裏切りの雪谷
ちょっと短いのですが、キリがいいので投稿します。
タウトゥミ少年の記憶を垣間見る魔域の次に出た先は、真っ白な雪の谷だった。
「おお!?いきなりだな、寒すぎるっ!!」
「これは参った。防寒対策は持っていない。」
冷えから来る疲労対策に、ノマリ族から購入しておいた疲労回復のドリンクを二人とも飲み干す。
近くから剣戟の音らしきものが聞こえ、そちらの方へ向かってみると人族の戦士達と魔神の群れが激しい戦いを繰り広げていた。
その中で、一人のノマリの民族衣装を纏った金髪の少女が頭上に向かって叫んだ。
「キャラウェイ様!やめてください!!皆、雪崩に巻き込まれてしまいます。」
キャラウェイと呼ばれた男は、酷薄な笑みを浮かべるとマナスフィアになんらかの操作を行った。すると、ノマリの少女は絶叫し、同時に左右の崖の上で爆発が起こり大量の雪が降り注いだ。
人族も魔神もその雪崩に巻き込まれていく。
幸いにも、雪崩の流れから外れたところにエルモとスージーは居たおかげで難を逃れた。
ところが、魔神の中には雪崩を逃れたものがいたようで、それが遠くからこちらへと向かってきていた。
「おお!そうだ、この魔域の中ならアレクサンドラを呼べるんじゃないか?」
「ラピスラズリの飾りだったよな、呼んでみよう。アレクサンドラ、出てこーい。」
スージーがラピスラズリの首飾りを握りしめてアレクサンドラの名前を呼んだ。
「私の名を呼んだか、スージー。我が槍の出番というわけだな。」
槍を片手に金髪のツインテールの女性騎士、アレクサンドラが側に現れた。
魔域の中でなら呼び出せるというのは本当だったらしい。
「近づいてくる魔物の正体はわかるか、スージー?」
「忙しいな、全く。あれは、ザルバードって魔物だ。」
ザルバードと呼ばれた魔物は魔神の一種であり、身長は3m以上あり、蝙蝠のような翼を持った真っ赤な体を持って赤い目をギラつかせた大男だった。
皮膜の翼で空を飛びながら、こちらへくると同時に口から炎を吐き出してきた。
魔力によらない純粋な炎は容赦無くエルモの防御した腕を焼き焦がしていった。
激痛が走るが、その痛みと怪我はまだ耐えれるものと判断し、エルモは賦術<ヴォーパルウェポン>を己の愛用するモールへと使った。
紅輝きを帯びたモールを振りかぶり、ザルバードの腹部へと思い切り打ち込んだ。手応えはあったが、存外にタフらしく応えた様子は見えない。
スージーは<アーリーバード>を奏でて、楽素をためて回復を行う準備をする。
「貴公の負傷、私が癒す。奈落を滅ぼす者、盾の神イーヴよ。我が仲間を癒したまえ<キュアウーンズ>!」
アレクサンドラが回復の神聖魔法<キュアウーンズ>を唱えて、エルモの負傷を治していく。
それを見た魔神は何事かを呟いたが、生憎その言葉は魔神語を覚えているスージーにしか聞き取ることはできなかった。
【厄介な、神官戦士がいるのか。いや、これは普通の人間ではないな。魔域の中での記憶に寄った過去の残滓のようなものか。ココにいないのでは仕方ない。この小僧から先に燃やし尽くしてくれよう。】
スージーにはなんとなく引っかかる内容だったが、今は戦いの最中。考え事は後回しにすることにした。
ザルバードは再び炎の息吹を使い、エルモに吹きかけてくる。その炎を受けて左腕が焼け焦げたが動かないほどではない。
だが、問題は避けきれない炎を毎度受けることが問題だった。負傷の度合いこそ低いが、回復が途切れるとあっという間に追い込まれそうだった。
終律のために演奏していたスージーがエルモに声をかける。
「回復の終律、いつでもいけるぜ。」
その声に勇気づけられて、エルモはモールをザルバードに振り下ろす。効き目の鈍い腹部よりも頭部を狙っての攻撃だ。
見事に頭上に振り下ろしたモールは打撃部がザルバードの頭部を砕かんばかりに当たった。
流石のザルバードも、これは効いた様子で、後ろに下がっては頭を振りかぶった。
