弟の幼馴染が俺のアパートの前で泣いていた
「雨降りすぎだろ……!」
朝から降り続く雨。夜には止むと思っていたのにその予想は裏切られる。
しとしと大粒の雨が降り注ぎ、否応にも足先を濡らしていくのが嫌らしい。
傘を差しているのに足先をしっかり濡らしていくこの雨に困りながら俺はアパートのエントランスにたどりつく。
明日晴れるなら洗濯しなきゃならないなと思うのは一人暮らししている故だろうか。
階段を上がり、アパート2階にある自宅へと足を運ぶ。
「あれ」
俺の家の前に誰かいる。
扉の先から両足が見えていた。
一人暮らしゆえに同居人もいないし、大学の友人から遊びにくるなんて話は聞いていない。
自分で言ってむなしいが恋人だっていない。
嫌な予感で走り出し、自宅の玄関の前へ行く。
そこには見覚えのある学生服を着た女の子がいた。
三角座りで項垂れており、学生服はズブ濡れでローファーも雨の中を歩いたのか土汚れにまみれていた。
この女の子を俺は知っている。
「空音さん」
俺の言葉にその子は顔を持ち上げ、光の無い瞳で俺を見る。
いつもの彼女しか知らない俺はその荒んだ光景に動揺を隠せない。
一番気になったのは一つ。
「泣いているのか」
空音さんの顔に涙の跡が残っていた。
「斗真さん……。私、気づいたらここにいたんです」
俺の名とともに放つ弱りきった言葉に我に返る。
こんな風に駄弁っている場合じゃなかった。
「そんな濡れたままでいたら風邪を引くぞ! 中に入ろう」
俺は脱いだジャケットを空音さんの体に被せて、ポケットからハンカチを取り出し濡れた頬を拭う。
そのまま扉を開けて、中に入り、すぐにタオル一式を用意した。
空音さんの髪にタオルを被せ家の中へと入れる。
全身びちゃびちゃじゃないか。
同性だったらさっさと脱がすんだが女子高校生にそんな不埒なマネはできない。
「そこ風呂場だからすぐにシャワーを浴びるんだ。着替えとか用意しとくし、あ、鍵はかかるから」
空音さんは頷く。
そのまま背中を押して風呂場に押し込んだ。
「ったくどうしてこんなことに……」
女性物の下着なんてあるわけないし、ひとまず俺のでいいか。新品を出そう。
アウターは高校の時のジャージで大丈夫だろう。
洗面場に彼女がいないのを確認し、タオルと一緒に置く。
次にキッチンへ行き、体が温まるスープを作っておく。少しの後、洗面場の扉が開いた。
「斗真さん……お風呂ありがとうございます」
「お、おう」
風呂上がりの空音さんの姿に目を奪われてしまう。
濡れてしっとりとした栗色の髪に鼻筋の通った非常にかわいらしい顔立ち。手足は細いのにメリハリのある体つきが否応にも目に入る。
また可愛くなったなぁ。
今、高校2年生だっけ。こうやって話すのはいつぶりか。
さっそくできあがったスープをカップに入れて、空音さんに手渡す。
「おいしい……温かい」
「しっかり飲むんだよ」
空音さんを前にするとつい、大人ぶってしまう。
大学の同期生に見られたらからかわれることだろう。
さて、本題に入らないとな。なぜ彼女が俺のアパートの前にいたのか。
去年1回だけ俺の家にあいつと一緒に来たことがあったからそれで場所は覚えていたんだろうけど。
「犯罪とかに巻き込まれたとかそういう話じゃないよな?」
一番恐れていたことをちらっと遠回しに聞く。
空音さんくらい可愛ければそういう事件に巻き込まれてもおかしくない。
「ち、違います。でも私には斗真さんしか頼れる人がいなくて」
良かった。最悪な事態ではないようだ。
しかし俺を頼る? 頼るならもっと頼りやすいやつがいるだろ。
俺はスマホを取り出す。
「とりあえず陸人に連絡するよ。こんな時間だしさ」
「っ⁉︎」
その時、ばっとスマホを持つ手を掴まれてしまう。
空音さんに視線を向けると目尻に涙を浮かべ、激しい感情を浮かべていた。
「やだっ、陸人には、陸人には電話しないでぇぇぇっ!」
そこで俺は気づいてしまう。
今回の件は俺の三つ下の弟である陸人とその幼馴染で弟にずっと想いを寄せていた空音さんの関係がもつれてしまったから始まってしまったと。
弟の陸人とその幼馴染の空音さんは小さい頃から実家で毎日のように遊んでいた。
そんな二人の姿を三つ上の俺は遠目で見て、仲が良くて微笑ましいと思っていたのだ。
小学生、中学生、高校生と俺が年を重ねれば、その三つ下の二人も同じように年を重ねる。でも二人の関係はずっと幼馴染のまま変わらなかった。
両親も俺も空音さんが陸人を好きなのはわかっていたのでいつか良い関係になると思っていたんだが。
「陸人に恋人ができたんです。一つ下の後輩の女の子と付き合いました」
「マジかよ」
こんな可愛い幼馴染がいて、他に走るか?
