平原の主ペドロヴァイパー
エルモたちは平原を超えて、イーサミエの街にたどり着いた。
ここは北スィーク海に面する港湾都市でコルガナ地方西岸の最北端にあるボスンハムンへの海運拠点を担っていた。
しかし、北の海には人族の海賊が活動している上に<奈落の大侵食>以後は魔神も頻繁に出現するようになったため、船は停泊しているものこそあれど、海に進む船は1隻たりともなかった。
二人は新しい街にたどり着き、ちょっとした達成感を味わっていた。やはり、新しいもの、場所に来ることが何か、変えがたい感覚を伴うところに、自分たちは冒険者なのだと感じていた。
街を歩いていると、早速酒場を見つけた。だがしかし、懐が寂しい一行には飲食することくらいしかできそうにない。
噂話以上の確度の高い情報には報酬が必要なことは暗黙の了解だ。
所持金が1000ガメルを割っているのに、500ガメルくらいは平気に吹っ飛んでいきかねない情報料を支払うことは今はできない。噂を聞いて、具体的な情報料を聞いて「やはり、また今度」となってしまう。
あまりの金の無さに唸るスージー。
「うーん、酒場で唄って稼ぐにはちゃんと酒場に断らないと怒られるしなぁ。」
「そう言うものなのか。てっきり、勝手にやって勝手に稼いでいるイメージがあったが。」
エルモはバードは路銀を自力で稼いでいると思い込んでいたが、実際にはややこしいところがあるのに驚いた。
「そう言うもんじゃ無いんよ。まぁ、わっちがここで歌って稼ぐのにはすぐには無理ってことさな。」
ガックリしたスージーを慰めるように頭をポンポンと叩くエルモ。そんな二人を見ていた男が声をかけてきた。
「しょぼくれたお嬢ちゃん、お兄ちゃんに一つ噂話を売ってやろう。250ガメルでレテ鳥の帽子を語ってやるぜ、若いの。」
そう言って、自分は引退した船乗りだと言う男が話を持ちかけてきた。冒険者だからといって、吹っかけてきているのかもしれなかったが、「噂話は儲け話」というのは冒険者の常でもある。街の話は一つくらいは知っておきたかったので、250ガメルは支払うことにした。
「古の昔に、ここいらの海賊を束ねていた海賊の中の海賊がいた。レテ鳥の帽子はその海賊の長が愛用していたものでな。北の海で活動している人族の海賊たちはこの海賊の元に束ねられていた。以来数百年以上にも渡ってこの海域の海賊たちの首領に証として受け継がれていた。」
受け取った250ガメルで早速、酒を頼んでいく引退した船乗り。注文が終わり、続けて噂の深層部分に踏み込んでいく。
「そのため、この帽子を持つものは北の海の海賊の首領として認められるんだが、その帽子がもうずうっと行方不明になっている。この大海賊が掠奪した財宝と一緒にどこかの洞窟に隠したって話でな。それが、平原地域の通称「毒蛇の原」に隠されているって話だ。」
船乗りの話を聞いて、スージーが驚いて声をあげた。
「なんてこった、ノマリのおばあちゃんから聞いた話と一緒の内容だ。」
「と言うことは、情報が単なる噂話じゃなさそうなのは確かだな。」
エルモも話に信憑性が出たのに驚いている。
「ふふん、もしレテ鳥の帽子を見つけたら港湾ギルドへ届けるんだな。大金をかけて探し出す依頼を出してるからな。あれさえあれば、ここいらの海賊どもの動きを影響下に収められるって話だからなぁ。」
飲んだくれた元船乗りのおっさんが喋ることが本当なら、洞窟探しは是非とも行いたい。エルモとスージーは兵士探しを終えたら、早速洞窟探しを行うことに決定した。
平原の焼け跡にあった地下室の方もしっかりと探しておこうととスージーが言ってきた。
どうにも、探し切れていないと言うことらしく、調査のためにも準備や補充を済ませて平原に舞い戻ってきた。
準備の段階であらためてペドロヴァイパーに関しても調べて、強さは自分たちで十分対処できるものだと確信する。
もし万が一取り巻きがいると厄介だが、単身で戦うのなら勝てるとスージーがエルモを叩いて太鼓判を押した。
「新しい武器に変えたんだろ?大丈夫、楽勝だった!ってなるって。ついでに、ノマリのおばあちゃんから買った毒消の薬もやくに立つな。」
