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召喚者の病弱日誌ー永住を決意したのは良いんですがー  作者: 中谷 獏天
第1章 厄災の後処理や、今後について。
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4月17日 ドリームランドの紫禁城ってこの為かよ。

 



 ハナとドリームランドでと約束した後、目覚めたのは中華後宮モノで良く見た寝台の上。

 不思議な事に身嗜みの整え方も、漢服の着方も分かる、そしてこれからどうするべきか、何処にどう行くべきかも既に理解している。


 そうしてハナと合流出来たのは良いのだが、かなり粗末な格好だったので先ずは入浴。

 綺羅びやかな衣装に着替えて貰い、身嗜みを整えて次の行き先へと案内する。


 役回りもあって余計な事は一切言えないまま、ハナを玉座へ。

 そうしてハナは3人目の女帝候補に任命され、私はそのままハナのお世話係に。


 呆気にとられるハナの前に、先ずは虚栄心さんがハナのお母さんである現女帝役としてご挨拶し、お父さんである国婿は柏木さん。

 女媧さんは尚宮と呼ばれる後宮の統轄部門の偉い役職、色欲さんは儀礼や知識を教える尚儀。


 リズちゃんはハナの妹役で、賢人君がその婚約者、サリンジャー先生は医官長。

 そして身内の紹介が終わると次はお相手の方々と御簾越しにご対面、アレクや白雨に続きショナ君が登場すると、一気にハナが緊張し、手を見た。


「鍵が、出ない」

「もうバカねぇアンタって、ココは治外法権なのよ?全く、口車の乗せられちゃって」

《治外法権でなければアナタの感情の余波で場が荒れてしまうの。我慢なさい》


 ハナが何か言おうとしていたのだが、抑止力に止められたのか何なのか、言葉が出ない様子。

 それとも紫禁城の強制力だろうか、ハナもそれに気付いたのか話す事を諦めてしまった。


 そしてお相手のご紹介が終わると、虚栄心様のお部屋でお話する事に。

 漢服、リアルガチで欲しいかも。


「出れないとは聞いて無いんだが」

《ふふ、うっかりさんねぇ》

《出れなくは無いわ、寝台に横になれば良いだけよ。自室のね》

「あら、本気なのねぇ女媧様」

「ハナ、場所は分かる?」


「全く分からん」


 設定としては、0世界に似た生活を送っていたハナを、実は本当の親だと虚栄心さんと柏木さんが迎えに来た。

 他のお子様達は疫病や戦争で死んだり弱っていたり、病弱であったりと女帝候補から次々に外れたのだが、次代の女帝候補が3人居なければいけないので、外の子であるハナが連れて来られた。


 そう、性転換有りな設定。

 そんな設定だからハナはココがどうなってるのか本気で分からないらしい、困ってて可愛い。


「ハナ皇女、なんなりとお申し付け下さいね」

「スーちゃんまで、ノリノリか」


「だってこの服、可愛いんだもの」

《あら、なら仕立て人を送るわ。虚栄心で良かったかしら、そちらに行かせる手配をさせるけれど》

「ならアレクにお願いしましょ、どうせ出番はまだ無いでしょうし」

「誰の出番も来ないんで欲しいんですがね」


 ハナって本気で焦って、って、あれ?こんなに分かり易い子だったっけ。

 違う、ココの私には分かる様になってるのね、成程。


「大丈夫ですよね女媧さん、今日いきなりお褥は無い筈ですし」

《そうよ、先ずはココに慣れて貰うのが先。スーちゃんに任せるわ、じゃあね》

「私も、アレクを迎えに行かなくちゃね」

《ふふ、大丈夫よハナちゃん。さ、お見送りの練習をしましょうね》


 私がお見送りのお作法をやってみせ、次にハナがそれに倣いお辞儀をする。

 現実同様に初めてだものね、コッソリ覗くとギクシャクぷるぷるして可愛い。


「頑張って覚えましょうね」

「うぃ」


 色欲尚儀さんと共に、ご挨拶に番号を振り、誰にどの礼をすべきか教える事に。

 1番は神仏関連の方への合掌、軽く小首を傾ける程度で大丈夫。


 2番には男性が良くやるご挨拶の拱手礼、拳に手を上から手を添えるご挨拶方法。

 左手が上なら男性、右手が上なら女性、見分けが付き難い方に先んじて拱手礼をすると良いと色欲さんが追加情報を与えていた、成程。


 3番に抱拳礼、拱手に似ているが掌と拳を合わせる挨拶。

 武人や学徒専用、右の拳に掌を押し付ける格好なので性差は無し。


 4番の作揖は一般的なご挨拶、両手を内側に向けて指の関節同士を重ね合わせる。

 コレも左上なら男、右上なら女と一般的なご挨拶方法。


 5番は片膝を付いての半土下座スタイル、重役以外が帝へのご報告に使う挨拶なので使う必要は無し。

 6番は帝の挨拶の仕方、基本的には片手を軽く上げるだけで良し。


「はい、あんちょこはコレに」

「扇子か、ありがとう。細かぃ」

《私や周りの人間達も補佐はするけれど、何も名乗らなくても帝へどんな人間かを先に気付いて貰う為なのよ》


「成程ね」


 成程、男か女か分からない人も多いものね。

 そして基本的には1番は1番で、後は殆ど6番でと、もし女官の振りをして見回りたいなら4番と。


 ハナは自分の事を飲み込みが悪い方だって言っていたけれど、周りの教え方が悪かったのよね。

 だって直ぐに覚えてるんですもの。


「凄い、もう覚えちゃったじゃない」

「先生達が良いからねぇ」


 個室なら砕けた事も何でも話せるけれど、人目の有る場所では制限が掛かる。

 私的には助かるけれど、コレを補助と思うか強制と思うか分かれる所よね。


 それと指甲套、薬指と小指に付ける飾り。

 高貴な人間だと知らせる為に、爪を伸ばすだけなのだけれど。


「ハナ、コレも単に名札や名刺代わり。差別とかじゃ無いのよ」

「区別ね。まぁ、ワシみたいなのには無意味じゃけどなぁ」


 スルスルと爪を伸ばし、爪の見えるデザインの指甲套を付けニヤニヤしてくれている。

 良かった、誤解は無さそう。


 そして玉佩、ハナが第3世界の女媧さんから貰ったモノと同じ、玉と言われる飾り。

 今回はターコイズ、龍では無く竜と大鳥が背中合わせに彫られた円型の玉、ハナ専用で近衛や直近の者は全てコレの小さいサイズを持つ予定。


「所属を表す印籠みたいなモノだから、渡す相手はハナが選んでね」

「はい、スーちゃんどうぞ」

《それからお相手予定の方には、コッチね》


 何も彫られていない翡翠のイヤーカフス、デザインはコレから決める話になったのだが。

 ハナは誤魔化され無かった。


「で、これからどうなんのよ」

《想像通りよ、ふふふ》


 色欲さんにもハナの気持ちが筒抜けらしく、ハナは目を見開いたかと思うと、顔を覆いながら大きな溜め息をついた。

 具体的な流れとしては正室と側室を選び、帝王学を学びつつ、お世継ぎを作る。


 ココでは3人の女帝候補が男達を奪い合う、ただしいきなりお手付きはダメ。

 公式にお互いの意思を確認しあい、お婿さんになってから致さないと、お子様が生まれても正式なお世継ぎとしては認められないし、お相手はお婿さんにはなれず最下位の愛人枠しか与えられない。


 お婿さん達でお子様の教育や公務を補佐するのだが、そこに愛人は一切関われない、リアルガチで(ねや)だけの関係。

 候補者の邪魔をする為だけのお手付きをしたなら、女帝候補者から外され夫婦として遠隔地に飛ばされる、飛ばされる理由としては近親婚を避ける為と、政治的に介入させない為。


 そして女帝として選ばれるには様々な条件が有るのだが、それはまた今度。

 最初のお仕事は耳飾りのデザインを決め、ベリサマ神が治める尚服宮へ向う事。


「お仕事ねぇ」

「もう、マジで大事なんだからね」

《何個か案を出してね、他と被ると使えないから》


 芍薬と蝶、桜と蝶、満月と蝶、三日月と芍薬、三日月と桜、デザインは直ぐに出た。

 そして尚服宮へ、第1皇女が既に満月と牡丹を、第2皇女は三日月と蝶を使用していたのでハナの案は全滅。


「ぐぬぬ。模様見本下しゃい」


 見本を見せると早かった、睡蓮と雲。

 落ち着いた柄だし、ハナにピッタリな気がする。


「ピッタリかもかも?」

「そう?」


 耳飾りの土台となる玉を1つ1つ選び、細工が出来上がる様子を楽しそうに眺めている。

 第1皇女は白い大理石の様なハウライト、第2皇女はピンク色のモルガナイト、ハナは空色縞瑪瑙(ブルーレースアゲート)


 宝飾職人役は神々なのだが、ハナは気付いて無さそう。

 そして作業を褒められる神々も満更では無さそうで、ニコニコと対応している。


《ふふ、他も回らないといけないから、そろそろ行きましょうね》


 名残惜しそうなハナの手を引き、宮中を周る。

 尚食局は飲食関係なので美食さん、尚寝局は住居関係でヘカテ神、尚功局は外部委託部門全般を担う部門なのでシバッカルさん、そして尚宮局、尚儀局、尚服局と合わせて六尚の局が存在し、宮中の業務を担っている。