可愛いだけじゃない、気立て良しでスタイルも良くて、俺の両親と仲が良く、料理上手で怠け癖のある弟の世話をしてもらってたくらい。
俺も実家にいた頃は飯を食わせてもらって感激したこともあった。
「私、陸人にご飯を作ったり、朝起こしに行ったりしたじゃないですか」
「ああ」
「でもそういうの彼女が嫌がるからもう来ないでほしいって」
その瞬間何かが切れたような気がした。
「ちょっと実家に行ってあいつ殴ってくるわ」
「ま、待ってください。斗真さんに怒ってもらうつもりでここに来たわけじゃなくて」
ああ、そうだ。殴る前にやることがあった。
俺は空音さんに深く頭を下げた。
「馬鹿な弟が本当に失礼なことをした。心から詫びさせてくれ」
「頭をあげてください! 斗真さんは何も悪くないです」
末っ子ゆえに甘やかした自覚はある。
俺も両親もあいつには甘かった。もともと甘え上手なやつで、空音さんも世話好きとはいえ、つきっきりだったっけ。
「それで私、勢いで陸人に好きって言っちゃったんです。彼女いるのに陸人を盗られたくなくて縋ってしまいました。そしたら空音のことそういう目で見たことないって笑われて……」
「もういい。もうそれ以上はいいから」
空音さんの瞳からまた涙が出てきた。
本当に弟のことが好きだったから言われてつらかったんだと思う。
尽くしてくれた子に対して不義理じゃないか。
好きな人が出来るのは仕方ないのかもしれないけど、空音さんにはちゃんと話してあげて欲しかった。
「私、両親がいないじゃないですか。だから夜は陸人のウチにいたのにそれもできなくなって……」
空音さんの両親は海外出張で不在のことが多い。だからこそ俺の実家で一緒に過ごすことが多かった。空音さんを預かることで陸人のためにもなるからそれがお互いの家にとってメリットしかなかったのだ。
「自宅で一人でいるのが辛すぎて……つい斗真さんの所に来てしまったんです」
「そうだったのか」
「私にとって斗真さんはお兄ちゃんみたいな存在だったから」
お兄ちゃんという言葉に胸がちくりと痛む。
何も間違っちゃいない。三つ年の差があるんだから当然だ。彼女は弟の幼馴染だから。
「まだ雨も降ってるし、時間も遅い。今日は泊まっていくといい」
「え、でも」
「布団は2つあるし、寝室も別にある。気負わなくて大丈夫だよ」
「やっぱり斗真さんはしっかりしてますね、安心できます。じゃあ……甘えちゃっていいでしょうか」
傷ついた空音さんには優しくしてあげたい。今日は暖かい布団で寝てもらおう。
詳しい話はまた明日だな。
◇◇◇
「あれ、いい匂いがする」
朝、香ってくる味噌汁の匂いに目が覚める。
寝室を出るとキッチンに空音さんがいた。
「斗真さん、おはようございます」
「おはよう。って朝ご飯作ってくれてるの⁉︎」
「昨日泊めてもらいましたし、愚痴っちゃいましたから」
あんまり使っていない俺のエプロンを着て、空音さんはフライパンを手に朝食を作ってくれていた。
実家にいた時も弟のついでに作ってもらったことはあったが、俺のために作ってくれたことは今回が初めてだったと思う。
「やっべぇ……おいしいわぁ」
「もう、大げさですよ」
「一人暮らしするとね。自分の至らなさを痛感するんだよ」
「斗真さん、料理してなかったですよね」
食卓テーブルに向かい合い、空音さんが作ってくれた朝ご飯を口にする。
女の子が作ってくれただけでおいしいさが倍増してるに違いない。
一晩経って空音さんもかなり落ちついたようだ。
まだ少し影があるものの以前の明るい空音さんに戻ったように思う。
「今日は斗真さんもお休みですよね? せっかくだしお洗濯もお掃除もやっちゃいますよ!」
「え! そこまでしてもらうわけには」
「動いてないと考え込んじゃうので……」
だがそんなすぐに振り切ることなんてできるはずない。
弟のことを10年間好きでフラれてしまったんだ。すぐに傷が癒えるはずもない。
俺にできること。弟の横暴は俺にも責任がある。
彼女のためにできることを考えないとな。
「そういえば明日、空音さんの誕生日だったよな」
「斗真さん、覚えててくれたんですか」
「ウチで誕生日会してたからね。毎年恒例だったし……」
空音さんは俯き、表情を陰らせる。
「でも去年は無かったんですよ。陸人……忘れてたみたいで」
「え」
「もうずいぶん前から陸人と私は離れていたんですね」
そういえばいつも俺から陸人に空音さんの誕生日のことをどうするって話をしていた気がする。
去年からは一人暮らしを始めたから陸人のやつ、忘れたままだったのか。
「私はちゃんと陸人の誕生日を祝ったのに……」
聞けば聞くほど弟の不始末に土下座したくなる。
こんな状態で一人で誕生日を過ごさせるなんて俺にはできない。
「空音さん、良かったら明日、遊びに行かないか?」
「えっと」
