旅の始まり
ソードワールド2.5のサプリメント、デモンズライン を使用した実プレイを小説に起こしたものとなります。
ファイターなし、プリーストなし、魔法系技能所有者もなし。
ちょっと特殊な二人旅の記録、どうぞお楽しみください。
ガタンゴトンとレールの上を延々と魔導列車が走っている。
鉄道の国キングスフォールからクルツホルム行きの列車だ。車窓から見える風景は生憎の雨模様であった。
いくつかの街を通り抜け、長いトンネルをくぐり抜けている途中に、乗車席の中で眠っていたエルモは目を覚まし、傍の相方に語りかけた。
「……もう着いたのかい?」
「いいや、まだだね。もう少しってところだ。まだ眠ってろよ。」
返答したのは見た目こそ幼女よりの少女のような外見をしているが、歴とした成人女性。グラスランナーと呼ばれる種族のスージー・ニックだ。旅の芸人で、得意はフルートを使った演奏。それだけではなく、旅で裏打ちされた知識と密偵の技術に自然の中で生き延びる技術も持った、しっかりと登録もしてある立派な冒険者でもある。
あくびを噛み殺し、エルモは目を覚ますことにした。エルモも人間ではない。人族の中に入っているが、ルーンフォークの生まれだ。その証拠に、耳の部分が金属のパーツになっていて、首の周囲にも金属のパーツが付けられている。
エルモは今、エルヤビビへと向かっている途中だった。そこは友人であり、仕える主人でもあるトロンの故郷でもある。
自身はキングスフォールのルーンフォークの村の生まれだが、村のしきたりで決められる主人に仕えるのが嫌で飛び出して冒険者となった。
冒険者になった後、故郷にあるマギテックの遺産を使いこなすために研鑽の旅をしているという拳闘士のトロンと出会い、彼にならば仕えても良いと思い主従関係となった。
しかし、冒険の最中にトロンは死んでしまい、蘇生するも借金によって身動きが取れなくなってしまう。そのため、帰郷することになってた予定を断念して代わりにエルモに手紙を預けて送り届けてもらうことになったのだった。
噂では2ヶ月ほど前に起こった<奈落の大侵蝕>によって、この列車の行き先となるコルガナ地方はだいぶ危険な場所になっているらしい。本来は、故郷の危機を救うためにトロンは帰るはずだったのだが、事情が事情のためエルモに託した形になった。
二人はスージーが誘う形でパーティーを組んだ新しいパーティーだ。もともと、スージーは一人で旅していた。故郷でたまたま、毒性のある食べ物をそれと知らず食べさせて人を死なせてしまい、蘇生をしたもののそれが原因で故郷には居づらくなった。ヴィルマという少女を探し出して連れ帰ることができれば赦されるということでコルガナ地方に足跡を求めて来ていた。
彼らがパーティーを組んだ理由も、酒を飲んでいる場でお互いの身の上話をしたときに、二人とも奇遇なことに近しい人を亡くし、蘇生したと言う経緯が珍しくも同じだったことが理由だったりする。スージーは芸人としてエルモをパーティーに加えた節があるが、エルモ自身は冒険者としてパーティーを組んだつもりだ。
大柄なエルモは両手持ちのモールを扱うバトルダンサーだ。トロンを死なせてから、自身にも回復の術があればと錬金術士の力も学んだ。賦術ならば、知識が浅くとも媒体になるカードの素材としての能力が高ければ実戦に耐えうる回復能力を手に入れられるからだ。
戦舞士としての実力はそれなりのものの自負がある。モールを舞うように振り回し、今まで現れたあらゆる敵を粉砕してきた。
なので、本人としては戦闘用ルーンフォークの矜恃から、戦士として扱われることを望んでいるが、スージーとは微妙な温度差がある。
真っ暗な車窓に嫌気が差したのか、エルモが起きたと見るやスージーが雑談に興じてくる。
「クルツホルムで列車は止まるってよ。<魔域>のせいらしいけれど、参ったもんだよ。コルガナ地方の人探しを歩きでやれとか無理ー。」
コルガナ地方の入り口となるクルツホルムで止まることは事前の情報収集で折り込み済みだったが、相方の言うとおり歩きでこの先を進むとなると大変な道のりとなるだろうと予想していた。
だが、その予想は甘いということをこの後二人は嫌というほど思い知ることとなる。
