4月25日 紫苑で動く事と、献立。
【働きたくないでござる、って言ってませんでしたか?】
「追々な。すべきをしないのは気持ち悪い、いんずい」
【かと言っても灯台なんですよ?】
「それ、紫苑では無くない?」
【例の少年は紫苑さんへ惹かれたからこそ、好きを理解したんですが】
「そん、マジか」
【蓬さんも、アレはマジかと】
「マジか。でもそれは」
【振り向いてくれないから興味を示す様な人でしたか?最初に軽くお世話したにしても、そんな容易い人でしょうか】
「横に置きます。仕事の話へ戻してくれ」
【チャラい軽薄男子は良いムーブですね、向こうの警戒心を上げるので】
「あぁ、どうも」
【ですが、お仕事関係になると真面目に接しますよね?そうなると】
「マジか」
【もう、誰から手を付けるか決める時期かと】
「マジかぁ」
【ご心配なら、ドリームランドで確かめてみては】
「あぁ、はい」
ドリームランドで見せ付けるにしても、当て馬にマーリンとは。
神々の先読みは凄いですね。
《先読み、凄いですね》
《まぁ、我々の願望も含んでおるでな》
『じゃの!』
《願望ですか》
《推しは居るでな》
『適任者をとの願いが影響しておるんじゃよ』
《適任者とは》
《神々の願いや思いは強いで、召し上げの相手に影響を与えてしまうんじゃと》
『じゃから、ありのままを願うロキ神、土蜘蛛、マーリンは最適なんじゃよ』
《候補者、増えてませんか?》
『支柱は多い方が良いんじゃろ?』
《くふふ、もう増えぬで大丈夫じゃろう》
桜木さんがドリームランドで、マーリンさんの好意を受け入れるかどうかで目を覚ました。
意外にも安心している自分にビックリし、飛び起きた。
《大丈夫ー?》
《寒くない?》
ヨルムンガンドとフェンリル。
この小屋を吹雪と寒さから守る為、巨体でぐるりと囲んでくれている。
「ありがとうございます、大丈夫ですよ。夢を見て、ビックリしたんです」
《夢ー?》
《どんな夢なの?》
「好きな人が、幸せそうにしている夢です」
《あ!ドリームランドしょ?》
《僕らも行きたいなー》
『くふふふ、請われたなら、連れて行かねばのぅ』
《わーい!》
《やったー!》
『ふふふ、嬉しいのぅ、堪らんのぅ』
「桜木さんは、大丈夫でしょうか?」
『大丈夫じゃよ、心配なら、再度行ってみれば良かろうに』
「お邪魔したくは無いので」
『そう思うなら邪魔にはならん、まだ早いんじゃ、寝直せば良い』
「はい、ありがとうございます。もう少し落ち着いたらで」
『ふむ、ではまたの』
フェンリルもヨルムンガンドもすっかり眠っている。
幸いにもニブルヘイムにはロキ神用の小屋は有るものの、必要最低限以外は何も無い。
雪原しか無い世界。
桜木さんが転移して目覚めた世界の様。
もし僕なら、帰って来れたんだろうか。
もしエミール君なら、小野坂さんなら、武光さんなら。
どうなっていたんだろうか。
こうやって桜木さんはずっと悩んでいて。
誰にも縋らずに。
拒絶して。
独りで。
僕なら、帰る為にしたかも知れない。
そう伝えるのが怖い。
嫌われるのが怖い。
凄く怖い。
怖い。
ドリームランドで初めて桜木花子に会えたんですが。
目を大きく開いて、完全に驚いている様子。
「何で、居るの」
《新しい場所が出来たと聞いたので》
「あぁ、コッチへどうぞ」
《どうも》
第2世界の白いフィンランド、ソダンキュラ。
街が1つ、少し離れた雪原に一軒家が1つ。
「マーリンが、折角だから作れって」
《全てを一緒くたにするより、思い出を分け、1つ1つ大切にする事は良い事だと思いますよ》
「0では、恋人の趣味に汚染されたり、残影が有ると批判される傾向が有るんですが」
《死者には打ち勝てないと知っているからでしょうね。ただ、それが無かった場合に今の君が成立するのか、それは正常で正しく普通の事なのか》
「嫌な事で無ければ、まぁ、保持してても本来は良いかと」