「明日の君の誕生日、祝わせてほしい」
「そんなっ! 斗真さんにはいっぱい相談乗ってもらったし、そんなことで大事な時間を使わないでください」
「駄目だって。弟のことでほんと迷惑かけてるし、今日だっておいしいごはんを作ってもらって……」
ああ言えばこう返し、こう言えばああ返す。
お互い譲り合いで埒が空かない。
「じゃあもう全部忘れて普通に遊びに行こう。それじゃ駄目だろうか?」
「でも……」
「昨日、俺のことお兄ちゃんみたいに思ってたって言ってくれただろ。俺も空音さんを妹みたいに思ってたからさ。久しぶりに兄みたいなことさせてくれ」
空音さんは少し考えこんだが、やがて頷いてくれた。
年上ってことでかなりごり押したが……、空音さんを元気づけてあげたい。
「斗真さん、ありがとうございます」
「いいよ。昔みたいに遊ぼうか」
「小さい頃、斗真さんに陸人と私の面倒を見てもらってましたもんね」
一人っ子だった空音さんを妹だと思っていた時期がある。
あの時は俺もこの子を空音ちゃんって呼んでたし、彼女もお兄ちゃんって言ってたのを覚えている。
その時のことを思い出せばきっとうまくやれるはずだ。
「ふふっ」
空音さんは笑う。
「やっぱり斗真さんは優しいままですね」
そんな綺麗に笑う空音さんの姿は妹だと思っていたあの時代とは重ならない。
俺にとって今の空音さんは妹には思えなかったからだ。
弟の陸人と空音さん。確かに俺が面倒を見てきたがこの三つ下ってのが地味に厄介だったのを覚えている。
8歳くらいの時、まだ5歳で遠慮無しで騒がしい二人のことを正直疎ましく思っていた。
同い年の友達と遊びたいのに弟と義妹の面倒を見させられるのが正直嫌でたまらなかった。
だから次第に二人を無視するようになったため、二人も俺のことを兄とは思っていても幼馴染とは思わなくなったようだ。
年が離れていても仲が良ければ幼馴染と言えるからな。
だから仲を深められなかったので空音さんからすれば俺は幼馴染の兄でしかなかった。
でも正直それで良かった。三つ下なんて所詮は子供。そう思っていた。
しかし印象が変わったのは俺が高二で空音さんが中二なった頃だろう。
部活盛りで帰りが遅かった俺は実家で久しぶりに空音さんと対面した。
「あ、斗真さん、おかえりなさい」
「ただいま。って、え……空音さん?」
「もう、久しぶりに話したから私の顔を忘れたんですか?」
確かに久しぶりだった。だが驚いたのはそこじゃない。
成長した空音さんの姿がとても魅力的に映ったのだ。
中学1年生の頃はまだまだちっちゃな子供にしか見えなかったのに1年で急成長して、しっかりとした女の子になっていたんだ。
綺麗になった。可愛くなった。成長した。そんな歯の浮いた台詞を言えるはずもなく。
「背、伸びたね」
それが精一杯だった。
「はい、成長期ですから!」
それから会うたびに空音さんの姿に目が離せなくなった。少しずつ成長していく彼女の姿に惹かれていったんだと思う。
まさか、弟の幼馴染を可愛いと思い始めるなんてな。
高3になって空音さんが中3になり……その想いは大きくなり続けた。中一よりも中二よりも中三。年を重ねる度に魅力的になっていく。
さらに大学に入って一人暮らしをしてしばらく見ないなと思っていたら、高校一年生になった弟と一緒に遊びに来てさらに魅力的に成長していた。
そんな空音さんに俺は……。
◇◇◇
「ただいま」
空音さんを家に帰して、俺は実家に戻ってきた。
弟の陸人に説教をしたいと考えていたが陸人の言い分を聞かないことには判断はできない。
でも説教をして、陸人から空音さんに謝らせたとして、彼女は喜ぶだろうか。
もしかしたらさらに傷つくかもしれない。
「あれ、兄ちゃん。おかえり!」
玄関で靴を脱いでると部屋から弟の陸人が出迎えてきた。
「どうしたの? 兄ちゃんが帰ってくるなんて珍しいね」
「ああ、そうかも。悪かったか?」
「ううん、兄ちゃんに話したいこといっぱいあったし嬉しい!」
陸人は昔から兄ちゃん子で何かあるといつも俺に報告するくらい甘えん坊な弟だった。
世間一般でいう仲が良い兄弟だと思う。
まずは空音さんのことは触れず、情報を引き出すか。
「でも一人暮らししてから全然帰ってこなかったからびっくりしたよ」
「そうだったっけ」
その時、陸人の部屋からガタリと音がした。
「誰かいるのか?」
「あ~。どうせ兄ちゃんには紹介したかったし、いいか」
陸人は部屋を開けて、手招きをする。
部屋から可愛らしい顔立ちの小柄な女の子が出てきた。
「なずなって言うんだ。なずな、この人が俺の兄ちゃん」
「陸人先輩の言ってた自慢のお兄さんですね。初めまして、陸人先輩とお付き合いさせて頂いてます」
「なずなは部活の後輩でさ。可愛いでしょ、自慢の彼女なんだ!」
「もう、陸人先輩ったら」
空音さんの件が無かったら手放しで歓迎したんだろうか。
