兵士の救助
スージーはスカウトの方がセージより高いのに、何故か魔物知識判定は失敗しません。
逆に、先制判定にはよく失敗します。不思議!
花園から離れた場所に洞窟を発見したが、スージーは嫌なものを見つけていた。そして、黄色と黒の縞々模様のそれはスージーたちを見つけると一目散に襲いかかって来たのだった。
「ヤベェ、虎だ!動きが早いから気をつけろ!!喰らいつかれると、立て続けに攻撃をくらうから受けるなよ!?」
スージーは敵の正体を看破していたが、先手を取ることには失敗してしまった。せめてものアドバイスをエルモへと送る。
エルモは前に躍り出て虎と対峙する。虎はエルモを食いちぎるために襲いかかって来た。
唸りを上げながら襲い来る虎は、機先を制すと流れるように連続で爪を振るって来た。
しかし、エルモの回避能力は虎を十分に上回っていて、連続で繰り出される爪を次々と紙一重に避けていく。
スージーはエルモが万が一ダメージを負った時のために<アーリーバード>を演奏し、回復の終律<夏の息吹>の準備をする。
バードの呪歌は前奏を行い、楽素と言われる力をためて終律と言う演奏の形で魔力を放出する。
<アーリーバード>自体は眠っている人間を起こす呪歌だが、<夏の息吹>に必要な楽素をためるに適した呪歌なので、一見すると無意味だが演奏を行なっていた。
エルモは虎相手に一人で奮闘していた。虎の猛攻を交わしながら、大振りのスイングで虎に攻撃を命中させていく。毛皮に阻まれ、思うようにダメージが出せていないものの蓄積させていく。
スージーは<モラル>へと切り替えて戦場の全員の命中を上げた。バードの呪歌は敵味方の区別なく効果を発揮するため、使い所を間違えると、敵に利したりすることもある。
しかし、今回の<モラル>はその後に終律<春の強風>につなげるための意味合いが強かった。
エルモが交戦している間に準備を整えたスージーが<春の強風>を奏でた。魔力を伴った強風が虎に襲いかかる。
虎は強靭な抵抗力を見せたが、魔力の風に叩きつけられて強く頭部を打ちその意識は途切れた。
虎の頭部をエルモのモール打撃部分が容赦なく打ち砕き、虎を絶命させる。
「あちゃあ、もったいない。とはいえ、止めを刺す方法が他にないから仕方ないか。毛皮の安い部分は剥げそうだ。300ガメル程度にはなりそうだぜ、エルモ。」
「そいつはありがたいな。今は路銀の足しになるものはいくらでも欲しい。」
スージーが倒した虎の一点を見つめて言った。
「虎のたまたまさんもあるぜ。売れっかな、これ?」
「俺に聞くなよ。と言うか、生モノは道中どうなんだ?保管でき無さそうだが。」
「良さそうなんだけれどな、仕方ない置いてっちゃうか。」
名残惜しそうな表情をしてその場を去るスージーだった。
洞窟の前をたむろしていた虎を倒した後、洞窟の奥側の方から弱々しいながらも歓声が上がった。
洞窟の中に入っていくと、そこには5人の兵士が座り込んでいた。ぱっと見るだけでも重傷者が二人いる。他3人も無傷ではなく、満足に動けるものは少ないようだ。
「あんた達がクルツホルムの守備隊の兵士さん達で合ってる?わっちら、平原の野営地で兵隊さんに頼まれて探しに来たわけなんだけど。」
「おお……!本当か!!俺たちはギリギリのところで神の御加護を得ることが出来たんだな!!」
感涙している男が、腕で涙を拭ってスージー達に向かって話しかけた。
「俺はこの班のリーダーでマークスだ。俺はまだマシな方なんだが、毒蛇に襲われた挙句、虎にまで襲い掛かられてな。命からがら、全員でこの洞窟に逃げ込めたのはよかったんだが、あの虎が洞窟の入り口から立ち去らなくってな。君たちが倒してくれて、本当に助かった。ありがとう。」
深々と礼をするマークス。ドヤ顔で応対するスージーに、見習うものがあるのか無いのか、と悩むエルモだった。
