5月19日 ドリームランドで。
あんなにもロキが、皆が。
マティアス、マティアスと言うから、本当に来てしまった。
いつもの温泉郷の部屋に、マティアスが。
第2世界のマーリンまで。
《ラウラ?》
『無事?』
「おう。正直に言ってくれ、そっちはいつなんだ」
《本当にラウラだ。私が死んだのはアレから80年位だよ》
『どれだけ経ってる?』
「数ヶ月、厄災は終わった」
『良かったぁ』
《兄妹を引き取って、その子供達も、孫を見れたよ》
「おう、良かった」
《ラウラ?》
「レーヴィが先に来てて、マティアスは知ってたのか?」
《ごめんね、黙ったままの方が良いと思って》
「すまん、迂闊だった」
《ううん、アレから何度も色々と考えたんだけど。正解だと思ってる》
『ルーカスは大丈夫、ちゃんと結婚して子供も孫も出来たし。ハンナもだよ、シーリーも孫を抱けた』
「隣の国はどうなった?」
『後発で神帰りが起こってて、鎖国してただけだった』
「じゃあ戦争も魔獣も」
『魔獣は消えたけど、戦争は、ごめんね』
《四凶が残ってて、隣と日本が協力して。大丈夫、国が消えたりはして無いから》
「すまんね、中途半端で」
《居たら甘えちゃってたから、丁度良かったと思う》
『御使いにね。あの後も来たんだけど、黒い羽根の子で、逆に大変だったんだから』
《それからも、良い子も居たみたいだけど》
『ラウラより弱いんだもの。君は凄く優秀で良い子で、強くて、優しくて、生きてるか心配で、ずっと会いたかったんだよ。愛弟子ラウラ』
「こう、ココと繋がって、良いと思う?」
『実は私も死んでる、昇華した、だから向こうに影響は無いと思うんだけど。どうだろう?もう1人の私』
『別に、問題無いだろ』
『可愛い顔だねー、よしよし』
「流石神様、順応性が最上級」
『でしょう。じゃ、何処かで話をしようか、もう1人の私』
『あぁ』
「嫌になったら遊郭に投げ込んどいて良いからねー」
《まだ、数ヶ月なんだね》
「レーヴィの累積が凄くてビックリしたわ」
《だよね、しかも私は死んでからなんて。クラネスに聞いたんだ、普通は死なないとココには居られないって》
「あぁ、クラネスの元の体は死んでるのか」
《みたい。死ぬ直前に教えてくれた、それで、あぁ、やっと会えるって》
「お礼を沢山言わないといけないんだが、億万長者ぞ。本で」
《え?もう?》
「あの後、もう1回、他の世界に行ってる」
《元に戻ったとばかり思ってたのに、大変だったね?聞いても良い?》
「映画館が有るのよ、記憶を見せられる映画館が出来てる、レーヴィも観てる」
《私も、観て良いの?》
「おう」
ラウラは、すんなり元には戻れて無かった。
また教会の様な場所に転移して、神様として祀られそうになって、逃げ出して。
そして警察機関へ。
危なっかしい方法だけど、それが結局は正解なんだと思う。
そしてふと横を見ると、気恥ずかしそうなラウラ。
懐かしいけれど、こんな表情は見た事が無いな。
《もー、また危なっかしい事をしてる》
「他に方法有る?」
《他じゃきっと、弊害が有ったかもだけど。従者はコレを?》
「うん、見せた。全部じゃ無いけどね」
他の方法だったら、もっと酷い事になってたかも知れない。
もっと、収集が付かなかったかも知れない、だって私も他の召喚者達を見て来たから。
《コレ、まだ気にしてるみたいだね》
「まぁ、状況が状況だからね」
少女への思考の書き換え。
痛々しいのは慣れたけど、コレはキツいな。
《リリーは大丈夫だったから、大丈夫》
「でもだ、それが正しいのかどうか」
《薬剤とリハビリで人生の半分が潰れる事が正しいなら、私は間違ってて良いよ》
「でも、巫女さんは状況が」
《私達みたいに、彼らを呼べないの?》
「呼ばれた自覚有るの?」
《うん、何度も何度も、シオンやラウラの声が聞こえて、その方向に歩いて来た感じ》
「赤ちゃんか」
《あ、生まれ変わりたいんだけど何とかしてくれない?》