いや、そうでもないな。やっぱりこの家に空音さん存在は大きすぎる。この件を聞いて両親はどんな顔したのやら。
なずなという女の子、高校1年生ってところか。小柄でゆるふわヘアーで非常に可愛らしい子だ。思わず守ってあげたくなる小動物的な点を感じる。
世話好きで気が強めの空音さんとは正反対のタイプっぽいな。
ぶっ込むなら今だろうか。
「なぁ、陸人、空音さんのことだが」
その瞬間、陸人が俺の肩を押さえて耳打ちするようにしてきた。
昔は断然俺の方が強かったが高二にもなると身体的な差はほとんどなくなる。
「なずなに空音のことは言わないで。めっちゃ嫉妬するんだよ」
「あー、そういう系か」
「空音はもう来ないよ。来んなって言ったし」
「は?」
その物言いに猛烈に腹が立った。
なずなという子がいなかったら俺は間違いなく陸人をぶん殴っていただろう。
誰のせいで空音さんが泣いたと思っている。
俺のアパートの前で項垂れる空音さんの姿をこいつは知っているのか。
「あの~」
なずなという子が声をかけてきた。
「お兄さんって陸人先輩とそっくりですよね。髪型一緒だったら見間違えるかも」
「兄ちゃんは昔からオレそっくりって言われてるからね」
「逆だろうがよぉ」
「兄ちゃん……何か怒ってない……?」
このままだとぶち切れそうだったので適当にあしらい、俺は実家を後にした。
陸人のあの様子だと空音さんとの仲直りは無理そうだな。
もし陸人が空音さんへの対応を後悔していたなら、明日の空音さんの誕生日に陸人を行かせて仲直りさせようと思っていた。
だけど現実はこうだ……。
「空音さん、落ち込むだろうな」
少しでも空音さんの気が紛れる方法はないだろうか。
そんな時、陸人の彼女の言葉を思い出す。
(髪型一緒だったら見間違えるかも)
「……」
空音さんのために俺は美容室に行くことにした。
◇◇◇
「え、陸人……。じゃない、斗真さんですよね」
「ああ」
空音さんの誕生日。待ち合わせ場所に到着して彼女を待ち受けたのは弟の髪型をまねてでてきた俺。
陸人に成り代わるなんて考えていない。
俺より弟を見てきた空音さんを騙せるはずないからだ。
俺の想いはただ一つ。俺を通して空音さんに陸人とデートしてほしかった。
「髪切ったら偶然こうなっちまったんだ」
「……そうなんですね。本当に陸人そっくり」
「じゃあ行こうか」
少しでも空音さんの気持ちが癒やされればそれで良かった。
「あの……陸人」
「ん?」
「ご、ごめんなさい斗真さんですよね」
間違えてくれていい、そのために陸人に成り代わったんだ。
デートコースはサークルの友人から教わった大学生王道ルートを回ることにする。
イベント系の多いショッピングモールを回って、疲れたらおしゃれなカフェで休憩して、流行の映画を見て、公園へ行く。
空音さんの服装次第でルートを変えるつもりだったが予想通り動きやすい格好だったためイベント重視でまわしてきた。
本当に陸人とデートするなら可愛らしい服装とかにしたんだろうか。
「ここの公園にもお茶ができる所があってね。そこ行こうか」
「はい! やっぱり斗真さんって大学生なんですね。いろんな所を知っててすごい」
「大学はいろんな所から集まるから情報が入ってくるんだよ」
さらにサークルに所属しているとめぼしい情報が入りやすいもんだ。
俺も恋人ができたらこうしたいって思ってたから、予行練習になったのかな。
夕日が見える外の席で空音さんと喋る。
ここから夜の街へ行くのが大人の遊び方なのかもしれないが、高校生の空音さん相手ならこのあたりでお開きかな。
「今日、すごく楽しかったです。私、いつもは自分で予定立てることが多かったので……」
「へ? 陸人とよく遊びに行ったって聞いてたけど」
「あはは、陸人は全部私に任せっきりでしたからね。だからちょっとびっくりしました。女子をエスコートできる陸人って感じがして」
陸人の奴、まさかそこまで甘えていたのかよ。
何であれでモテるかね。空音さんにしても今の彼女にしても……。
俺は持ってる鞄から包装したものを空音さんに渡した。
「最後にこれをあげるよ。誕生日おめでとう、空音さん」
「えっ! いつの間に買ってたんですか」
「大人になったらワープが使えるようになるんだよ」
昨日の内に購入して、ロッカーに収めて、ショッピングモールをまわっている時にトイレに行くフリして回収した誕生日プレゼントだ。
「開けてもいいですか?」
「うん、どうぞ」
「わぁっ!」
「そのシリーズ好きだったよね」
空音さんの好きなシリーズのグッズを送ることにした。
元々誕生日プレゼントに無頓着な陸人にもアドバイスをしたことがあって、空音が喜んでくれたと言ってくれたので間違いはないはずだ。
今回渡した奴は最近出たばかりだし、おそらく持っていないだろう。