 他には警備の宮正局と呼ばれる部門に怠惰さんが、内侍局は宦官の管理部門でヒュプノス神。

 演奏家や舞踊家に曲芸師等が居る内教坊局では、強欲さんが教坊長を務めている。


 今日はココまで、そしてハナの部屋で休憩。

 お茶の淹れ方、覚えたままでいたいなぁ。


「総出で何をしてるんですかねぇ」

《代理戦争、ね》


 そう、ハナを吸血鬼達に引き合せる派と反対派の代理戦争。

 私みたいな中立派閥も居るけれど、基本的にはどちらかの勢力に大きく分かれている。


 ハナに選ばせる為の代理戦争なのに、本人が使われてるって変な感じだけれど。

 ハナの幸せを願うからこその戦争だから、本人不在は不毛なのよね。


「そんな揉める?」

「私は中立派だからね?」

《私もよ。でもね、選ぶ権利が有ると思えないでいるでしょう?だからココで慣れて貰おうかと思って》


「いや、こんなん、ショナ達はどう思ってるのよ」

「気になる?気になっちゃう?」


「そら、気になりますょ」


 また顔を覆って、耳が真っ赤。

 ココだと素直なのよねぇ。


《あらあら、でもそれはまた今度。少し休憩して》

「お昼寝ね、またね」


「おう」






 とんでもないドリームランドから目が覚めると、ロキ狼が心配そうにコチラを見ている。


『うなされてた』

「そら魘されもしましょうよ、一服してくる」


 ショナが居たが、ちゃんと理解し合意の上で居たんだろうか。

 だとしたらどうしてお相手候補なんだ、何なら宦官でも良いだろうに。


『変化して良い?』

「どうぞ」


『ふぅ、何を考えてるの?』

「どうしてショナが宦官じゃ無いのかと、宦官なら安全地帯だろうに」


『だって、好きでしょ?』

「本当に好きかは分らん。だって心理学的には毎日接するだけで勝手に好感度が上がるんだもの、脳内物質での錯覚だとまでは言わないけれど。ワシ、チョロいから」


『もう気を張らなくて良いんだよ?』

「他人の人生が掛かっ…って、コレって重い考え?」


『ううん、だって結婚を前提としたお付き合いなら当たり前じゃない?まして妊娠する側なんだし、避妊率100パーって、しない事じゃない?』

「まぁ、そう思いますが」


『手を繋いだら次は抱き締めたくなるし、抱き締めたら次はキスしたくなって、次に次にってなるからねぇ』

「アナタの順番はソレね、なるほど」


『うん』




 桜木さんとドリームランドで会えた気がする様な、しない様な。

 多分、御簾越しに挨拶した気はするが、何か違和感がある。


 しかも、いつも通りの時間に目が覚めてしまったし。

 こんなに会えないなら、有給消化すべきだったかも知れない。


「おう、もう1日目終わったのかよ」

「いえ、お昼寝したと小耳に挟んだのでまだ続くかと。あの、記憶、どうでした?」


「あぁ、初めて会った感覚だったんだよなぁ」

「僕もなんですよね、怖く無いですか?何か失礼な事をしたり、言ってしまうんじゃ無いかって」


「いや、どうだろ、そこまで不安でも無いかな」

「あの、エナさん」

『単純に初期化しただけ』


「初期化って、じゃあココでの記憶は」

『持ち越せないし持っても行けない、感情の影響を抑える為に』

「だけ?」


『ズルっこ出来無い様にした、君達も努力しないとハナには近付けない、知る事が出来無い。コレは君達の自由と自主性を守る為でも有る』

「ちょっと、良く分からないんですが」

「接触したく無きゃ、向こうで無意識に回避してくれるんだろ。それと、少なくとも召喚者じゃ無いサクラをどう思うかが分かる、みたいな?」


『うん、君達はハナの顔も声も分からない。それに、ドリームランドに行かない選択肢も有る』

「ならサクラは俺らを分かってんだな」


『うん』

「で、いつ会えるの」


『もう大丈夫だと思う、コッチの派閥争いに気が向いたから』

「ならさっさと言えば良かったのに」


『そうなると自責の念が大きくて上手くいかなかった、後宮でも事務的になって誰とも接触しない可能性が有った』

「あー、難しいなぁ」

「どうしてそんなに自制するんでしょうか」


「色恋が怖いんだろ」

『それと自分自身が色恋に遭遇したらどうなるかを、良く分かってるみたいだから』


「なぁ、エナはどうなるんだ?」

『まだ分かんない』


「ショナは?」

「アレクはどうなんですか」


「独占出来無いだろうって思ってるから、悪足掻きに痕跡残しまくるだろうなぁ」

『地雷女みたい』


「一途なら良いじゃんか」

『重そう』


「ダメか?めっちゃ喜びそうだけど、重いの」

『喜ばないとは言って無い、監禁されたがりだし』

「え」


「あー、ぽいぽい」

「あの、今は自主的に引き籠もってるんですよね?」

『うん、一応』

『こら、そう不安にさせるな。ココへ帰還を希望しているが、どうする』


『うん、帰って来て貰おう』




 先ずは浮島でお風呂、そしてショナ達の居る家に帰りお洗濯、そして朝ご飯。


「良いなぁ、僕も早く行きたいなぁ。スーちゃんさん、ソチラには僕の年頃の人も居るんですよね?」

【15才迄の子が住む場所は有るけど、活動出来る範囲狭いのよ?】

「それ、何でその年齢なん?」


【16才を成人としてるからなの、妊娠出産が安全な年齢がそこらへんだから】

「実利なのね。貞操はどうなってるの?」


【区切られてるし、魔法と魔道具で守られてるから大丈夫。でも、成人したら解けちゃうのよねぇ】

「あぁ、自制心パワーが問われますな」

「僕は別に良いですよ?」


「その意味じゃ無いんだが。まぁ、もっとお外と世間を見てからにしような」

「それ、見てきたって、どうしたら分かってくれるんですか?」


「勘」

「えー、ズルいぃ」


「本当に、大人はズルいですな。ショナ、理解した上で参加してんのか?」

【それ、私も疑問だったのよね。どうして宦官じゃ無かったの?】

『任意で役回りは決められない』

「だそうです。理解はしてると思うんですが、向こうだと抑制か何かが凄く効いてまして」


【あぁ、ショナ君もなのね】

「ワシも、黙らされる。鍵も出ないし」

「えっ、大丈夫なんですか?」


「自室の寝台に行けば大丈夫」

「安全地帯から出ないので参加させて貰えませんか?お願いしますぅ」

【私達って言うより】

『精霊や神々が決めるし、望まない配役でも良いなら、そのウチ行けると思う』


「そっかぁ楽しみだなぁ」

「楽しめれば良いんだが、ほれ、準備は?」


「はーい」


「望まない配役って、不穏な事を言う」

『だって、ハナだって望んだ配役じゃ無いでしょ』


「望むも何も、何にも考えて無かったわ」

【ちょっと不安になってきたかも】

「マーリン導師は来ないんですか?」

《まだ居らんな》


「まだって、また不穏な。ダメじゃよ、嫌がる事をさせたら」

《催眠術とほぼ同じじゃよ、本当に嫌な事は出来無い仕組みじゃ》


「それさ、二段階右折的に曲解させれば可能なのでは」

《そこが催眠術と違うんじゃよ、潜在的な思いが強く出るでな》

『じゃから抑止が強めなんじゃよ』


「お、シバッカルさん。つか君らはどっちの派閥?」

【俺は中立派。お前に耐性が有るなら、ハーレムでも何でもして欲しい派だな】

【私も、色んな意味で独占を恐れるのも分かるし、ハナがそこまで器用じゃ無いって事も分かるから中立派】

《我は賛成派じゃが、ヤツらに独占させる気は無いでな》

『我も賛成派じゃが、単純に見聞を広めさせたいだけじゃし』


『ワシか、ワシは知らんでも良い事が有ると思っている。その理屈に沿うならば、会わぬでも良かろうとな、反対派だ』

『私は、賛成派』

「割合を聞いても?」


『代理で答えてはいけない決まり』

「ドリアード、マーリンは」

《直接聞くが良かろぅ、くふふ》

『じゃの!』


「行くにしてもなぁ、起きたばっかりだし」

【ゲームの感想聞かせてよぅ】

【だな、ゲームしながら聞かせろ】


「えー、お仕事は?」

『コレもお仕事』


「鵜呑みにするからな、後で何か言われても知らんよ」




 桜木さんが蜜仍君を見送り、洗濯物を乾かしてゲームと感想戦が開催された。

 どうやら全てのルート攻略後、新ルートが有るらしいが。


「桜木さんは、カスタムやギミックが多過ぎて集中出来無いのでは?」

【そう?】

【まぁカスタム要因は多いが、最初だけだろう。何周もする前提だし】

「ですな」


 桜木さんの為になるとはいえ、未だにゲームをしてる事が言えないのはもどかしい。

 ましてや攻略出来た人間も居ないし。


 いや、仮に居たとしても、それを言える度胸が自分には無い、何か言い訳を探さないと。


【なぁ桜木、何でユーリは攻略しないんだ】

「好物はとっとく、今回はアキラ君を狙う」

【あぁ、成程ね。天真爛漫キャラより陰が有る方が好きよねぇ】


「何か、そんなに癖が無いなら自分じゃ無くても良くない?って、他の人でも大丈夫そうなら興味無くなるなぁ」

【偏愛マニアよねぇ】

【百合ーズが言うかね】


「あ、ユーリ君を百合に、良いなそれ」

『頑張って』


 そうか、性別に拘ら無ければいけるのかも知れない。

 アキラ君を選択し、既読をスキップして再チャレンジ。


 同性と言うだけで、桜木さんのハードルが一気に下がった。


 そしてコチラが心配になる位に、ベタベタしても拒絶する事は無いのだが。

 気になる。


 ゲーム画面とリンクしているのは、気の所為だろうか。


【コレの立ち絵も有るとか神過ぎるんだけど】

【あぁ、ガチで神が関わってるもんな】

「あはー、ニヤニヤしちゃうかも。後ユーリ君も女同士かなぁ」


 僕と同じ様に桜木さんも既読をスキップしているせいか、ラグは有れどほぼ同じ進行速度で進み、あっと言う間に攻略が完了。


 そして同性でのチャレンジに合わせ、コチラは女性のユーリ君で攻略開始。


 チョロい、桜木さんが言っていたのはコレなんだろうか。

 でも、何か違和感が。


「あの、エナさん。この事なんですが」

『あぁ、リンクしてるから。実際とは少し違う』


 全然チョロく無かった。

 攻略しているのでは無く、攻略されているだけだった。


「なら、同じ場合」

『それは実際と同じだと思う、だけど最初だけだよね。実際にはその先が有るから』


 結婚や、子供の事。


【ねぇハナ、この流れって実際ならどう思う?】

「ココでは性転換の魔法や魔道具が知られてるワケじゃ無いし、今回は向こうから言い出されたから結婚もしたけど、リアルだと無さそうだよなとは思う」

【リアリストっつうか、無視出来無いか。その細部】


「本気だからこそ、違いが気になる。とか?」

『市井の人間には、性転換の魔法も魔道具も知られて無いからね』

【0の私ならご都合主義的過ぎて萎えてたかも】

【あぁ、桜木と出会わなかったら確かにな、ねぇだろって入り込めないかもか】


「ただそれがココに有るのがポイントなのよなぁ」

【知られちまえば良いんだろ】

【そうね、デメリットって有るのかしら】

『正直、無い。複雑性が増すだけ、開示する?』


【賛成】

【俺も】

「たんま、ご休憩してから返答する」


【いってらっしゃい】


【なぁ、ショナ君はどう思うんだ】


「正直、守らなきゃいけない場合が増えるなと思います」

『うん、ハナにはデメリットが有る。紫苑での行動も気を付け無いとだし』

【あぁ、自由に動いて欲しいけど】

【ただまぁ、アイツが悩む部分はそこだけじゃ無いんだろ】

《じゃの、人の恋路を邪魔する事にも成りかねんでな》


「不勉強で申し訳無いのですが」

《組み合わせ次第では、人々の選択肢が倍以上になるんじゃよ》

【そうね、同じ人間同士でも4通りだものね】

【ある意味で固定概念の崩壊だもんな、迷ったり悩んだりで問題は増えるだろ。俺らは、桜木って良い見本が居るからすんなり受け入れられるが、市井の人間はどうなるか、ましてそれを想像出来るかも怪しいんだよ】


【そうなのよねぇ、外見の認識のズレも有るし。その歪みが露見して問題が起きそうだし】

《ネイハムも意見が有る様じゃの》

『繋げる』


【どうも、性転換の魔法と魔道具の開示はもう少し待つべきだと思いますよ。桜木花子の為だけで無く、市井の人間の為にも】

【そうよね、私なら情報過多だなって思っちゃうし】


【そうです、他の問題の議論が成熟し切る前に新たな大きい問題が出ては、既存の議論が成熟せず散漫するだけですから】

『うん、そう言う事』


【なので、その方向でお願い致します。では】


【はぁ、眼福】

【お前もか、くっつけば桜木が喜ぶかもな】


【一瞬考えたけど、結局は顔かって思って欲しく無いし。私って陰とか癖の有る人って、見るのは良いけれど相手するのが苦手なのよね】

【桜木と真逆か】


【でもでも、ハナが陰が有ったり癖が有る方が興味を惹かれるのは分かるのよ。自信が無いのもそうだけど、求め合えるかどうかとかで。で、それなんだけど、縁がどうなってるか直感的にハナは分かるんだと思うの】