「本当に、ワシを何だと思ってるの?」
《何でも出来る神様みたいな人間。ノエルがね、偶に魘されるんだって言ってたよ、シオンに》
「あら、脅かし過ぎたか」
《尻尾をちょん切られるって》
「可愛いもんだな。あ、スプリットタンなの?」
《え、いつバレたの?》
「いや、全然気付かなかったけど、あ、あの神様。エイル先生が見抜いたんだって」
《わぁ、ヴァルキリーさんかぁ、凄いなぁ》
『お静かに』
「あ、すまんねソロモンさん」
《あれ、じゃあ》
「うん、コッチのソロモンさん」
あれからも色々な神様と出会って、ロキ神にも会って。
色んな人に出会ったのに。
どうにかなりそうなシーンも全部、何も無し。
こんな強い呪いなのに、全然気付かなかった。
《ごめんね、気付かなくて》
「大丈夫、今はもう、何とかなってるから」
《本当に?最後はほっぺにキスなのに?》
「まだ、続きが有る」
そうしてコッチに戻ってからがまた大変、自分を刺したり繭になったり。
従者さん、大変そう。
《ラウラ》
「はーい、さーせん」
そしてやっと平和になったのに、引き籠もり。
仕事で悩んだり、狼に恋されたり。
《あれ、もう終わり?》
「一旦出るぞ」
向かった先は見覚えの有る一軒家。
緑色の、タピオの家。
《そんなに気に入ってたんだ》
「まぁね」
《それで?》
「いや、ハーレムについて文句を言って欲しい」
《何で?》
「ビッチやん」
《ビッチの概念からで良い?》
「諸手を挙げて喜べないんです、まだ」
《じゃあ誰が1番か決めれる?ウチのマーリンも、ワンコも入れて》
「絶妙に外すのな」
《あんまりイジメて嫌われるのはイヤだもの》
「少しは学習したのね」
《頭良いからね》
「どうして、誰かと遺伝子を残してくれ無かったのよ」
《良い人がもう居なかったんだもの。あの時、残して貰ってれば良かった》
「残念でしたー」
《作り出して欲しいな、私を》
「前言撤回だな、馬鹿だ」
《どうしても生まれ変わりたいんだもの、だから自分のゲノムも暗記したし》
「叶わないかも知れないのに、どうして努力出来るのかね」
《私達にしてみたら、ラウラがそうだったんだよ。確証も何も無いのに、戻れた、正確に言うと戻れて無いけど。叶えたじゃない》
「転生で良いんじゃ無いの」
《ノエルと良く話したんだ、全く違う肉体にこの魂が馴染むのかって。あ、転生者も発見されてね、それで私とノエルは論を変えた。惹かれるモノが違うなら、もうそれは同じ自分じゃ無いって》
「接したのか」
《隣の神帰りを叶えたのが転生者なんだ、古い神々や精霊の記録を集めて、纏めて。叶ったのは死後だけれど、そうして隣は立ち直れて、同盟も組めた》
「今までは失敗してる、観たでしょう」
《名付けだよ、私を私の名前で呼んでくれれば大丈夫》
「失敗したら、殺さないとイカンのよ」
《大丈夫、失敗したら、それは私じゃ無いから》
「でもだ」
《私の事、嫌い?》
「その問いは卑怯だ」
《マーリンのせいにしといて》
「成功したら、世界が変わる事になる」
《ふふ、良いと思うけどな。彼、凄く似合うと思うよ》
「お世話になりました、従者のショナです」
「修羅場」
「そんな風に見えますか?」
《ご苦労様です、大変ですよね》
「ですね、怪我は絶えないですし、急にどっか行っちゃいますし」
「レーヴィさーん、お茶下さーい」
『お邪魔しますね』
《若いなぁ、懐かしいなぁ、あ、コレはさっきのムース?》
「おう」
《美味しいね。あーぁ、もっと一緒にオヤツを作りたかったのになぁ》
『ピロシキのレシピ、お渡ししておきますね』
「はい、ありがとうございます」
《あ、逃げちゃった》
「捕まえてきましょうか?」
《ううん、また戻って来ると思うから大丈夫、ありがとう》
「マティアスさんは、いつからなんですか?」
《居なくなって暫くしてから。だから、離れて良かったと思う。ずっと居たら、きっとそれこそ修羅場だったのかも、向こうにも吸血鬼は居たから》