《仮に、影響や記憶を完全に消去して欲しいと願う人間を、君が好きになった場合、周りが認めるか》
「影響に怯える気持ちは分かるけど、消すと自分が過度に楽になってしまうと思うし、連なってるから1ヶ所で済まないし」
《外見もそうですが、君を形作る記憶や特徴がどこまで保持されていたら、君は君であると認識出来るのか。1つの欠片でも、欠ければ大きな欠損になる事も有るんですよ》
「そう保持したまま、その、嫌な事の解決方法は?」
《嫌な事であれ何であれ、消去や拒否より融和、若しくは和解。感情を上書きし、簡単な単語でラベリングし、箱に収め、安全で見えない場所に置く》
「上書き」
《嫌な話を聞きたく無い時、耳を抑えてあーあー言ってましたよね?》
「おう」
《嫌な事を思い出した時、先ずはそれを実行しつつ、私を見る》
「ほう」
《悲嘆時代の白雨さんでも良いですよ》
「関連付けされない?」
《まだ続きがありますよ、再固定化、パブロフの打ち消し》
「ほう」
《君が眼福だと思える実際の実物を見るか思い浮かべるか、そうして次は言葉を聞く。もう終わった事、仕方無い、君は悪く無い》
「そう、思って良いのか」
《はい、良いですよ、大丈夫。それにもう、終わった事、もうどうしようも無い事》
「でも、後から」
《それが事実なら、一緒に受け入れる為にどうすべきか模索し、実行します》
「カウンセラーの域を超えるのでは」
《そもそも、ハーレムの管理をする者に詳細を話す事になるんですよ?》
「あぁ、詳細て」
《どの性別で、何回か、とか》
「回数も?!」
《両方から聞き取りはします、公平性が大事なので》
「マジっすか」
《本当は中身も知りたいんですけどね》
「マジっすか」
《研究者なんですよ?》
「あー、マジっすか」
《お局ですから。それとも、あのお爺さん先生や他の方に、根掘り葉掘り話しますか?》
「ぐっ、でも、担当医なんやし」
《私は聞き取り役でしたから、主軸からのみ外れます。元から複数が関わっていますし、以降もグループが正式な判断を下します》
「召喚者とかの研究はどうすんの」
《そもコレは研究の延長線上でもありますし、継続ですよ。蓄えも有りますのでご心配無く》
「召喚者特典は要らないんだが」
《まだ、そこなんですか。狼の件の資料は読まれたんですよね?》
「あぁ、じゃあ、最悪はユラ君だけでも」
《未成年なので無理かと。それとも彼が成長するまで、被害者を増やす気ですか?》
「被害者て、コッチが被害者の気分じゃい」
《まぁ、被害者しか居ない珍しいパターンですよね》
「遠回りはするわ、余計な事をするわ、こんなバカを」
《ココでは、君の性質が秘匿されてましたし。向こうでも君は稀少種だったんですから、仕方無いかと》
「だとしても」
《君にとって個人的には余計な事かも知れませんが。井縫君やサンニァーには余計でしょうかね、もしかしたら井縫君はマトモな人生を歩んでるかも知れませんよ?》
「希望的観測は」
《想われていた事は、受け入れたのでは?君を想っていたなら、君の希望に沿うと思いませんか?》
「半分、反面は。皆、普通に暮らしてて欲しいけど、どうなったのか。正直、全く考えて無いのよね、実際は崩壊してたらと思うと」
《もう、願って呼び出してみませんか?ココへ》
「あぁ、ワンコは確かに鍵持ちだが」
『まだビビっておるの?』
《ビビりじゃものなぁ》
『煽っても効かんだろう。寧ろ、ドリームランドの安全の為に確認しろ、と言った方が早いだろう』
「神々で畳み掛けるねぇ」
『あぁ、お前の扱いは困難を極めるんでな、総出だ』
《持つべき自信を持ち、持つべき不安は解消して欲しいんじゃよ》
『より良い未来へ繋がる、良い事へと、じゃよ』
「仮に叶ったとしても、その後よ、どうしたら良い?」
『閉鎖は勘弁じゃよ?』
《お主には、プライベートと公の場を区切って欲しいんじゃがなぁ》
『そうだな。せめてだ、ホイホイと映画館に入れるのは止めておけ』