「そして、これは相談になるのだが。我々守備隊の野営地まで護衛してもらえないか?情けない話だが、見ての通り負傷者ばかりで重傷者もいる。助けてもらえないだろうか?」
マークスに懇願され、二人は顔を見合わせたがすぐに答えは出た。
「特に問題ないよね。うん、連れて行って上げても問題ないない。介錯がいるのはいる?」
「お前の頭に1発、キツイのを入れておくか。」
スージーのブラックジョークにモールを振り上げてエルモがツッコミを入れた。さすがに振りかぶられたモールを見て、慌てるスージー。
「いやいや、冗談だぜ。わっち流の場を和ませようとした軽いジョークだよ。」
「グラスランナー の冗談は人族には通じにくいから、気をつけたほうがいいぞ、スージー。」
「あら?それって、暗にグラスランナー を差別してない?」
「気のせいだろう。ほら、重傷者は俺が担いでいく。先導してくれ、敵には気をつけてくれよ。」
地味にキツイことを言ったエルモに対し、キッチリと突っ込み返すスージー だったが、さらりと躱される。
洞窟の中で一晩過ごすが、表の鳥獣の鳴き声が気になってしまい十分な休息がとることが出来なかった。二人とも寝付きが悪くなることで疲労が蓄積して来たことを感じる。
「ちょっとうるさいよ!ってマジか。ちっくしょう。」
「どうした?」
「せめて、虫たちは静かにしてくれないかって抗議したら、今は交配の季節だからライブは止められないって。逆にクレームを受けちまったい。」
そんなことがありつつ、夜が開けた。負傷者5人を連れて、来た周りに野営地を目指すことに。
プリーストなどのまともなヒーラーがいないので負傷者には簡単な応急手当てだけをするだけにとどまった。もし、負傷者を回復できていれば、戦力になってくれたかもしれない。
帰る道として南側もルートとしては考えられたのだが、奥にあるハルーラ神殿側から何かが流れ出てこないとも限らないので、既にある程度の安全が確保されている方がまだ安心できるだろうと考えての決定だった。
帰り道に魔神の小集団と出くわしたが、負傷者を後ろに庇いながらもエルモとスージーだけで難なく倒すことが出来た。エルモが多少の手傷を負ったが、スージーの<夏の息吹>で回復し、何事もなく終わったのだった。
「どうだ、癒されろ癒されろー。」
「なんだろうな、この癒されてるはずなのに癒されないと言うか。まぁ、礼は言っておこう。ありがとう、スージー。」
「ふっふっふ、エルモから感謝される機会は珍しいからな。しっかりと堪能しておくぜぃ。」
その晩の野営もまた動物の鳴き声がうるさく、眠れずに疲労が溜まっていった。
朝イチでスージーが疲労回復剤を飲んでいる姿に出くわした。
腰に手を当てて、薬を飲み干す姿はどこかオッサンくさい。だが、皆まで言わずに朝の支度をする。保存食の硬い焼き固められたパンと簡単なスープを作る。
街まで行ったら、保存食も買い足ししておかないといけない。エルモは心の備忘録に書き加えていった。
北回りで平原を行き、無事にクルツホルム側の野営地に戻ってくることが出来た。野営地の前には立哨している兵士がいた。
ここまでの道のりで多少の疲労感はあるが、ここで安全にぐっすりと寝れば大丈夫だろう。
「おい、お前ら!無事だったのか!!隊長、奴らが帰って来ました!マークスの班です!!」
立哨していた兵士が慌てて奥へと走っていく。
野営地に入らせてもらうと、隊長らしき人物がマークス達が入ってくるのを心待ちにしていた。
「お前達!よくぞ戻って来てくれたな!!重傷者はとかく手当てを!!マークス、お前は状況説明を行なってくれ。そっちの二人は冒険者か。」
「隊長、彼らが俺たちが負傷して洞窟で動けなくなっているところを助け出してくれたんです。彼らは俺たちの命の恩人です。」