『第3世界の方達は理性的なので安心してましたけど、ココの方はちょっと、失敗しましたね』
「そうなんですよね。マティアスさんみたいに無関心になったみたいで、ビックリしました」
《ふふ、似なくて良いのにね》
「もし失敗したら、僕が殺しても良いでしょうか」
《勿論、ありがとう、お願いします》
それから従者の子が家を出て、レーヴィも出て。
リビングで、また映画が始まった、ラウラの映画。
『サクラちゃん?』
「マティアスが来た、ワシ、マジ、ビッチ」
『占いってコールドとかホットリーディングで』
「知ってる」
『じゃあ、処女にしてみたら母親すらビッ』
「知ってる」
『ミッチーの朝ご飯は良いの?』
「あ、行ってくる」
サクラちゃんは真面目、真面目なのに体質のせいで悩んでる。
俺は確認出来ないけど、俺と今日したからって体質が収まってるかは分かんない。
手っ取り早い方法は、召し上げか、死か。
加護の代償なら負担が多過ぎる気もする、だってサクラちゃんだけの範囲に収まって無いんだもの。
『ねぇ、加護なら負担が大き過ぎない?』
《代償や対価は其々じゃし。そも加護かどうかすらも仮定に過ぎぬのじゃし》
『サクラちゃんじゃ無くても、他の時にドリームランドが繋がれば良かったのに』
《心残りが多過ぎるんじゃろう。って言うか、うぬ、ポンコツじゃな?過保護じゃよ、その思考》
『だって、サクラちゃんとハーレム要員以外はどうでも良いんだもの』
《溺愛系じゃよな、ダメ人間製造機じゃ》
『君が言う?』
《自他共に認めておるもん》
一軒家に戻ると、既にエナさん達の姿は無く。
蜜仍君を送り出し、久し振りに計測をして貰った。
中域。
朝食は凄い量を食べたのに、空腹感がまだ凄い。
「何か、具現化させただろ」
「先生から、お話が有るそうです」
ショナと共に先生の中庭へ向かうと、黙って家の中へと招かれた。
そしてソファーへ座る様にと促され、座った。
コレは、重大な告知をする時の対処法。
《レーヴィさんは消えました、マティアスさんも近々消える可能性が有ります》
「だからか」
レーヴィもマティアスも、半ば怨霊の様にドリームランド伝いで来た、しかもマティアスは死後に。
思いが遂げられたのも相まってレーヴィは昇華したのだろうと、そしてマティアスの場合は遂げずとも、時が経てば昇華してしまう可能性が有る。
まして生まれ変わりを希望するマティアスは、自分の遺伝子構造を完璧に把握していた。
シミュレーションでも既に成功しているが、法整備はまだ、でも時間が無い。
問題なのは亜人。
その亜人で生まれ変わりたいと、そうで無ければ自分では無い。
その意識が崩れれば体も崩れるだろうと、しかもチャンスは1回だけの可能性が高いとも。
《ですので》
「観せたから、その結論へ至ったんだろうか」
《観せずとも、神々が知識を分け与えてしまえば同じ事。とても、喜んでいましたよ、きっと叶うと》
「ダメだった時、ワシが手を下す。それが条件」
「桜木さん」
「ダメ、コレはワシの問題、絶対に譲らない」
「でも、法整備が」
「もう、退役しても何でも良い。絶対に、する」
《少し、迷われると思ったんですが。子孫がいらっしゃらない負い目なら、エナさんが居るので不要ですよ》
「コレはもう、連れて行こうかと提案した時からの、自分のケジメだ。そう、軽口を言ってしまったから」
《逆説的に考えて下さい、出来ると両方の世界で強く思えたからこそ、繋がったんです。そして繋がる弊害は存在しない、単独での現界は不可能なんですから》
「なんで、ワシの力でと望まないんだろうか」
《全てを観たからこそ、そう望まれたんですよ》
「連れ出したのに、戻っちゃったか」
《現実の時間の流れは、そう影響はしませんから》
「エルヒムに頼りたい」
《まだ、その時間は無いかと》
「ショナ、従者を辞めてくれるかね」
「はい、勿論です」
その返事を聞いても、まだ、決断出来ない。
桜木さんが浮島へ向かい、新たな浮島を増産した。