『正解』


【だから、ワンコさんとも距離を置いてたんだと思うのよね】

【あぁ、色々とギリギリのラインだったって事か。アイツ、我慢し過ぎだろ】


【そうなのよ、良い加減開放して欲しいんだけどなぁ】

「その、身柱には」

《良い意味での好き避けじゃろ。好きじゃから、もっと幸せになれる人間とくっ付くべきじゃと。問題なのは、その者の縁が他に有っても無くてもそう思う所じゃな》

『ワンコは身柱が居ても、いずれそのまま身柱含めて受け入れる可能性が有ったから、ハナが避けたって意見も有る』

【あぁ、身柱とくっつく可能性が有ったか聞いた時の違和感、それか】


『正解。身柱とだけじゃ無いから』

【ならマティアスさんは?】


『言ってたまま、向こうが求めなかったから、あのまま行けば兄弟みたいな家族のままだったんじゃ無いかって』

【だとしても、桜木を修正したいなら、0からか】


『らしい。環境のせいも有るけど、もう方程式が出来上がってるから、他に縁が有りそうな人間には興味を惹かれなくなってる』

【ましてや競争心も殆ど無いしな】

【振り切れてる人にしか興味を示せないのよね。ハナが悪いワケじゃないのに、選択肢が最初から狭いのは可哀想な気もするんだけど】


【お役目も在ったんだしな、俺らにとっては良かったよ】

【あ!アレ、少年漫画って興味無かったんだけれど、あの作品良かったぁ】


【だろ、切ないとかキュンキュンはジャンル問わず有るんだよ】

【ご教授感謝してますぅ】

《そろそろ良いかの》


【おう。話このままで良いか、アイツに最終回の告知しなきゃな】

【え?ベルセルク?】


「お?スーちゃん読んだの?」

【私はまだだけど】

【桜木、ゴールデンカムイも終わったと、他の転生者から聞いたんだが】


「なぁあああ、観たい」

【すまんがまだなんだ、国の許可が降りて無い】


「何故」

【自治区の転生者からの情報でな、しかも実はまだ向こうは、乳児なんだ】


「は」

【天使との念話しかまだ出来無い段階だ】


「白雨にやらせれ」

【アレはお前だけだろう】


「白雨が願えば出来ると信じてるので、出来ます」

【言い切ったな。分かった、色々と交渉するからミュートにするかもだ、その時はテキストで返事する】


「おけ、よろしこ」

【おう】


 確かに、僕ですらこの一瞬で情報過多と情報不足が同時に起こって収集がつかない。

 ましてや小雪さんや吹雪さんが知れば、僕以上に本来解決すべき目の前の事象から逸れる可能性は高い。




 ゴールデンカムイも、って。

 “も”が気になるが、問題はさっきの話をショナがどう思ってるか。


「でだ、ショナはどう思う。さっきの性転換の話」

「まだ大きな事が起こったばかりですし。情報過多と情報不足が同時に起こる事は混乱を招きかねないので、市井の人間にも余白と時間が出来てからの方が良いかと」


「そう?皆、頭が柔らかそうだけど」

【だからこそも有るのよ、だってほら、同じ組み合わせでも一気に4通りに増えるのよ?いくら仲の良い夫婦でも、一瞬は不安になると思うし】


「あぁ、リズ家ですら揉めるかもか」

「想像出来ませんが、有り得るかとは思います。現段階でも異性体験が議論の真っ最中ですし」

【賛成反対じゃ無く、どの年齢から施行するかでね、だからその議論が落ち着いてからじゃないと、流石にキャパオーバーと情報散漫で混乱するかなって】


「でも、リズちゃんみたいに早く変わりたい人にしてみたら」

『段取りはそんなに変わらないよ。カウンセリングは挟むし、治療の苦痛を忌避したいなら、医療と魔法の進歩を待つべきなんだし』


「理屈はそうだろうけども、妊娠はさ。体力はどうにもならんぽいし、もっと早くに生みたかったは、どうにもならんくなるでしょう」


《じゃったら御伽話の再現で良かろう、秘密を守れねば呪うか、子を頂くかじゃ》

『うん、そうしよう。ネットと口伝で噂を流す』

【神様達も協力してくれるの?】


『人々が願い、協力するのが大前提』

《じゃの》


「デメリットは?」

《高齢出産のリスクから出産を諦めた者達が不満に思うじゃろう、コレに関しても深い部分の問題じゃて。揉め事は起きるじゃろうな》

『若返りの秘薬、果ては不老不死への渇望が再熱する可能性がある』

【ドリームランドで叶えてあげたら良いんじゃない?それか秘薬は等価交換で、対価は子供】


「スーちゃん、エグない?」

【だって一挙両得なんて小さい事か御伽話だけの中じゃ無いと、戦争に発展し兼ねなさそうだし】


「ホイホイ若返って、ホイホイ不老不死になっても良いと思うんだけどなぁ。やってみせ、言って聞かせて」

『させてみせ』

「0の山本五十六と言う軍人の方の格言ですね」


「そうなの?お祖母ちゃんが、曾祖父ちゃんが言ってたって」

「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、褒めてやらねば人は動かじ。話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば人は育たず。やっている姿を感謝で見守って、信頼せねば人は実らず。ですね」

【良い曾祖父さんとお祖母さんなのに】


「三つ子の魂、朱に交わればだ」

【この、リズちゃんのって、何?】

『近墨必緇、近朱必赤。墨に近付けば黒くなり、朱に近付けば朱くなる。中つ国の古い諺』

「逆は、泥中の蓮、涅すれども緇まず」


『汚れた環境でも綺麗で居られる、本当に白いモノは染料の黒土にも染まらない。麻に連るる蓬も、周りが真っ直ぐなら、真っ直ぐに育つって意味』

【あぁ、だから蓮がハナにピッタリだと思ったのよ】

「掃き溜めに」

「掃き溜めにウンコな。真っ白って、下剤飲んでるやん」


【もー、照れない照れない】

「それは無視するけども、結局は生まれ持った性質やんな」

『だからオーラが大事なんだけど、少し変質したのは認める』

「例えば、どのような」


【結局は外見も大事だって事を、無視してる様に見えるのよね。表向きは中身が1番だって言ってるけど、じゃあそれなら何で整形が遺伝子レベルにまで及んでるのよって話しなのよ】

『歴史と時間での変形、長い時間の中で本来の目的や使命が忘れられる事は良く有る』


【それでもなぁ】

「画面越しには見えませんから、実際に会った感覚を大切にって話は残ってるかと」

『ネット普及と共に流布した、オーラを見るか感じる迄は一切信用するな』

「あぁ、なるほどね。それも変形して、混ざったと」


『うん』

【原点回帰しろとは言わないけれど、自覚有るのかしら】

「流石に、一切外見的特徴を気にしない人には出会った事が無いので大丈夫かと」

《それはどうじゃろうなぁ、深い仲にならんでは言わんし、気付かん場所じゃろうて》


『それはそう、朱に交われば、泥中の蓮。だからどちらも立場、環境、相手によって変わる場合も有るし、変わらない場合も有る』

【あぁ、もしかしたら変化が当たり前過ぎて、何故変化したか分からないのかな?規則や決まりは無いのに何だかんだお化粧するし、身嗜みの変化は劇的じゃ無い筈だろうし】

《そうじゃなぁ、小雪が化粧を始めたのはいつ頃じゃ?》


「詳しくは…ただ、多分、兄を好きだと言い始めた頃からかと」

【お兄さんの変化は?】


「それも多分、恋人と付き合う前辺りだった様な」

【んんー、マキちゃん加えましょ。それまで保留、ゲーム再開】

「へい」




 桜木さんがゲームを再開し、女性化したユーリ君を攻略。

 再び感想会に、そこには雨宮さんも加わった。


【おはようございますー】

「おはおは、ゲームやった?」


【はい!まだ全員攻略出来て無いんですけど、楽しいですね】

「どんな気持ちでしてるん?」


【私が主人公ちゃんでは無くて、主人公ちゃんの守護霊と思ってやってるんです。私のままだと、どうしても出ない選択肢ばかりだったので】

【あぁー!成程ね、それ良いかも】

「確かに、目から鱗が」


【ダメよハナは、ハナはハナでして欲しいの】

「選択肢がアカン時が有るねんけど」

『計画通り。自分で考えた言葉の方が言わされてる感が無いかなって』


「策士だねぇ、偉いねぇ」

【ハナさんの、なんだか猫っ可愛がりって言うか】

【もみくちゃ感よね】


「俺が猫ならずっと置いてくれる?」

「え、まだ悩んでんの」


「だって、何も聞いて無いし」

『機微に関わる大事な伝聞はせんぞ』

「好きにせいよ」


「ほら、こうなる」

「前にも言ったろう、ワシしか大事な人間が居ないなら、ワシが君に嫌がらせするしか無いって。それも含めてだ、ワシに選ばせるな、大人なら自分で選びんしゃい」

『それはそう、自分の道は自分で選ばないと』

《自由に選べるんじゃ、感謝せい》


「自由は、別に要らなかったのに」

「要らないモノも持たされるのが人間じゃよ」

《そうじゃそうじゃ、どうもこう、人間味が欠けるのぅ》


「狼が本質だったし、人間味の殆どはセバスの方にいったし」

「君に成人の立場は重そうだな、学生にでもなれバカタレが」

《そうじゃのぅ、良い機会じゃ格下げしてしまえ》

『うん、待ってるって』


「え、やだ、てか何才にさせられんの」

『16才、高校生』


「やだ、むり、蜜仍の勉強すら分からないのに。そんなに勉強してたら、償いも仕事も出来無くなる」

「施設長が言ってたでしょう、人間は大変だって。そんなにゴネるなら、もっと年下にさせるぞ」

《良いかも知れぬのぅ、くふふふ》

『あまり虐めても拗ねるだけだろうに、ほら、泣きそうだ』


「償うなら、嫌な事こそ、するべきだろう」

【あ、ハナまた泣かせた】


「もおー、何で皆泣くのよ」

「そんなに一緒が嫌なのかと思って。狼のままでも良いから、一緒が良いのに」


「刷り込み強過ぎてドン引きだわ」


 嘘の音色。

 嫌悪感は無し、悲しい様な切ない音。


「桜木さん、ココで嘘は良くないかと」

「ぐっ」


「俺は、魔王の時からの」

「ストップ、タイム。逃げ出して良いかな?」

「それを僕に聞きます?」

【私達は反対ー!】

【続行、継続希望です】


「君ら、コレ続けさせるとどうなるか分かってんのかね」

【【告白!キャー!】】

「え」

《ウブ2号、そう言う事じゃよ》

『面白くなってきましたねぇ』


「あ、ソロモンさん居たのね」

『はい。因みに逃げ出すのは反対です、面白いので』


「性格ぅ」


「サクラ」

「公衆の面前はアカン」

【しょうがないわねぇ、浮島に行きなさいアレク君】

【そうですね、ハナさんの耐久値が削れても困りますし】


「待った、聞く前提しか無いの?聞かないのはダメ?」

「嫌なら良い」

【あー、また泣かせたぁ】

【ちょっと可哀想になってしまったんですけれど】


「ヘルプミーショナ」

「話し合いは大切かと」


「話し合いならね、話し合う気が有るのか?」

「うん、ある」


「分かった、先に行ってなさい」

「うん」


「はぁ」

【はぁ〜甘酸っぱいわぁ】

【甘酸っぱいだけで済みますかね?】


「止めてくれると期待したのに、裏切りおって」

「話し合いなら、止められませんから」


「そう願っててくれ、ワシは容易いんだから。じゃ、行ってくるが報告はせんからな」

【はいはい】

【行ってらっしゃいませ】


《バカじゃのぅ、止めてやれば好感度が上がったかも知れんと言うのに》

「どう、止めろって言うんですか」

【そうよねぇ、ハナが先に話し合いだって逃げ道を作っちゃったし】

【ですね、告白されないで下さいだなんて、告白みたいなものですし】


「告白」




 誠に申し訳無いが、一服しながら自分に魔法を掛けてアレクとの話し合いへ。


 コレの反動って、どうなるんじゃろ。


「はい、じゃあ話し合いをしましょう」


「魔王の時からずっと続いてる気持ち、繋がりの有る感情が有る。大事にしたい気持ち、でももう魔王は居ないし、コレは俺だけの気持ちだから、刷り込みって言われても納得出来無い」


「前世として置き換えた場合、その前世の記憶や感情に引っ張られてるじゃん」

「だとしても、目覚めた瞬間から俺の気持ちだって思ってる。って言うか、何がダメなの?」


「他のと相対して比べて欲しい、ワシは碌な人間では無いし、幸せになりたいなら他の方が可能性が有るかと。何よりも自分に自信が無い、大事にも粗末にも扱える自信も無い。だからどうしたって時間は欲しいけど、その合間に悶々としてて欲しく無い」


「もしかして、抑制の魔法掛けた?」

「そらね、冷静でいられる自信が無いので」


「嬉しいなぁ」

「話し合いを続けろ」


「なんかもう、どうでも良くなっちゃった」

「話し合いを続けてくれ」


「幸せとか不幸は目指して無い、償いは目標に有るけど。サクラの側に居たい、どんな目に遭っても一緒が良い」


「なら、君を悲しませるには離れ離れが1番って事になるな」

「うん。でもサクラは嬉しく無いでしょ」


「でもだ、君には悪いが先代魔王の方が大事なんだよ。アレで異世界だと信じた部分は大きい、無力感もかなり紛れた。この世界を信じられたのも好きになったのも、魔王が居たから」

