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壁際のジョニー  作者: 三毛猫ジョーラ


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31話 メリージョニークリスマス with Neon


 大晦日。


 一年を締めくくる今日という日に、おれは一人でバイトに精を出していた。誰もシフトに入ろうとせず、結局くじ引きで負けてしまった。


「ジョニー、じゃあおれ達そろそろ帰るわー」


 奥の部屋から籠を持って甚と瑠流ちゃんが出てきた。なんか甘々な雰囲気だけど、こいつらよからぬことでもやってたんじゃねえだろうな。


「えっもう帰るん? 一緒にカウントダウンは?」


「るるが年越しそばは家で食べたいってよ」


「ごめんねぇジョニーくん。帰っておせちも作らなきゃなの」


 はいはい、そうですかそうですか。ごめんと手を合わせる瑠流ちゃんにおれは何も言えず、営業スマイルでにっこり笑った。


「了解。じゃあお会計1万8千円になりまーす」


「おまっ! 高過ぎだろ!?」


「年末は特別料金なんですー」


 瑠流ちゃんはくすくすと笑っていた。まぁ仕返しはこれくらいにしといてやろう。


「ジョークジョーク。るるちゃんに免じて2千円でいいよ」


「おー! さっすがジョニー!」



 支払いを終えた二人がエレベーターの前に立つ。チリンチリンと鈴が鳴って扉が開いた。


「じゃあお疲れージョニー」


「よいお年をー! ジョニーくん」


 手を振りながらエレベーターへと消えていく二人をおれは笑顔で見送った。渋谷といえど大晦日の夜は意外と静かだ。すっかりお客さんがいなくなった店の中で、おれはしばらく暇を持て余していた。



「メリークリスマス! ジョニーさん!」


 エレベーターが開いたと思ったら音遠ちゃんがぴょこっと顔を出した。


「いやいやネオンちゃん。クリスマスはとっくに終わってるから」


「だってクリスマスに来たけどジョニーさんいなかったから。デートでした?」


 ぷくっと頬を膨らませながら音遠ちゃんがお店のカードを財布から出した。


「ええ、ええ。お陰様で素敵なホワイトクリスマスを……」


「ふ~ん。まぁいいや。それよりこれ見てください!」


 ジャジャーンと効果音をつけながら彼女がバッグから銀色のプレートを出した。


「もしやそれって――」


「ついに登録者数が10万人突破しましたー! パチパチパチー」


「やったじゃんか! おめでとー!」



 彼女はあの事件の後も、自分のチャンネル「ネオンサイン」で動画配信を続けていた。いろいろ批判の声も多かったけど、それでも彼女はがんばっていた。


「あの時ジョニーさんが続けろって言ってくれたお陰です。ありがとうございました」


「いやこれはネオンちゃんの実力でしょ。古参のファンとしては鼻が高いよー」


「今日は年越しのライブ配信をしようと思って。また部屋使わせてもらっていいですか?」


「もちのろーん! スプモーニ、後で持ってくよ」



 彼女がいつもの部屋へと入っていった。おれはスマホで「ネオンサイン」のチャンネルを開くと彼女は早速歌い始めていた。昔よりはるかに多い視聴者数が表示される。


 相変わらずいい歌声だ。音遠ちゃんがポップな曲を歌えば気持ちが躍り、バラードを歌えばしんみりと心に響いてくる。おれはカウンターでひとり、その歌に聴き入っていた。



 もうすぐ日付が変わり新しい年を迎えようとしていた時、画面の中の音遠ちゃんが消え部屋のドアが開いた。


「ジョニーさん! 一曲デュエットどうですか?」


「ええ! 無理無理! ファンの皆さんに怒られちゃうよ!」


「大丈夫ですって! ほら歌いましょ」


 そう言って音遠ちゃんがカウンター越しにおれの腕をぐいぐい引っ張った。その時、チリリーンとエレベーターの扉が開いた。


「ジョニーせんぱーい! かわいい後輩が遊びに来てあげましたよー」


 現れたのは四葉、だけかと思ったらぞろぞろとエレベーターから人が降りてきた。四葉と腕組みしていたのは華詩澄ちゃん。そして鈴雫ちゃんに花瑠杏ちゃんと霞美ちゃんまで勢揃いしていた。


「あー! ネオンちゃんだ! もしかして配信してる!?」


 泥酔気味の四葉が覚束ない手でスマホをいじくり始めた。するとドラゴンの刺繍が入った赤いチャイナドレスを着た鈴雫ちゃんがカウンターにやってくる。


「ネオンちゃ~ん! いっつも配信見てるよ~今度コスプレ配信一緒にしよ~」


「ありがとうございます! リンダ先輩となら是非!」


 その後入れ替わり立ち代わり音遠ちゃんに絡んでくる面々。みんなだいぶ酔っ払ってる様だった。やはりというか花瑠杏ちゃんと華詩澄ちゃんが早速お酒をご所望だ。


「ジョニーくーん。赤酒のジンジャー割りおねがーい」


「お姉ちゃん! 赤酒とか置いとるわけなかやんね!」


 くだを巻く姉妹に霞美ちゃんが割って入った。若干目が座っている……。


「聞きましたよジョニーさん。リンダとカルアとも楽しいクリスマスを過ごされたようで……日本酒の熱燗、お願いできますか?」


「よ、喜んで!」


 慌てて徳利とっくりを出そうとすると突然、音遠ちゃんが叫んだ。


「やばい! もう日付が変わっちゃう! みなさん一緒にカウントダウンしましょう!」



 音遠ちゃんを先頭に、みんなノリノリで部屋へと入って行く。ようやく静かになったカウンターでおれはホッと溜息をついた。女子会パワー恐るべしである。



『今日は私の友達に来てもらいましたー! どう? みんなかわいいでしょー』


 配信画面の音遠ちゃんが喋ると同時にコメントが一斉に流れ始めた。レイヤーとしても人気の鈴雫ちゃんはもちろんのこと、他のみんなにも質問が相次いだ。


『待って待ってみんな! そろそろ12時になるからカウントダウン行くよー!』


 音遠ちゃんが画面の中で叫んだその時、部屋の中から四葉が飛び出してきた。


「ちょっと先輩! 早く早く!」


 もの凄い馬鹿力でおれの腕を強引に引っ張る。


「いやだ! あんな中に入ったらおれがハーレム男って勘違いされる!」


「何言っちゃってるんですか! 誰もそんなこと思いませんよ!」


「バカヤロウ! ネットの恐ろしさをおれは知ってるんだ!」


 壁に必死で爪を立てながらおれは最後の抵抗を試みた。するとその時、背後に何者かがすっと音も立てずに忍び寄った。


「行きなさい」


 振り返ると霞美さんが目を細めておれを見ていた。これはどう見てもキスを待っている顔じゃない。


「……はい」



 部屋に入るとすでにカウントダウンは始まっていた。


「8! 7! 6! ――」


 音遠ちゃんがおれを手招きする。四葉がぐいぐいとおれを部屋の中央へと押し始めた。


「待て待て! おれは壁際でいいって!」


「5! 4! 3! ――」


 逃げようとするおれを全員で取り囲んできた。こりゃ一体なんの罰ゲームだ!


「2! 1! ハッピーニューイヤー!!!」


  

 みんなにもみくちゃにされながら、おれもやけくそで拳を突き上げた。配信画面を見ると、明らかにおれは周りに美女をはべらかした王様である。コメント欄が殺気に満ち溢れていた。



 しばらくの間、おれが引きこもりになったのは言うまでもない。





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