そうしてホムンクルスの研究所へ向かうと、施設長が1人、待っていた。
「私が賛成派なのは、きっとアナタ様へ不利益に働くかも知れませんが。それでも、信じている、応援していると示したかったんです。もう、辞表は用意しました、私にもどうか、ケジメを付けさせて下さい」
《クッソ不細工な顔やんな、泣いたらエエのに》
『お前は本当に口が悪いな』
《すみませんね、ノームもオベロンも、どうしても協力するって聞かなくて》
《じゃの、それにじゃ。恋の1つも叶えてやれんとは、神の威厳に関わるんじゃと》
『言うなれば、臆病な世界への宣戦布告だともな』
『分かるぅ、わよね?ベリサマ?』
『ね、幸せの妨害って嫌いなのよ。私も、エイルも』
『ワシらが居ても、不安か』
《エンキ神、仕方無いですよ、チェリ子は慎重な子ですからね、ふふふ》
《お任せを、どんな不備でも私とクヌムが補佐します》
『あぁ、鱗を出させるのもお手の物だ』
『ほら、ちゃんと言わないとダメですよ』
『私も居るんだし、どうか、願い請うて欲しい』
「皆さん、どうかマティアスを、お願いします」
神々の力により、施設は浮島へと移され、そして稼働した。
桜木さんの目は真っ赤なまま、ただずっと、マティアスさんのクローン体が製造されるのを眺めている。
誰かに止めて貰える前提で来たのに、とうとう、マティアスの素体が出来上がってしまった。
そして神々のチェックも終わり、もう、名付けるだけ。
なのに、だけど、失敗が怖い。
本当にマティアスだと信じられるのか、幸せに出来るのか。
『幸せに出来るか、だなんて時代錯誤、世界錯誤ですよ。アナタは一緒に幸せになるんですから』
「ソロモン、まだ呪いが残ってる」
『存じていますが、それは障害にはなり得ません。ちょっとしたスパイスですよ、パプリカの様に。まだまだ、作品は観せてはいないんですから、一緒に楽しみましょう』
「マティアス・ローリゼン」
目の前に、目の真っ赤なラウラ。
《初めて見るかも、目が真っ赤なラウラ》
「不安で、堪らんかった」
《こんなに神様が居るのに?心配性だねぇ》
「おう」
生まれさせてくれてありがとうと、神々に沢山お礼を言ってハグをして、またお礼を言って。
その横で大人しかったラウラが対価の話をすると、赤ちゃんの顔を見せろと。
《私が生む側でも良いですか?》
マティアスさんが自分が生む側になると言うと、神々がそれを了承し、消えていった。
『ふぅ、うまくいったなー』
「おま、エナさん」
《私とラウラの孫なんだっけ》
「君、さっきの、まだ前例が無いのに」
《ふふ、他の誰かに試させるよりは良いでしょ?》
『私も生めるよー』
「それでも、本当にマティアスか、どう確認したら良い」
『なにが出来る?』
《証明し続けるから、都度都度の確認で良いんじゃない?先生、ネイハムが居るでしょ?》
桜木さんが、黙って頷いた。
雨宮さんより、強い人が来たのかも知れない。
マティアスを腰巻タオルから服に着替えさせ、エナさんと施設長も連れ、先ずは病院へ。
もう、ワシより号泣してんの施設長、ターニャが対応し、マティアスは検査。
そしてワシはお爺ちゃん先生、五十六先生と面談。
「これからする後悔が怖い」
「まぁ、若い人にはありがちですよ。特に新しい事を成したとなれば、当たり前な感想でもありますよね」
「モテて困る」
「でしょうねぇ、私も。しかもこの年からとなれば困りますよ」
「どうにかしたい」
「どうにか出来て無い事が有るんですか?」
「うぐぐ」
「まだまだこれから、これからなんです。ココでも前例の無い事は沢山有ります、良い事も悪い事も。それは良い事でも有り悪い事でも有るんです、その評価は後代へ任せましょう、適当に言わせておけば宜しいんですよ。結局は、当事者では無いんですから」
「五十六先生の、好きな本は」
「良いですね、その切り替えは素晴らしい。売国機関と虐殺機関が好きですよ」
「趣味が合う」