「好機と見た、我が槍もお見舞いしてくれよう!」
アレクサンドラもその隙に乗じて槍を繰り出してザルバードの腹部に突き刺した。浅かったが、槍を抜いた後からザルバードの血液が流れでる。
【生意気な人間どもめ!燃えて灰になってしまえ】」
ザルバードが魔神後で叫び、三度の火炎の息をエルモへと吹きかけた。この炎をもろに浴びて、髪の毛まで焦がす勢いで負傷する。
正直、何かしらの消耗をしての炎の吐息ではないかと思っていたが、疲れている様子などはなかった。
この調子で受けるとこちらが先に倒れる羽目になるとエルモは胸中で考えていた。
「今治してやる!終律<夏の息吹>!!」
スージーが奏でるリュートの音色が爽やかな緑色の風となってエルモを包み込む。たちまち、怪我が治りきっていった。
「助かった、スージー!あとは俺の仕事だな!!」
エルモがモールで殴り、魔神にダメージを与えて後退させていく。
アレクサンドラは攻撃するが、機敏に動いた魔神に避け切られてしまう。
スージーが終律<春の強風>を叩きつけて、ザルバードは大きく呻き声をあげた。
トドメにエルモのフルスイングのモールの打撃部がザルバードの頭部を捕らえた。魔神は頭を砕けさせながら、絶命した。
「ふう、ようやく倒せたか。炎の熱がまだ籠っているようだ。」
そう言って、エルモは足元の雪で腕を埋めていた。怪我自体は治っているはずだが、体の中に熱がこもっているらしく、雪につけて冷やしているようだった。
スージーがそれを横目に見つつ、ザルバードの亡骸から金目のものを漁っている。
「この耳飾りくらいかなぁ。あとは倒した証として、血を革袋に入れておこう。まったく、しけた魔神だったぜぃ。」
そろそろ、量が溜まってきた袋だが買い取ってもらえるものなのか。何か、呪われてそうで嫌な気もする。
ふと雪崩の方を見ると、どうやら金髪の少女もなんとか逃げおおせたらしい。
「すみません、逃げ遅れた人を助けるのを手伝ってください!このまま死なせるわけには!!」
少女が大声を上げて、こちらへと助けを求めてきた。エルモ達は大きくうなづき、雪崩のあった方へと駆け寄った。
雪崩の中から人を探し出すと、一人の男が青ざめた顔をしながら少女に話しかけた。
「ありがとう、カティア殿。だが、この有様を見ると私は貴女に詫びなければならない。貴女のご家族が亡くなられたあの事件、あの時魔神の群れに追われたキャラウェイが貴女の家族を囮にしたのだ。これまで黙っていてすまなかった。許してくれ……。」
男の告白に、カティアと呼ばれた少女は立ち尽くす。しばらくしたのちに、エルモ達へと向かい合い硬い声色だが礼を述べた。
「ご協力に感謝します。わたしは”壁の守人”の一人、カティア・ロッサと申します。これはささやかですが、わたしからの感謝の印です。どうか受け取ってください。」
そう言って、カティアは古ノマリ紋様の入ったターバンを渡してくれた。
「彼女もまた、私と同じ過去の人物。そのターバンが彼女を呼び出す遺物なのだろう。受け取っておくと良い。」
アレクサンドラが、ターバンを受け取ったエルモにそう語りかける。
「……では、わたしはやらなければならない事ができましたので、これで失礼します。」
話が終わったと見て、カティアはくるりと踵を返して去っていく。
去り際に見えた瞳には怒りと憎しみが宿っていた。
雪谷に消えていくカティアを見送ると、気づけば雪崩の中に<奈落の核>が浮かんでいた。エルモはそれに近づき、モールでかち割ると6つのアビスシャードを回収し、この魔域から脱出した。
地味に回避ができない相手(群れのデータや、魔法みたいな抵抗/半減系)はエルモ君がだいぶ辛い。
スージーは実質、一つの戦闘に1回しか回復をかけられないので、残るは<ヒールスプレー>頼み。
結構、キュアウーンズの使えるフェローに助けられる場面も多いです。
結局は、スージーとエルモで早期決戦をすることになるわけですが。