《そうですね、ただ君のファンが増えたからこそ、この資料も提出して頂けたので。難しいところですね》
「おう?」
《ブラドさんは大丈夫でしたからご心配無く》
「おう」
《それで、ネイハム呼びは一生無いんでしょうかね?》
「あー、ハムちゃん」
《他にして貰えます?》
「他にある?」
《ネイト》
「んー、慣れるまで我慢してくれ」
《では、いつ始動しましょうか、ハーレム》
「話が戻った、不思議」
《ですね》
「仕事に逃げたいんじゃが」
《では、向こうで話し合いましょうか》
桜木さんの夢を、また覗いてしまった。
今回は雪原の一軒家で先生と、桜木さんと、ただ話をしているだけだったけれど。
僕はただの妖精で、それを外からただ見ているだけ。
先生も好意があるのは全然想定外で、だからショックな筈なのに。
そう傷付いてる感じも自分には無い。
実は自分は、そんなに好きではないのかも。
それか、こんな性癖なんだろうか。
『ショナくーん、元気ー?』
《あ、エイルだぁ》
《エイルー》
「おはようございます」
『おはよう、眠れてるなら良かったけど、兆候は無さそうね』
「どうしても、桜木さんの気持ちが気になって」
『何よ、何か見ちゃったの?』
ショナ君は、マーリンからの告白を見ても、主治医からハナへの好意を目撃しても傷付かなかった。
それは、好きじゃ無いからか、性癖なのか。
って、何よ、この可愛い生き物は。
凄いわね、ハナの嗅覚。
『要するに、嫌われたく無いのね』
「好意を示して嫌われるなら、全然、このままでも良いなと。それにこう、執着や独占欲が無いので、だから自分の気持ちに自信が持てないんです」
『嫌われるかもって考えに比重アリ過ぎよ。本当は、好きだからどうにかしたい、って気持ちで動いて欲しいんだけどなぁ』
「でも、もし僕だったら、直ぐに子を成してたかもって。それを伝えるのも怖いんです」
『今なら、今も、そう思ってるの?』
「あ、いえ、叶うなら、桜木さんと同じ方法をとるかと」
『じゃあ良いじゃない?』
「でも、ずっとそうだったのかを聞かれたら。もう、数ミリも嫌われたく無いんです」
『はぁー、甘酸っぱいぃ…ご馳走様。でもね、ハナがどんな人間か良く思い出してみて欲しいの、どの世界でも。うん、日の光を浴びましょう、いらっしゃい』
ショナ君を連れ出し、いつもハナと一緒に居た泉の近くへ。
暫く桜を見てボーっとしてから、人間のお医者さんへ相談を勧めると直ぐに実行。
素直で可愛いわね。
目覚める直前、先生から北海道の病院で実際に会い、面談をと言われ病院へ。
先ずはショナに関する事でと衝撃的な事実を聞く事になった、ハーレムを受け入れられるタイプの人種らしい。
うそやろ。
「うせやん」
《素晴らしい嗅覚と加護かと》
「マジかよ」
《元から素養は有ったみたいですが、本人のお相手への審査が厳しいので、今まで気付かなかったそうです》
「開花?」
《ですね》
「だれのせいだ」
《君ですよ》
「あぁ、蕾のままで居させるべきだったのでは」
《頭、イジります?》
「それな、ちょっと考えちゃうわ」
《ですが、世界ちゃん的には名采配かと》
「でも何でジュラは、あぁ、もう相手が居たからか。にしても、他に」
《集団生活で、月経周期が合わさるのはご存知ですか?》
「マジかー、そこをそう、あぁ、気を使うか」
《勿論、それだけでは無いんですが。女性が苦手な女性も想定されてましたし、逆も然り。なので身長や能力的にも、ジュラさんと祥那君の組み合わせが第1候補だったのは、自然なんですよ》
「あぁ、ワシも安易に女性だと勘違いしたしな」
《もう迂闊に脱いでませんよね?》
「学習はした」
《サウナ》
「アレは虐待を疑われてて面倒なのと、逆に性別を誤魔化す為です」
《そこは警戒心が高くて好きですよ》
「あの大嫌いさんはどうしてんだろ」
