6月23日 考えたい。
ドリームランドが怖くて、シバッカルの宮殿から逃げ出してしまった。
そして隣にはマティアス、珍しく寝てる。
珍しいけど、寝顔を拝むのはショナとせいちゃんだけ。
ウブへの固定反応なんだろうか。
『そう考えるなら、行くべきだと思う』
「マーリン、もう少し整理させて欲しい。勢いで魔法を得て大事になりかけたし」
《あれ、我のせいじゃろうか》
「ワシのせいだけど、色々有ったから、整理させて欲しい」
《仕方無いのぅ》
『分かった』
今日はお昼過ぎに帰って来るなり、桜木さんはイスタンブールの家へ。
久し振りなので、空気を入れ替え、掃除やお洗濯。
そして桜木さんは棚へと品物を並べ始めた。
第3世界の品物、フォトフレームやスノードーム、洋服も。
「物が有るのに、現実感が無い。だって、良く考えたらたった数ヶ月で、ワシを好きになって妊娠しろって、無茶じゃん」
「でも、神々が協力体制にはなったんですよね」
「それで身柱にならないで済めば良いけど、でも延命に過ぎないかもだし、失敗して後悔してるかもだし」
「それは桜木さんのせいなんでしょうか。もし失敗していたなら、向こうでのフォローが足りないだけかと」
「冷たくてキツい気がするんだが」
「観上さんの場合は国です、国全体でフォローすべき事。ですが、それは内々に神々が行う、ですので神々や関係者の責任で、桜木さんがどうにか出来たにしても時間が足りなさ過ぎです」
「誤解されて無いか、不安。でも、好きになって貰う様に早く動くべきだったのかも知れない」
「桜木さんなら、そうされて嫌じゃ無いんですか?」
「嫌なのは、嫌なのは、本当は好きじゃないとか、そう言う事。ワシには、誘導が無理かどうか分からない。だって、もし万が一誘導が有ったと知っても、現状ではもう否定が出来無い」
「気持ちの誘導は有りません。状況や決意への誘導は有ったのは確認しました、けど、皆が皆本気です」
「こう、悩みたく無かった」
「どうか存分に確認して下さい」
『仕方無いですね、嘘も気持ちの誘導もしてませんよ。だって』
「面白くないからか」
《じゃの、加工品の良さも有るが、面白いのは一時的じゃし》
『お前の例え話はややこしいが、まぁ、手は加えられてはおらん』
「それを信じるには、話し合いってか」
『そうするまでも無いかと。どんな誘惑の魔法も、フェロモンでもとっくに効果は切れてるでしょう』
『心理学もだが、全員に強い効果が続けばそれは洗脳だろうよ』
《強力過ぎる魔法も何も、一時的なんじゃよ》
「一緒に居るから切れ目が無いだけで」
「離れて冷めると思いますか?」
「かもじゃない」
「僕はより好きになりましたよ」
「それは、足りなかったのかもだし」
「じゃあ、いつまでですか?多千花さんはかなり間が空きましたけど」
「アレは雰囲気に引っ張られて」
「僕が認める位に自制心が強い方ですよ?」
《アレもモテるでな、あんな場面はザラらしいぞぃ》
『誘いもな。様々な性癖の客にも平然と対応し、秘密も守る優秀な人間だからこそ、候補者に入っていたんだ』
『彼の手帳、中身が凄いんですよ。お見せ出来無いのが残念です』
「ぐぬぬ」
「離れてても、ずっと考えて、僕なんかは初めての感覚で、何も手に付かなかったんです。それを、賢人君がフォローしてくれて、でも多千花さんはしっかり仕事をされた上で、桜木さんに惹かれたんですよ」
「でも、それこそ君とはだ」
「それは本当に、ウブですみませんでした、桜木さんを落とす為に協力して頂きました」
《お主が悪いんじゃもん》
『ですね、上司と部下だなんて』
『誰がそう決めたワケでも無いと言うのにな』
「でも、逆ならそうなるでしょうよ」
