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クルツホルムへ

書いていたら、思ったよりも長くなっていました。

蜘蛛の魔神はもはや頭部のみとなりし身なれど、戦意は挫けていない。人間に一矢報いてやろうとしている。


触手をエルモへと向けて攻撃してくるが、エルモはそれを避け続ける。


スージーはモラルを歌い直し、命中力を強化する。


エルモは攻撃したものの、器用に首だけで蜘蛛魔神の頭部はこれを避け切った。


(何外してんだよ。こっちは目一杯の応援歌かけてるってのに、この。だから踊り子って呼ばれるんだよ!)

スージーがフルートから口を外さずに、胸中で罵る。


アレクサンドラはスピアで攻撃し、複眼を貫き大きな痛手を与えた。


エルモは何か言いたげなスージーを横目に見つつ、攻撃を続行した。今度はうまく命中させ、砕けていた複眼の上からモールで叩き潰して、魔神を絶命させた。


魔神の死骸から何か役に立つものを探しておく。魔神の毒針と血液くらいだった。これは、粗製のカードへ手持ちの錬金術師の道具でカードへと変換しておく。これで、錬金術に使用することもできるし、換金できるものになった。


「しけてるなぁ、あれだけ苦労してこれだけかぁ。剣のかけらが5つだとよ。」


スージーが変わらない悪態をつくが、貴重な毒袋を自身が打ち破ったことに気付いていってるのかどうかは、エルモにはわからなかった。

 とりあえず、200ガメル分の稼ぎと、剣のかけらは手に入れた。剣のかけらは冒険者ギルドへと提出すれば、名誉として扱われる。蛮族を排する守りの剣の力になるのだ。冒険者としては、この結果にはこれ以上言うことはない。


 戦闘が終了したときには、イリーチナ付きの護衛兵は6人いたのが2人まで減っていた。悔しさは残るが、悔やんでも仕方ない状況だ。


「貴公らはよくやってくれた。あの時、私がイリーチナ様を助け出した時、命こそ助けたがその御身の右足はもがれていた。あの時の悔しさを味わわずに済んだだけでも僥倖よ。」


 アレクサンドラがエルモたちに優しい顔をして語った。


 魔神を倒すと、その背後への道が開けた。地下通路を歩いていく。アレクサンドラはイリーチナに寄り添って歩いていた。スージーは先頭で罠がないかどうかなど、気を配りながら進んでいた。

 やがて、出口が見えた。眩い光に包まれながら出ると、そこは丘の上だった。振り返ると、地下通路はなく、イリーチナの姿も消えていた。

 ただただ、悲しいまでに真っ赤な夕焼けと、燃え上がる巨大な都市が見えた。


「あれがアスィムラート王国の王都クルィシャの最後。この日、我が国は滅びた。今から3000年も昔の話になるな。」


 アレクサンドラは疲れた表情を出し、燃え上がる赤に顔を照らされる。


「私たちは、貴公らが魔法文明時代と呼んでいる時代の終末期に生き、そして死んだのだ。魔神たちとの戦いの中でな。私たちは、いわば<奈落>に囚われた記憶なのだ。だから、私たちは<奈落の魔域>の中でしか生きられない」


 どこか達観した表情で、淡々と話す彼女はさらに続ける。


「私たちと同じように<奈落>に囚われている者は他にも居るはずだ。かつて、<壁の守人>として魔神と戦い、散っていった者たちだ。この先、もし貴公が魔神と戦いを続けるのなら、また私たちと出会うことになるだろう。もし貴公が私たちの遺品を身につけ、魔域に挑むのなら、私たちは貴公に力を貸すこともできるはずだ。」


 そう言って、アレクサンドラは片耳から耳飾りを外してエルモに渡してきた。


「これを持っていけ。ラピスラズリの耳飾りだ。このお守りを身につけていれば、魔域の中で私を呼ぶことができる。ただし<壁の守人>の記憶によって生み出された<魔域>の中だけだがな。」