《ブラドさんでしたら、私財の殆どを強欲さんへ寄付をしたそうですよ、あの映写機と国の為にと》
「アレな、クッソ泣いたんだけど、どうしてくれるよ」
《2回だけなんですよね?あの映画を観たのって》
「おう」
《描画精度が良いって褒めてましたよ。だから、魔法が良く使えるんだろうとも》
「まさかの才能。でもなぁ、マティアスならもっと凄いと思うぞ、多分アレは映像記憶系だし」
《その可能性は高そうですし、良い実験材料なんですけどね》
「あぁ、本人が進んでやりそうで怖いわ」
《そうなれば、ドリームランド同士の回線が強く太くなりそうですよね》
「それな。でもそれ良いのかね」
《第2も第3も、クトゥルフが封じられた世界なので問題無いそうですよ》
「ワンコ来たら困る」
《では、ショナ君にエロい方向で説得させますかね》
「なら誰がストッパーになんのよ」
《私がストッパーです》
「どこがよ」
《ちゃんと君のペースで進められる様に、ユラ君やエミール君やアレク君を抑えフォローしてるんですが》
「すみませんごめんなさいありがとうございます」
《コレからは、篩い落とすんでしたら、トコトンやって下さい。想像以上にタフで引きますよ》
「そんなにか」
《君の言う世界ちゃんが居るなら、本当に名采配だと称賛出来る程に》
触れて、触れられて。
エイルがドゥシャを置いて行って、追い返そうと触れても死ななかった。
それがつい嬉しくてベタベタしてしまって、こうなってしまった。
《ごめんなさい、つい、嬉しくて》
《私もです》
私の見た目を気にしないで、ニコニコしてくれて。
だからつい。
《春ですなー》
《素晴らしいですなー》
『あぁ、成功したのねヘルとドゥシャ、良かったぁ』
《それでも少しドキドキでしたぞ?》
《失敗してたらとドキドキでしたぞ?》
『ふふふ、成功したんだから良いじゃない。コレでやっと、心置きなくドリームランドへ行けるわぁ』
《何と言う策略家》
《計略の血は侮れませんな》
《お父上そっくりですぞ》
《全くですぞ》
《はぁ、寝てしまいましたぞ》
《我々も、少し休憩しましょうぞ》
サクラちゃんを浮島で待ってると、早速一服へ。
何か、混乱してる感じ?
『どうしたの?』
「ハーレム案が着々と進行してんの」
『そっか、良かった』
「賛成派か」
『うん、それでも相手して貰えるって信じてるし』
「そう賛成する方か。どうして受け入れられる。良く精神が保てるな、ワシなら無理」
『サクラちゃんの場合は英雄なんだから無理だよ』
「もっと噛み砕け」
『世界中の御伽話の王子様が、実は全員同一人物で1人しか愛せないなら、1人しか救えないでしょ?』
「ヘルに嫌われる」
『んー、それは、多分大丈夫。行ってみよう?』
ヘルヘイムに向かうと、中庭にはドゥシャ君とヘルちゃん。
ベール越しでも伝わる幸せそうな雰囲気。
サクラちゃんはビックリしてる。
「ヘルさん、ドゥシャ」
《ハナ、ありがとう》
《有り難う御座います》
「いや、ワシは何も」
《そうなの?》
《みたいですね》
《そう。ふふふ、私やっぱり、ハナをお母様と呼ぶべきかしらね》
「いや、その」
《ふふ、冗談よ。ハナ、恋って本当に怖いのね》
『あのね、サクラちゃんがハーレム予定なんだけど、ヘルに嫌われないかって』
《寧ろ、同情するわ。何人もとこんな気持ちになるなんて、私には耐えられそうに無いもの。あぁ、そうだ、心臓の数を増やしてあげましょうか?》
「あ、いや、それは大丈夫かと」
《いつでも言ってね、恋って怖いから》
「うん、だね」
ホッとしたサクラちゃんを連れ戻す途中、エイルに挨拶しようといつもの泉へ。
遠目から確認すると、泉で勉強してるショナ君、サクラちゃんは小さいから見えない位置に。
『エイル、寝ちゃってるかも』
「あれ、ショナも居るのは何故」
凄いね人間の執念って。
どう察知したのか、後ろを向いたからビックリしちゃった。
「あ、何かご用事が?」