イーサミエの街を立ち、平原に戻ると早速、調べきれなかった焼け跡の中の地下室へと再び潜った。
今度はランタンだけじゃなく、松明も灯して照明は万端にした。中央にランタンを置いて、松明を灯したエルモがスージーの横に立って明かりで補佐する形だ。地下室の瓦礫を漁りながら探し物をしていると、スージーが叫んだ。
「こいつは当たりだろ!金貨袋と日記だぜぃ。」
金貨袋の中身は役8000ガメル、日記帳はピエタルと言う人物のつけていた日記帳らしい。
。
「なんだろ、ポエムでも載ってるのかな?」
日記は農場主の息子、ピエタルと言う青年の書いたものだった。
ピエタルは古い遺跡に強い興味を抱いていたらしく、様々な古代遺跡の様式などについて事細かく書いてあった。日記帳と言うよりは覚書のようなものだったが、幸いセージでもあるスージーは中身の難解さにもなんとかついていくことができ、理解しながら読み進めることができた。
綴られている中で特に興味深い記述は、平原の花園の地下に古の海賊たちがアジトにした地下空洞があると言うことで、その場所こそに海賊の宝があるのでは無いかと考えていたようだ。
合言葉も、ノマリで聞いたことと間違いなく記されていた。
日記の最後には、突然の魔神の襲来によって重傷を負ったこと、父母が死んでしまったことが記されている。また妹のヘリテが偶然にもイーサミエの友人のところへ遊びにいっている間で良かったと綴られ終わっていた。
「イーサミエって、わっちらが出てきた町の名前だな。もしかすると、この日記帳は届けてやんねぇといけないかもな。」
「場合によっては、このガメルもな。遺産を相続するのは俺たちじゃ無いだろう。」
「えー。そこは労働の対価としてもらっておこうぜー。……まぁ、実際に妹さんに会ってから考えようぜ。困窮しているかもしれないし、そうじゃ無いかもしれないからな。」
それならば、とエルモは納得した。
その日、地下室から引き上げて夜営をしているとまたノマリ族と会うことができた。
さすがに、何かありそうな毒蛇の平原へと足を踏み入れる前日には飲めないと遠慮するエルモ。
全く気に留める事もなく、宴会に混ざり泥酔したスージーの姿があった。
翌日、頭が痛むスージーが水を飲んでシャキッとしている。やはり、二日酔いになったらしい。
「大丈夫か、スージー?毒蛇の平原行きは延期するか?」
「いんや、大丈夫だ。いざとなったら、おばあちゃん印の疲労回復役でも飲むからさ。なぁに、戦うのはわっちじゃなくってエルモだからね。」
「なら、とやかくは言わない。気をつけてくれよ。」
二日酔いを我慢しながら笑うスージーが先頭を歩き始めて、しばらくすると毒蛇の平原に着いた。
そこには巨大な蛇の姿、主がいるのが確認できた。ノマリの毒消を飲んで、準備をする。
準備している音を聞かれたのか、ペドロヴァイパーが威嚇音を出しながらこちらに近づいて来た。先手を奪われてしまう。
「スージー!下がれ!!俺が出る!!」
「うわ、うわわ!」
ペトロヴァイパーの攻撃は前衛に出たエルモへと標的を定めるが、エルモは容易く攻撃を捌いていく。エルモは回避する技術も磨いて来た。一対一での戦いで、同じ実力、技量同士なら負けることはそうそう無い。
「エルモ、悪いけどモラルは無しだ。<アーリーバード>を前奏にして、<夏の息吹>の準備にするよ。回復の準備をするぜぃ!」
「了解した。俺は殴るだけだな!」
そう言いつつ、エルモは賦術<ヴォーパルウェポン>を自らに使用した。赤いカードがモールへぶつかり、モールの打撃部分に赤い突起が生えて破壊力を増させた。
そのまま、モールをペドロヴァイパーの頭目掛けて振り抜く。モールの頭部分は頭を避けられたが、即座に向きを変えて胴部へと攻撃を命中させて胴体の中の骨が砕ける感触があった。
反撃の牙がエルモを襲うが、エルモは先ほどと同じく舞うようにして回避を成功させる。
スージーがアーリーバードをやめて、モラルへと変更する。
命中を上げる目的もあるが、終律<春の強風>で攻撃を行うための前奏が必要になるからだ。
と、思っていたら、音程をいきなり外してきた。どうやら、演奏をミスったらしい。
