4月30日 浮島青花研究所、南極支部。
朝イチで柏木さんから連絡が。
【神々の助言と研究員の後押しで、北極浮島案、許可が出ましたよ】
「マジか、ありがとうございます」
【ただ、研究者達を御さないといけないので、そう毎日出勤とはいきませんが……】
研究者の殆どが寝食を忘れて没頭するタイプなので、様子を見ながら調節するんだそう。
ましてや召喚者様に会えるんだ、と張り切ってるらしいので、控え目にと。
管理者大変そう。
「おう、分かりました」
今日は身嗜み教官はお休み、白髪のカツラを被り仮面も付け、召喚者として行動する。
先ずは浮島製造、北極でも大丈夫な設定に。
そして妖精が発生しない様に、ティターニアから呪いを授けて貰った。
建築物回収の為にショナと郊外へ移動し、建築物を収納。
浮島へ行き移設後、職人さん達を入れて電気関係の工事へ。
基本的には太陽光で賄えるらしい、巨大施設なのに凄い。
そして配管はいつも通り、取水と排水管を地面にぶっ刺すだけ。
研究員が浮島と地上との出入りをする場合は、扉型の魔道具で施設内部でのみ。
扉は各国の研究施設に配置され、更に中間地点を通る、各国の持ち回りでランダムらしい。
そしてコチラは家の有る浮島経由のみ、自分と同行者だけ入れる設定に。
点検整備後、浮島を北極に配備へ。
ショナの連絡直後、人が扉から入って来た、今日はイギリスの扉らしい。
そうしていると施設が稼働を始めた、そも稼働した事に驚いた。
既存の青い薔薇に青い菊は、より青へ。
そして睡蓮と蓮、彼岸花、芍薬にチューリップ。
それらを何故、研究するのか。
向こうもコチラも合致する事。
したいから。
簡潔。
今日も余談は一切無し。
昨日はあんな事が有ったのに、既に気持ちを切り替えてくれているのか、仮面を付けてはいるが普通に職員と接している。
そして最初の実験へ。
ピンク色のチューリップが開花。
眼鏡を掛けてなお、僕には妖精は確認出来無いが。
「桜木さん」
「大丈夫、妖精は居ない」
嘘は無し。
「はい。では、続けましょうか」
開花の合間に成分解析へ、次は深い紫色の菊を開花。
それも解析へ。
「地味、こまい。もっとわっさーと生やしたいのに」
その言葉を狙っていたかの様に、運ばれてくる鉢の数が一気に増えた。
研究員の方もコチラの様子見をしていたらしく、一気に活気付いた。
成分分析し、青色と呼べる色に近い株を増やし、更に選んでは増やし、色を調節していく。
年単位の作業を、ほんの数分で終わらせてしまえる能力。
教会派も出来る筈なのに、しなかった事。
だからこそ、また狙われてしまうんじゃないかと不安になる。
もう、後で確認しておこう。
そしてとうとう、青色と呼べる色が出たらしい。
「桜木さん、計測させて下さい」
中域。
この計測機も、もう少し精度が良ければ。
いや、マメに計測すれば良いだけだ。
「コレ、良い事なのかね」
「少なくとも、研究員の方は喜んでますよ」
桜木さんは、全く嬉しく無さそう。
「実は、後にコレが問題に」
「花粉での受粉は不可能な様に操作しているんですし、もし変異が起こったなら人間のミス。世界ちゃんの選択ですよ」
「それで納得する?」
「皆さんも納得して、ココに居るんですよ」
「世界ちゃんは喜んでるかしら」
「その返事を聞くのが、僕は怖いんですけど」
「なんで」
「気に入らないなら、桜木さんをまた飛ばしそうなので」
「気に入らないから飛ばされた派?」
「いえ、寧ろ守る為かと、色々と習得されてきましたし」
「余分、余分な?モノも付帯してっけどな」
「寧ろ、そっちが本題だったのかもですし」
「蜂かよってロキが言ってたな」
「まさしくですね」