桜木さんの面談と入れ替わりで、施設長が面談へ、そしてマティアスさんがエナさんと面談室へ。
「桜木さん、お腹減ってませんか?」
「ちょっと、減って無い、泣いたからだと思う。どう、思う」
「嫌な気持ちは皆無です」
「懐がガバい」
「逆に、どう嫌な感情が出ると思いますか?」
「そこはごめん、全く考えて無かった」
「それは問題無いんですけど、何か普通に話をしませんか?」
「どうした?」
「こう、感情が高ぶってるので、手を出してしまいそうになるので」
「真面目にそういう事を言う」
「桜木さんからなら良いんですけど、僕は僕で境界線や区切りが無いと、タガが外れ易いみたいなんです」
「逆に考えると、滅茶苦茶口説いてる様にも聞こえるのよな」
「ですね、ココじゃ無ければ押し倒したいとか凄く思ってますし」
「ギャップが凄いな、凄いぞ鉄仮面」
「ありがとうございます」
「褒められる時だけ良い笑顔なのよ」
「桜木さんが仏頂面過ぎかと、何なら苦虫を嚙み潰した様な顔をしますし」
「ヘラヘラしてたらヘラヘラすなと、どうにもそれが思い出される」
「もっと良い生活をして、今言われても妬みだとしか思えない位の生活をしましょうよ」
「見返す気が無いのよなぁ」
「見せ付けるとか」
「無いのよぉ」
僕が見せ付けたいとなったら、桜木さんは引いてしまうんだろうか。
《お待たせー、図書館行きたいんだけど?》
「検査は良いのか?」
「嚥下の練習が有る筈なんですけど」
《飲食ダメ?》
「ショナ、タブレットは」
「では、先ず身分の登録と並行しましょうか」
落ち着いてくれたと言うか、放心状態の施設長も連れて省庁へ。
ぶっちゃけ、ワシも放心状態。
そしてマティアスの身分証が、発行出来る事に。
「なんぜ」
「中継され、後押しもなされたので、法整備も整いました」
《中継?カメラも、天使さんも居なかったよね?》
『いましたよ、ふふふ』
「急に、歯車感」
「拗ねてますね」
《まぁまぁ、身分証の発行は叶うんだし、良いじゃない》
「桜木様より慣れてらっしゃいますね、ふふ」
《そうだよ、私はラウラより、ハナが良い?》
「ラウラで良いし」
「まだ拗ねてますね」
「みたいですね。では、さっさと済ませてしまいましょうね」
利用はしたが、こう、無断で利用されるとは思わないじゃんよ。
誰かに止められると思って仮面を付けてたけど、こう、利用されると考えるべきだったけども。
《ラウラ、ネガティブな事を考えてるでしょ》
「読むな」
《読んで無いもん、顔》
「読むな。レーヴィに、挨拶すれば良かった」
《生まれ変わるって言い張ってたから大丈夫。後悔は…レーヴィの記憶を見てみたら?》
「観る勇気よ」
《ラウラの為に残したのに?》
「観る、許可を」
「許可は要りませんよ、我々も既に桜木様の為だけに提供していますし。後は、桜木様次第ですので」
「ショナ」
「僕も、既に提供しています。桜木さんだけに」
桜木さんが強欲さんの美術館へ。
そこに併設された小さな映画館へ入って行った。
《ねぇねぇ、私に聞いて良いから、色々と聞いて良い?》
「はい、どうぞ」
《妖精はもう観た?》
「はい、意図はして無かったそうで」
《嬉しかった?悲しかった?》
「驚いて、少し嬉しかったんです。でも、死んでしまって、少し、申し訳無くも感じました」
《ちゃんと、全部話し合えてる?》
「いえ」
《聞かないと答えないんじゃ無い?》
「はい」
《突っ込んで聞くのって怖いよね》
「不謹慎だとは思うんですが」
《うん、ラウラには便利、丁度良いなって思う。あ、あの魔道具を使えば良いのに》
「桜木さんが、珍しく拒絶してたので」
《それも聞けば良いのに。遠慮してたら、永遠に踏み入れないままだよ。聞ける立場なんだから、聞いてかないと長続きしないよ?》
「嫌われるのが、怖くはないんですか?」
《あぁ、蛙化現象だっけ》
「はい」
《君はもう大丈夫だと思うけど、問題は私だよね。勝手に来て、決断を迫って、こうして悩ませる対象になったんだもの》