エルモは相変わらず、ダメージを積み上げ続ける。当たりにくい頭部には諦めて胴部を徹底的に殴っていく方針に切り替えた。殴るたびに鱗がはじけてそこら辺に飛び散っていく。
対する毒蛇の牙はエルモには届かない。群れに囲まれて避けられないような攻撃にはさすがに参るが、そうでなければエルモは強い。
「それ、強風をくらいな毒蛇さんっ!」
スージーが<春の強風>を使用してダメージを与える。毒蛇は抵抗をして威力を打ち破るも、無傷とは行かずに夥しい鱗を引き剥がされる。
「チビっと剥がれただけか。後は頼んだエルモ。」
任されたエルモが殴り、再び鱗をとび散らかす。次第に、その下の肉片まで見えてくる。だいぶダメージが蓄積されてきたようでペドロヴァイパーの動きに精彩がなくなってくる。
果敢に挑む毒蛇の攻撃はエルモには当たらない。主と呼ばれても、所詮は蛇だな、とエルモは考えていた。思考が単調で、駆け引きのようなものがないから、避けるのが楽なのであった。
余裕の流れにスージーが会話を挟んでくる。
「順調だな。わっちから回復も今度は打てるし余裕っぽいじゃないすか。」
「前回のスカーレットスタンプが強すぎたんだ、あれは。」
「やっぱり、地道が1番の近道ね。それ、<春の強風>もういっちょ!」
剥き出しになった肉片に魔力を伴った強風が吹き荒れ、肉までもを引き剥がしていく。
毒蛇へのエルモからの一方的な攻撃が続く。モールの打撃部分が的確に鱗を飛び散らし、肉を叩く。ひしゃげる蛇身は骨を砕かれて動きもまともに取れてない。
一方的すぎて、まるで舞を踊っているかのような戦いだった。
「最後の<春の強風>!!いっちゃいなー!!」
3度目の春の強風がペドロヴァイパーを襲う。3回目は特に強烈な魔力を込められていたらしく、肉片どころか、骨まで散らばらせながらペドロヴァイパーを破壊し尽くした。
「おお!なんだ、この破壊力は………。」
「これがわっちの本気って奴よ。多分!」
「初めて見たよ、スージーの本気。やれば出来るんだな。そんな本気をどこに隠し持ってたんだ。」
「見えるところには無いね、うん。」
動かなくなった毒蛇から細々としたものを解体して回収し、後ほど売るものとして持っていく。目算120ガメルにはなりそうだった。
「ああ、砕け散っちゃった。誰だよこんな粉々にしたやつ。あ、エルモだな。新しい武器だからってブンブン振り回してたから。」
「うん?何を言ってるんだ。新しい歌を披露してどうにかしちゃったのはお前だろうに。」
「残念でしたー。新しい歌は歌ってません。新しくなったのはリュートだけでーす。」
若干、イラッとしつつも黙々と回収物を荷物に入れるエルモ。
体内から剣のかけらも手に入れて、それも入れていく。ゆくゆくはギルドに収めて名誉と変えることができる。スージーあたりは金の方がイイとか言いそうだが。
その後、洞窟を探索していると毒蛇の群れが現れたがこれはスージーが先に発見していたおかげで難なく撃破した。
ペドロヴァイパーと戦っている間は気がつく暇がなかったが、ここは色彩豊かな美しい花々が咲き誇っていた。
スージーが花々に紛れて姿を隠し
「スージーはどーこだ?」
と、戯けて見せた。エルモもそれに乗って見せる。
「うーん、ここら辺かなぁ。ブンブン!ブンブン!」
当たり一面の花々をモールで薙ぎ払っていく。頭をかすめるスージーがマジトーンで叫び返した。
「ちょ、そこはもっと普通に可愛らしく探してくれよ!なんでエリミネートな感じで探してるんだよ!!」
「ご不満か。モグラ叩きにしてもイイんだけれどな。」
「わかった、もう普通に洞窟を探そう。そうしよう。ほら、あっちに何かあったぜ。」
すると、そこは確かに洞窟があった。だが、1匹の虎がうろついているおまけ付きだった。
回避型の紙装甲には群れの必中攻撃は相性が悪すぎると言うお話がありまして。
ボス戦がすごく楽で、びっくりした記憶がありますね。
後、主戦でスージーがクルクル回してラストをかっさらって言ったのは実プレイ通りです。
いや、戦闘の中身は大体実プレイ通りで、街中の会話とかに付け足しの方が多いのですけれどね。