2話 壁より硬いアスファルト
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翌日の学校。おれは友達とキャンパスを駄弁りながら歩いていた。
すると正面からもの凄い形相のリホがこっちに向かって走ってた。
「ジローーーー! ごめんなさいっ! わたし、わたしっ!」
てっきりフライング土下座するかと思ったわ。
リホはおれの両肩を鷲掴みにすると、上目遣いでおれに必死に謝ってきた。
もちろん瞳には大粒の涙。
「違うのっ! ねぇ聞いてジロー! あれなのよっ! 昨日のあれは違うのっ!」
いや聞いてるし。てかおまえあの男の「あれ」が若干移ってるぞ。
「違うもなにも、壁越しにおまえの喘ぎ声ばっちり聞こえてたぞ?」
「昨日のあれは私じゃない! 酔い潰れてお持ち帰りされて脱がされてベッドの上に寝かされて! 浮気なんてしたことないのっ! たった一度の過ちだったのっ!」
なんか無理矢理やられた感がないのが気になるんだが……
「いやおまえ最近あいつの家よく行ってたんだろ? 甚が言ってたぞ」
リホはピタッと固まった。口だけがパクパクしている。
そして勢いよく土下座した。いや泣き崩れた、が正しいか。
「ごめんなさぁぁいぃジローー! もうしないからぁっ! 別れたくないよぉぉ!」
リホは両手でバンバンとアスファルトを叩いていた。それ痛そう……
百年の恋も冷めるとはこういうことか。足元で泣き縋る彼女を見ておれは憐みの感情しか抱けなかった。
「もういいよリホ……とりあえず立ってくれ」
「許してくれるのっ!? ジロー!」
「いや、それはない。今日でお別れだ。指輪はきちんと処分しといてくれ」
環境には優しくしないとな。ゴミ箱にポイとかするなよ。
その場でリホは嗚咽混じりで再び泣き崩れた。しかも膝から……
だからアスファルトは痛いって。
遠巻きに人がちらほら集まってきた。だがもうこれ以上は掛ける言葉もない。
泣き喚く彼女を放置しておれは学食へと向かった。
学食へ着くと甚が昼飯を食っていた。すぐさまおれを見つけると笑って手招きをした。
「よぉジョニー! あの後大変だったんだぞ~リホちゃん下着姿のままおれの部屋に飛び込んできてさ。『ジローは!? ジローは!?』 って」
おれが帰った後、リホは大騒ぎしてたらしい。甚に詰め寄るわ、ベランダから大声でおれの名前を叫ぶわで、アパート中が叩き起こされたらしい。
ほんとスミマセン……
結局警察に通報される羽目になり甚はあれから一睡もしてないそうだ。
「悪ぃな甚。リホとはついさっき改めて別れてきたよ」
「にしてもなぁ。最近隣によく来てた女がまさかリホちゃんだったとは。マジでびっくりしたわ」
おれは苦笑いを返すだけだった。平静を装ってはいるがやっぱりショックはショックだよなぁ。昼飯を食う気にはなれなかった。
「そーいや朝からリホちゃん学校でも大騒ぎしててさ、大畑に怒鳴り散らして喧嘩してたぞ」
「大畑?」
「隣の部屋の間男だよ。あれあれ言ってた」
「あーうちの大学だったんだ。知らなかったわ」
「リホちゃんが大畑に『おまえが誘うから悪いんだっ! おまえのエッチなんてちっとも気持ち良くない!』って叫んでたな~動画撮ったけど見る?」
「いやいらね。てかおれが寝取られたってのバレバレじゃんよ。勘弁してくれ……」
どうりでチラチラおれを見てくるやつがいるなぁって思ってたんだ。甚は相変わらずケラケラ笑ってる。
「でも二人が騒いだお陰で大畑の彼女に浮気が伝わってさ。あれのあれがあれで凄かったぞ」
「おまえもあれあれ言うなよ。でもなんとなくわかったわ」
「大畑の腹に思いっきり正拳突き喰らわしてた。動画見る?」
「それは見る」
大畑の彼女は空手の世界ジュニアチャンピオンだったらしく、正拳突きをもろに喰らった大畑はアスファルトに突っ伏していた。これはもう通称アスファルトざまぁとおれは呼ぼう。
大畑を一撃で沈め美しい残心を取る彼女に、周りからは拍手喝采が送られていた。
おれなんかより見事なざまぁです。大変感服いたしました。
「そいやジョニー、今週末3対3の飲み会あるんだけど来る?」
おや? これは新しい春の予感か?
これまで浮気は疎かそういう誘いはことごとく断ってきた。
うじうじしてたってしょうがない。ゆっくりでも前に進もう。
「花咲くん。もちろん参加させてもらうよ」
「いやなんで苗字で呼んでんの?」
花が咲くかもしれないからさっ、と口には出さず笑顔だけを返した。
その日桜の開花宣言があったとかなかったとか。
お読み頂きありがとうございます。
もしあれがあれでしたらあれをあれしてもらえるとあれが喜びます。
続きのざまぁが気になる方はカクヨムにて同一ダイトルで投稿しております。
リホ視点のざまぁ回です。