「それとショナでしょ」


「なんでその名が出てくる」

「おタケが言ってたじゃん、大事なって。大事な人で大事な軸だから、大事にしろって事だと思ってる」


「で」

「ショナを選ぶんでしょ」


「そこまで至って無い。ワシじゃ無くても、良い人を選んであげられる程の度胸も何も無い」

「それって逆に、度胸も自信も付いたら選ぶって事じゃんか」


「君が苦痛を感じるなら」

「それは無い、嬉しい、安心する。でも他は嫌だ、ルーネとかローズマリーとか良く知らない新参は無理。許さない、暴れる」


「お前の方が偏愛よな」

「純愛のつもりなんだけど。ねぇ、でも当て付けの為だけに他にいくのはやめて」


「君だけエナさんから情報引き出せよ、良く知ればええやん。新参は、我慢せい」

「もう知ってるけど、中身は別なんだし」


「アホか」

「ショナも知ってる、だって従者だし」


「職権乱用で成人剥奪、高校送りだな」

「通信制じゃなきゃ暴れる」


「ワシ、脳筋なのよねぇ」




《そうじゃショナ坊、告白じゃ》

【ぅう気になるぅう】

【あの、アレクさんに絆される確率って】

『今は0』


【へっ、ナノミクロンも可能性は】

『無い、だってハナは罰する立場だから』

【そんなぁ、ハナさんだってアレクさんを嫌いじゃ無い筈なのに】


【そうなのよ、なのにお役目だからって我慢って言うか、自制しちゃって】

【それをどうにか出来無いんですか?】

『アレクが甘えた思考を抜け出すか、振り切れるかしないと無理』

《第2世界のロキを遙かに凌ぐ犠牲者の数じゃからな。その生まれ変わりというか、魔王の子供に近いアレクを赦さぬ役目を負っていると、そう思うておるんじゃよ》


【真面目過ぎよ】

【良い所でも有るんですけど…あ、もしかして、茶化しちゃったのって】

《そこは大丈夫じゃ、今は順調に告られておる。どんな目に遭おうとも、一緒が良いんじゃと》


【【キャーー!】】

《ショナ坊や、今はどんな気持ちじゃ?》


「絆されて欲しい様な、欲しく無い様な。あまり役目に縛られて欲しく無いんですけど、その手段が思い浮かばなくて」

【ハナが本当に好きになって自分から手放してくれるのが1番なんだけれど】

【私達に出来る事は無いのでしょうか?】


《有るには有るんじゃが。ふむ、何かおかしいのぅ》

『抑制魔法だ、不味いかも』

【え?反動が凄いんじゃ】

【もしかして赤面死ですか?】


《あぁ、何でこうなるんじゃぁ》

『ショナ、止めに行って』


 浮島へ止めに向かった時には既にアレクはボロボロで、桜木さんは血塗れで。

 どんな拷問映像よりも悲惨な状態を、桜木さんが自分で治している。


「僕に言ってくれれば」

「もう魔王じゃ無いのに、ショナにココまで出来無いでしょう」


「それでも」

「人間にしたのはワシの責任だし、君はそれの加担者でも首謀者でも無いし。ワシ慣れてるし問題無い、川で流してくるからアレク見てて」


 何も言えないまま、ただ呆然としているだけで。


 紫苑さんとして戻って来た桜木さんは、水着だけの姿で。


「あの」

「まだかね」


「はい、バイタルは安定してるんですが」


「よし、アレクの血も川で流すべや」

「あ、だから水着なんですね」


「そゆこと」


 僕が思い浮かぶべきで、僕がすべき事なのに。

 完全に呆気にとられ、頭が真っ白なまま。


「すみません、僕が」

「そらビックリして頭真っ白でしょうに、すまんね。ドリアードだかクエビコさんだか、心配し過ぎだよ」

『ドリアードだ、何でこうなるんだと嘆いていたぞ』


「クエビコさんは驚かないのね」

『いつかやるだろうとは思っていたんでな』


「ごめん、シオン」

『アレク、何故にハナがこんな事をしたか分かるか?』


「俺が、我儘だから」

『それだけでは無い。ハナはもう決断したく無かった、そしてお前は好きなればこそ自分自身で苦痛を選ぶべきだった。だからだ、コレはアレクへの罰だ、魔王では無くお前の罪と罰だろう』