「だから女体化して誘惑したんです、ただ好きだけじゃ桜木さんには伝わらないと思ったので」
「それは、ごめん」
「逆なら、どうしてました?」
「一緒に居過ぎて、錯覚したのではと」
「僕もそれは心配しましたけど、好きになって欲しかったから、ああしたんです」
『それを誘導と言うなら、色恋の駆け引きは不可能になりますね』
『駆け引きが好きでは無いにしてもだ、振り向かせる行為まで否定するのはどうなんだ』
《そうじゃよ、そも、じゃったら恋とはなんじゃ?明確な規定が有るんじゃろか?》
「其々かと。僕は相手の為に何かしたいと思って、好きだから好きと言って欲しくて。傍に居たい、キスをしたり触れたり、赤くならせたりしたいと思ってます」
「でも、せいちゃんを好きだから手伝ったワケでは」
「最初から善意だと思ってます、そして好きにならない様に何処か抑えてたのも。井縫さんの事も、拒絶したのは、少しでも受け入れてしまったら、受け入れてしまうから」
「帰るのが、最優先だったから」
「もう帰って来たんですから、良く考えて下さい」
「1人で、良い?」
「一応、念の為に、しましょうか」
『退散するかな』
『ですね』
《じゃの!》
毎回、説得されてる。
「すまん、毎回説得させてる」
「納得は必要ですし、何も考えて無いよりは遥かに好意が持てるんですが」
「面倒じゃん」
「抜けてる方のフォローをするより、ずっと良いです。ずっと想像してたんです、僕より浅慮だったり、抜けが多過ぎる方だったらどうしようって。祖母の友人が、それで大変な思いをしたそうなんです」
「ほう?」
0のネットで見た様な、そんな事が有るのかと言う話。
でも事実だそうで、お孫さんは堅実に育ち、会計士でバッチリ稼いでるらしい。
「そんな奇抜な」
「神経質な方も困るかもとは想像してましたよ、兄さんと」
特に自覚無しの潔癖だったり、神経質だった場合。
話を聞いてくれれば良いけれど、少しでも指摘した場合。
泣いたり発狂される方が面倒、絶対に好きにはならなかっただろうとも。
「そう持ってって無い?」
「無いですよ。悪い想像に当て嵌まらなかったんです、僕にとっては」
「賢人君は、どう思ってるんだろう」
馬鹿だったら即効で交代して貰ってた、らしい。
「馬鹿の定義ですけど、要するに浅慮かどうかですからね」
「結構、考え無しに動いてた面もかなり有るが」
「誰も傷付いてませんし、悪い事にもなってませんし。浅慮ならとっくに誰かと致してるでしょうし、真面目な所が僕には良い所です」
「ごめんね、こんなんで」
「もしご心配なら、コンコルド効果で勝手に好きになってるとでも思って下さい。それには僕も否定はしませんから」
相手に手間暇を掛ける程、相手を好きになる現象。
ある種の母性本能の片鱗だと思う。
だって、勝手に構って勝手に好きになるって、子育て用の仕様じゃん。
『ですね』
「ソロモンさん、いつでも出て来るのね。すまんショナ」
「流石にもう慣れました。桜木さんは何を考えてたんですか?」
『コンコルド効果は母性本能の片鱗だ、と』
「その感じ、浅慮でも馬鹿でも無いと思いますよ、本当に」
『スパイスにはさせませんよ、では』
本当に、兄とも良く話し合っていた。
マトモに話し合いが出来無い人だったら、気配りの無い人なら、横暴な人なら。
それは従者同士でも良く相談し合った、得手不得手を理解して、快く譲り合おうと。
僕には最初から居心地が良かった、こんなに楽で良いのかとも思った。
突飛な行動も有ったけど、どれも成功していたし、僕が過剰に心配しただけ。
病弱だからと過保護になっていたけど、1番強いのは桜木さんだと、武光さんですら認めていたんだし。