「しかも私が大好きな色で大好きなキャラクターじゃないですか」
「あはは、当たって良かったよ」
「嬉しい……とても嬉しいです!」
「……」
プレゼントを大事に抱えて、笑顔を見せる空音さんがとても魅力的に思えた。
でも嬉しいと言ってくれている相手は俺じゃなくて陸人だ。
陸人に対してありがとうと言っているに過ぎない。
何かやっぱ悔しいな。
「今日は本当に楽しかったです。ありがとうございました」
「楽しんでくれたなら良かったよ」
「あの、斗真さんって本当は! ……。いいえ、何でもないです」
急な言葉に少し戸惑ったが翻されてしまった。
俺と空音さんの間で少し静寂が生まれる。
「あの……斗真さん」
はじめに言葉を発した空音さんが恐る恐る、俺の顔を見る。
「もし良かったら……また一緒に買い物とか付き合ってもらってもいいですか」
「え」
意外な言葉だった。だけど……予想しなかったわけじゃない。
「うん、いいよ。時間がある時遊ぼう」
「はいっ!」
笑顔を見せる空音さんに朗らかな表情を浮かべたが内心は少し穏やかではなかった。
当たり前だが今日一回で空音さんの気持ちが晴れるわけじゃない。
だからきっと空音さんは俺を陸人と見立てて側にいたいと思ったのだろう。
俺は陸人の代わりでしかない。
……それでいい。だって俺は空音さんのことが。
◇◇◇
「で、なんで空音さんが俺の家にいるの」
「なんでだと思いますか?」
「一応、合鍵は陸人に渡していたと思うが……」
「陸人が無くすって言うんで私が預かってました」
「あのクソガキ!」
それから空音さんがちょくちょく俺の家に遊びに来るようになった。
「斗真さんのアパート、ちょうど高校からもいい位置にあるんですよ」
正直ありがたかった。
平日は晩飯作ってくれたり、掃除してくれたり、サークルの飲み会で酔った俺を介抱してくれたりいたれりつくせりだ。
休日なんかは一緒に買い物に付き合ってくれたりする。
「夜はどうやって帰るんだよ。夜道はさすがに一人で行かせられないぞ」
「なんで泊めてください。お泊まりグッズ用意したので」
「え」
「どうせ家に帰っても一人だし、斗真さんの実家にも行けないし」
「お、おう! 何泊でもしていきな」
この狭い家に男女が二人ってのは危ないものではあるが、俺も家族的な面で空音さんに負い目があるので追い出すことなんてとてもできなかった。
いや、追い出す気はなかった。俺が望んだ展開なのだから。
「ま、これも陸人を世話してるみたいに思ってるんだろうけど」
「え?」
「なんでもないよ」
俺が陸人のフリして振る舞っている限り、違った方向に進むはずもない。
彼女が陸人を振り切った時、この関係は終わってしまうんだろう。
そしてその日は案外早くやってきた。
◇◇◇
<空音視点>
私にとって斗真さんは幼馴染の陸人のお兄さんのイメージだった。
小さい頃はお世話になったけど小学校に入った頃には疎遠になり始めて、会話はまばらでしかなかったと思う。
でも気配り屋で優しいお兄さんの印象はずっと変わらなかった。私が体調を悪いのを隠して無理して笑っていてもすぐバレて休めと言われたし、おばさんに怒られた陸人を慰めていた時は本当に優しいお兄ちゃんだった。
陸人に傷つけられて、すがった私を暖かく迎えてくれた斗真さん。
陸人と同じ顔をしているのに陸人よりも優しくて、大人で、エスコート上手。
あの陸人が私の誕生日を覚えてるなんておかしいと思ってたけどやっぱり斗真さんが手をまわしてたんだね。
それで斗真さんが実家を出た途端ずさんになっちゃう。
私、陸人のことをずっと好きだったのになぁ。
陸人のお嫁さんになるって思ってたのになぁ。
年下のぶりっこ女子に騙されて……。あの子三股してるって話、有名だよ。
訴えても全然聞き入れてくれなかったけど。
私だってさ、今まで20人くらいの人から告白されたんだよ。
あなたのために全部断ったのになぁ……。
一度ばっさり切られたら現実が見えてくる。
最近なんで私、陸人のこと好きだったんだろって思うようになってきた。
容姿は悪くないけど、子供じゃん。
子供な陸人よりも数倍魅力的で大人で優しい斗真さんが理想な人に見えてくる。
料理を作って何も言わない人より美味しいと言ってくれる斗真さんが素敵。
重い荷物を気にしない人よりさらりと奪っていく斗真さんが素敵。
私の話よりスマホゲーが好きな人よりしっかり聞いてくれる斗真さんが素敵。
でも斗真さんから見て、私はどこまでいっても妹でしかない。
今優しくしてくれているのも斗真さんが陸人のフリをしているからだ。
いつまで陸人のフリをしていてくれますか。
私は……斗真さんの側にいたいんです。
それはある日のこと。
偶然街中で斗真さんを見かけた。
「斗真さ……」
声をかけようとした斗真さんの横にはとても綺麗な女性がいた。