「大体はそんな感じ。好きなら嫌う努力をするし、一緒に居たいなら離れる。アレクが決断しなかった罰。コレで何人の故人の溜飲が下がるかね」

「何も桜木さんがしなくても」


「コレを人間にした責任だし、他にさせたく無い」

「もっと他に良い案が有るかも知れ無いんですし、下で話し合いましょう」


「有るかねぇ」

「民意を問いましょう」


「んー」

『文言は任せておけ、必要以上にお前が苦痛を感じる事は無い』

『そうですよ、マゾだってまた言われちゃいますよ?』


「その割に止めなかったやん、ソロモンさん」

『彼の方が目覚めそうだったので、ほら、嬉しそう』


「ドMやん」

『魔王や魔属性って、こうなり易いんでしょうかねぇ』


「うへぁ、風呂行って帰るか」

「うん」


 確かにアレクはあんな事が有ったのに上機嫌、寧ろ逆に僕の方がダメージを受けた感覚。

 何に、ダメージを受けたんだろうか。




 アレクと共に温泉に入り、目の前で抑制魔法を解除。

 ひたすら八つ当たりにお湯を掛け続け、収まった頃に上がり、花子へ。


 一服しながら家の庭へと戻った。


「大丈夫ですか?」

「おう、解除して八つ当たりしまくったから大丈夫」

「目に入ったから治して貰った、しみた、アレ危ないな」


「入らなければどうという事は無い」

「綺麗なのにな、目に入れたら普通に痛い」

「何か、本当に普通に戻ってますね」


「ごめんね、アレクの自分勝手な部分に少しイラッとしたのかも」

「抑制掛かった上で、少しでアレ?キレたらマジでヤバいじゃん」


「おう。つか、先ずはショナに謝れ」

「色々ごめん」

「細心の注意を払って、今後は桜木さんを一切怒らせないで下さいね」


「はい」


 桜木さんがまた嘘をついた。

 怒ってやったのでは無く、多分罪悪感から。


 後で聞き出したら、話してくれるんだろうか。


「すまんね、遅くなった」

【服、何が有ったの?】

【大丈夫ですか?】

「俺が我儘を言ったから怒られた、心配掛けました、ごめんなさい」

「殺す手前でちゃんと止めてたので大丈夫ですよ」


【ハナさん、民意を問いましょう。本来は私達が自身の手で行うべきなんですし。だからハナさんは今後一切、アレクさんに勝手に罰を下しちゃダメですからね】

「でも、勝手に人間に」


【人間にまでしてくれたんですし、本来であればそれ以降はココの人間のすべき事なんです。ですからもう議会に提出済みですので、絶対に手出しはダメですよ?】

【でもだからって、アレクも自分勝手はダメよ】

「嬉しそうにするなバカ」

「ありがとう」




 アレク君からキラキラと、ありがとうの言葉を頂いてしまった。

 ハナがアレクのキラキラに耐えられるのは、本当に凄いなと思う。


 マキちゃんも同じ感想だったのか、テキストで[ヤバい]と送って来た。


 鉄壁の要塞の持ち主、私もこんなんだったのかな。


【兎も角だ、お騒がせしました。ありがとうございます】

【うん、お世話になります】

【じゃあ、お昼寝の準備をしましょうか】


「そうね、そうしましょ」

【ですね】


【おら、もふもふさせろ】

【うん】


 ショナ君、ホッとしちゃって。

 折角、ハナを独占出来る機会だったのに。


 そんな事は微塵も考えて無さそう、良い子よねぇ。


「じゃあ後でね」

【うーい】


「はぁ、外見の話しをしようと思ったのに、ごめんね」

【良いんですよ、あの状態だとハナさんに悪影響だったかもですし】


「そんなに?」

【そうですね、結局は顔や外見なのは暗黙の了解ですから。ただ】


「ただ?」

【気にしない人の多くは、良くも悪くも男性に多いんですよ】


「気にするのは結局女性かぁ」

【そうなんですよねぇ、楽しいのも有るんですけど。どうにも今更スッピンって恥ずかしくて】


「絶対綺麗だと思うなぁ」

【いや、あ、スーちゃんには負けますよぅ】


 真っ赤になられるとドキッとしちゃう。


 ハナ、私の方が容易いかもかも。






 寝台で目を覚ますと、スーちゃんがお茶を淹れてくれた。

 そして身嗜みを整えてくれて、本当に何もかもお世話して貰っている。


「忍びない」


「バカか、コレが普通だぞ」

「リズちゃん、かわヨ」


「おい、真面目に聞けよ。時代が時代ならこの扱いでも足りないんだぞ」

「でも今は今やろ」


「芸能人だ有名人は今でもだ、ましてお前は偉くて凄いんだぞ。チヤホヤされて、世話されて何が悪い。慣れろって言わないから、マジで少しは自分の立場を受け入れろよ」

「忍びないじゃ無くて、ありがとうが良いなぁ」

「ありがとう」


「うん」

「おっし。ほれ、耳飾りが来るぞ」

「おぉ、マジだ、すげぇ」


 細工が細かいのにツヤツヤ。

 色合いとデザインが完璧過ぎる。


「良いな、普通に俺も欲しいわ」

「ご姉妹同士は流石に無理なのよね、女帝様のお子様のお子様以上で無いと」

「もう、耳飾りホイホイ渡してしまおうか」


「おま、とんでもない事になるぞ」

「そうよ、少しは選んでくれないと」

「女官の姿でウロウロしたいんじゃが」


「その為に俺が来たんだ、良いな、賢人君、スーちゃん」

「はい!」

「うっす!」


 今回はスーちゃんでは無く、リズちゃんと賢人君に同行して貰う事に。

 先ずはリズちゃんのお部屋へ、女官の格好楽やな。


「楽だぁ」

「お前、踊りちょっとやってただろ。教坊で習うか?」


「いや、恥ずかしい」

「アッチかコッチ、どっちが恥ずかしい」


「アッチ」

「ならコッチでやれば良いだろう」


「ぅう、考えておきます」

「ま、他にもしたい事が有るなら良いが、その時は頼れよ」


「はぃ、その顔隠すヤツが欲しい」

「ダメだ、コレは婚約者が居るか、既婚者の専用品だ」

「逆にちょっと、興味湧いちゃうんすよねぇ」


「な、分かるわ。で、付けたいなら女官か仕官で渡せ、コレだ」

「ケープアメジスト、ミルキークォーツが混ざってるんすよ。で、柄は下がり藤に竜胆、ベースは家紋っす」


「紫苑パクったわ」

「どうっすか?」


「最高、欲しい」

「それは追々な」


「リズさんにはもう俺が居るんで、コレはリズさんが後継者って事になるんすけど」

「俺の代でも俺は継承順位最下位だ、出世欲が有るのは食い付かないだろうな」


「望ましい立場でござる。でも良いのか?賢人君、暫くココで遊べ無いだろうに」

「良いんすよ、追々で。俺からの誕生日プレゼントっす」

「まぁ、そう言う事だ、気にせずじゃんじゃん俺に要求してこい、コイツと何とかする」


「おう」

「じゃあ、先ずは司書局っすかね」

「書と絵がいっぱい有るぞ」


 扇子や団扇で顔を隠せない欠点以外、ほぼ完璧。

 後は誰か1人に、いや、皇女の事も有るし迂闊に選べないな。


 白雨、白雨の役職は。

 司書なんつけとか言ってた様な。


「おう、来たぞ白雨」

「紹介しますね、史官の白雨さんっすよ。第3皇女サクラ様の宮入りに合わせて入内した方っす、コチラはウチから出したサクラ皇女付きの女官、ハナさんっす」

『どうも』


 悲嘆の顔に戻っている。

 勿体無いとは思ったけれど、ココでは可哀想なだけでは。


「宜しくどうぞ、そしてどうぞ」

「はえぇよ」

『一応、サクラ皇女用に入内したんだが』

「そうっすよねぇ。ただ邪魔するつもりは無いんで、今日はこの位で下がらせるんで気にしないで下さい」


「でも案内は頼むぞ」

『あぁ、はい』


「あぁ、新鮮」

「落ち込まねぇのな」


「落ち込める顔じゃ無いので」

「バカが」


 新鮮な白雨の反応に、アレクやショナに会う気がモリモリ湧いてきた。

 ただあんまり塩対応だと凹むから、ショナには会いたい様な、会いたく無い様な。


「ほれ、ゴールデンカ〇イだ」

「なん、なんでコレが」

「出力したんすよ、最終回が分かってる作品て貴重なんで。なので追々マジで出ます」


「だから途中までなのか、なるほどね」

「アザラシやべぇよなぁ」

「取り寄せとくっすよ?」


「ココでコイツが食って大丈夫なのか?」

「あー、マズいっすよねぇ…あ、皇女様の初めての婚約祝いにどうっすか」

「君、分かって言ってんだよね?」


「勿論っすよ」

「すまんな、実はコイツ既に楽しんでんだわ」

「は」


「いやぁ、凄かったっすね。どっちも」

「俺には耐えられなかったが、コイツが耐えて許可がでたんだ」


「そんな難しく無かったんすけどねぇ」

「クソが、マウント取りやがって」

「まぁまぁ、多分神様達はリズちゃんに気を付けて欲しかっただけでしょうよ」


「そうっすよ、後で上手いお菓子食いましょ」

「ふん、バカ」

「ツンデレか」


「とぅ」

「くっ、やめい」

「ちょ、静かにしないと怒られるっすよ。憤怒さんに」


「へ、ココ憤怒さんなの?」


 司書局のトップは憤怒さんで、兵士達を纏める兵部のトップがオベロン。

 何か、何だろうか。


「憤怒さんは覚えてるのね」

「あぁ、基本的には守る側だからな。白雨の事は大丈夫か?」


「寧ろ気が楽、新鮮」

「何でこう、予想と逆なんだろうな」

「だからリズさんはダメなっ、痛いっすよぅ」

「ハナの感性は独特らしいが、昔の人間にしてみたらそうでも無いぞ。分かり易く義理に厚い」


「ココでだけですけどね」

「素直に褒められない所も良い。毎回ありがとうございます、だけではつまらんからな、結構結構」


「そのウチ素直になりますんで、ご容赦下さい」

「楽しみにしている、じゃ、また」


「はい」


「頭ポンポンされて、大丈夫だったか?」

「最早、好々爺やんな」

「あぁ、そう言う対象じゃ無いと大丈夫なんすね」


「それでも前ならダメだったと思うけど、多分、信頼度の問題なのかも」

「あー、そうなんすね」

「なら賢人はどうだ」


「どうぞ」

「マジで良いんすか?」

「はよ、ヤレ」


「うっす、失礼します」


「うん、お兄ちゃんやな」

「お、やったな賢人君」

「妹で良いんすか」


「別に、世話焼いてくれんのはマジなんだし」

「もっとこう、姉だ兄だと争うのを期待してたんすけどねぇ」

「お前、変態か?」


「俺、施設行きから、都会に引っ越しだったんで幼馴染がそう居ないんすよ、居ないっつうか、居るんすけど。つっこまれたく無くて、会ってない感じで」

「じゃあワシと幼馴染ごっこしよう」


「なら少しは張り合って下さいよぉ」

「いや、妹で良い。お姉ちゃんはスーちゃんやろ」


「あー、寧ろ、親戚の伯母さん感が」

「これ、悲しむぞ」


「言ってないっすよ。桜木様って何か、頑張ってる姉ちゃん感が有るんすよね」

「妹キャラになるには?」


「そりゃもう、我儘を言って甘える系っすよ」

「認識の差異が、世界線の違いか?」

「な、姉こそ下手に出て甘えつつ金品を搾り取るキャラなのにな」


「なー」

「えー」

「よし、次は何処じゃろな」


 今度は強欲さんの居る内教坊、強欲さんにご挨拶とお礼を言っていると、アレクが出現。

 軽業や二胡の演奏をするらしいが、コレも塩対応。


「新鮮」

「なぁ、揉めたんだろ」

「切り刻んだんすよね?」


「手先を少しな」

「すまん、ヤラセない様にもっと早く動くべきだったんだが」

「桜木様の要望が来るまでって事になってたんすよ」


「要望せんかったっけか」

「話に出た程度の認識だったんだが、すまん」


「大丈夫、抑制魔法掛けてたし」

「反動は」


「大丈夫、本人に水掛けて発散させたから。そろそろ、また掛けてくるわ」

「ショナ君か」


「ショナの塩対応は、多分心が折れる」

「分かった、建物内は禁止なんだ。中庭に案内する」


 青い芝生、陶器の椅子とテーブル、そして桜の木。

 その素晴らしい庭の端で抑制の魔法を唱えるが、効かない。


「ダメだった、掛からないっぽい」

「そっか、賢人君。穏便に会えるか」

「兵部っすからねぇ、賛成派の領域なんすよ」


「あぁ、ならオベロンもヒュプノスさんも」

「そうっす、賛成派っす」

「憤怒さんや強欲さんは反対派なんだがな」


「なら、他は」

「色欲さんと美食さんは中立派、ヘカテ神は賛成派だな。んで女媧神は反対派の、逆ハー推しだ」


「なん、なんぜ」

《最適解だと思っているんだもの》


「な、神出鬼没」

《だって神だし》


「ですよね。でも何故、女帝で無いんです?」

《虚栄心が中立派で逆ハー寄りだからよ。しかも私の領域で私が女帝じゃフェアじゃ無いし、女帝とかもう飽きてるし、ココは代理戦争場だから》


「マジなのね」

《勿論よ。だから記憶の持ち越しは不採用なのだけれど、あの子が相手じゃ不安よね》

「女媧神、なので一緒に来てくれませんか」

「お願いします」


《ふふ、良いわよ》


 請われるのは、どの神々も精霊も好きな事らしい、そしてワシが好きな神々や精霊はフェアプレー精神が有る。

 それは有り難いが、ショナの陣営はオベロンとティターニア、安心は出来ぬのよなぁ。


『おう。女媧も一緒か、ズルいぞ』

《良いじゃ無い、最強の駒持ちなんだから》

「なんか、全て解した気もする。マジなのね」


『すまんな、お前の為だ』

《でも誤解しないで、反対派は誰も邪魔はしないわ。正確に言うなら、手伝わないと言う事》


『中立派と反対派を合わせて、賛成派と同数なんだ。俺達は、ココでの逆ハーレムが失敗する方に賭けてる』

《私は成功すると思ってるけど、失敗だからと言って会わせるのは別よ。この結果をもってしての最終決定権は人間に有るのだし》


「大事な上に悩ましいが、ワザと失敗したら」

《その、ワザとの分だけ補正されるからムダよ。それに、真理を知りたいでしょう》


「知りたいけど」

『俺達も、そこは見極めたいと思ってる』

《ココで上手くいかなくても、まだステージは沢山有るし》


『正直、その面白そうな提案に抗えなかった』

「正直で結構。退屈でも許しておくれね」


『バカ言うな。暇な時は外で遊べるんだ、気にするな』

《後はアナタのSAN値次第》


『お、来たな。ショナ坊、尚宮にご挨拶を』

「はい。第3皇女様の宮入りに際し入内させて頂きました、祥那と申します」


《ご丁寧にどうも、宜しく。この子は皇女付きの女官、ハナよ》

「宜しくどうぞ」

「俺が第3皇女の女官に推したんだ、面白いヤツだから宜しくな」

「そうっすね、サクラ皇女様にそっくりな面白い方ですんで、色々勉強すると良いっすよ」


「あの、もうご挨拶されたんですか?」

「おう、コイツの紹介にな」

「丁度、耳飾りも来てたんすよね?」

「あぁ、はい。水色で、睡蓮と雲です」


「因みに、コイツのはコレだ」

「綺麗ですね」

「藤と竜胆だそうです」

「邪魔する気は無いんで、何か有ったら頼ってくれて大丈夫っすよ。リズさんと仲が良いんで」

《そうですね、小さきモノがお好きですから》


「そうなんですね、ありがとうございます」

『じゃ、コレから所用が有るんだが』

「おう、お邪魔しました」

《では、失礼致します》


 愛想笑いも無しでヒヤヒヤしたが、最後にアレはズルい。

 でもアレは、皇女への笑顔なのよなぁ。


「複雑や」

《記念に入内しただけ、皇女限定じゃ無い事はしっかり理解してるわ》

「エグってる様な、フォローな様な」


《フォローよ、ある意味でハナの望み通りの筈よ》

「うん、アレが一般人への対応なのよね」

「まぁ、皇女に近いのが不利になれば俺の離宮に呼ぶから心配すんな」

「そうっすよ、その為の音流浮宮(オルフェウス)なんで」


「ふっ、巫山戯やがって」

「やるならとことんだろ」


「おう」

《じゃあ、そろそろ戻りましょうか》


 言われるがままに自室へ戻り、着替えを済ませるとショナが面会にやって来た。

 早いな、そんな、なんでなんやろか。


「ハナ、大丈夫?」

「あぁ、何でなんだろなって」

《ふふ、律儀なのよ》

《馬鹿真面目。さ、扇子で顔を隠して》


「うい」


 最初から笑顔全開。

 嬉しい様な、切ない様な。


「改めてご挨拶に参りました。兵部の祥那、ショナと申します」


 あ、声。

 どうすべ。


(どうも)


「んん、うん、皇女様は平民出身なんだよな」

「で、お言葉使いを気にされてるんすよね」

「僕の方が位は下なので、どうぞお気軽にお話し下さい」

(大丈夫ですよ声、扇子、魔道具)


