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魔神との戦闘

一旦ストックがなくなったので、ここまでしばらく止まります。

 闘技場の戦いで失神したボブの手当てをスージーがしている。思ったよりも傷が深く顔色も悪い。皆が話し合い、ボブはここまでで無理はさせられないと判断した。


「ネイサン、ボブ。二人はここまでで良い。僕たちは安全の為、君たちをここに置いて行こうと思う。」


「わかった、ここは任せて先に進んでくれ。健闘を祈るよ。」


 何故か、スージーが返答した。自分とボブが残るというスージーの戯言を聞いて、エルモは真面目に答える。


「スージー、君のスカウトの腕がこの先にも必要なんだよ。悪いが、置いていくわけにはいかない。」


 そう言って、嫌がるようなそぶりを見せるスージーを無理やり連れていく。ほんの少しは駄々をこねていたが、切り替えの早いグラスランナーは3歩も歩けば脱出口である漆黒のゲートの方に夢中になっていた。


 闘技場に出来た真っ暗なゲートを超えた先は地下通路になっていた。壁の窪みには白く光る石が置かれているため、証明の必要がない程度には明るい。

 歩いていると、床に血塗れの兵士が横たわっており、アレクサンドラが近づくと霞んでいるのか目がもうよく見えていないようで、アレクサンドラなのかを確かめるように呼びかける。


「アレクサンドラ様、アレクサンドラ様なのですか……?姫が、姫がこの先に。魔神どもが追いかけて……。お早く…。」


 そう言って、事切れてしまった。最後にアレクサンドラに頼み残せたことで安堵したのか、死顔は安らかなものだった。

 アレクサンドラは彼女が信仰するイーヴに「彼の魂に健やかな安らぎがあらんことを」と彼の魂が神の御許に行けるように願った。

 金の長髪を靡かせながら振り返り、エルモたちにアレクサンドラは告げた。


「どうやらここは、シャルィーキン公爵様のお屋敷から王都の外へと続く地下通路のようだ。かつて姫様は魔神の襲来の前に陥落寸前だった王都から脱出するため、この通路を使った。しかしその途上、右足を失う重傷を負われたのだ。私は囮役としてお屋敷で魔神を迎え撃ったあと姫様の後を追ったが間に合わなかった。私はずっとあの時のことを悔いていたが。そうか、もう1度あの時をやり直せということか……。 」


 後半は、自分に問いかけるように口ごもるアレクサンドラ。何故か、魔域の中のことを的確に説明でき、時折過去形で喋るアレクサンドラに対し、スージーは今の台詞を聞いて、何かに思い当たったようだ。

 

「いくぞ、イリーチナ様の後を追おう。」


 そう言って、アレクサンドラは先を進んで行った。それに続いて白色の光が導く道をいくエルモ達。


 地下通路を進んでいくと、曲がり角に突き当たり、直角に曲がった通路正面の壁面に太陽神テラ、月神シーンのレリーフが彫られていた。それを見て、アレクサンドラがぽつりと漏らした。


「この場所、記憶にはないが。かつて公爵閣下が困ったときには夜の側を行けとおっしゃっていた。何か関係があるのだろうか。」


「そういうときは、たいてい何かがあるってわっちのカンが囁くのさ。」


 慣れた手つきでスージーがレリーフの裏側を調べると、それは外れることに気がついた。


「これ外れるな。エルモ手伝ってくれよ。」


「わかった、手伝うよ。せーの!」


 二人がレリーフを持ち上げると、その裏には隠し通路があった。スージーが軽口を叩く。


「こんな隠し通路があったなら、通らないのはグラスランナーの名折れだよね。」


 細い通路をしばらく行くと、扉の前にたどり着いた。扉の向こう側からは聞き耳を立てなくとも、怒号や悲鳴が聞こえてくる。戦闘の予感がし、エルモはモールを強く握り直した。


