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タウトゥミの魔域Ⅰ

 エルモ達はハルーラの聖堂の前にいた。聖堂の上、鐘楼には大きな黒い球体がかかっていた。うまくすれば、そこから黒い球体の中へ、すなわち<奈落の魔域>の中へと侵入することができそうだった。

 エルモは聖堂の上、黒い奈落を睨めつけながら言った。


「聖堂の中に入って、あの鐘楼から魔域に入るとしよう。聖堂の中に魔物が住んでなければいいんだがな。」 


「どうだかな、わっちは出る方に賭けてもいいぜ。」


 エルモが笑いながらスージーへ返した。


「俺もそっちに賭けようとしてた。賭けにならんな。」


 聖堂の正面に回ると、ハルーラの聖印が掲げられているが、その下にあるべき大扉は破壊されて中の礼拝堂がのぞいている。


「ほんじゃ、お邪魔しまーす。」


 スージーが静かに足音を消しながら、小声で呟く。


 椅子などの調度品は打ち壊され、最奥に安置されているハルーラの像も見る影もなく砕かれていることから、何かがいるのは明白だった。


「そこに何かいるな!気をつけろエルモ!!」


 壊された神像の影から、しゅるりと這い出てくる影がいた。

 魔神ナズラック。2本の太い触手と大きな一つ目の化け物だった。触手を含めると5mほどの長さの大きさだ。

 幸いにもスージーが正体に心当たりがあり、弱点は目玉のある一つ目だと看破した。

 しかし、頭部を破壊するには触手が邪魔をするため命中させるのは困難になる。


「エルモ、先に触手をなぎ払いで使い物にならなくしちゃえ。そうすれば、倒すのは簡単だぜ。」


 先制したスージーは早速、呪歌<アーリーバード>を奏でる。魔神の異様さに押されたのか、少し曲にも乱れが出ていたが、呪歌は成立した。


 エルモが続いて攻撃を行う。魔法化されたモールのおかげで当てやすさは上がっているのだが、頭部へと当てることは触手に阻まれてできない。そのため、触手にモールを大きく薙ぎ払って当てていく。


 魔域にも入っていない時点で消耗品を使うのを躊躇ったエルモは賦術は特に使わずに攻撃を行い、触手に一撃ずつ当てていく。


 ナズラックの瞳が怪しく輝き、エルモの体を高揚させる。体に無駄に力が入り、動くたびにダメージを受けていく。

 2本の触手はその攻撃を空振る。バトルダンサーとしての技量が上がったエルモにはその攻撃はかすることも無い。


「わっちは頭を直接狙ってみるよ。」 


 スージーは<春の強風>で攻撃を行った。頭を直接叩き、早期終了を狙う。


「吹っ飛べ!目玉お化けめ!!」


 ナズラックに抵抗を許さずに、魔力を纏った風はしたたかに目玉の部分に直芸した。たまらず、踏鞴を踏むナズラック。


 そこにナズラックの視線を受けて、勢いのついたエルモがモールをたたき込んだ。わずかな時間の中で魔神は頭部を粉砕されて倒れたのだった。


「素晴らしい機転だったと思わないかね、エルモ君。」


「おっと、テンションが上がったままだから何か殴ってしまいそうだ。」


「やめろぃ!もう、そう言うのは危ないだろう!!」


 スージーの軽口に、エルモはモールを振り回して答えた。


 じゃれ合いが終わり、ナズラックから何か価値のあるものが出ないか物色するスージーだったが、アビスシャードと悪魔の血を1つ手に入れるに留まった。

 悪魔の血は余っている革袋に入れて、ギルドにまとまった数を渡すと報奨金が出ることを知ったので、エルモ達は悪魔の倒した証をこうして集めているのだった。


「アビスシャードがまとまった数集まったら、強化を視野に入れてもいいな。武器にしろ、防具にしろ鍛える手段は多いに越したことはない。」 


 エルモが言ったのは、奈落から手に入ることがあるアビスシャードを使った武具の強化方法だった。かなり優れた効果が出るのだが、代わりに武具が一種の呪いを受けることになり、これは解呪することはできない。

 また、金銭もそれなりにかかるためにそうそうできる強化ではなかった。


 

「お?何か転がってら。ハルーラの聖印?うちらにゃ、あんまり関係ないな。一応もらっとこ。」


 神像の中に隠されていたらしい、ハルーラの聖印を拾ったスージーが懐にしまう。もしかしたら、値打ち物かもしれない。


  

二人は聖堂の奥へと続く道を見つけ、鐘楼の方へ上がる階段が続いていることを確認した。


「階段、登るか。流石に罠とかないだろうしな。」


 そう言いつつも、慎重に階段を上がっていく。

 階段を上り切ると、漆黒の領域が行手を遮った。ここから先は<奈落の魔域>だ。


 「よし、準備万端だ。行こうか。」


 「了解だ。あとは頼んだぜ、エルモ。」


 「お前も一緒だ、スージー。」


 そんなやりとりをしながら、ズブリと黒い世界に足を踏み入れた二人だった。



*****

 二人は気がつくと花々が咲き乱れる庭に立っていた。目の前には小さな家があって、白い髪の毛の10代半ばくらいの少年がいた。少年には雪豹の耳が生え、リカント種族のそれだと分かった。