「蜂子ちゃんやん」
「可愛いですね、響きとか」
「ハチ公」
「直ぐに負のあだ名を思い付きますね」
「不安が強い子なんでね、こう喋って紛らわせ様とする」
「黙られるよりは良いですよ」
「お、なるほど」
「やめて下さいね?」
「お、何か問題っぽいな」
「聞いてきますね」
色は出たが、花粉も出てしまっていた。
どうしてもそこが難しいそうで、株としては後回しになるんだとか。
花粉で繁殖する限り、人の目には触れる事すら叶わない。
環境汚染をしない為の去勢、処分は保留、別室へと移動させられる事に。
「去勢ミスか。普通は、繁殖したがるんよな」
「クローンとしては繁殖可能ですが」
「あぁ、エルヒムさんか、繁殖出来るのになぁ。繁殖出来る子、隔離して育てさせてくれんかね、逆に臍曲りが生まれるかもだし」
「提案してみますね」
施設の外でならと容易く許可が出た、そこまで計略内なのかも知れない、この為に外部へ出入りする桜木専用のドアが有ったのだし。
そして持ち出しになるので、花を切ってからの移動に、受粉コントロールの為に花は焼却処分へ。
「エルヒムっていっぱい居たじゃん、魂は何個も有ったのかね」
「それも、議論されてます」
「ですよねー」
研究員の要望で、休憩室の窓から見える場所に青色未満の花達を植える。
1つ1つ地面を掘り、植え替え、そして成長させる。
「桜木さん、菊花の契りって」
「知ってるが、別にそれでじゃ無いからな」
「そうでしたか。群生していると違いが分かり易いですね」
「だね、単独ならそれっぽいのに」
植え替えが終わり施設内部へ、科学と魔法の力で滅菌、殺菌消毒され施設内へ。
次の順番は青い彼岸花グループなのだが、急遽作られたガラスケースに並んだ鉢を開花させていく。
もうそれだけで研究員達は喜んでいるのに、桜木さんは浮かない顔。
既に有る青い菊に比べると、随分と色が薄いせいだろうか。
「真っ青って難しいんですね」
「もっと介入すれば簡単なんだけど、歯痒いもんですな」
「やめます?」
「やめない、我慢を学びます」
「お仕事だけにしといて下さいね」
「善処します」
それでも手伝いたい欲求は収まらず、繁殖出来る子の選別に加わり、作業スピードを早めてしまった。
そうして次に睡蓮、蓮と、あっと言う間にお昼の時間になってしまった。
「お昼に行きましょう」
「シェパーズパイ飲みたい」
「向こうは早朝なので難しいかと」
「あぁ、中つ国って大丈夫かしら」
「連絡してみますね」
家の有る浮島に戻り、カツラと仮面を外し清浄魔法を掛け、温泉へ。
念の為に服も着替え、中つ国へ。
宮殿の前に向かうと、女媧さんの出迎えでそのまま中華式土鍋ご飯、煲仔飯を食べに向かった。
お昼時を過ぎてるとは言え、ガラガラ。
勿論、字は読めないので女媧さんにお任せ。
にしても注文長いな、どんだけ頼んでるのかしら。
先ずは青菜炒め、アサリの炒め物をつつき、魚介のツミレ蒸しを少しつまみ、そしてスープを堪能していると、もう出て来た。
「もしかして、貸し切り?」
《別に店には無理させて無いわよ》
「ありがとうございますぅ」
次々に運ばれてくる土鍋ご飯、そして合うオカズ達。
そうよな、こんだけ食べるのは目立つし店の方も大変だろうし、この方が良いのか。
うん、全部は無理。
《鍋ごと持ち帰りにしなさい》
「どこまでも、ありがとうございます」
《まだまだよ、他にもお店は有るんだからね、覚悟しておきなさいよ》
「はい、ありがとうございます」
ツンデレ。
お店を出る頃、外には長蛇の列。
うん、正解ですね、貸し切り。
お返しはオヤツお重で良いそうで、渡すと宮殿へと去って行った。
そして浮島に戻り、着替えて一服。
