相談しよう
まずい。4話までしか書き溜めてないので続きはゆっくりペースです。
「はぁ」
大きく溜息をし、大きいとはいえないこの体を、大学の食堂の机の上に、身を委ねた。
決してだらけてる訳ではない。いや、確かにここまでの人生は、だらけ切っているが。
一人暮らしの解放感も考えたが、食事の用意や掃除など家事全般、さらに金銭的な管理を天秤にかけた時、あっという間に近場の大学に進学という道を選択した。
三者面談時に「もっと上の大学も狙える」と高校の担任に言われたが、
「これ以上、頑張れません。」
ときっぱり言った。僕に先生も母も呆れた顔を見せた。
今の僕はだらけてる訳ではなく、昨日おきた出来事を考えていたからだ。
あの時何故、スタジャンを渡してしまったのか。
後で怖い人が出てきて絡まれたりしたら、それともネットで晒されたりしたら等いろいろ考えると怖い。しかも、個人情報まで晒されたりして。
ああああ。
しかしそんな悩み以上に彼女の後姿、そして彼女の笑顔が脳裏に焼き付き何度も思い出した。
大学から帰宅中にあの歩道橋を見上げるが彼女の姿はなかった。
それでも目隠し版の影響かと思い歩道橋を登るが誰もいない。
「いや、ここに来るなんて、それこそ後日談として【あほが再度キタ――(゜∀゜)――!】とネットで晒しになるわ」
と一人突っ込みをいれた。
あの日僕は夢中で走り、友人の家の前で立ち止まった。
周りの家の数倍はあろうかという大きな家。そう言葉にすると大金持ちや旧家のイメージだが実際はそうではなく、道場兼自宅という仕事も兼ねた場所。職場兼自宅という自営業的な感じだ。
「まさ~!」
僕は玄関を開けて廊下を走り、彼の部屋に飛び込んだ。
「「「あっ」」」
女性が男性の上でマウントをとり、これからイチャイチャタイムスタートという場面だ。
不幸中の幸いというか、2人はまだ服を着ていた。
そーっとドアを閉め、なかったことにしようとしたが、
「ト金、どうした?」
と呼び止められた。
ト金、僕の名前だ。
氏家 ト金〇〇大学3年生20歳。もう成人だ。
このふざけた名前は、うちの両親が氏家 卜全という武将からとって最初、卜全という名前の予定だった。しかし卜全だと芸がないから【全】を【金】に変えた(らしい)。ちなみに親は戦国マニアでも将棋ファンでもない。ただ、【金】にかえて【ぼくきん】にすると、なんだかイヤらしい感じなので【ときん】にしたとのこと。
しかし、ときんという名前の響きが某アニメのドキンちゃんをイメージさせ、よく【ときんちゃん】とからかわれていた。
僕の名前が武将からとったのは、今、俺の前にいる伊達 政宗の影響だ。
政宗は小学校から高校まで同じ学校。親同士も仲良くしていた。ただ、小学校5年生の時、政宗の母親が病気で死去。男親だけではと、よくうちで夕食を共にした。
政宗が招き入れようとするので、このタイミングでごめんなさいと思いつつ、部屋に足を入れた。
「はいっ」
女性は腰を落とした僕に部屋用の小さめの冷蔵庫から缶コーヒーを取り出しふわりと投げた。
「ごめん、アラちゃん。」
「全くだよ!今からって時に、もう・・・うずうずする。ときんちゃんの話を聞きながらでもいいから続きする?」
女性は腕を組み怒った表情を浮かべる。
アラちゃん。本名、新垣 千紗。僕とまさの高校からの付き合いだ。
金色に染めた髪。少し焼けた肌。派手目な子でズケズケと本音を言う。普通なら僕と接点なんてなさそうな子だが、政宗が千紗と付き合う事になり、高校卒業と同時に政宗の家に入り浸るので、自然と会話をするようになった。
その派手な見た目とは裏腹に食事、洗濯、清掃等家事全般をこなす。政宗の父は女性が入り浸るのは難色を示すが、女手のないこの家に千紗がいることが本当に有難かった。
但し性に対して奔放な彼女。政宗の父にも言い寄り、その父にぶん投げられて怒られた。
そんな千紗の怒る姿をスルーして
「どうした、ときん」
と政宗は、僕と会話をしようとする。お邪魔した事ばかり頭に思い浮かべたが政宗の言葉に先ほどの出来事を思い出し
「そ、そうだ!今そこで露出狂が出たんだよ!」
「露出狂?」
政宗は目線を千紗に向けた。
それに釣られて僕も目を向けた。
2人の視線を感じた千紗は
「おいっ!私じゃねーよ!」
「まさ、アラちゃんじゃなくてもっと華奢な・・・なんだか透明感のある子なんだ。」
「おいっ、私への当て付けか?」
千紗のキツイ視線が僕に向けられる。僕は表現や感情を言葉にするのが苦手だ。苦手というより知識の無さだろう。軽く詫びを入れる事にも頭が回らず、歩道橋での出来事をまさに伝えた。
政宗は腕を組み、目をつぶっている。隣にいた千紗は目を輝かせて聞いていた。
千紗は少し目線を政宗に向け、さらに僕の方に目線を移し、口を開く。
「まあ、別におかしくはないかな?」
「えっ?」
想定外の返事が千紗から発せられた。
「公園でいちゃつくカップルだっているでしょ?夜になれば野外プレイする人だっているし。」
「いやいや、それカップルでしょ?」
千紗の返事に速攻で返事を返す。
「海に行って、かなり大胆な水着を着る子もいるでしょ?それって可愛くありたいという子もいるし、見てほしいって子もいるじゃん。」
「それは全てを出しているわけじゃないでしょ?」
「そうよ。でも見てほしいの延長上に裸の可能性もあるし、可愛くありたい子も見られる可能性があることを理解して着るでしょ?」
千紗がさらに言葉を発しようと口を開けると政宗が先に言葉を発する。
「ああ、なるほど。・・・・公園とかありえないシチュエーションに興奮を感じるか・・・。【見られたい人】若しくは【見せたくないけど見られたらという状況に興奮する人】が一定数いるという事か?」
千紗は大きく頷く。
「そうそう!心配するネットなんかは、逆に訴えられる可能性があるからほぼないと思うよ。まあ良かったね。女の子の裸が見れて。」
「いやいや、良くないよ!」
僕は否定しながらこの時も彼女の後姿、そして彼女の笑顔を思い出していた。