芋くさい私なんかにはマネできないお化粧している大人の女性。
ブランド物に身を包んで、これが大学生なんだと思えるほどだ。
「斗真の奴、最近、モテるよなあ。あれ、ミスコンの子だろ」
「成績優秀者で顔も悪くないし、この前の大学祭でバンドのボーカルやって盛り上がったのがでかいよな」
斗真さん達と同じ大学の人たちだろうか。
嫌でも声が聞こえてくる。
「でも誰とも付き合ってないんだろ、なんでだ」
「噂じゃアパートにコブがいるらしいぞ。それじゃ家に女を連れこめねぇよな」
「っ!」
血の気が引く想いをした。
「おれの妹もアパートに来たがってさ。空気読めないんだよな。傷ついたってすぐ泣くしさ」
全てが私に当てはまる。
空気の読めない妹キャラ。私のせいで斗真さんは恋をすることができない。
斗真さんが陸人のマネに時間を費やすということは私が斗真さんの貴重な時間を奪ってしまっていることと同じだ。
「でもあのミスコンの子にも塩だよな。めっちゃ可愛いのに」
「斗真の奴、一途な子が好きらしいぜ。すぐ好きな人が変わる子なんてごめんだってよ」
「あ……」
その時、陸人にフラれた時より深い傷を負ってしまった感覚を覚えた。
心変わりの早い私が陸人なんて忘れてしまっていることを打ち明けたら斗真さんはきっと私を軽蔑するだろう。そんな女だと思わなかった。斗真さんの口から言われたくない。
心を切り裂かれるそんな想いに私はもう……斗真さんに会えなくなった。
◇◇◇
「最近、天使が来なくてマジしんどい」
「何言ってんだ」
大学の友人に愚痴るくらい俺のメンタルはやばい所に来ていた。
急に空音さんが家に来なくなった。
そろそろ空音って呼び捨てで呼びたいと思っていた頃だ。
結構仲良くなってたと思う。空音さんにお願いして料理を教えてもらって、狭いキッチンで二人横並びでメシを作るくらい仲良しになったはずなんだ。
微笑んでくれる空音さんがあまりに可愛くてこんな時間がずっと続けばいいと思っていたんだ。
本気で天使かと思ってたし、早く駄目人間にしてもらいたかったんだ。
でも何かあったのかメッセージを送っても学校が忙しいからとそっけない返事しか帰ってこない。マジで病む。つらすぎる。
「おまえ、彼女をフッたって言ってたよな。その時彼女どうだった?」
「嫌こと聞くなぁ」
友人の顔が引きつる。そうでもしないと現実を疑ってしまいそうだったから。
「もう恋なんてしないって言ってたよ」
「それで実際は?」
「一ヶ月後に別の彼氏が出来てた」
「そうかぁ」
認めたくなかったけど、そうとしか考えられない。
空音さんは陸人を吹っ切って、次の恋を見つけたんだと思う。
あの子は本当に美人だし、男なんて選びたい放題だ。
陸人のフリして現状に満足してしまった俺の敗北だ。
フッた男と同じ顔したやつなんて嫌だよなぁ。
もう二度と空音さんと会えないんだろうか……。
「ん?」
母さんからメッセージが届いていた。
書類が来てるから実家に戻ってこいって。
「ただいま」
そんなわけで実家に帰ってきた。
昔は空音さんがおかえりなさいと言ってくれたこともあったっけ。
アパートでも空音さんのおかえりが何よりも心地よかったんだよなぁ。
「おかえり」
弟の陸人が現れた。
空音さんの件があってから以前ほど仲良し兄弟では無くなったような気がする。
陸人はそれでも気づいてはいないんだろう。
「母さんは?」
「買い物。もう帰ってくると思うけど」
なら適当に待たせてもらうか。
今までは帰ってくると陸人と空音さんが二人で並んでいることが多かった。そんな姿が俺にとって心地よかったはずなのに、彼女はここにはいない。
「兄ちゃん聞いてよ」
「ん」
陸人は苛立ったように声をかけてくる。
「空音のやつ、最近冷たいんだよ。俺が声をかけてもすっげー冷たい目で見てくるんだ」
「……」
「意味わかんねー。みんなオレが怒らせたって言うんだけど、思い当たる節がないんだ」
そんなことを平然と言う弟の姿にぞっとした。
こいつは何を言っているんだ。
「声をかけたって、彼女が嫉妬するから空音さんの名前を出すなって言ってたじゃねーか」
「なずなが側にいる時は空音に近寄ってほしくないだけであって、オレは別にいない時は前のように来てくれていいんだよ」
そんな都合のいい話があってたまるか。
空音さんがどれだけ傷ついたか、傷つけた本人が何も理解をしていなかった。
やっぱりあの時分からせておくべきだった。
「腹減ってもメシ作ってくんないし、朝も起こしてくれない。テスト前だってのに勉強見てくんないし、何でそんなに怒ってんだよ」
「ふざけてんのかおまえっ!」
陸人の胸ぐらを両手でつかんでいた。
他にも別の所で物音がしたが、完全に目の前のことに注視していた。
「空音さんを何だと思ってる!」
「え……。空音はオレの幼馴染だけど」
