表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/377

5月24日 繭

 何か、何を失敗したんだろう。

 紫苑だったから?

 名前が良くなかった?

 何で繭化して、空なの?


「サク、シオン、帰ろう?」

「何でアレクが?何で?」


「後で話すから、出よう?」

「朱、長は?」


「それもちゃんと説明するから」

「何でココじゃダメなの?」


「皆で話し合おう、浮島で」

「何で?長は?」


「大丈夫だから、話を聞いて、お願い」

「何で泣いてるの、死んだの?」


「それも全部」

「ワシが殺しちゃったの?」


「それは違うから、お願い、話し合おう」

「じゃあ長は何処?」


「説明を、聞いて」

「ココじゃダメなの?」


「うん」

「何で?」


「マティアスが待ってる、呼んでる、泣いてるから」

「何で」


「繭に、呑まれちゃうから」


「何で、そうか、特性、亜人で、したら、死んじゃうから、一夜限りだって」

「帰ろう、ココから出よう、繭に呑まれるから」


「呑まれちゃうのか」

「うん、マティアスとネイハムが待ってる、心配してるから、ココは出よう?」


「何処へ?」

「浮島に行こう」


「あぁ、うん、浮島ね」




 紫苑さんの状態で、半分は放心状態。

 もう半分はゆっくりと状況を咀嚼し、嚥下している状態。


 私以外には背を向け、一服し始めた。


《君が思う通りです》

「先生も、知ってた」


《はい》

「マティアスと、後は、誰が知ってたの」


「私も知っていて止めませんでした」

「ミーシャ、いつから」


「数日前にマティアスと聞きました」


「アレクは」

「何にも知らなくて、ごめん」


「先生は」

《ハーレム案が出た段階で既に知っていました》


「ごめんね、辛かったでしょ、全部、ずっと」

《泣くか怒るかして頂けませんか》


「無理だ、何となく分かってコレで、ワシより先生の方が辛いでしょうに」

《今は君の方が辛いのが正解なんですよ》


「いや、良い思いをしてコレで。何か、間違ってこうなったの?」

《いえ》


「じゃあ、自殺に使われたのね」

《はい》


「こんなんで良かったんだろうか」

《絶命の苦しみだけか、最大級の幸せの中での眠りか》


「腹上死か、そうか、それで先生調べ直したのか」

《はい、それ以上の幸せだと》


「国もか」

『我々もだ』

《じゃの、全て言えば願いが遂げられぬじゃろうと》


「ただ愛して欲しいって」

《はい、ですので》


「でもだ、ワシにだ、辛いでしょうに」

《はい》


「泣け、泣いてくれたら泣く」




 シオンは、私達には背を向けたまま。

 誰の顔も見ずに、ずっと話していた。


 そしてネイハムが涙を流すと、シオンの手を頬へ。

 涙を確認したシオンが頭を撫でると、ネイハムはシオンの膝に頭を置いた。


 それからずっとシオンがネイハムを撫で続け、誰の顔も見ないまま、夜が明けていく。




 今回は、誰も悪く無い。

 ワシも、多分、悪く無い。

 筈。


「すまん、アレク、パニクった」

「俺、ちゃんと聞きたいんだけど」

《私に説明させて》


 ざっと言うと、本当に好きで、長も人生を終わりにしたかった。

 この現状は、本当の願いが叶えられた、と。


「名前の要望は?」

《いえ》

《私も聞いて無いよ》


 そうか、名前が本命だったのかな。


「名付けたんだ」

「うん、ソッチが本命だったのかしら」


《それは違うと思うよ?好きだから》

「好きだからって」

《怒っても良い事ですよ》


「怒ると言うか」

《シオン、名前は大事でしょ?だから、そうやって愛して欲しかったんだと思う》


「お墓は?繭はどうなるの?」

《中身が空なら既にご遺体は霧散しているだろう、と。繭化も洞窟内部全てに達すれば、いずれ消えるそうで。お墓も、特には建てないそうです》


「蜜仍君は、能力は」

《存じています。真に土地へと根付く儀式でも有るので、能力が消える等の弊害は無し。次代への膨大な記憶の引き継ぎも、無いそうです》


「そっか、貴重な泣き顔を見れば良かった」

《幾らでも見せるので、自罰的にはならないで下さい》


「言ったな」

《はい》


「あぁ、良い思いして寝て起きて、相手が死んでるってドッキリかよ」

《残念ながらマジなんです》


「良いよね、急に下賤の言葉を使う感じが良い」