突如、車体が軋み音を立てて乗客は前のめりになった。軽い体のスージーをエルモが慌てて押さえ込む。乗客の中には転倒したものもいた。どうやら、急ブレーキをかけて緊急停車をしたようだった。車内が騒然とするが、係員がくるわけでもない。もう少し上等な車両だったら、案内係がいたかもしれないが二人がいた席は格安の席だった。
「一体なんだってのよ。」
「わからないけれど、緊急事態のようだ。見てこよう。」
「待って待って。わっちも行くってばさ。」
二人は車両の先端から外に出ると、空には揺らめく虹色の帯が見えた。そのまま、先頭車両まで歩いていくとレールが途切れて、全く別の地面が続いていることに気づいた。
「スージー。まさか、これって……。」
「ああ、その『まさか』だよ。クルツホルム行きの列車の中で<魔域>に取り込まれるとは思いもしなかったけどさ。」
どうやら、二人の乗った列車はクルツホルムへと到着する前に<魔域>に飲み込まれてしまったらしい。
<魔域>とは<奈落の核>によって作り出された異次元のことをさす。内部には外部と全く脈絡のない世界が広がり、その中にある<核>を壊さない限り外に出ることはできない。
つまり、二人はこの<魔域>の中に取り込まれてしまったのだった。
二人が立ち往生していると、後ろから声をかけてくるものがいた。
「見る限り、戦えそうなのは、私と貴公達だけのようだ。」
声をかけてきた相手を見ると、薄い金色の長い髪を後ろでまとめた若く美しいティエンスの女が立っていた。その手には長い槍を携えている。
「私は、アレクサンドラ・ペトローヴナ・ザッフカーリナだ。シャルィーキン公爵令嬢、イリーチナ様にお仕えする騎士にして、<壁の守人>の一人だ。貴公らは?」
「わっちはスージー。スージー・ニックよ。こっちはエルモ。わっちらはコルガナ地方に用事があって、この魔導列車に乗ってたんだけれど、どうやら魔域に飲まれちまったらしいんよね。」
「そういうことか。ならば、貴公らとは目的を一緒にすることもできるか。」
「目的?」
エルモが聞き返そうとしたとき、また別の声が後ろからかけられた。
「取り込み中のところ失礼。私はヤルノ・ユリマキ。クルツホルムの鉄道整備局副局長をやっております。あなた方、冒険者であろうとお見受けしますが。この魔域をどうにかしてもらえませんでしょうか?無論、タダとは言いません。8000ガメルでどうでしょう?お引き受け願えませんか?」
ヤルノと名乗った男は二人に魔域の攻略を依頼してきた。報酬額は悪くない。二人で8000なら、一人で4000だ。
「おっと、そちらのおねーさんも一緒に行くかい?そうすると報酬の取り分が変わるよ。」
「いや、私の取り分は気にしなくていい。私の目的は、この魔域の攻略だ。そのためには、貴公らが手を貸してくれるだけで十分だ。」
スージーが取り分のことを気にすると、アレクサンドラは無報酬で問題ないと言い切った。あまりの気前の良さにスージーが訝しむが、声には出さない。せっかくの申し出だ、そのままいただこうという腹づもりだ。
ヤルノ副局長が続けて彼らに話しかける。
「魔域攻略にあたって、鉄道整備局から前払いの範疇で好きな魔力の指輪を一人二つまで差し上げましょう。まさか、対魔域装備がこんなに早く役に立つとは思いませんでしたよ。」
そう言って、箱の中に収められた指輪を見せてくる。冒険者にはある意味ではお馴染みと言って良い、能力を補強してくれる指輪だ。
エルモはありがたく、筋力と敏捷性を補強してくれる指輪をいただく。スージーも役にたつ指輪を2つ手にとった。
アレクサンドラはこれも辞退した。ますます、疑いの目を向けるスージーだが、エルモはあまり気にしない。そういう人もいるのかくらいの感覚だ。
「あとは、こちらの護衛を二人付けましょう。乗車客の護衛からこれ以上はさけませんが。このまま魔域の中で停車し続けるわけにも行きませんからね。」
屈強そうな護衛が二人、探索に関わってくれるようだ。ありがたい申し出に感謝しつつ、ネイサンとボブと名乗る二人組にエルモたちも軽く自己紹介をして魔域へと歩みを進めることにした。
スージーは見た目は可愛い女の子です。中の人も女の人です。
【キャラクター簡易データ】
エルモ(画像はAI生成)
ルーンフォーク 男性 稼働歴2年
バトルダンサー5、アルケミスト1
スージー・ニック(画像はAI生成)
グラスランナー 女性 25歳
バード5、スカウト3、セージ2、レンジャー1