「いや、ちょっとヘルに。君は何でココに、北海道では?」
「いえ、少し自主練で。面談はタブレットからです」
『サクラちゃんの為にね☆』
「不穏」
「……こう…亜人への変化の、練習にと」
「おぉ、可愛い格好だが」
「あの、触ってみませんか?」
「もふもふぅ」
「くすぐったいんですけど、魔法で何かしました?」
「いや?前は感覚無かったの?」
「はい」
怖いなぁ、執念で本当に亜人化したのかも。
でも、戻れるのかな。
「元に、戻れる?」
「みたいですね」
「からの?」
「出来た、みたいです。何でだろう」
人間の愛の力、怖いなぁ。
そのまま病院に行って検査だって。
同じ方向を向いてると強い繋がりなのに、不思議だなぁ。
「ヤベェな、マジもふもふ」
「尻尾だけにしといて下さいね」
簡易検査の結果は、人の遺伝子配列だけだって。
ただ向こうの亜人の遺伝子サンプルが少ないから、あぁ、マティアス君が居てくれたらなぁ。
『マティアス君をドリームランドへ呼べないの?』
「なんでよ」
「もしかしたら、ご自分の遺伝子データ以外にも、暗記してるかも知れませんしね」
「はっ、あぁ、有りそう。でも、どうしろと」
『生まれ変わってくれるかもだよ?』
「そうなると、施設稼働ですかね」
「あぁ、言いそうだ。でもアレは、失敗したら悲惨が過ぎる」
「それを、桜木さんが何とか出来ませんか?」
「ワシをなんだと思ってる?」
「神様みたいに何でも出来る方です」
「人間ぞ?」
「はい、そこは良く存じてます」
「ハーレム案もだ、君は他人事だから」
『実際に先生に会って、改めて面談して貰ったら?』
「よし、ロキさんもな」
先ずは俺、問題無し。
先生からも直接サクラちゃんへ言って貰えたけど、まだ納得出来ないのか、お外へ行って一服。
『ショナ君、ネジ曲がっちゃったと思ってる?』
「最悪はね」
『でもそしたら、限界点がくると思うよ。でも元からなら、そのまんまじゃない?』
「じゃあロキは元から?」
『うん』
「お子達、種腹違いなのにか」
『食べたり食べられたりの愛情表現なんだもん』
「あぁ、にしてもよ」
『裏切って無いから、ヘルは仲良くしてくれてるんだもん』
「もん。でも、傍から見たらワシ、オーディンさんと」
『違うよ、全然違う』
「それはロキから見たらでしょうよ」
『ううん。本人の証言を元にしたタペストリーが山程有るけど、見に行く?』
「いや、被害者のプライバシーを尊重します」
『大丈夫、見せられる用のも有るから』
《大丈夫じゃよ》
『あぁ、ワシも確認した』
「じゃあ、なら行く」
桜木花子がロキ神と出掛けている間に、祥那君の精密検査へ。
身体的なモノも含めて問題は無し。
ただ、精神的な変化は有り、それが変身にしっかりと作用したらしい。
《とうとう、国に無断で動きましたか》
「すみません。本当に、思い立ったら我慢って出来なくなるんですね」
《特に色恋では》
《ドゥシャとヘルもじゃ、くふふふ》
「あぁ、エイル先生には今回もお世話になってしまい」
《ハナの為じゃし、その対価はハナが自然と払うだろう、じゃと》
《詳しくお伺いさせて下さい》
《ヘルと相談し合うのと、エイルや神々への恋愛相談、そしてキラキラじゃよ。ドリームランドでもキラキラが増えるでな》
『エイル神は、今は楽しいドリームランドの最中じゃてな、邪魔するで無いよ』
《だけなら良いのですが》
《だけとは随分じゃな?》
『アレが、なんじゃよ?』
《まぁ、そうですが》
《全く、喉元過ぎれば熱さを忘れるか》
『全くじゃな』
《失礼しました》
見事なタペストリーを見て回り、眠るエイル先生、フギンとムニンにハンカチと甘味を捧げ病院へ。
ハーレム案を受け入れる最終的な言い訳は、無敵の人を無敵にさせない為の繋がり、家族を作り増やす事なのだと。
それで民意が落ち着くなら、案を呑むしか無いのだと。
「この言い訳で、納得して貰えないだろうか」
《誰が、でしょうか》
