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壁際のジョニー  作者: 三毛猫ジョーラ


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29話 メリージョニークリスマス with Kasumi


 クリスマス。


 昨日のお酒がまだ残りつつも、おれは待ち合わせの場所へとふらふらと急いだ。時間ぴったりに到着したがすでに霞美ちゃんは先に着いていたようだ。


「ごめん! 待った!?」


 ベタ中のベタな台詞である。それでも霞美ちゃんはにっこり笑って答えてくれた。


「私も今来たとこです」


 満点の回答です霞美様。でも彼女の鼻は少し赤らんでいる。きっと寒い中待っていたに違いない。申し訳ないと思いながらとりあえずカフェにでも行こうと提案した。


 街中へと向かうとクリスマスオブジェに身を包んだ建物たちがそこかしこに並んでいる。定番のクリスマスソングが流れ、道行くカップルが楽しそうに手を繋いでいる。


「よかったら手繋ぐ? 今めっちゃ手冷たいけど」


 一応断られた場合の予防線を張りつつ、おれは彼女に手を差し出した。


「いいんですか? じゃあ遠慮なく」


 少し照れたように霞美ちゃんがおれの手を握った。温かくすべすべとした感触が伝わってくる。思わずにやつきそうになる顔に力を込めた。


「私こうやって手繋ぐのって初めてなんです」


「えー! 前の彼氏とは繋がなかったの?」


「はい……それ以前にデートみたいなこともなかったかも」


 そういうことかとおれは一人で納得した。今回、霞美ちゃんのリクエストは普通のデートコースだった。買い物をして映画を観てディナーを食べてといったもの。もしかしたらそんな当たり前のことを彼女は経験してなかったのかもしれない。


 まったくあの(あれあれ)男! 自分の彼女をほったらかしにして浮気なんかしやがって! クリスマスだというのにおれは沸々と怒りが湧いて来た。


「もう私も吹っ切れましたから」


 握った手をぎゅっとされ、おれはふと我に返る。穏やかな顔で微笑む彼女におれの怒りもすーっと消えていった。思えばサレタ者同士、お互いの気持ちはよくわかる。今おれに出来ることは過去を蒸し返すことじゃなく、楽しい思い出を作ってあげることぐらいだ。


「よしっ! じゃあ今日は思いっきりクリスマスしよう!」


「ふふ、なんですかそれ。でもそうですね。楽しくクリスマスしましょう!」



 それからおれ達はベタなデートを惜しげもなくエンジョイした。カフェでお茶をしたり、クレープを食べ合いっこしたり、街をブラブラしたり。そして映画館では霞美ちゃんが感動のあまりに号泣していた。


「いやーおもしろかったね。てかカスミちゃん目が腫れてるけど、泣くとこなんてあった?」


 おれ達が見たのはゴリゴリのアクション映画。おれが気付いた時にはすでに彼女は泣いていたので、実際どのシーンで泣いたのかわからなかった。


「主人公が一度敵に敗れたところが切なくて……きっと悔しかったんだろうなって……ちょっとトイレ行ってきます」


 また泣きそうになったのだろうか、霞美ちゃんが走ってトイレへと向かった。ロビーで彼女を待っている間、一人の少女の姿が目に留まった。恐竜映画のパンフレットを見ながらなにやらぶつぶつと独り言を喋っている。周りに親らしき人がいなかったのでおれは念のため声を掛けた。


「お嬢ちゃんもしかして迷子になった? パパかママは近くにいる?」


 おれがそう言うと三つ編みの美少女がきりっと見上げてきた。


「母がトイレに行きましたので。防犯ブザーも持っているのでご心配なく」


 そう言ってその女の子はリュックの横に付けてある防犯ブザーを指差した。


「逆にお兄さんの方こそクリスマスにお一人ですか? 悩み事があるなら聞きましょうか?」


「ち、違う違う! おれはちゃんとデート中だよ! 彼女がトイレに行ったから待ってるの!」


 焦るおれを見て余計に怪しんだのか、少し距離を取るような素振りでその子はおれを見ていた。ちょうどその時少し離れた所から声が聞こえた。


「瀬織ー! 帰るわよー!」


 たぶんこの子の母親だろう。女性がこちらに向かって手を振っていた。


「ではお兄さん、私は失礼します。彼女さん早く戻ってくるといいですね。メリークリスマス。ふふ……」


 そう言って去って行く少女。絶対おれが見栄を張ったと思っているな……くそぅ。 



「ごめんなさい! トイレが混んでて。ん? ジョニーくんなにかありました?」


 いかんいかん。子供相手にムキになっていたのがばれてしまう。おれは平静を装いながら笑顔で彼女に答えた。


「大丈夫なんもないよ。ちょっとケンカ(マッチ)売りの少女がいたから軽くあしらってたんよ」


「マッチ売り……?」


「いいのいいの! それより夕飯食べに行こう!」




 もちろんディナーもベタに夜景の見えるレストランで食事をした。シャンパングラスで乾杯し、食後はケーキを食べながらプレゼント交換もした。



 レストランを出た後、おれ達は海辺のデッキを歩いていた。ほろ酔い気分でそれほど寒くはないが、二人の距離は徐々に近づいていく。


 すっと霞美ちゃんがおれの腕に身を寄せてきた。自然とおれも彼女の手を握りしめた。そしてどちらかともなく足を止め、おれ達は見つめ合った。


 霞美ちゃんがゆっくりと目を閉じた。おれは彼女の肩を抱き顔を近づけていく――


「ジローーー!!」



 名前を呼ばれおれは動きを止めた。ジョニーではなくおれをジローと呼ぶ人は少ない。まさかとは思いつつおれは声のした方へ視線を移した。


「……リホ」


 

 街灯が照らす下。ポツンとその場所に立っていたのはリホだった。





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