マークスが隊長へエルモ達の説明を簡単にすると、隊長は態度を軟化させた。
「そうか、それは失礼をした。部下達を助けていただき礼を言う。部下達の命に釣り合う金額ではないのだが、3000ガメルほどの礼金を支払おう。ありがとう、冒険者達。」
「いや、こちらこそありがとう。無事に救えて良かったよ。」
そう言いつつ、渡された報酬をエルモが懐に入れる。スージーは横目で見ていたが、何も言わない。飲みに繰り出そうと思っていたことなどは絶対に言わない。
野営地で一晩の宿を借り、クルツホルムに戻る前に疲れをある程度癒しておくが、それでもスージーは体の疲れが取れないらしく、翌朝の顔に疲れが残っていた。
「早くクルツホルムで一杯引っ掛けたいぜ。なあ、エルモ。」
クルツホルムへの街道で楽しみを我慢できないと言った表情でスージーがエルモに言った。
「俺は、酒よりも美味い食い物が食べたいね。道中の保存食だけじゃ食い飽きて来たところだ。」
「ルーンフォークなら食料カプセル食うだけで1週間もつんだろ?食事なんて無頓着だと思ってたよ。」
ルーンフォークは特殊なカプセルを飲むことで1週間食事を取らないで済む。だからと言って、ルーンフォークが食事に興味がないわけではない。むしろ、カプセルで栄養補給をしているのは珍しい部類で、多くの場合は仕方なく取っている場合が多いのではなかろうかとエルモは考えている。
「ルーンフォークだって、そこら辺は同じだ。血も流すし、メシも食う。グラスランナー だって、大体は同じだろう?と言うか、グラスランナーは皆、お前みたいに酒飲みなのか?」
「そこらへんはわからんね。何せ、グラスランナー は皆そこら辺を旅してるから。夫婦で仲良く旅してるのも珍しいくらいだ。わっちらは珍しいから、皆一人一人が特別だと思うね。とはいえ、皆楽しいこと好きなのは変わらないと思うけどね。」
「そうか。てっきりドワーフ並の酒豪ばかりなのかと思っていたところだ。やたらと飲みたがるからな、ノマリの酒宴といい、普段の酒場といい。」
「酒飲んで楽しくなれるからに決まってら!歌と踊りと酒を楽しんでる時が一番だぜ。」
笑顔でいうスージーはその笑顔だけ見れば、可憐な少女に見える。言動を知っているから、可憐な「だけ」の少女には見れないが。
クルツホルムに戻り、ギルドに簡単に報告を行う。ギルドに報告する依頼は受けていないが、平原の主を倒したことや、行方不明の兵士たちを助けたことは言っておいた。
報告を受けた女性受付員はエルモ達を褒め称えた。
「やりましたね!これでしばらくは平原は静かになるでしょう。あとは魔域の攻略さえすめば、イーサミエ行きの列車も復活です!どうです?魔域攻略も頑張って狙ってみませんか?」
受付員に言われるまでもなく、エルモは答えた。
「魔域の攻略も狙っていくさ。今回の冒険で、少しは強くなっただろうからな。そろそろ、攻略にかかれるさ、なあ?」
「んー、そうねー。気が向いたら行ってもいいかもねー。」
横のスージーに問いかけるも、意外にも歯切れの悪い返事だった。
夜のクルツホルムを歩いている。開いている店は飲食屋がほとんどで、それもそろそろ閉める頃合いだろう。
ギルドから宿屋への道すがら、スージーの返答がイマイチだったことに対して疑問をぶつける。
「どうして、さっきはあんな返事だったんだ?次は魔域攻略も悪くはないとおもうんだが。」
その言葉にニヤリと笑って、スージーは言った。
「エルモは洞窟の奥の方はみなかったんだな。あの洞窟こそ、ノマリ族の伝承にあって、イーサミエの酔っ払いの船乗りが噂してた洞窟だぜ。次の目標は、あの洞窟に決まってらぁ。」
負傷した兵士たちに回復することが出来たら、やはり戦力になったのでしょうか?こんな問いかけもTRPGならではの出来事ですな