「ぁあ…何故後宮に、ココに来たんですか。第3皇女専用でも無いのに」

「あ、皇女さまはご心配なさってるんですよね。派閥争いや某化に巻き込まれてたり、無理なさって無いかって」


「ありがとうございます。第3皇女様就任記念の推挙とは言え、先ずは皇女様にお礼参りをと」


「最終的には、ココでどの様になりたいんでしょうか」

「あぁ、兵部で地位を築きたいのか、相手を探しに来てるのか。だな」

「すみません、ウチの皇女様もどストレートでして」


「あ、いえ。近衛兵としても、お守り出来たらと思っています」


 も。

 いかん、所詮は役回り、しかもワシの近衛兵とは言って無いし。


「なら他にも挨拶回りすべきですね、お引き留めしました。ではお下がりになって結構です」


「はい、失礼致します」


「もー!凄い素っ気ないじゃない?!」

「ツンデレか?ツンデレ属性が今更生えるのか?!」

「まぁまぁ、一瞬照れて冷静になっただけっすもんね?」

「なん、はい、そうです」


「もー」

「だからってだな」

「アレはショナさんが悪いんすよ、誰の近衛兵かまで言わなかったんすもん」


「なら君が突っ込めば」

「俺の方が位が高いんすよ?プレッシャー掛けて言わせたも同義じゃ無いっすか」

「まぁ、そうなっちゃうわよね。ごめんねハナ、私が突っ込んで聞くべきだったわ」


「いや、どの道こんな大人数で聞いてたんじゃ、本当の事を言うか怪しいワケで」


《もう、仕方無いわね、暫くは私達が色々と教える予定なんだから、もう少し素直になりなさい》

《第1、第2皇女は既にある程度の教育を受けてらっしゃいますからね、ふふふ》

「そんな顔しないの、睡眠学習で何とか追い付ける筈だから」


「ぉぅ」

《ふふ、お茶を淹れて貰いましょうね》

「はーい」

「はい、お菓子っすよ」

「信玄餅かよ、懐かしいなぁ」

《コレはどう食べるのよ》


 このお菓子の正しい食べ方だの、きな粉が勿体無いだの。

 疲れたのか、瞼が重くなってきた。




 折角皇女様に会えたのに、緊張して上手く話せなかった。

 それどころか、機嫌を損ねて嫌われたかも知れない。


『おう、早いな』

「オベロン兵長。他の皇女様にもご挨拶して来たらと、追い返されました」

《あらあら、詳しく聞いても良いかしら?》


 出来るだけ正確にやり取りした文言を伝えると、オベロン兵長と奥様に溜め息をつかれてしまった。

 折角推挙して頂いたのに、早くも期待を裏切ってしまったかも知れない。


『先ず、ドコが良くなかったか分かってるのか?』


「えっと、社交辞令でも第3皇女様の近衛兵にと」

『いや、もう、最初からダメだな』

《最初の挨拶にも何か混ぜないと、本当にただ挨拶しに来ただけに思われちゃうわ》


『どの様な方かとのお噂も無く、一目お会いしお話し出来ればと思い。だとか』

《推挙された事を運命と思い、お近付きになれればと。だとか、もう、個人的に興味が有ると示さないとダメよ》


『そうだぞ、なにしに来たんだ全く』

《そうよ、さ、言ってご覧なさい》


「仕事と、結婚相手を探す為です」

《そう、良く出来ましたね》

『仕事は叶ったんだ、後は結婚相手を探す為だろう。全く、どうしてそうウブなんだか』


「武官でも一応勉学が有りまして」

『賢人だって似た者だろうに、1年先輩とは言えど、もうお相手を見付けてるんだぞ』

《まぁまぁ、ココでは役職と結婚はそう深く関わらないんですし。アナタが気に入る方と親しくなれば良いだけよ》


『そうだな、さっきの女官とくっ付いたからって上にいけないワケでも無いんだ』

《そうは言っても、女帝様のお相手までいけば話は違うのだし》


『まぁ、そこは分かってるだろ。国婿になるにしてもだ、声が掛かった順番は関係無い、お前がゆっくり選べば良い』

《そうね、本当の運命の人に出会えると良いわね、私達みたいに》


『な、じゃあ挨拶回りをしてこい、一応第1皇女様からな』

「はい、行って参ります」


 イチャイチャしたいから追い払われた気もするが、きちんと選ぶべきだと言うのは理解しているし。

 先ずは第1皇女の居る時雨宮へ。


「ご挨拶に参りました、新しく兵部に配属されましたショナと申します」

「どうもご丁寧に。あ、第3皇女様にはご挨拶なさったんですか?」


「はい、伺ったのですが。他の皇女様にもご挨拶すべきだと」

「あら、早々に追い返されたのは本当なんですね。何か有ったんですか?」


「いえ、いや、はい。世辞が苦手で、皇女様の近衛兵になりたいと言えず」

「あぁ、近衛兵になりたいんですね。忠義に厚くてらっしゃる」

「ですが、皇女様のお手付きじゃ無くても、近衛兵になれるのでは」


「あ、コチラ私の側使えの」

「ミーシャ、宜しく、兵部の下っ端」


「もう、ミーシャさんたら」

「で、良い女は居ましたか」


「あ、何も女の子がお相手とは限らないんですし」

「ですので尋ねているも同義なんですが、お答えは」


「えっと、良く分からない。では、答えにならないでしょうか」

「ふん、ウブが」

「まぁまぁ、ゆっくりお決めになる事でも有るんですし。第2皇女様がお待ちかもですしね」


「下がって宜しい」

「はい、失礼致します」


 そうして今度は第2皇女、小雪様の居る雪月宮へ。

 幼馴染みに挨拶は不思議な気がする、今回は特別に妹の吹雪さんも同席している。


「ご挨拶申し上げます、第3皇女様就任記念で推挙されました、兵部のショナと申します」

「兵士なのに小さい、大丈夫か」

《こら吹雪、叩頭してるんだから小さく見えるだけよ。ほら、お立ちになって》


「ありがとうございます、実際にも小さいです、はい」

「そんな身長で大丈夫か」

《もー、ごめんね。お兄様はどう?》


「はい、今は地方の府官をしています」

「お姉様が好きだった人」

《お菓子でお口を封じましょうねぇ、久し振りなのにごめんなさいね。あ、どう?第3皇女様は》


「早々に追い返された噂は」

《そりゃもうご存知よ、噂はマッハ超えで広がるもの》

「小雪、お茶」


《はいはい、私の飲んで。それで、良い人は出来そう?》


「正直、兵部長と奥様にお説教を受けた位なので、難しいかと」

《例えばどんな?》


「お世辞でも個人的に興味が有るとご挨拶で示すべきだったとか、第3皇女様の近衛兵になりたいだとかを、言えと」

《うん、社交辞令は大事だものね》


「でも、実際を知りませんし、嘘は嫌なので」

《馬鹿真面目よね本当、少しはココで色恋のイロハを覚えないと》

「ショナ、一目惚れを信じるか」


「いや、存在してるらしい、程度ですね」

《ショナも吹雪も、まだ運命の人に出会えて無いだけよ☆》

「小雪もな」


《はい、お菓子で封印しましょうねぇ。あ、困った事が有ったら言って頂戴ね、それと、同期生にもご挨拶したら?》


「はい、では」

「ばいばい」

《またねー》




「ハナ、ハナ?」

「やっべ、ちょっと寝てたわ」

《宮廷内部は把握出来たかしら?》


 色欲さんに図面を出されると、寝ていたのに把握出来る。

 なるほど、これが睡眠学習か。


「うん、これが睡眠学習?」

《そうよ、苦手意識すらぶっ飛ばして一次保存させてるの》

《向こうに戻っても容量を圧迫しない様にって》


「あ、ならショナ達の記憶は」

《良い頃合いまでココで一次保存よ、向こうに戻ってもほんのりとしか思い出せないわ》

《便利よねぇ》


「良い頃合いまでって、後で解放するんじゃん」

《記憶に合わせて徐々によ、錯覚させない為》

《寧ろ、向こうに合わせる感じだから大丈夫、作用し合う時はどちらも本当にその気持ちだから》


「急に尻込み」

《大丈夫よ、そんな暇は与えないから》

「頑張れ、桜木」

「まぁまぁ、リラックスして大丈夫っすよ」

《あら、白雨ちゃんがご挨拶に来たわ》


 敵は居ないにしてもだ、味方が少ないのでは?

 大丈夫か、このままで。


『ご挨拶に参りました、司書局に配属された白雨です』

「ご苦労様です、ココでの方針を聞かせて下さい」


『お相手はどうでも良いです。本が読みたいだけなので』

「正直で結構。ただ、そのお顔だと大変でしょう、ウチの者達には言い寄らぬ様に言っておきます」

「ならウチ関連からも控えさせるか」

「そうっすね」


「それでも困った事が有れば、逃げ込むなり言うなりして下さい。では、存分に書を楽しんで」


『ありがとうございます、では』


「はぁ〜、何よアレ、凄い、何よアレ」

《ふふ、悲嘆の時の顔ね。可愛いわね》

「可哀想に、ココじゃ大変だろう」

《なら耳飾りを渡して上げれば良いのよ、守る為に庇護下に置く事は良く有るわ》


「女官でも受け取らなかったし、今渡して受け取るかねぇ」

《そうねぇ、警戒心バリバリだったものね》

《そこは親しくなって信頼して貰いなさい。定番はお茶に誘う位かしら》

「なら、好みをお調べしておきます?」


「いや、それだと気が有ると思われそうだから却下。困ってそうなら助ける様に、それで充分でしょう」

「はい、仰せのままに」

《さ、次はアレクちゃんね》


 そうなんだよ、アレクも綺麗な顔してんだよなぁ。

 大変だろうに、すまんな。


「内教坊のアレクです」


「こう幼いと、大変では」

「一応、16で成人してます」


「本来はコチラが選ぶ側ですが、個人的には選ばれたいと思ってるんで。ウチはちょっかいを出さないつもりです、逃げ込む必要が有ればお気軽にココへどうぞ。司書局の白雨にも改めてそう伝えといて下さい」

「はい、どうも。じゃ、失礼します」


「可愛いのに、何で2人共手を出さない宣言しちゃうのよ」

「だって幼いし、可哀想じゃん」

《そうね、折角のハーレムなのに、ふふふ》

《仕方無いわね、次は皇女にご挨拶よ。私は用事が有るからアナタ達だけで行きなさい》

「うっす」

「さ、行くかな」


 こんな忙しいのか、後宮は。


 そうして先ずは第1皇女へご挨拶。


「まっ、マキさん」

「えへへ、来ちゃいました」


「大丈夫?色々、大丈夫?」

「ふふ、大丈夫ですよ、ミーシャさんが居ますから」

「桜木様と思って、全力でお守りしてます」


「ありがとう。すみませんね本当」

「良いんですよ、衣装も小物も可愛いですし。悲嘆さんのお顔も見れましたし、綺麗で可愛くて不思議な感じでしたね」

「そうよねぇ、ハナって自制心エグいだけな気がしてきたわ」

「な、流石に最初はクラっと来たもんな」

「ヤバいっすよね、その気無いのに全然イケそぅうぐ」


「イケメン耐性有るんやろな」

「だけで耐えられるなら、メンタル強いと思うんだけどなぁ」

「ですねぇ」


「そんなに、マキちゃんどんな感じだったん」


(全然、キスしたいなって思えちゃいました)

「まっ、今までそんな感じは?」


「無いですよ!そんな事を思った事も無いので、つい勘違いしそうになっちゃいました」

「影響、出てるやん」

《普通なら勘違いだと気付ける程度だから、大丈夫よ》


「本当に?」

《心配なら、お手付きにした方が早いわよ?》

「そうですよハナさん、応援しますから」


「いや、マキさんも選ぶ側だからね?アレクも白雨もワシのじゃ無いんだし、寧ろ、白雨が好きになる相手がマキさんなら心配しなくて済む」

「いや、でも、私。ムキムキマッチョが好きなので、ちょっと好みから外れると言いますか」


「ほう、マジだったのか」

「マキちゃんも好みに一途よねぇ」

「マキさん、マジでおタケファンだったのか。なら」

「もう尊過ぎて近寄り難いと言うか、近寄ったら消し飛んじゃいそうで、はい、理想の方でした」


「なら白雨をマッチョにしたら」

「男性ホルモン薄めなので、そこまででは」

「マキちゃん、ハナと真逆なのね」

「スーちゃんはどうなんだよ」


「それが最近、分からなくなってきちゃったのよね。何でも良いって言うか、女性だけじゃ無くて、それこそ憤怒さんみたいなのでも全然有りかなって」

「憤怒さんも素敵ですよね!もう、ココ幸せ過ぎですぅ」

「何か、ブレさせてごめんね?」


「あ、ハナのせいってより、遺伝子とか本能なのかなって。ほら、転生者で転移者でも有るじゃない。そう召喚者に当て嵌めると、同じ地域以外なら誰でも受け入れられる筈なのよね、ってなって。それで、この身体の遺伝子を残すって前向きに考えた時に、真っ先にハナが候補になって、でもハナはもっと幸せにしてくれる人が良いから。それで他に居るかなって考えてたら、賢人君も全然アリだし、マキちゃんも良いなと思うし、憤怒さんだって全然アリで。分からなくなっちゃったのよね」


「素敵ですよ、スーちゃん。ニュータイプじゃ無いですか」


『ご挨拶に参りました、エナです』

「なんつうタイミングに」


『性転換用の概念、どの性別でもどの性別とも出来る世代。ちょっと前に流布させ始めた』

「もうやってたんかい」


『小さくね、先ずは雨宮女史に話した』

「凄く良いと思うんですけど、ダメですか?」

「ダメと言うか、節操無しと批判されそうな」


「そんなの妬み嫉みですよ、自分が選べない、得られない何かを妬み僻んでるんですから。気にして何の得も無い事、そうなる方が相手の思う壺で、無視が1番なんです」

「圧が凄いんじゃが」


「だって、紫苑さんとおタ、お、素敵な方が並んでるのって、素敵だと思いますし」

「本当に、すまない、汚染させて」


「違うんですっ、前から、可愛い女の子達を見るのも素敵な男性達を見るのも、ご夫婦や恋人達を眺めるのが好きなんです。どんな風に幸せなんだろうって、だから最初はアクセサリー販売に就こうと思ったんですけど、それだと毎日沢山は見れないですし。だからバザールの見回りが有る、イスタンブールの大使館員になったんです」


「凄い。夢は叶いましたか」

「はい!叶い続けてます」

「だから、ハナが誤解しちゃったのよね」


「その説は申し訳」

「いや、それこそ誤解と言うか」


「例えご友人同士でも、私にはご褒美なんです。あの空気感、まるでお話の世界に居るみたいで」

「セレーナさんみたい」


「はい、実は私もそう思いました!別次元の私なんですかね?」

「そう見ると、そう見えてくるかも」

「私もキラキラ好きだもん」

「張り合って、良いのか桜木。違う意味のハーレム形成され始めてんぞ」


「スーちゃん、マジでワシでも良いの?」

「うん、性転換して紫苑の子を産むつもり」


「変な事を聞くけど、どうしてそんなに家族が欲しいの」


「家族って言うか、好きな人の子供が欲しいの、私のこの身体の遺伝子と好きな人の遺伝子が混ざった子を愛したい。多分、コレが本能なんだと思う」

「マキさんも?」

「私も、ちゃん付けが良いんですけど」


「マキちゃん」

「はい!私はまだそこまで到達出来て無いんですけど、ハナさんとエミールさんのお子様を見てみたいと思ったりはしてます」

「私も、だからこの配属なんだと思う」


「リズちゃんは、まだか」

「あぁ、まぁな」

「だからっすよ、ハーレムが上手くいかなかったの。俺は好きな人に似た子供とか欲しいし、その人と結婚出来なくても、その子を見れたら嬉しいだろうなって思ってるんすもん」


「賢人君、例の幼馴染の子か」


「マジで、察しが良過ぎっすよ」

「真っ赤だー、賢人君が真っ赤だぞー」

「「キャー!」」

「おい、詳しく言え」

『はい、ご尊顔』


「ちょ、エナさん」

「普通に可愛い方かと」

「うん、地味可愛い」

「あぁ、ショナ君に似てるな」

「あぁ、女ショナに似てるわ、変態か」


「違っ、まぁ、男だったらこんなんかなとは思いましたけど。違うんすよ、召喚者様の居た世界って、俺みたいなのが沢山居るって知って、だからまぁ、少しでも支えられたらなって。で、配属されたら、ショナさんが居て、幼馴染を思い出してって」


「甘酸っぷわぃ」

「素敵よ賢人君、応援するわ」

「そうですよ、お会いになるべきかと」


「そら恥とか、プライドが邪魔してんだろ」


「ボロボロの所、見られちゃったんで」


「ワシが言うてもアレだろうけれど、父親が知ったら悲しむと思うぞ。子供の初恋を未だに邪魔してるなんて知ったら」

『うん、もう知ってる。向こうの子から父親に接触が有った』

「は、へ」


『向こうもちゃんと覚えてて、あの映像を見て連絡して来た』

「いや、親父からは何も」


『元気なら良いと向こうが口止めさせた、戻ったらSNSの訪問履歴の確認。有るから』


「え、あ」

「戻れ」

「よし、俺らも寝台なんだ。先に、戻ってろ」


「うっす、あの」

「はよ行け、切り刻むぞ」


「あざっす!」


「はぁ、甘酸っぷわぃ。良いなぁ、幼馴染」

「あ、まだ第2皇女様がお待ちなんですよね、すみませんお引き留めしちゃって」

「いえいえ、私もすっかり夢中になっちゃって。じゃ、リズちゃん行きましょうね」

「おう」

『私も付いてく』


 マキちゃんとお別れし、次は第2皇女様の宮へ。

 誰だろうか、つかエナさんは何の役だろ。


「エナさん、役職は」

『毒味役』


「なんつーデンジャーな」

『美味しいを沢山食べる方法』


「さよか」

『それとお相手、耳飾り頂戴』


「どっちの派閥なの」

『中立、逆ハー側』


「それが天才の最適解?」

『欲望も含んでる』


「なんでワシ」

『ココじゃ言えない』


「あぁそう、聞いたら渡すわ」

『えー』

「さ、付きましたよ」


 まさかの小雪ちゃん。

 吹雪ちゃんまで、一般人を。


《あ!ハナさん》

「どうも」

「緊張してるのか」


「混乱もございます」

《睡眠モニタリングの募集に応募したら、こうなっちゃった☆》

「信用スコア上げしてる、お昼寝とか夜寝る時に器具付けてる」


「だからって」

《オマケで良い夢を見せてくれるって言うんですもん》

「起きたら多分、覚えて無いって。残念」


《ねー、こんなに楽しいのに》

「ショナに会ったか」

「まぁ、皇女なんで」


《あぁ!何で塩対応しちゃったの?ケンカ?》

「いや」

『ココはあくまでもテスト運用の疑似体験場』

《初めて会う体なの、ふふふ》

「なるほど」


「まぁ、なので」

《好き避けね、分かるぅ》

「ライバルだ」


「え、いや」

《え?》

「なんだ、言って無いのか。なぜ」


「大事な、友人なので」

《あぁ、そっか。そうよね、間違ったら離れ離れになりかねないものね》

「なんで」


《あのね吹雪、お兄ちゃんやショナは幼馴染でお隣さんだから、告白が失敗しても一緒に居られるの。学校だけの子や、お仕事場で告白が失敗すると避けられて、会えなくなっちゃうかも知れないのよ》