「幼馴染は世話係じゃねーんだよ! おまえは空音さんをふったんだろ! 好きだと縋る彼女を女の子として見れないって!」
「いや、そんなのいつものジョークで……。空音には女の子じゃないなんてよく言ってたし」
「おまえの言葉で空音さんは泣いて、傷ついたんだよ。10年もずっとおまえを支えてくれた優しい子をさぁ。何で気づかないんだ。空音さんは何でも耐えられる強い子だと思ってたのか? 違う! どこにでもいる普通の女の子だぞ!」
「空音が泣いてた……? え、知らない」
「だろうよ! 普通はなぁ、そんな振り方したら学校で即広まって男の方は総スカンだよ。おまえが学校に何食わぬ顔で通えてるんならきっと空音さんが広めなかったんだろうな。いい子だよなぁ、ほんと。もっとさぁ、やりようがあっただろ? 空音さんを傷つける必要あったのか? なぁ」
「え……あっ……」
「あるわけないよな。おまえ何も考えてないもんな。いつも空音さんに盛大に誕生日を祝ってもらってるくせに、去年と今年は忘れてほったらかしたんだもんなぁ。バカじゃねーのか。兄ちゃんは恥ずかしくてたまんねーよ」
陸人は愕然としてうなだれる。
体は大きくなっても心はまだまだ子供。
俺にここまで叱られたことは無かったからな。
「なぁ、これだけ言わせてくれよぉ」
陸人の胸ぐらをたたき付けるように地面に下ろし、陸人を見下す。
「おまえじゃなくて俺が空音さんの幼馴染になりたかったよ。空音さんの側には俺がいたかったよ!」
この言葉を突きつける。
「俺なら絶対空音さんを手放さない」
がたりと玄関で音がして、ゆっくりとそちらの方に視線を向ける。
そこには空音さんが戸惑った顔をしてこちらを見ていた。
いつからそこにいた。そういえば大声出す直前に玄関のドアが開いた音が聞こえた気がしたっけ。
それから聞かれていたのか。
「なんで……」
「おばさんにお土産を持って帰ってって言われて……。っ!」
空音さんは慌てて靴を履き、玄関からかけだしてしまった。
追わないと……。ここで追わないとそれっきりになってしまう。
俺は全力で空音さんを追う。
運動部に所属していたおかげで逃げ出した空音さんに追いつくことができた。
大声で彼女の名を呼び、止まらせる。
「空音さん、聞いてくれ」
どこまで話を聞いたか分からない。
でも、もう全部話すしかない。
空音さんは背を向けたままだった。
「2年前、君とちょっと話をしたことあったろ、なんで一人暮らしするかって」
「……」
実家から通える範囲に大学があるのになんで一人暮らしするんですかって聞かれたことがあった。陸人も寂しがってるって。
自立したいとか、一人暮らしを経験したいとかもったいぶった理由を並べて交わしたんだ。
でも一番の理由はこれだった。
「その時さ、空音さんを好きになりかけてたんだよ」
「っ!」
「陸人を好きな君を好きになっても……良いことなんて何もない」
だから離れた。大学生になって恋人ができればそんな恋心も消えると思っていた。
でも時々、陸人と一緒に俺の家へ遊びに来る空音さんを見て……。
「高二になってまた綺麗になる君を見て……気持ちが消えることはなかった」
だから陸人にフラれたと聞いて、苛立ったと同時にチャンスだとも思ってしまった。
「陸人のフリをすれば君の側にいられる。そんな浅ましい考えをしたクソ野郎なんだよ。ごめんな。兄弟揃って君を傷つけて……。本当にごめん」
「……私は」
振り返った空音さんは、久しぶりに会った時のように涙を浮かべていた。
頭が罪悪感に支配される。どうすれば彼女に報いることができたのか。
すでに彼女は陸人を吹っ切って新たな生活へ進んでいるというのに。
「斗真さんの優しさが嬉しかった。確かに誕生日の時は斗真さんを通して陸人を見ていました」
「……だよね」
「でもすぐに違うと思いました。だって、陸人はあんな優しくないし、エスコートなんてできないもん。私、次の日からずっと斗真さんを見てましたよ。気づきませんでしたか?」
思えば俺と陸人を間違えたのは最初だけだった気がする。
それからはずっと彼女は俺の名前を言い続けた。
もしかして陸人のフリをしていると思っていたのは俺だけなのか。
「年上で優しい斗真さんに少しずつ惹かれて……でもずっと陸人を好きだった私がこんな簡単に想いを断ち切ったことに斗真さんは嫌悪感を覚えるんじゃないかって……。軽い女じゃないですか、こんなの」
「……そんなこと」
「私のわがままに付き合わせてしまっている。そんな罪悪感で斗真さんに会えなくなって」
「わがままじゃない! 俺は好きで君に会っていたんだっ」
俺は勢いで空音さんに近づき、ぎゅっと両肩を掴んだ。
「じゃあ……また、ご飯作りに行ってもいいんですよね。泊まりにいってもいいんですよね」
「良いんだ! 来て欲しい。俺は誰よりも空音さんが好きなんだ!」