《他の者も、許しては貰えないでしょうか》


「許すも何も、許す」

「シオン、ご飯食べよう?」

「あの、先ずは温泉に」

《その前に検査を、精巣や精嚢が体内に残っているかも知れませんので》


「なんでそれを早く言わんのよ」

《自己嫌悪されては困るので》


「あぁ、うん、すまん。検査してくるわ、皆はお休みしてて」




 そう言われても、無理。

 私にも無理。

 黙っていた罪悪感を処理出来て無いんだもの、心配も有るし、全員で付いて行っちゃうよね。


「なぁ、サクラの事、ショナがキレそうじゃね?」

《それね、どうしようか》

「全員で、目の前でぶちキレて貰いましょう」

《私は寝てからで良いでしょうか、どうにも寝れなくて》


「ネイハムの癖に繊細」

《良く寝れるアナタには言われたく無いですよ》

「新鮮、こんなやり取り初めて見たかも」

《それこそシオンに》


「先生、コレ有ったけどどうする?」


 想定内なのにネイハムが絶句した。

 だよね、亜人を良く知ってたら驚かないんだけど。


《どうする?保存する?》

「良いの?」

《良いんですか?》


「別に、え?拒絶した方が良い?」

《いえ、ただ身勝手な、自分勝手な相手の》

《そう残るのは亜人なら良く有るし、焼却処分は蜜仍君と相談してからでも良いんじゃない?》


《そうですね、すみません、本当に有るとは》

「ネイハム、心配で寝て無かったみたいです」

「んで、寝て起きてから、全員でショナに怒られようってさ」

「それ、ワシも?」

《ううん、私達だけ。でもアレクは抜けて良いと思うよ?》


「いや、あの場に呼ばれなかったら俺も怒ってたけど、コレだと、コッチだよなって気分」

「気分て」

《よし、じゃあソレはストレージへ入れて、ご飯食べない?》


「風呂、メシ、先生は寝る。それからだ」

《はい、助かります》




 結納なんて、とんでもない。

 桜木さんの昨夜の相手が長で、その長は亡くなって、いつかそうなる事を蜜仍君も先生も最初から知っていて。


「どうして、マティアスさんは気付けたんでしょうか」

《亜人ぽいなって、ピアス外して様子見したのがバレたっぽくて、一緒に居ただけのミーシャも巻き込まれた》

「はい、巻き込まれましたが、受け入れもしました」


「それは、どうして」

「愛してるって分かってしまったので」


 愛して欲しいから、でも食い殺してしまうから、だから食い殺された。


「ショナには衝撃と刺激が強過ぎたな」

「紫苑さんは」


「ワシはもう大丈夫」

《それが心配なんだけど、今は良いけど後で》


「例えば何よ」


《心因性の、不全とか》

「試すか?」


《そうやって自己の扱いが軽くなるのとか無理》

「ワシが、マティアスを寝かし付けて行ったから、怒るのは」


《違うよ、私が寝逃げしたかったの。ミーシャやネイハムの方が》

「私は一夜限り、だけ、譲ってやったと思い込んでます」

「強いな母ちゃん候補は」


「紫苑さん」

「はい」


「ちゃんと泣きました?」

「いいえ」


「じゃあ怒りました?」

「いいえ」


「マティアスさん」

《はい》


「どうして言ってくれなかったんですか?」

《共犯にしたく無かった。私ですら気付いた事に後悔したから、アレクにも言わないで迎えに行かせたし》

「ごめん、俺が先に泣いたから、シオンの涙が引っ込んだんだと思う」

「泣いてたから何か知ってるのかと勘違いした、つかパニクって何で何でしたわ」


「アレはちょっと可愛可哀想だった」

「紫苑なのにか」

「紫苑さん、抑制魔法は」


「して無い、間も無かったでしょ」

《うん、検査とトイレ以外は見守ってたし》


「それでその反応は」

《自制心と、呪い?》

「人前で泣くのは同情心を引きたがってる、弱いヤツがする卑怯な手口、被害者ぶるな」


《その暴言をたった1回だと思ってるけど、されど1回だって分かってる?大きな暴行事件と一緒なんだよ?》

「分かってるんだけどもなぁ、他人にはそう思わないんだけど」

「もう身代わりで良いんで、似た人間を殺して良いですか?」


「それは、嬉しいな」

「笑顔出てませんよ」


「ズタボロに甘えたい精神と自制心が殴り合いしてる中に居る」

「私としましょう、男同士で」


「でも、長引かせたら卵子提供が」

「コレは一生に関わります、出来るかどうか確認するまで私は眠りません」