「この話を知った誰か、この経緯を知る誰か。万人に受け入れられるとは思って無いけど、受け入れて貰える様にする事も、大事だと思う」
《例え一般人の立場でも、でしょうか》
「あぁ、召喚者では無い状態で関わるのは諦めるよ」
《召喚者様が諦めてしまう様な世界であるべきだと?》
「いや、エミールは」
《後世の、後の代の者が読み解けば、ココで諦めた事が丸分かりです。なので、そう言った悪い見本は排除したいんですが》
「いや、出来るだけ最小限に」
《上限下限は神のみぞ知る所、それへの評価や介入は神々や個人への重大な越権行為、侵害。果ては不敬罪に侮辱罪になります。それにそもそも、好物の摂取量を他人が決めるべきだと思うんですか?》
「好物て」
《排泄行為、睡眠、飲食。三大欲求への介入はプライバシーの侵害です》
「欲求は別に」
《誰と何回で満足出来るんだ、と言い切れるんですか?それとももう、誰かと試されました?》
「あぁ、先生は適任だな本当、解任したいもの」
《弱点は存在していた方がお得かと》
「お得て。まぁ、魔王化を心配する勢力としては、そうか」
《消化し、昇華するお時間は必要でしょうから。明日からお仕事しましょうか》
「おぉ、助かる」
《程よく考え、切り替え、個人的な問題を後回しにし過ぎず、で》
「善処します」
《では、候補者のお話をしましょうかね》
そうして桜木さんとロキ神と共に、ハーレム候補者を聞いた後、一軒家へ。
蜜仍君は狼でお出迎え、ミーシャさんとはハグを。
エミール君も呼び、今日の夕飯は鉄板付きテーブルと専用の焼き機でクレープ。
ツナレタスは通常通りにクルクル巻き、エミール君も納得の食べ易さに、そして試行錯誤へ。
生地に野菜を練りこんだり、そも生地を粉から再検討したり、そうして生地の大きさや包み方にまで至り。
果ては雑穀米入りをガレットの様に包み、生地の上にハムチーズ卵や、アボカドサーモンにクリームチーズを入れたりと、そうしてテーブルマナーの練習へ。
『巻かれてる方が、味も満遍なくて良い様な?』
「エミール、そう低きに流れんでくれよ」
「良くないですよ桜木様、便利を低きにだなんて、洗い物も減るのに」
「ですね、不便は正義、無色国家の理念だそうで」
『美味しいのは、ミーシャちゃんが包むの上手だからね☆』
「ウザい」
「ミーシャさんや、ロキも一応神様だし」
『良いの良いの、俺も敬われたくない派だし』
「こう御許可は頂いてます。タコスの具も包んでみましょう」
とうとう桜木さんがミーシャさんにまで押し流される事に。
そしてそのままウインナーを入れたり、コンビーフを入れたりと魔改造へ。
それからデザートもクレープ。
ご近所から貰ったリンゴをミーシャさんがコンポートにしたモノを使い、アップルパイ風にしたり、板チョコを入れたり。
桜木さんがハマったのは、ビターチョコレートのスポンジが入ったキャラメルナッツクリーム。
『無心にモグモグして可愛いねぇ』
遂には桜木さんが眉をひそめ、無言で追い払う仕草へ。
だがロキ神が狼に変身すると、また食事へと視線を戻した。
そして後片付けをしながら、朝食の相談へ。
「桜木さん、まだ食べれる感じなんですか?」
「いや、それは大丈夫。土日祝日の献立が、普段とは別の方が楽だなと」
金曜の夜はカレーなのが楽だったのと、曜日感覚を得る為だと。
そうして蜜仍君やエミール君の配布物で、献立チェックへ。
何も無い土曜の夜は挽き肉料理、餃子や焼売、ミートソースやそぼろ丼。
日曜は巻き寿司やクレープ、生春巻きやタコス等の巻物。
どちらかのお昼には、粉物か麺類、グラタンやフォー。
そして祝日の夜は、誰かの好物。
『ハナさん、僕ら用に献立を考えてくれてます?』
「まぁ、半分位は、もう半分は従者と、残りはワシの」
「ふふ、ありがとうございます桜木様」
明日は日曜日、従者だけが知る予定として、明日は遊園地。
なので早々に眠って頂き、僕も就寝。