空音さんは顔を上げ、涙の跡を残しながらもすっと俺の瞳を見つめてくる。
「斗真さん……私、斗真さんの幼馴染にはなれないけど」
そして心からの笑顔を見せた。
「私を斗真さんの恋人にしてください」
<エピローグ>
それから2週間が経ち、生活が一変するかと思ったらそうでもなく……、仲違いする前に戻ったと言ってもいいかもしれない。
「ねぇ斗真、私やりたいことがあるんです」
彼女は俺を斗真と呼び捨てで呼ぶようになり。
「空音に任せるよ」
俺も彼女を空音と呼ぶようになる。
一つ変わったとすればここだろうか。
「ううう……」
「陸人はなんで落ち込んでるんだ」
「それはですねぇ」
所用で実家に帰った俺。もちろん恋人である空音も一緒である。
俺の恋人なんだから連れ帰っても問題はない。
元々家族ぐるみの付き合いなんだからね。
「彼女にフラれたらしいです。しかも四股されてたんですって」
「あー」
知り合い程度ならざまぁみろって感じなんだが、こうは言っても血の繋がった弟である。
駄目な所は駄目と断罪しても最後に手をかけてやらねばならぬのが兄の役目。
これ以上他の人に迷惑かけるわけにもいかねぇからな。
「なずなに服とかきっちりとしてると思ったのに付き合ったらだらしない面が目立って冷めたって言われた……」
「私が制服をアイロンかけて上げてたからね」
「……空音、オレが悪かったよぉ。前みたいにしてくれよぉ」
情けない声を出す陸人。
まだ怒鳴りつけてやりたくもなるが、それをする必要はない。
「え、無理だし」
空音は完全に陸人から吹っ切っていた。
空音は俺の腕に手を絡ませる。
「斗真の側にいたいからあなたのお世話なんてしてる暇ないの。ね~」
こっちの甘えん坊はたまらなく可愛いからグッジョブ。
付き合ってから、空音からのスキンシップがすごくて赤面が止まらない。
年上らしさを出したいのに最近は空音の手のひらの上で転がされているような気がする。
空音は細くあきれた目で陸人を見た。
「ま、学校にいる時はちょっとくらいフォローしてあげてもいいよ」
「ほんと⁉︎」
「ただし」
空音はびしっと強く陸人に向けて指をさす。
「私のことをお姉ちゃんって呼びなさい」
「は? 同い年だろ。なんでぇ!」
動揺する陸人に空音は小悪魔のように笑いながら見下した。
「だってあなたは私の彼氏の弟でしょ。わきまえてよね、陸人くん」
これが空音なりの復讐なのかもしれない。
◇◇◇
「うーん、ちょっとだけすっとしたかな」
「あいつもこれに懲りて成長してくれればいいんだけどな」
「陸人くんのことはもういいですよ。大事なのは私と斗真の関係です」
思った以上に空音はずばりと10年想い続けた恋を切り捨てた。
いろんな葛藤とかあったんだと思う。
やっぱり空音は強いな。
「私は斗真ともっと……いちゃつきたいなぁって」
うん、でも何か違った方に向かっているような気がしなくもない。
「そんなに焦らなくてもいいんじゃないか。君はまだ高校生だしね」
「むー。そんなこと言ってなかなか手も繋いでくれないじゃないですか」
「君は逆にアグレッシブだよね。毎朝布団に潜り込んでくるし」
「え~、でも朝、斗真のあそこは元気ですよぉ。本当は好きなんでしょ?」
ふにっと空音は豊かに育った胸を腕に押しつけてくる。
中学入った頃はぺったんこだったのにどうしてこう育ってしまうのか。
毎朝、ノーブラシャツで抱きついてくるんだぞ、心臓に悪い。
「斗真は私のことが好きなんですよね?」
「うん」
「でも私の方がもぉーっと斗真のことが好きですからね」
やばい、可愛すぎる。
「斗真は気づいてないんですけどあなたはモテるんです。お酒の席とか心配で心配で」
「俺がモテる? あはは、そんなわけないじゃん」
「ミスコンの人に介抱されたって聞きましたけど」
「あの子はただの知り合いだよ。最近話しかけてくるだけで」
「こーいう鈍感は似なくていいのに、もう!」
なんだかぷぅっと頬を膨らませてしまった。
空音は嫉妬深い所がある。やっぱり俺が大学生という所が心配のようだ。
だけどさ。
「俺が好きなのは空音だけだから。君以外を好きになることは絶対ないよ」
「っ!」
嬉しそうに顔を真っ赤にさせる所がたまらなく可愛い。
俺の彼女マジで可愛すぎる。
「こういう時だけグイグイくるんですからぁ。もう……好き」
弟の幼馴染は。
「早くちゅーとかしたいなぁ。ね?」
世界一かわいい俺の恋人です。
リハビリみたいな感じでちょっと書いてみました。
幼馴染の兄や姉の立場って面白いですよね。
培った絆が高かったら幼馴染の枠に入るけど。低かったら今作みたいに幼馴染の兄になるんですよね。
長編として書くならミスコンの子をサブヒロインにして三角関係確定ですかね。
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