「あの、ハーレムの規約はご存じですか?」
《ドリームランドでネイハムから聞いたけど、私も良いの?》
「はい。僕は、ですが」
《ラウラと、その周りだよねぇ》
「あの、いつから、なんでしょう」
《離れてから、徐々に後悔した。凄く後悔して、面影を探して、失敗して。それも全部見せる事になるから、潔癖だから、不安》
「あの、他の方にも会われませんか?」
《でも、そっか、アレク君だっけ》
「はい、それと白雨さんも」
《じゃあ、先ずはアレク君かな》
アレクへ連絡すると、遠野の一軒家に既に勢揃いだそうで、僕とマティアスさんは送って貰う事になった。
先生にコンスタンティン、アレクを見てしまうと、つい、額縁の外に居る感覚になってしまう。
『それを、疎外感と言うんだろうか』
「あ、顔に出て」
《ラウラの映画館のお陰だね。君、凄い鉄仮面だもの》
「それなー、そのせいでややこしい事に」
《作品を観ると、凄く良く分かりますよ。好みの顔だって、ふふ》
「コニは作品観ても良いだろうけど、ショナはなぁ」
『ティノは良いだろうが、ちょっと、許可が必要だと思う』
《エッチですもんね》
《そんなに?》
《お2人は、許可が必要でしょうね》
「そん、そんな感じなんですか?この顔ですよ?」
《好み、ですからね》
《ラウラのストライクゾーンを形にしたら、面白そうだねぇ》
「六芒星とかになりそうだよなぁ」
『その、ど真ん中』
《だからその顔にしたんですか?》
「え」
『いや、そこまでは知れて無かったが。今は、目の前に現れてくれて感謝している』
《怖かったねぇ、怒ってる感じ》
《もう、嫉妬がメラメラって。それで嫉妬の表情や感情を覚えました》
「すみません」
「サクラは怒ってるだけだって、多分まだ思ってるぞ」
《まだ、そこなんですか》
「すみません」
どれだけ観てたのか、凄い空腹感。
そして映画館から出ると、エナさんだけ、そうして美術館からも出て。
一軒家には眩しい光景が広がっていて、そっと閉じた。
『びびってんの』
『ふふふ、怖い、かね?』
「強欲さん、もう、アレは宝石箱やぁ」
『絵の悪い所は音が無い、匂いも味も感触も、知らないと伝えられない。そう想像させるだけで、想像ではお腹は膨れない、雨も寒さもしのげない。絵より家、食事、布団や温もりの方が大事だ。そしてココは楽しく過ごして帰る場所、君は君の居場所へ帰るんだよ、ほれ』
『おなかへった』
「ぉふ」
背中を押され移動したものの、もう、立ち尽くすしか出来無い。
マティアスの全てを観てしまったんだもの、どんな顔をしたら良いのか。
《嫌になっちゃった?》
「べつに」
《まだ、分かんない?》
「おう、おなか減った」
『わたしも』
《そっか、じゃあ、私は何処に行けば良いかな?》
《それなんですが、少し実験をお願いしたいんですが》
《やる》
「もー、即答して」
『ハナとおんなじ』
《ですね》
白雨と共振しないかの実験、流石にコレは即答し、白雨とマティアスと北海道の一軒家へ。
そして何処へでもドアを設置。
《わぁ、凄いねぇ》
「君こそ、ワシを軽蔑しないんだろうか」
《それ、面白い一人称だよね》
「私、は、言い難い」
《もう、ココには性別の境界線なんて無くなるんだろうし、もう良いのに》
「オールドタイプ、地球の重力に縛られてるんでね」
《あ、輝夜姫の話も私に書かせてくれない?》
「もう仕事を見付けてんのか」
《一応、作家さんだからね、ラウラには迷惑掛けない様にもしたいし》
『俺も、ラウラと呼びたい』
「急に来る」
《白雨君の話も書かせてくれない?》
『あぁ、任せる』
「こう、スッと入ってくんのね」
《ココまでは想像して無かったけれど、でも、転生したらって毎晩思い描いてたから》
「どう」
《ラウラは人に囲まれてるだろうから、先ずは近付く方法だとか、どう私だって気付いて貰えるかとか。でも、こんなに拗れた子だとは思わなかったなぁ》
「ワシ、凄い年上ばかりよな」