「なんで、告白されたら嫌いになるのか」

《うん、そう言う人も居るし。気まずくて顔を合わせなくなる事も有るの》


「なんで」

《吹雪のクラスのチセちゃんにがコウ君に告白して、振られたからって直ぐにケン君に告白したら、何か、ちょっとって思わない?》


「はくじょう」

《なら、どれだけ期間を開けたら良い?何日なら薄情じゃ無い?》


「吹雪は、3ヶ月欲しい」

《そう、だけど1ヶ月で充分な人も居るし、半年置くべきって人も居る。まだ吹雪達は上手に気持ちを表したり、抑えたり隠すのは難しいでしょう?》


「うん、かおにでる」

《大きくなっても、恋とか愛は出易いの。それで皆が気を使い合ったりギクシャクしたら、居心地が悪そうじゃない?お父さんと私がケンカした時とかの空気》


「うん、多分、そんな感じなるのは分かった」

《うん、空気や反応に敏感じゃ無くても、居心地が悪くなったら大人にも逃げ出す権利が有るの》


「でもショナはそんな事しない」

《相手が吹雪ならね、でもハナさんは違う人間、違う立場でしょ?》


「ハナ、ショナが居辛いなると思うか」

「半分、ショナの優しさで、自分が逃げ出すかも知れない」

《気を使われ過ぎるの、吹雪も嫌でしょう》


「うん。でも、小雪は居辛いなって無いが」

《吹雪が小さい時に終わったからよ、ママや友達に泣いたり愚痴ったり色々したもの》


「機嫌直して、髪の毛弄って良いから」

《ありがとう、お礼にお菓子をあげましょうね》

「このやり取り、覚えてると良いですね」


《良いのよ、何回も言い聞かせなきゃって思ってたの。でも吹雪は聞き分けが良いから、また同じ事を話せるのは逆に新鮮で楽しいかも》


「良いお母さんになれそう」

《なのにねぇ、お相手が居ないのぉ。誰か紹介して?》

「お兄ちゃんに似たのはむつかしい」


《それはもう良いの、似てるから好きだなんてお相手の方に失礼だし。あんな理想型って中々居ないのは良く分かったもの》


「なんで、ショナじゃダメなんでしょう」


《背、男性ホルモン薄め、敬語とか丁寧語好きじゃ無いし、真面目過ぎ、召喚者マニアの従者ヲタで合う話し無さ過ぎ。何でも私より上手で、何かムカつく、昔は私の方が足が速かったのにぃいい》

「小雪はお料理イマイチ」


《だって楽しく無いんだもの、ケーキの方がマシ》

「スポンジもショナの方が上手」


《ぅう、あ、もう食べた?》

「いや、チーズケーキなら」

「食べたい」


《今度お願いしてみるけど、アレでもマジで忙しいんだから。運動会も期待半分にしててよ》

「わかってる」

「そこは改めて進言しておきます」


《良いの、気にしないで、仕事が命なのも吹雪は知ってるもんね?》

「お国のお仕事は大事」

《そろそろ、ご夕飯のお時間ね》

「そうですね、お暇しましょうか」

「お邪魔しました、失礼致します」






 寝台に行く前に目が覚めた。

 大方、今回はココまでなのだろう、そして次に行った時は次の日になっているんだろうか。


「何で小雪ちゃんまで」

『だって、良いのが居なかったから。それより良いの、ショナの寝顔だよ』


「拝むけども、居辛いわ」

『大丈夫、記憶には殆ど無いから』


「有ったらどうする」

『私の番ですかね』


「ソロモンさんやめれ」

『はいはい、そろそろ起きそうですね。庭先に行かれては?』


「そうしとく」


 うん、ドキドキしたく無いんだ。

 どうにかなってしまうのが怖い、それを抑止してくれる相手が良かったのに、多分、それじゃダメだからこうなってるのかもだし。


《何をボケーっとしておる》

「コントロールしてくれる人が良いんだが、ダメなんじゃろうか」


《ふむ、どうしてそう思うんじゃ》

「お相手候補に居なかった、コントロールしてくれそうな人」


《お主、勘違いしておるなぁ》

『そうじゃな、確実に勘違いしておる。史官でも仕官でも食い放題なんじゃよ?』


《それなりの位の人間が宮廷内に居るんじゃし、婚約者や既婚者で無い限り食べ放題じゃよ》

『好きじゃろう、食べ放題』

「好きですが、人食いみたいに言うなや」


《まぁ、まだ食べてしまいたい程では無いんじゃな》

『勿体無い、美味しそうなモノ達ばかりじゃと言うのに』

「もしかして、ルーネさんも」


《くふふふ》

『どうじゃろなぁ。ま、記憶には残らんのじゃし好きにせい』


「桜木さん、虚栄心さんから連絡が来たんですが」

「良いかねエナさん」

『うん、私も行く』


 部屋に戻り支度を終えると、漸く起きたアレクが。


「ちょっ、幼くなってるのは」

「うん、して貰った」

「身分証は写真を撮るだけで済みますよ」


「済みますよじゃ無くて、何で驚かないのよ」

「桜木さんが寝て直ぐに、アレクが自分でエジプトへ行ったんです」

「お説教が対価で、して貰った」


「何でそうホイホイと」

「サクラに言われたく無い。何か感想は?」


「小憎らしさが消えて可愛い」

「えへへ」


「いや待てよ、色欲さんの店での警備はどうすんのよ」

「成人するまで2枚発行になります」

「うん、だから魔道具貸して貰った」


「対価は」

「サクラを逆ハーに落とせって」


「ショナ」

「落とされ無くても大丈夫だそうです」


「破廉恥では?」

「鈴木さんがするとなれば反対しますか?」


「ぐぬっ、味方は居らんのか」

「僕もアレクも味方ですよ」

「うん」

『ハナが受け入れるかどうか』


 逆ハーレムを?


 この顔なのに?


「中身オーラ至上主義が過ぎる」

『そうでも無いよ』

《まだかと、物理的にせっつかれて居るんじゃが?》

「じゃ、俺は身分証作りに行ってくる」

「はい。じゃ、行きましょう桜木さん」


 夢の話が出来無いまま、虚栄心のお店にエナさんとショナと向かう。

 また、流され始めたんだろうか。


「何よ、また変に悩んでるんじゃ無いでしょうね」


「逆ハーレムにそんなメリットが有るのかと」

「アンタ、忘れて無い?灯台の素質」


「半分、冗談なのでは」

「ココの神様達も言ってるのに冗談なモノですか」


「1人じゃダメか」

「ダメじゃ無いけれど、アンタってほら」


「なに」

「もう良いわ、ちょっとコッチいらっしゃい」


「で、なに」


(性的な能力有るらしいわよ)

「わお、わお?」


(お相手の体が持たない程度に)


「またまたぁ、ワシ皮膚弱、マジで?」

(性豪の相、女媧様が言ってたわ)


「紫苑ちゃん、凄いのか」

(違うわよ、どっちもよ。ましてどっちもなんて、お相手が死ぬか干乾びるか自信喪失しちゃうらしいわ)