「家でも作れませんかね」
「支店を出して貰った方が楽だろうに」
「確かに、出資しちゃいますか」
「そう言うの詳しく無いんだよなぁ」
「大丈夫ですよ」
「まーた勉強したんかい」
「兄も興味を示してたので、良い勉強になりました」
3・5・7・10年刻みで、出資した店が黒字なら年数に応じて割合が変動し、お金が返って来るらしいが。
マーケティング知らんと宝くじやんな、博打やんけ。
「知らないとアカンやん」
「それでも大丈夫な様に、こう言うのが有るんです」
出資金支援サイト。
官民の合同サイトらしいが、黒字化の成功率や金額管理まで総合的に算出してくれるらしい。
煲仔飯で調べると、お店を出したがっている人が匿名で出て来た。
サイトへの登録は勿論、条件次第で名前や詳しい業務内容が見れるらしい。
そして出資金額次第で、サービス券からディナー券、そして黒字化後の配当金割合が変わる。
「便利過ぎでは」
「安全にお金を回して貰う為だそうですよ」
「失敗しても、経済は回るのね」
「明らかに失敗しそうなのは申請で却下されたり、コッチに掲載されます」
マジのギャンブラーバージョン。
うん、相対的に向こうが安全そうって思っちゃうわ。
「でもなぁ」
「コレ、見てみて下さい」
どう見てもワシが好きな店を1ヶ所に誘致する案、ワシの為の商業施設て。
あぁ、僻地なのは安心。
「は、日付、最近じゃん」
「色欲さんの支店もココですよ」
「なんでココなのよ」
「ファンの方に安心安全に聖地巡礼して貰う為だと、リズさんが仰ってました」
「デッカイ事に巻き込むぅ」
「桜木さんもですよ?」
「あぁ、それはすみません」
「いえいえ」
薔薇の剣のレプリカ等を飾る展示会場、近くには飲食店も含むモール。
そして大型船も寄港出来る港に、宿泊施設、果ては遊園地に水族館まで。
0なら破綻するタイプの構想やんけ。
「破綻しそう」
「国内だけの需要でしたらギリギリだそうですけど」
「海外に、ワシの支援者居るんかい」
「好意的なメッセージの件数から算出した場合、破綻はしないそうです」
「ちょっとずつ拡張する遊園地の気持ちが分かったわ」
「経済的には凄く活性化して、良い方向になるそうですけど」
「いやぁ、既存の場所を乗っ取る方が良いのでは」
「施設や設備の老朽化の問題が出ますし、敷地面積の問題も有るそうです」
「でもだ、デカい金が動くのは怖いわぁ」
「因みに英国ではエミール君の聖地に着手したそうですよ。生家は勿論、良く行っていた場所や遊園地をモデルにと。それにもし出来たなら、第2や第3、そしてドリームランドの遊園地も共有したいそうですし」
「この前の資料に無かったんだけど」
「投資や新構想の話が出たら、出す様にとの指示でしたので」
「あぁ、別にええけど、エミール凄いなぁ」
「そもそも、ドリームランドの遊園地や水族館の構想は桜木さんなんですからね?」
「採算考えてナイスもの」
「採算を考えても、可能だって事なんですよ?」
「素直に喜べないのよなぁ」
「この件は僕は導入までなので、後は専門家の方から説明が有ります」
「あぁ、はい、後日で」
「はい。では、研究所に戻りましょうか」
桜木さんと再び施設に戻ると、更に設備が強化されていた。
一斉に開花させても大丈夫な様にと、壁面は全てガラスケースで埋まり、満杯に鉢が入っている。
「圧巻」
「ですね」
早速、一斉に開花させ、花粉を出してしまうモノから選別、今回はそのまま桜木さんのストレージへ。
意外にも自然交配への期待も有るそうで、後の時間は外でガーデニングする事に。
検査機器の都合上、毎回こうなる可能性が有るらしい。
「コレは楽しい」
