカーレットスタンプが一撃見舞う。


「ぐほぉ!!?」


 幸いにも、叩かれた衝撃で前方に吹っ飛んでいったスージー。

 あまり楽観視できないダメージを受けて、こちらも咳き込みながら走り続ける。


 もう、足が動かないと言うところまで走って、ようやく逃げることができた。


 二人とも口から血を吐く重傷を負っていた。エルモが緑のカードを数枚だし、<ヒールスプレー>を二人にかけてダメージを癒していく。


とぼとぼと、歩きながらスージーが呟いた。


「本物と出会うと、ヒーリングポーションなんて役に立てないんだな。飲むタイミングすらなかったわ。そもそも、一本のポーションでどうにかなるってのが、見通しが甘かったわ。」


 あの化け物に勝つには、実力が足りない。そのためには、もっと経験を積まないと。


「フィルウィックってエルフの男を探して、食料を渡す依頼もあったね。それを探してみようか。とりあえず、主に遭わないところを進んでいくしかないな。」


「そんな依頼、いつ受けてたんだ?」

 

 不思議そうな顔をするスージー


「君が酒を飲んでる間にね。さぁ行こうか。」


 なるべく襲われにくそうな大樹の影を選んで、テントを貼らずに毛布だけくるまって寝る。何が起こってもすぐに対処できるようにだ。


 しかし、心配したような事は起こらず、翌朝を迎えることができた。


 元来た道を戻っていると、特徴的な渦巻模様をあしらった服を着ている集団が現れた。


「ノマリ族だな!色々と薬を売ってくれるらしいな。」


 数台の馬車で旅をする10人ほどの集団だった。流浪生活をしているノマリ族だ。

 遠い昔から馬車に家財を積んでコルガナ地方を放浪しながら生活をしている人々のことである。

 彼らの模様と呼ばれる不思議な渦巻き模様が入った民族衣装を身につけていて、薬を売ったりし、病人を治療したりすることをなりわいとしている。


「珍しい薬があるな、何本か買って行こう。悪いな、ばあちゃん。いくつか薬を売ってくれ。」


「疲労回復に毒への耐性か。両方とももらおう。代金はこちらにおいた。」


「毎度あり、お客さん。そうだ、この後の我らの宴会に混ざっていかないかね?」


「そいつは楽しみだ。もう始まるのかな?」


 スージーが楽しそうに手を挙げて喜んでいる。

 程なくして、ノマリの宴に参加する二人。エルモは、どこか遠慮しているようにも見える。


「さぁさぁ、お客人。これをまずは一杯飲んでもらいたい。これを飲んだら、ノマリの仲間だ、同胞だ。」


「おうよ、こんな旨そうな酒、飲まなかったらグラスランナー じゃねぇ。グビビ、グビビ。ぷはぁ。何ダァ、リルドラケンの尻が見えらぁ。こいつは、なかなかの尻だぁ。」


「何酔っ払って見てるんだ。まぁいい。せっかくなので、俺ももらうとするよ。」


 体質にあったのか、強い酒には変わりがないのだが、酔わずにいられた。遂には飲み干して、拍手喝采を浴びるエルモ。


「素晴らしいですな、それではその飲みっぷりを称えて、我らの知る伝承を歌いましょうか。」

今回のスージー語録はなし

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