《私が代理で許可します、って言うか確認されて欲しい、安心したい》


「私は消えません、桜木様を看取ります、ずっと一緒です」

《シオン、言うこと聞かないと泣くよ》


「脅し方。分かった」


 紫苑さんに表情を戻させたのはマティアスさん。


 僕は、浮かれて、何にも知らないで。




 ネイハム寝てるし、ショナ君は無力感で落ち込んでるし。

 コレ、私の役目だよね。


《何も知らないまま浮かれてたとか考えて、落ち込まないで欲しいんだけれど》

「読みました?」


《私も向こうじゃお医者さんだよ?》

「あ、おめでとうございます」


《ありがとうございます。そうじゃ無くて、精神も齧ってたの》

「でも、事実ですし」

「俺も何も知らなかったら、浮かれてたと思う」


《私もだよ。アレクは結納って分かる?》

「結婚の前準備みたいなヤツ」

「親からその話が出て、浮かれてて、コレです」


「あぁ、殺そう、誰か」

《それ以外の方法で収めない?》

「滅多切りにされたいんですけど」


《自傷行為禁止》

「加虐されたい気持ちが今分かりました」

「程々の方が良いよ?」


《えー、ショナ君》

「マティアスさんはどうなんですか?」

「甘えたい?泣きたい?虐められたい?」


《甘やかしたい》

「俺も」

「どうしたら甘えて貰えますかね?」


 ラウラの事で舵が一気に取れる、凄い。


《甘える》

「ショナには難しそう」

「どうしてそうバレるんでしょう?」


「コレだけ一緒に居ればね。もう、甘やかしたいから甘えたいで良いじゃん」

《確かに、いけるかも》

「ダメだったら泣きます」


「マジでそれで良いと思う」

《いつもこうなの?》

「偶にですね」


「な」

《ハナに見せたら喜ぶのに》

「そうですかね?」


《仲良しなのは普通に喜ぶと思うけど》

「絡む?」

「それは遠慮しますけど。そうですね、僕らのこの感じは、そんなに見せて無いかも知れませんし」


「拝まれちゃうかも」

「それでも何もしませんよ」




 見慣れぬ男ミーシャに介抱され、解放されたのはお昼前。


 そして遠野の一軒家に戻るなり、蜜仍君に土下座された。


「許す」

「まだ何も言って無いのに」


「未成年の土下座禁止」

「でも」


「お昼食べたら話そうな?」


 食欲がすっかり戻ってしまった。

 これ、周期ズレたかなぁ。


 庭先で行われたバーベキューのハンバーガーやホットドッグを完食。

 そのままピザまで食ってやったわ。


「紫苑様、もう良いですか?」

「お布団で話そうねぇ」


 お昼寝の準備をし、蜜仍君を隣へ呼び寄せる。


「ごめんなさい」

「うん、もう許した」


「長もですか?」

「寧ろ、里の人間に殺されないかと」


「それは大丈夫です、常々食い殺されたいって言ってましたから」

「そこは公認なのね」


「はい。ごめんなさい」

「今度はどれだ」


「知ってて黙ってた事」

「あぁ、長を優先したとかは思わんよ。つかそれでも別に良いし」


「最初は、紫苑様のハーレムの触発になればって、だけど最初がコレじゃ無理になっちゃう危険もあって」

「でしょうよ、最初がコレは引き摺り過ぎるし。事情を知ってたら同情心が湧いた可能性が高い、かと言って知らないまま誰かに殺されるのも癪。だから、コレが正解」


「それでも、ごめんなさい」

「許して欲しく無い?」


「ぅうん」

「はいはい、ちょっと寝ようね」




 桜木花子の精神の回復が早過ぎではと、召喚者慣れしたマティアスですら心配する程の平常心。

 呪い故の自制心を、解きたく無いんでしょうか。


 紫苑さんの姿のまま、一服している。


《マティアスが、まだ心配していますよ》

「じゃあマティアスか」


《寧ろ、祥那君かと》

「クッソ気まずいんじゃが」


《気持ちが、リセット状態ですよね》


「あぁ、そうかも。もう、好きとか何か分からんかも」

《でしょうね、また死別ですし》


「亡くなったと思ってたら生きて帰って来て、1人はまた死んで1人は生まれ変わって、落ち着く前に一夜限りの人間が死んでんねんでノームさんや」

《しゃあ無いやんけ、本能には逆らえへんのやし。そも誰に文句言うねんな》


「自分」

《ワシちゃうよな?その自分に何をどう文句言うねん、気持ち良くなってゴメンナサイ?アホか、そう願われたんやからしゃあないやんけ。そない責めたかったらクエビコはんを責めるべきやろ、全部、知ってはったんやし》