「動くタイプの単純作業が好きなんですね」
「かもかも、あ」
「今度は何ですか?」
「養蜂」
「それは直ぐにでもしましょう」
許可は出たが、花粉が含まれるのでココでだけ消費するか、神々への献上品専用になると。
「寧ろ最高やん」
今回は研究員の伝手で養蜂家が選ばれ、早速蜂と巣箱が運び入れられたのだが。
桜木さんとの相性が悪いのか、全く活動してくれない。
「桜木さん、もしかして本当に蜂の」
「蜂の亜人か、どっかで変異したんかしら」
急いでエナさんに相談したが、虫除けの加護で蜂が動かなかっただけらしく、室内に戻ると蜂が稼働を始めた。
どんな味がするんだろうか。
「青い蜂蜜か、エモいな、どんな味だろう」
「楽しみですね」
そして新しく持ち込まれた牡丹やダリア、椿やクチナシを成長させると、桜木さんのお昼寝の時間になった。
「はー、楽しくなってきた。青い菊花茶とか飲みたいしな、楽しみだ」
寝る準備が終わった頃、尻尾を出してみた。
無言で手を動かし、軽くにぎにぎしている。
賢人君に感謝する日が来るとは思わなかったので、後で何かプレゼントでもしないと。
ただ欠点が、僕から桜木さんが見えない事。
ずっと後ろで、じゃれられたまま。
「賢人君のお陰なんです、僕は分かり難いので、亜人の様に耳や尻尾が有れば良いのにと」
「賢人君に全財産渡すか」
「そんなに渡すと身を崩しちゃうかも知れませんよ」
「そんなに?」
「まだ見て無いんですか?」
「おう」
放心してらっしゃる。
「大丈夫ですか?」
「書籍が、怖いわ」
「ですね」
「マティアスにお礼をしないと」
「ドリームランドで、ですかね」
「あぁ、そうかも、もふもふ」
僕と桜木さんが眠っている間に、国民投票が再度行われていた。
今回も桜木さんへの通知は無し、僕は勿論賛成。
「もう、お仕事は無いですか」
「植え替えは仕事に含めますか?」
「いや」
「ならもう終わりです。まだ植え替え途中ですし、行きましょうか」
「おう」
桜木さんは再び召喚者としての恰好になり、浮島から浮島へ。
地面をくり抜いては差し込み、軽く均し、また等間隔にくり抜いては差し込み、水を与える。
桜木さんは飽きたのか機嫌が良いのか、僕に聞こえるか聞こえないかギリギリに鼻歌を歌っている。
耳をすますと、桜木さんが多次元者と言っている人の歌だった、数え歌の様な不思議な歌。
繰り返し繰り返し、終わっては始まって。
そうなると、機嫌が良いと言う事だろうか。
そうして時間が経ち、もう植え終わってしまった。
「終わりましたね」
「すまんね、人海戦術で蜜仍君とか呼べば良かったな」
「良い思い出になると思うので、このままが良いんですが」
つい、意図せずフリーズさせてしまった。
コントロールが難しい、どうにか制御しないと。
「検討しておきます」
「はい、浮島に戻りますか?」
「うい」
ワザとなのか意図的なのか、疲れていたり乗り気で無いと、この返事が多い。
今回は、悩んでの返事なんだろうか。
本当に、ヘルに心臓を増やして貰えば良かったかも知れん、心臓に凄い来たわ。
ヤバいな、わしゃウブか、死んじゃぅ。
《やーいウブウブじゃー》
「ねー、本当、心臓足りないかもだわ」
《くふふふ、これからもっとじゃろう》
「困るわ、血圧爆上がりで壊れそう」
《違う方法でこわぶっ》
「あら失礼、ついウブスイッチが口を塞いでしまった」
《それ理解してるって事はウブじゃ無かろうよ?》
「ね、さ、温泉が待ってるぅー」
洗ったカツラはドリアードに乾かして貰い、収納。
そしてもう寝間着に着替えて一軒家へ、夕飯は月見とろろ蕎麦。
休憩に箱庭、それから歯磨き。
狼になった蜜仍君と暫くじゃれ、就寝。