楽しくて、居なくなったと気付いた時、僕が弱いから捨てられたのかと思ってしまった。
帰って来てからは、誰かを好きだから、誰も受け入れ無いのかって。
「誰も居なかったんだよなぁ」
「今は分かりますけど。だから、もしかしたら観上さんも、そう心配して踏み込めなかったのかもですし」
「ウブがウブの擁護をしてる」
「ウブ仲間なら支え合わないとですし」
「ワンコは」
「桜木さんに手を出さないでいてくれて感謝してます。桜木さん、こんな感じですし」
「含みの、いや、いい」
「じゃあ言いますね」
流石に蜜仍君が帰って来る前には帰ってくれたが、本当に1人になれるんだろうか。
『こう出てなんですが、複数人も可能そうですから、問題無いかと』
「あぁ、ノアちゃん大丈夫かね」
《大丈夫じゃよ、アレから接触も無しじゃし。ルーネに目隠しでもして複数ですれば良かろう、アレは喜ぶじゃろうし》
『最悪はミーシャも居るんだ。それが嫌なら、呑むしかあるまい』
「ですよねぇ」
こんなんで、嫌われ無いだろうか。
好きと言われたらどうするか。
滅んでたら。
死んでたら。
『下がるべきか迷いますが』
『下がるか』
《ぐるぐるするも人間の旨み熟成には不可欠じゃし、まぁ、頑張るんじゃよー》
こうやって桜木さんを手放せるのも、周りが居るから。
僕だけの桜木さんだったら、きっと囲って、手放せなかった。
もう、1日中、ずっと手放せないで駄目にしていたと思う。
「僕だけじゃって、自信がなさ過ぎなんでしょうか?」
《体力なんかも実質無限だし、無理だよ1人じゃ。普通なら装弾数には限界が有るんだし》
「例えばなんですけど、もし、仮に相手が1人だったら」
《普通なら、あの反応に調子に乗って浮気して、終わり。灯台を知ってる場合は、満足させられてるか不安になって、最悪は家に閉じ込めて、でももし他に被害者が出たら怒りが湧いて、傷付けて。それでもう負の連鎖、果ては出来なくなって放置とか、罵るけど囲うって。ネイハムが言ってた、私も同感》
「凄く、大変な性質ですよね。僕が」
《犬神を付けるのはダメだと思うよ、君がモテたら困るし。あ、指輪はどうしたの?》
「神々にお返ししたら、大爆笑されました。ただの指輪だって」
《ふふふ、神様にしか出来ない引っ掛けだよね》
「それと桜木さんですよね、かなり貰ってたので」
《そこをそう使わないのがらしいって言うか、もっと私利私欲で使っちゃえば良いのにね》
《全くじゃ。真面目なのは良いんじゃよ?でも、つまらんのじゃあ》
『つまらなくて結構なんだがな、平和、平穏がアレの願いでも有るんだ』
《でもじゃよぅ、若いハーレムの主なんじゃし、こう、ときめく何かをじゃな》
「ご本人の為にならない事だけは絶対にしないで下さいね、他の事には乗りますので」
《私も。怒られるだけなら良いけど、泣かれる様な事は嫌だからね》
『この寛容に感謝して、そう不穏な事は計画しないでくれ。でなければエナが世界中のお前の加護を得た木を、切り倒すと言っている』
《ひぃ》
「今は何処にいらっしゃるんですかね?」
その疑問を投げかけた直後、メールと画像が。
[新函館北斗駅の近くのホテル、鉄板焼き美味い]
《何、この、白い像》
「桜木さんが好きそうですね」
ぬらりとした白い像、それから中身を選べる駅弁屋さんの画像も。
《あー、全部だろうね》
「ですね。でも良いかも知れませんね、こうやってお弁当の中身を選んで貰うのも」
《こう、1人前のお弁当にするなら、お重の方が良くない?》
「分けたがるので、お重に仕切りを……」
桜木さんの傍に居なくても、桜木さんの事を考えられる環境。
僕にしてみたら、最高に良い環境。