《急にこう、現実に戻っちゃう感じ?》
『良く有る、賢者タイムには特に』
「もー」
《まぁ、でも、凄い高齢者ばかりだものね》
『ロキにネイハム、そして俺も』
「どう割っても凄い年齢なんだもの」
『年上に好かれると言っていた通りだな』
《それと年下にも、蜜仍君、拗ねてて可愛いかったねぇ》
『今日は、譲る、ハナが良いなら』
「そん」
《ラウラが出来るか、だよね》
『スイッチを教えようか』
「やめい」
《そう御されると知りたくなるなぁ》
『んん』
《耳かぁ》
「君らには物理的な距離が必要だったわ」
《だね》
「夕飯に戻るか」
『あぁ』
マティアスさんのお夕飯はお粥。
その流れで今日は白い餡掛け雑炊、卵黄の醤油漬け、それと蜜仍君が買って来た沢蟹の素揚げ。
「ショナ、このメニュー」
「はい、いつ出そうかと思ってて、今日かなと」
《さっき観たやつだぁ、美味しそうだなって思ってたんだぁ》
「ですよねー、いただきまーす」
「もう、こう、スッと入ってもう馴染んでんの」
《年の功だね》
「言葉も上手だし、語彙力も、言葉は向こうで学んだんですか?」
《うん、頑張ったんだからねー?教えて貰えば良かったよー》
「同音異義語だ送り仮名だ」
《むつかしいねー》
「可愛く無いなぁ」
桜木さんが言う通り、周りにも直ぐに馴染んで。
桜木さんにも、直ぐに馴染んでしまった。
そして今夜も桜木さんは蜜仍君を寝かし付け、北海道の一軒家へと向かった。
『ハナは、睦言が好きだから』
「君その物言いは、まぁ、そう言う意味か」
《ありがとう、話し合いをしてみるよ》
白雨君が2階の寝室へと行ってしまった。
そしてラウラは、私の記憶を観てから、よそよそしい。
「すまん、全部観た」
《ヤキモチ、妬いてくれた?》
「ワシより可愛いのに君は頭が可笑しい、どうかしてる、美的センスが。兄弟揃ってどうかしている」
《コレ、蛙化現象?》
「嫌悪とか、忌避では無い。けど、多分、そう」
《カエルを気持ち悪いと思わないなんて、どうかしてる》
「そう、それ」
《私、ヘビだよ?美味しそうには見えても、気持ち悪いは無いんじゃないかな?》
「それ、何処まで本能とか残ってるの?」
《私の場合は。先ずは舌》
「凄いな、独立して動くの」
《目以外は人間より良い、ピット器官とヤコブソン器官が有るから》
「なんで言わっ、亜人のプライバシーか」
《それもだけど、普通、女の子は蛇とか嫌いでしょ?私の場合は、蛇化が嫌だったから、かな》
「でも、それじゃあ」
《その感覚を抑えてくれてたんだよね、ロキが》
「じゃあ、あの後」
《そこはマーリンが何とかしてくれた》
ラウラはマーリンの事を思い出したのか、窓辺に行き、窓を開けた。
「マーリン、君の2号は大丈夫?」
『あぁ、遊郭でダラダラしてる』
「すまん、もう面倒を起こしたか」
『いや、指名された、懐かしいって』
「そっか。ココ、どの部屋が良い?」
『丸い角部屋』
「ですよねぇ、共有になるけど良い?」
『あぁ、お前の家だから。じゃあ』
《可愛いねぇ、全然、違う》
「ですよねぇ……注射器について」
《秘仏で国有地で唯一の注射器》
「観せる前に聞くべきだったな」
《私の方こそ、ウブな所、きっと無いもの》
「え、男も?無かったよ?」
《え、それでも良いの?》
「良いと言うか、ウブかどうかで悩むなら白雨先輩どうなるねんな、アレクもだし」
《白雨君は大丈夫そうだけど、アレク君、凄い気にしてたよ?》
「君もコントローラーになるか」
《ううん、ネイハムみたいに聞き出せる程の胆力は無いもの。私はラウラと、ラウラにコントロールされたい》
「レーヴィな、世話掛けてばっかで、しかも怒られるかね、あのおじさんにまで」
《ノエルにもね。だって、忘れられなかったんだもの》
「加護が、ロキが抑えてたのが解放されて、ワシとハグじゃ強烈だったろうに。ごめん」
《灯台で誘蛾灯で、良い匂いで。本当に、吸血鬼達と接触しないでくれて良かったよ》