 エルモは手にしたお守りを大事に握り、懐へと入れた。


アレクサンドラはそれを見て、満足気にうなづいた。そして、丘の上に漂う漆黒の球体を指していった。


「さあ、あれを破壊し、守るべき者たちと共に大地に戻れ。」


 そして、アレクサンドラも夕焼けに溶け込むように姿を消していった。


「よし、これを壊して元に戻るとしようか。」


「1発、デカイのをお見舞いしてやれ。」


 エルモはアレクサンドラが消えていくのを見送ると、モールを振りかぶり<奈落の核>を破壊した。

 スージーはキラキラと光る黒いかけらを5つ手にした。

 疲れた顔をしていたスージーだが、どこか満足げな表情だ。


 破壊と同時に、空間に亀裂が走る。生じた亀裂の向こうに、元々の草原が見えてきた。程なくして、魔域内にある線路と、現実にあった線路がつながった。


 丘の向こうから、負傷して動けなくなっていたネイサンとボブもゆっくりとだが歩いてきていた。


 応急処置を施していた列車が近くまでゆっくりと進んでくる。中から、副局長のヤルノが現れた。


「よくぞやり遂げてくれましたな!さぁ、クルツホルムへ出発します。乗り遅れのないようにどうぞ。ところで、アレクサンドラさんはどうしました?」


「あー、あの人は幽霊みたいなもんだった。やっぱり、おかしいと思ってたんだよなあ。うー、ブルブル。」 


 エルモはスージーの意外な一面を見た気がした。このグラスランナー にでも怖いものがあるのか。


「ふぅむ、どちらにせよありがとうございました。おかげで魔域からの脱出が叶いましたな。それにしても、アレクサンドラさんが3000年も前の亡くなった人物だったとは驚きです。確かに、魔域の中で、昔の<壁の守人>らしき人物に会ったという報告は、稀にありました。これからの<奈落>との戦いにおいて彼らの協力を得られるのなら心強いことですな。」


 その話には同意するエルモ。若干、晴れない表情をしているスージーがいた。


「何はともあれ、お約束の報酬をお支払いしましょう。8000ガメルです。お納めください。」 


「ありがたく受け取らせてもらいます。」


 エルモが代表して受け取っておく。これで、しばらくは旅の路銀には困らないはずだ。


「さっきの<魔域>さ、持ち出せるお宝とか、他にもなかったんかな。」


「あったかもしれないし、なかったかもしれないね。」


「あったかもしれない、そう言ったな?もう戻れないよ。次こそは持ち出してみせるぞっ!」


 スージーのグラスランナー らしい宣言に、頬を緩ませるエルモ。


「というわけだから、頑張って持ち出してきてくれエルモくん。」


「いきなり何だよ、唐突に。」


 呆れ顔になり、スージーを見るとあちらから答えが返ってきた。


「いや、ほら。だってお化けやっぱり怖いじゃん?そんなところにわっち、行きたくないじゃん?」


「君の精神性が怖いよ。お化けは怖いけれど、お化けから巻き上げること自体は怖くないのかい。」


 ふふん、と鼻を鳴らしながらスージーが答えた。


「やっぱ、物と人は違うからね。」


「グラスランナー の考えることはわからないな。俺は列車の席に戻るよ。ささやかな感謝とやらで、特等席を使っていいって話だ。荷物を回収したら、席を移ろう。クルツホルムまでの残り短い時間だが、優雅に過ごせそうだよ。」


「ホッホー!駅弁はどこだ駅弁!!歌も歌うぞー。」


 そうして、二人が束の間の豪華列車の旅を楽しんでいると、大きな街が見えてきた。クルツホルムの街だった。

 クルツホルムはドーデン地方から<奈落の壁>に築かれた要塞都市オクスシルダへといたる路線の重要な中継地点で、この地域最大の鉄道ギルドがある。

 ほとんどの住民が、魔動機列車の運行や、路線の維持や拡充の為に従事し、必然的に鉄道ギルドが大きな力を持っている。


 ゴトンゴトンと音を立てながら、駅のホームへと魔動機列車は停車をした。


 スージーが真っ先にぴょこんと降り立ち、続いてエルモが荷物を背負って降り立つ。

 巨大な駅のホームを出ると、そこは大きな街が広がっていた。

 だが、噂に聞いていたほどの活気はなく感じた。

 それもそうだろう、本来はこの街は中継地点。ここからコルナガ地方の各所に魔導列車が走るはずなのだ。


 だが、今は各所に現れる<魔域>のせいで、線路網が分断されてここが最終駅になってしまっている。活気が薄れるのもやむなしというところだった。


 先にまず、スージーがヴィルマを探すと言い出して酒場へと繰り出した。昼間だが、酒場はそれなりに盛り上がっていて、仕事にあぶれた人間が憂さ晴らしに飲んでいたりした。

 エルモとしては、止まっている列車を進ませるために、<魔域>をどうにかしてエルヤビビまでの道を開通させたいと思っている。


 冒険者の常識、とまではいかないが酒場は情報の交換所だ。

 

 酒場でこの地方の地図を広げ、エルモはスージーに言った。


「俺が行きたいのはエルヤビビ。だが、列車の運行が止まっていると森林を渡って、山岳地帯を抜けてトゥルヒダールに行って、そこからロープウェイを経由してエルヤビビという手段しか現状は取れそうにもない。各所の運行が停止している今、取れる手段はそれしか思いつかない。魔物の徘徊する場所を横断するルートだから、危険がかなり高くつくな。」