『尤もだ』

「却下。知る苦しみっちゅうんが有るやろ」

《それが神、召喚者や。それとも、エミールに背負わせたらエエんか?小野坂か?おタケか?それともアレをただ殺させて、何がオモロいねんな》


『尤もだ』

「大丈夫だよクエビコさん。あ、あれだ、どっかの先代に怒るわ」

《せやせや、お前が後始末してやったんや、胸張らんかい!》


「おっす!」

《おう、相談料や》


「おっす」

《アイツ、マジスィーツのプロやんな?ティターニアがベタ褒めやってんけど、ワイやオベロンはしょっぱ、それやそれ、それでエエねん、ほな》


《もう、私は用無しでも構いませんよ》

「それは良い意味で?」


《半分は。君を傷付けたのは確かなので、処罰含めて再検討して頂きたいんです。マティアスも居ますから》


「飽きた?」

《いえ》


「泣けない?」

《いえ、暫くは君の放心状態を思い出すだけで泣けると思います》


「ネムちゃんの提案は常に絶対に呑むべき?」

《いえ》


「何か弱点を教えて」


《今回の事で、君の表情が変わらない事が凄く怖くなりました。ですので本当に、担当医としては失格だと思います》

「じゃあマティアスと半分こ、無理?」


《いえ、ですが》

「過労じゃろ、それが落ち着いて五十六ちゃんの鑑定受けてから、それまでは継続。でもマジでキツいなら言っいてくれ、離れて欲しいと思って無いからこその提案なんだが、どうだろう」


《ありがとうございます。もう行ってあげて下さい、今は私の方が幸せなので》

「おう」




 食事の後の温泉で、やっと紫苑さんは桜木さんの姿に戻った。


 そして僕も、桜木さんに土下座をしたかったのだけれど、顔を見た瞬間に待てをされ。

 膝と膝をくっつけられ、先ずは謝るなと言われてしまった。


「こう、防がれるとは」

「我ながら素晴らしい作戦だと思う。ほいで、君は何で落ち込んでるの」


「気付け無かった事と、落差です」

「落差」


「久し振りに会えると思ったら、こんな事に巻込まれてるので」

「あぁ、ね」


「最初は何を、話し合いに行ったんですか?」

「家族の事、なのにまぁ独善独裁独走ですよ。もう、何を言われたか詳しく思い出せないが、まぁ、国も家族もそう変わらないって。1人じゃ無いから大丈夫だろうって。今、実感してるわ」


「自分も所詮は歯車、桜木さんに少しでも何か齎せたらと、仰ってたそうです」


「体を、はりすぎ」


 口元を抑えて、静かに泣いている。

 厄介な呪いのせいで、普通にすら泣けない。


「凄く、桜木さんに爪痕を残しましたよね」

「だね」


「それも、皆で何とかします」


 今度は目を、ギュッと抑え込んで。


「自分で、なんとか、したい」

「それの手助けはダメですか?」


「なんで、やさしい」

「桜木さんだからです、桜木さんだから優しい選択だったと思うんです。僕にも、誰にも叶える度胸は無かったと思います。でも桜木さんは神様の願いを叶えた、僕らが出来無い事をしてくれた。嫉妬する部分は爪痕に対してで、爪痕を残されてしまった桜木さんには、優しくて愛しいとしか思えません」


「どうかしてる」

「前なら僕もそう思いましたけど、恋とか愛ってこうみたいですよ」


「縋り付けば、何かが、壊れてしまいそうな、感じ」

「お腹を見せる犬は、何かが壊れてるんでしょうか」


「ごめん、まだ、怯えてて」

「今もですけど、桜木さんの居た環境的にも、その反応は妥当だと思います」


「どうしても、自分を責めるクセが、なおらない」

「爪痕、傷、折り目、柔らかかったコンクリートの痕跡。どれも何も無しに、急に直る方が魔法過ぎません?」


「魔法が過ぎるけど、そう、したいでしょう、じれったいでしょう」

「桜木さんは納得しますか?してるんですか?」


「のー」

「ですよね」


「また、何が良いのか、聞きたくなる」

「信じて貰えるまで何度でも、嬉しくなるまで、嬉しくなっても言いますね」


「ありがとう」


 今日はこのまま眠って、また明日から平日、平常通り。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