「最後に挨拶しなかったら」
《それだって結局は引き摺ってたよ。肌感覚での心地良さ、安心感があって、楽しかった。本当に青春って感じだったから》
「思春期遅いやんな」
《寿命からしたら妥当だもの》
「穏やかだったか聞くのって、自己満足よな」
《私もレーヴィも、ラウララウラ言ってた》
「君ら意地悪よな」
《まぁ、兄弟だから》
「ピロシキは覚えた?」
《レシピ丸暗記、リタのも》
「あぁ、初めてマティアスが来て良かったと思えたかも」
《意地悪だ、仕返し?》
「君らにしたら、とても幼いんでね。出力しまくってくれよ、レシピも」
《それと、私のデザートも》
「オーブン気になってるんだろ、まだ試して無ぞ」
《えー、勿体無い。寝れないし、良い?》
「おう、良い型が沢山有るでよ」
私も、嫌われるのが怖い。
好かれないのが怖い。
側にすら居られなくなるのが、凄く怖い。
少しだけ夜更かしし、前の様にマティアスが甘い物を作って、コチラは久し振りに中庭でエリクサー作り。
ただ少し違うのは、イチャイチャされる所。
《まだ夢みたい》
「もう良いんかい」
《もう職人レベルだし》
「明日は、ロウヒに会おうか」
《アレ、凄く感動しちゃった》
「おう、泣け泣け、涙見ると性欲落ちるらしいし」
《耳年魔で経験も有るのにウブっぽい》
「言葉攻めは睦言オンリーでお願いします」
《良いの?》
「良いとは言って無い」
《お預けが上手》
「本当に、何が、いや、言うな」
《えー》
「何で受け入れられるの、ハーレムを」
《ラウラは凄いって思ってたし、シオンを知ってるし、モテモテになっちゃうかなとは思ってたし。寧ろ、私は転生して、相手にされたかどうかって思ってた。本当だったら整形してこの顔に近付けて、お菓子とレシピを渡そうって思ってた。けど、もう誰かのモノになってるだろうって、だから、凄く、悲しかった》
「お、泣いてやんの」
《ごめんね、子孫を残せなくて。頑張ったけど、ダメだった》
「うん、君は頑張った、悪く無い」
あのノエルやレーヴィと子作りしようとして、却って説教されて。
妥協の産物じゃ無いんだと言い切れ無い限り、協力はしない、と言い切られていた。
完璧主義、そして子供の事を考えて作らないで居た。
そして確かに面影は重ねてたみたいだけど、ちゃんと愛してる様には見えたけど。
先入観なのか、お相手に不安が伝わってしまってる様にも見えた。
《ぅう、ごめんね。ちゃんと、口説かせて?》
「分かった、何が良いの」
《優しくて穏やかで、でも激情も持ってて。繊細で、ノリが良くて面白くて。異性で同性で、だからウブちゃんがどっちか分からなかったのも、良く分かるなって、思う》
「そのセリフをいつから考えてた」
《遠野の一軒家で、きっと何が良いか聞いてくるだろうって、エナ君が教えてくれた》
「アレも一応神様だからな?」
《知ってる、神様まで惹きつけちゃうんだもの、やっぱりラウラは凄いんだよ》
「聞かれたら困る事と、弱点を教えろ」
《何回したか……》
嘘発見器には反応無し。
だけど。
「コレ、反応無いけど。君はなぁ」
《ココでも加護無しだし、ちゃんと反応すると思う》
「は、じゃあ辛いでしょうに」
《加護は、終わったら考えるって、エンキ神が言ってくれたよ》
「あの神様達は」
《このままでも良いよ、ラウラの事が良く分かるし。人は少ないし、良いよねココ》
「白雨も言ってたのよね、ココが良いって」
《さっき、一緒に住んでも良いって言ってくれたんだけど》
「君らが良いなら良いが」
《でも、受け入れて貰えないなら無理、だからコントローラーなんて無理だって思ったんだもの。凄いよね、彼》
「じゃあ、後は君の問題だな」
《やっぱり、無理かも》
嘘、跳ねる様な音。
「君なら嘘すらコントロールしそうなんだよなぁ」
《いつでも試して良いから、側に居させて》
「それはつまり」
《ラウラが嫌じゃ無いなら》
「君が出来るなら」
《勿論。だって、ずっと願ってたんだもの》