「なるほどねー。ロープウェイはいいね!ロープウェイ!!テンション上がるわー!」

 

 何故かロープウェイという単語でテンションを上げるスージーだったが、思い出したようにエルモに声をかけてくる。


「エルモ、わっちはヴィルマの情報を集めてくるので、少し一人で飲んでてね。お金ちょうだーい。ダメかー、いってきまーす。」


 そういうと、スージーは人混みの中に混ざっていった。エルモは一人で地図を見ながらちびちびと飲んでいる。


 8000ガメルの報酬から出してやっても良かったと思ったが、なんかタカられてる感が出てたのでちょっと嫌なエルモであった。


「いヨォ。お兄さん。飲んでる?ヴィルマって女の子知らない?知ってる?いくらくらい飲みたい?」


「何だ、人探しかいグラスランナー のお嬢ちゃん。うーん、250ガメルも貰えりゃ、いい酒が飲めそうだ。飲んだら口も軽くなりそうなんだがな。」


「OK、そのくらいなら支払うって。その代わり、間違いなく頼むよ。」


 金をもらうと、早速この店で美味い酒を頼む常連らしき客。酒が運ばれると、一口味わい、何かうなづいていた。


「やっぱり違うな、いつも飲んでるエールなんかと比べものにならんぜ。ああ、嬢ちゃんの言ってたヴィルマって子の話だったな。詳しいやつを呼んでくるぜ。おーい、ボルト。お前がこの間話してたのをこの子にも話してやってくれ。」


 そう言って、常連客がボルトという男を連れてきた。ボルトが語るには、


「今あんたが語った容姿とそっくりの女の子が、別の女の子と一緒に荒野を根城にしている邪教団に誘拐されたって話を聞いたことがあるな。魔神を召喚する生贄にされるんじゃないかって噂があったな。定かじゃないけれどな。」


「マジか。うーん、荒野ね。ありがと。あとは楽しく飲んでてねー。」


 元いたテーブルへとスージーが戻ってくると、エルモが手を上げてスージーを迎える。


「こちらでは平原の情報を集めておいた。300ガメルも取られたがな。やはり、こういうのは苦手だ。」


 エルモは性格からか、情報交換の相場がイマイチわからなかった。少し多めに取られてしまったが、手持ちのガメルはまだ700ガメルほど残してある。パーティ資金とは別にしてあるので、パーティとしては8000ガメル以上の残りがある。


「ヴィルマは荒野の邪教団の生贄にされるために連れてかれたんじゃないかってさ。これはもうダメかもしれんね。」


「諦めるのか?」


 エルモの言葉に、首を振りながらスージーが答える。


「いやいや、手遅れとかあり得るじゃない。そうしたら、もう帰るところがなくなるので、エルモくん。」


 ニヤリとした顔を作り、こう続けた。


「あんたのご主人様のお嫁さんになり、一生一緒に行くわ。」


「いや、グラスランナー の嫁はどうだろうな?周囲の目が痛すぎるだろう。危険な香りがするぞ。」


 スージーの冗談に大真面目に答えるエルモ。

 あまりにもスージーが真面目な顔をしていたが、冗談に違いない。

 話題を変えるため、エルモが仕入れた情報を共有する。


「平原には毒蛇が多く生息しているらしい。ペトロヴァイパーという魔物が主らしく、闊歩しているようだ。<奈落の大侵食>の後にクルツホルムの守備隊が平原に野営地を築いて魔物の動向を監視しているようだよ。ハルーラの聖堂もあるらしいが、今は無人とのことだ。魔域もあるらしい。それなりに強いのが出るとのことだ。」


 エルモは近くの場所ということで森林地帯のことが気になった。


「森林の情報はどうするんだ?」


「いや、集めようとしたが900ガメルも吹っかけられたんよ。こんな情報に払えるか!とバンと叩いて、帰ってきたわ。ズンズンって。」


「それは、払わないで正解だな。」


 流石に、ぼったくられ過ぎていることはエルモにでもわかる。


その後、この辺りで有名な<壁の守手>の情報を探したが、400ガメルの情報料を渋り、冒険者ギルドでめぼしいクエストを見る。

 ちょうどエルヤビビへの届け物があったので、率先して受けていく。他の地域へと送り届けるクエストもあったので、できるかどうかはさておいて、受けておく。

 他には、エルフの学者に食料を届けに森林に行くというのもあったので、それも受けておいた。

 

 列車の長旅の後だったので、その日は宿に泊まり朝から動くことにした。

スージー語録

スージー

ほら、グラスランナーってさ。うん。自分のためにお金を使いたい人だからさ。うん。情報収集とかは自分のお金を使いたくないわけよ。


エルモ

何を言ってるのかよくわかんない。自分のためのお金だから、自分のお金で支払うべき。

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