「よし、帰ろうや。」


「お前、それはグラスランナーの名折れだろう!」


 すかさず、突っ込むエルモ。

 それに返答するスージー・ニック。


「いや、危険に飛び込むのはまた違うよ。」


 急に正論を言い始めたグラスランナーに対し頭を抱えて考えるエルモ、だがすぐに答えは出たようだった。


「ええい、行くぞ!」


「行きたいなら一人で。」


 エルモは無言で近寄ると、小脇にスージーを抱えて扉を開け放った。


「いや!人でなし!!」


 哀れな少女のような悲痛の声色を混じらせるスージーだったが、エルモには通じずそのまま同行する羽目になったのであった。


 扉を開けた先には、秋の紅葉に似た燃え立つような赤毛の身なりの良い少女と、彼女を守るようにして戦う兵士達が魔神によって、小さな部屋へと追い詰められていた。


「あのお方がイリーチナ様だ!さあ、姫様をお助けするぞ!!」


 アレクサンドラが血気にはやりながらも魔神へと応対する。

 相手は巨大な蜘蛛の体に、頭に触手が生えた化け物だった。おそらく魔神と思われる。


「スージー、相手の正体に心当たりは?」


「ん?すまん。壁の模様に気が行ってそっちは思い出せない。」


スージーが魔物の正体に心当たりがなかった為、判別出来ない。相手が未知の存在というのは不測の事態がありそうで不安材料となったが、戦わないわけにもいかない。


 「よし、こういう時は先手必勝よっ!」


 スージーはそういうと、フルートを取り出して命中を補正する呪歌「モラル」を演奏する。勇壮な音楽が流れ出て、敵へ攻撃を当てるための気力が湧いてきた。


 エルモは蜘蛛型の化物をフルスイングで薙ぎ払う。頭部、胴体、腹部と狙うが振りが甘く、腹部に命中させるが、致命打には程遠い。

 

「気味の悪いやつだな、手早く潰れろ!」


 意外にも機敏な動きを見せる魔神に、思うように当てられないエルモ。

 アレクサンドラは胴体をスピアで貫いていく。


 フルートを演奏しながらも、スージーは少しだけ悩んでいた。


(やばいやつの命中もあげてしまったかなぁ。でも終律を演奏するためにはモラルの前奏が必要だしなぁ)


 前衛の、特にエルモのパッとしなさ加減に戦術を悩むスージーだったが、こればかりは運だと割り切った。


 無数の触手を生やした蜘蛛型の魔神は前衛に立つエルモに全ての攻撃を集中させてきた。

 触手をかすめるようにして避け、胴部の脚による絡みつきを危なげなく避け、腹部による針の一撃をも避けて見せた。その一連の流れはモールを両手に握りしめてかつ、舞のように見える動きだった。


 スージーの呪歌は継続し、引き続き命中力を高めてエルモがモールを振り回し続ける。乱打はモールを頭部に打撃を当てて怯ませた。


(む、この軌道だと間違いなく外れるな。軌道修正しよう。)


 腹部へは戦闘型ルーンフォーク独特の天性のカンともいうべき、攻撃軌道の未来予測を駆使して命中させた。全ての攻撃にこの感覚は働くわけではなく、1日に1回程度の頻度でしか現れないものなので、頼った戦闘はできないが、いざというときにこうやって役に立つ。

 

 胴部にも順当に当てていき、負傷を蓄積させていく。

 アレクサンドラも攻撃を当てようとするが、頭部の触手に牽制されてうまく攻撃が当てられないようだった。


 蜘蛛型魔神の攻撃をエルモは先ほどと変わりなく避け切って見せた。


(戦舞士は重い鎧は装備しないスタイルだからな。見ててハラハラするぜ。しかし、気合の入った避け方だな。よっぽど虫が嫌いかね?)


 後衛で呪歌を歌い続けているスージーは感想を心の中で漏らす。特別エルモが虫嫌いと言うわけでもないが、このサイズの虫に食われようとするシチュエーションなら死ぬ気で避けると言うものである。


 エルモは攻撃を三度繰り出し、流れるようにスイングさせたモールを魔神相手に当てていく。この攻撃でだいぶ腹部と胴部は傷を負っているようで、体液のようなものが流れ出している。肝心の頭部にはまだ致命傷というほどではないが傷は与えている。


 そこにスージーが前奏を終えて終律「春の強風」を奏でた。フルートの音色が束ねられたかのように轟音を立てて魔神の腹部を襲いかかる。魔神の分厚い外骨格も無視したようにその強烈な猛風は腹部にヒビを入れ、ついには破壊せしめた。

 これにはたまらず、魔神もたじろぐ。そのすきにアレクサンドラがその槍で胴部も串刺しにして、動かなくさせた。

 まともに動いているのは頭部のみなのだが、それでも魔神の生命力は凄まじく、頭部のみで攻撃をしてくる。


「そこまで追い込まれたお前に、やられるわけにはいかないな!」


 エルモは触手を回避し、その続け様にモールを振りぬく。かするように避けられかけたが、強引に引き返すことで命中させ、頭部を陥没させる。

 その流れに乗じて、アレクサンドラも槍を貫いていく。魔神の動きが目に見えて悪くなってきていた。

今回のスージー語録は特になし。

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