 リカントの少年は家の中へと叫んでいた。


「チェミュエ姉さん、馬鹿オヤジのことなんか気にすんなって!僕は、姉さんのことが大好きだよ。だから、ここから出てきてよ!!」


「タウトゥミ、お父様の悪口はやめて!お父様の期待に応えられない私が悪いの。お願いだから放っておいて!警備用魔動機を起動させるわ。だから、離れなさい!」


中から若い女性の声がした。その声が告げた通りに頭上から魔動機が現れた。


「おいおい、グルバルバじゃねーか。自宅警備には物騒な代物じゃね?わっちが弱点を知ってるから、そこをつけば楽勝よ。」


 セージの技能を持つスージーが正体を突き止めた。魔動機文明時代の上空からの攻撃を行うための戦闘型魔動機のバルバシリーズの大型化されたものだ。

 蜘蛛のような形状に気嚢を背負っていて、それで浮遊する。

 グルバルバは炸裂弾と機能修復液を内蔵しており、それぞれ一回ずつ使用できる。それが2体ほど現れたのだった。


 現れたグルバルバが浮遊しながら警告音とともにメッセージを言い放った。


「扉から離れなさい。警告を無視すれば、攻撃します。」


 その警告を聞き、タウトゥミと呼ばれた少年は背後にいる二人に振り返って、頼み込んできた。


「姉さんを、姉さんとちゃんと会って話がしたいんだ。魔動機を倒すのを手伝って!」


「高くつくぜ、坊主。それじゃ、頼んだエルモ。」


「おいおい、最後まで格好つけろ。それじゃ俺の後ろにいるんだな、二人とも。」


 スージーとタウトゥミが本格的に戦闘の構えをとると、グルバルバ達の方も脅威だと認識し、赤いランプを明滅させながら近づいてきた。


 先手を取りスージーはエルモに攻撃場所を指示しつつ、モラルの呪歌を奏でて命中力を上げていく。

 

 支援を受けたエルモはモールを振りかぶると2体へ向けて振り回した。

 2体ともに攻撃を当てて、足の一本ももぎ取ったが致命傷には程遠い。


 グルバルバ達は炸裂弾を投下してきた。スージー達は距離を置いていたから難を逃れたが、エルモは攻撃範囲内にいて、その攻撃をまともに受けかける。

 

「魔動機文明時代なだけあって、魔力による爆発か!」 


 必死に精神力を集中し、魔力による衝撃に備える。衝撃がエルモを貫くが、軽度の火傷を腕に浴びただけで済んだ。


「スージー、攻撃だ!」


「いよぉし、やってやら!<春の強風>!!」


 スージーが<モラル>で得た楽素を終律に使用し、攻撃を行う。魔動機の装甲を強風がひしゃげさせる。


 エルモはアルケミーキットから緑のカードを二枚取り出して、自分に使って怪我を治した。多少の火傷あとは残ったが概ね回復したことを確認すると、両手で握り締めたモールを振り回してグルバルバ2体相手に攻撃を当てて大打撃を与えた。


 飛行が不安定になったグルバルバは炸裂弾を使いきり、接近戦をエルモに仕掛けてくるが、エルモは余裕で避けた上に攻撃をブレードスカートによる切りつけて真っ二つに切り裂いた。


 残った1体は回復を行う前に僚機が破壊されたのを見て、攻撃に切り替えていく。

 エルモに攻撃を行ったが、ザッとバックステップをしたエルモにかわされてしまう。


 スージーから放たれた終律が残ったグルバルバにあたり、エルモのモールが叩きつけられて魔動機は派手な音を立てて蜘蛛型の胴体部分を破壊されて戦闘は終了した。


 破壊したグルバルバから金目のものをスージーが拾うと、タウトゥミが扉の解錠をお願いしてきた。


「仕方ねーなー。わっちがチョチョイっと、あれ?魔動機文明ってのは錠前の構造が、あれ?」


「仕方ない、どいてろ。俺がドアごと破壊する。」

  

 埒があかなくなったスージーを横に退けて、エルモが最終手段に訴えた。

 モールによる破壊の後、息を切らせたエルモがタウトゥミに中に入るように促した。


「あ、ありがとう。僕、姉さんのところに行ってくる。姉さん、おいでよ。外に出よう。」


「こんなことまでするなんてバカね。でも、ありがとう。扉を壊したのはびっくりしたけれど、あなたが入ってきてくれた時、とても嬉しかったわ。あなた達も、この子に協力してくれてたのね、なんか私のことでいろんな人に助けてもらった感じ。うふふ。」


 そう言うと、姉弟は手を繋いで家の外へと歩いていく。

 二人の反対方向に白い光が満ちた空間が現れた。おそらく、この魔域からの脱出口だろう。


「さぁ、行こうか。この魔域でやり残したことはないだろうしな。」


「さっさと魔域の核を壊して、ギルドから報酬もらいたいねぇ。」


デモンズライン の魔域って、独特な感じがするのは僕だけですかね?


なんか、人の心とか心象風景がメインになっている感じなので

その人の出来事や記憶を追体験するところというか。


スージー語録は特になし。

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