「へー、無自覚」

「そりゃそうでしょうよ、体が万全になったのは最近なんだし。色欲にも確認したけれど、だから連れて来たんじゃ無いのかって、逆に驚かれたわ」


「もうずっと、狐に化かされ続けてる気がするんじゃが」

「なら試してみたら良いじゃない」


「誰で」

「もう先生でも誰でも良いわよ、試せば分かる筈って言ってたわ」


「虚栄心はダメなのか」

「ハナのお相手はちょっと難しいわね、物理的に」


「そっか、無い無いなのか」

「前立腺は有るんだけれど、好きになるのはいつも女の子」


「この世にはお道具が有るでしょうに」

「お道具も良いけど、生身は越えられないもの」


「お試しになられましたか」

「昔ね、色欲のお店の男娼と試したけれど。やっぱり愛が無いとね、何か、虚しくて」


「厄介な呪い」

「そうだけれど、近々新しい事が世に出るんでしょう、だからアンタは私の心配なんかしなくても大丈夫。清い親友のままで居ましょう?ね?」


「そう望むなら」

「同情なんて嫌だもの」


「全然ヤれると思うけど」

「親友は失いたく無いの」


「分かる、ワシにとってのショナか」

「あら、ヤれちゃうの?」


「恥ずかしくて死んでしまうがな」

「私なら恥ずかしく無いワケ?」


「別腹、紫苑なら大概余裕」

「ふふ、何よそれ」


「紫苑なら誰とでもホイホイヤれる気がするが、コレはダメだ、恥ずかしさが勝って何も出来ん」

「別にシオンでも、あら、まだなら今夜ね」


「紫苑でも良いのか」

「入口が違ってもアンタのハーレムが完成したら、私も安心して、お相手を探せるってモノよ」


 何となく、服も下着も脱いで紫苑に変身してみた。

 コレなら、マジ平気なんよな。


「なら紫苑では?」

「アンタ、シオンとなればグイグイと。もう、両性具有案もマジで考えないとダメそうね」


「それ、想像付かんのだよ。花子と紫苑の顔のミックスでしょ、もう全然無理、出来無い」

「可愛いと思うわよ?良い所だけ抽出して」


「そしたら紫苑100%やで」

「お目々位はハナでも良いじゃない、唇もプニプニさせて」


「凄い女顔になりそうな予感」

「男だから男らしい顔なんて時代はとっくに過ぎてるのよ、良い所を少しは認めたってアンタはアンタ、今のアンタだって充分イケてるんだから少しは高望みしなさい」


「親友だからダメ?」

「そうよ、アンタの顔も性別も問題じゃ無いわ。シオンでもね」


「本当に?」

「ただし、中身がアンタじゃなきゃダメよ?」


「よし、他に親友を作るからヤろう」

「ちょ、私の話聞いてた?!」


「親友やめれば良いんでしょ」

「好きだから我慢しようって言ってるのよ、我慢なさい」


「虚栄心は嘘も誤魔化しも言わないから好き」

「本気なら私は最後にして頂戴、最後の人になりたいの」


「その気持ちも分かる、出来たら最初で最後が良い」

「アンタ自信無い子だものね。私は私に自信が有るからハーレムでも愛人でも大歓迎よ」


「待たないでね、良い人を見付けたら」

「真っ先にアンタに言うから大丈夫よ、ほらハナになって着替えて頂戴」


「本当にダメ?」

「性豪のアンタに落ちちゃったら、親友ヅラすら無理そうなんだもの。もう暫く親友で居させて」


「フラれたぁ」

「はいはい、嬉しそうに普通は言わないの」




 何の躊躇も無しに脱がれて、シオンに変身されて。

 戯れながら口説かれて、落ちそうになっちゃって。


 コレはハナから私への八つ当たり、ストレス発散。

 あくまでも試し行為、確認作業の1つ。


 不安だから私を試した。

 事実じゃ無くても、そう思い込まないと。


「コレの着方、分からんよ」

「大丈夫、着せてあげる」


「宜しく」

「はいはい」


「虚栄心のエロい顔、見てみたかったなぁ」

「本当、性別も産まれる場所も間違え過ぎよアンタ」


「コウノトリさんかキャベツに言えし」

「言ったわよ、そしたら桃に入れたって言ってたわ」


「あぁ、それで出る時にちょん切れちゃったか」

「アンタ、竹でも同じ事を言う気だったでしょう」


「垢か泥土なら付け忘れ」

「脇の下から産まれるべきだったわね」


「その脇に引っ掛かって分離したねん、それがこの子」

「魔道具になって生まれ変わって来たのね」


「せやで、お臍におチ」

「ショナくーん!この子にオヤツ食べさせた?!」


「まだですけどー」

「飢えた獣の目をして怖いんだけど、ほら」


「馬子にも」

「乗馬してみます?」

「あら、逸すのが上手になったわね」


「お陰様で。ピッタリですね桜木さん」


「褒める以外で頼む」

「まだ褒めてませんよ、サイズ感の感想です。似合うか似合わないかもダメですか?」


「合うかどうか程度で頼む」

「合ってる方ですよ」


「それならギリ大丈夫」

「色合いが似合う場合はどうします?」


「色合いが似合うでお願いします」

「水色もお似合いですね」


 何で我慢するかって。

 だってほら、アンタ達がお似合いに見えるんですもの。

 最初からずっとそう、ましてや魔王の大事な子なんだし。


 それに、ウブちゃんの邪魔をしたら悪いじゃない。


「さ、このままオヤツに行きましょ」

「ふぇーい」




 桜木さんと虚栄心さんと共に向かったのは、いつもお世話になっているホテル。

 デザートバイキングが中華だったからだそうで、桜木さんがお店の方々にもチヤホヤされている。


「あ、魔除けを」

「忘れてるわね、あの子。でもまぁ良いんじゃない、アレも反動が有るみたいだから」


「そうなんですか?」

「だって、運命を捻じ曲げてる様なモノなのよ?対処としては引き籠もりの方がマシよ、捻じ曲げる運命が無いんだもの」


「なら反動は」

「さぁ、どう出てるか迄は知らないわよ」


「エナさん」

『ルーネ、ローズマリー、濃縮されて癖が強いのが来る、かも』

「アナタ、ドリームランドと随分違うのね」


『思考と言葉の直列は難しい』

「ふふ、可愛いわね。ハナの事を好き?」


『好き、面白い、特に着地点』

「ふふふっ、そうよねぇ、普通の予想からズレるものね」

「虚栄心さんは予想出来るんですか?」


「大好きな親友ですもの、って言いたいけれど。どうにも予想って願望が含まれちゃうから、少しズレちゃうのよね」

『虚栄心も好きか』


「当然でしょう。興味も無い、嫌いな人間と居る程の暇は無いもの」


「桜木さんはどんな感じなんでしょうか」

「脈は無さそうよ、アナタが……。だってハナ以外の他人に接する態度で、向こうのハナと接してるんですもの」


「それ、何とかなりませんか?」

「無理ね、余計な事は言えないし」

『誘導は禁じ手だから』


「万が一にも桜木さんが傷」

「真実ってそんなモノじゃない、それをあの子が欲してるなら隠す方が為にならないと思わない?」


「ですけど世の中には」

「ソレとコレとは少し話しが違うわ。ハナの気持ちを、知りたく無いの?」


『おかえり』

「おう、食うか?」


『うん』

「どした?」

「チヤホヤされてたわね、って話しよ」


「モノが良いからね」


 マティアスさんの瞳に写った桜木さんなら、マティアスさん達の居た世界でなら、桜木さんはココで笑顔で返事をしていた。


 どうして笑いかけてくれないのかも、僕の事やアレクの事をどう思ってるかも。

 本当は凄く知りたい。


 桜木さんの為だけじゃ無くて、自分の打算も含んでドリームランドの後宮行きに賛成した。

 選ばれないのは当然としても、まさか冷たい態度を取ってるなんて。


「すみません」

「へ」


「向こうの記憶が無い中で、もしかして」

「いや、大丈夫。コッチこそすまん、ワシの問題に巻き込んで。吸血鬼ってよりワシの問題のせいで一般人まで」


「一般人?雨宮さんですか?」

「第2皇女」


「あ」

「ほら、ごめんね」

「大丈夫よ、向こうはこの程度じゃ思い出しもしないもの」


「でもだ、ごめん」

『そんなに心配なら確認したら良い、今夜』


「またそうやって」

『なら誰を巻き込む?一般人を』


「巻き込むな」

『普通を知りたく無いの?』


「ならマキちゃんで」

『母数は多い方が良いでしょ』


「っ、ローズマリーちゃん」

『無理、そこまではまだ縁が繋がって無いし、役回りが違う』


「どんな弊害があるか」

『ドリームランドを信じて無いの?』


「盲信も過信もして無い」

『あの紫禁城は沢山の神々や精霊に守られてるのに?』

『じゃの、ワシの宮殿より堅牢かも知れぬな。そしてそれ以上に豊かで、柔軟じゃ。何か有ればワシが罰するでな、信用せい?』


「シバッカルがミスったら」

『憤怒じゃ、アレにも権限が与えられた。お主らの国と相性が良いんじゃろうなぁ』


「神様が争うのは望んで無い」

『じゃから、今回のコレなんじゃよ。原因はお主では無い、言うなれば正義と正義のぶつかり合い。繋がった世界で、いつか起こる事象じゃった。今回はお主がその場に駆り出されたに過ぎん、良かったのぅ、子孫におっ被せんで。偉い偉い』


「言い包め、ロキか」

『まぁ、癖は移ると聞くしのぅ、くふふふ』


「アンタが責任感じても、今回ばかりは止めないんでしょうし。いっそ、鵜呑みにしちゃいなさいよ」

「万が一が有るか心配で」

『側仕えにはシェリーも居る、信じておらんのか?』


「え、居た?」

『くふふふ、他にも女従者も居ったぞぃ、どうじゃ抑止の力は』


「マジか、なら安心かも」

「信じてくれてるんですか?」


「そら絶大な信頼を置いてますよ」

「でも、碌にお世話を」


「上の命令に従ってただけと思い込んでるが、違うのか?」

「そうですが」


「なら結構。あ、もし何か」

『おうおう、向こうで聞いてやると良い』

『うん、セッティング完了。夕飯ね』

「え」


「紫苑で良い?」

『ダメ、紫苑はとっとくの』

「ふふ、おめかししないとねぇ」


「とめろ」

「いや、僕は大丈夫ですので」


「吹雪ちゃんにヤキモチ妬かれるのは困る」

「どうしてそうなります?」


「虚栄心、このウブ面倒くさい」

「そうねぇ、小さくても女の子は女の子なんだから、ちゃんとしてあげないとダメよ?」

「向こうで何かあったんですか?」


「無いが、まぁ、察しれ」

「僕も何か」


「あぁ、塩対応で心が折れたから無理だわー、あー、行けねぇわー」

『もう吹雪が喜んでる』


「バカぁー」

「ふふ、諦めなさい」




 虚栄心の店に戻り、何着か頂いて家に。

 コートを羽織って一服。


 完全に流されている。


 今回の事も。

 吸血鬼問題と言うより、ワシの事で揉めてた可能性が高いんだが。

 詫びるより、さっさと終わらせるべきか。


「なぁドリアード」

《なんじゃ?》


「早く終わらせるには」

《なーにをまた…一般人を巻き込んだ事か》


「おう」

《喜んで巻き込まれておるのに、まだ心配するか》


「吸血鬼問題ってより、ワシの事で揉めてたんだべ」

《じゃの、大事大事なんじゃよ。それよりじゃ、虚栄心なんぞを口説きおってからに》


「プライバシー皆無」

《マーリンが心配しておったぞ、あまりに自暴自棄になるようであれば》


「巻き込むなよ。アレはヤれるヤれないの話しで」

《ふん、アレとヤれて我はダメか》


「なんかなぁ、ドリアードはなぁ」

《キェーー!》


「堅牢な砦が好き☆」

《日頃は堅牢じゃもん》


「だって全裸じゃん」

《そこぉ?》


「そこぉ」

《ふん》


『いやぁ、ドキドキしましたねぇ、アレ』

「性豪の相ってマジかしら」


『試してみます?』

「ミイラにされそう」


『休憩位は差し上げますよ』

「そうやってさ、皆で誂ってさ」


『とんでもない、少し博愛主義なだけですよ』

「他にも愛を分けてやれば良いのに」


『分ける権利は』

「自分に有るってか」


『アナタもですよ』

「ソロモンさんは居ないけど、どっちなの」


『せっかちさんですよねぇ』

「居るんかぃぃい」


『私だけじゃないですよ』

「はぁ、ロキもか」


「桜木さん?」

「何でも無い。もう、どっか行ったら?」

『まだまだ、安心出来無いので無理ですねぇ』


「本当に、どうしたんですか?」


『ソロモンもロキも向こうに出番が有る』

「おう、らしい」

「あの、大丈夫なんでしょうか?」


「大丈夫の定義による」

『無理強いは無い』


「ただいま帰りましたー」

「ただいま」

「おう、お帰り。アレク、制服可愛いねぇ」


「サクラも着る?ほら、予備」

「予備が女性用なのは何故」

「僕も持ってますよ、ほら、念の為にって」


「今度な」

「ですよね、折角可愛い服なんですし」

「着たら良いじゃん、向こうで」


「良いなぁ、頑張って下さいね」


「もう、蜜仍君も来たら良いよ」

「良いんですか!?」


「吹雪ちゃんも居たし、吹雪ちゃんの護衛とかね」

「やった!ありがとうございます」

『良い機会だし、今から行こう』






 薄明かりの自室の寝台で目が覚めた。

 二胡の音に部屋から出ると、アレクでは無くロキだった。


「弾けるんかい」

『ココでだけね。はい、魔道具』


 いつも臍に付いてた魔道具が手渡されると、光となって服の中に吸い込まれた。

 この儀式が無いと発動出来無いんだろうか。


「どうも」

『えー、俺の役職聞いてくれないの?』


「呪術士」

『ほぼ正解、祈祷師とかそんな感じ。第3皇女の就任で来たの、ちょっと遅れて』


「それでお詫びの二胡どすか、風流おすなぁ」

『うん、可愛いパジャマだね』

「あ、ハナ、ダメじゃない何か羽織らないと」


「すまん、無知なもんで」

『じゃあまたねー』


「助かった」

「ビックリしたぁ、食べられちゃいそうだったじゃない」


「な、凄い色気だったわ」

「ん?いつもあんなんじゃ無い?」


「あれ?」

「あ、ココはサングラスが外れるって事ね」


「嵌め直してぇええ」

「ふふ、もうそのままでも良いんじゃ無い?」


「絆されまくっちゃうよ?」

「大丈夫、私もリズちゃんも、皆で守ってあげる」


「守り合う程度にしませんかね」

「うん、守り合いましょ。さ、もう寝て」


「うい」


 瞬きをして直ぐ、明るい自室の寝台に変わっていた。

 今日は水色の漢服、お子様方の居る稚児宮へ。


「ご挨拶を、蜜仍です。内教坊に入る予定の平民です」

「宜しく」


 蜜仍君も例外では無く記憶は初期化されているらしいが、1番愛想が良い。

 塩対応が溢れていると、ついつい可愛がりたくもなってしまうのだが。


 吹雪ちゃんもお気に入りだそうで、せめてココは譲ろう。

 年も近いのだし。


「もう、直ぐに遠慮しちゃう」

「ワシってこんなもんよ、控え目なの」


 つか、どうすりゃ良いの。

 自分から行けと?


《あらあら、どうも皇女様。視察ですか》

「うん、もう済んだ。それよりご相談が」


《はい、お庭に行きましょうね》


 色欲さんと庭に行き、今後の対策のご相談。

 どうしろと。


「どうすりゃ良いの」

《果物やお花や文を贈ったり、会いに行ったり一緒にお茶をしたりね》


「ハードル高し君」

「もう、代筆はしますから大丈夫ですよ」


「いやだって、花言葉とか意味とかが」

《私、何でも良いと思うのよね、トリカブトだって美しい青色だし。エンジェルトランペットだって良い香りじゃない?》

「そうあんまりにも物騒なのは流石にココには無いですけど、そうだ!お花を選びに行きましょうよ」


「いや、贈る相手が」

「見てから考えましょ」

《行ってらっしゃーい》


 ココのスーちゃんの行動力とか凄い。

 楽しそうだから良いんだけど、スーちゃんにも選んで欲しいな。


「さ、選びましょ」

「スーちゃんにも選んで欲しい、お相手を」


「もう1年、待ってくれ無い?実年齢がほら、アレだから」

「あぁ、でも今からでも」


「私、初めてだから、制御効かなそうで怖いの」

「分かる。ワシはコントロールしてくれる人が良い」


「そうなの、我慢させてくれて、一緒に我慢出来る人が良いんだけど」

「うんうん、分かる」


「同い年ってほら」

「ガキですか」


「無理ぃ」

「蜜仍君は?もう1人に絞って大丈夫っぽいし」


「だって、ハナのだし」

「ワシのちゃうわ」


「無理って宣誓されちゃったから」

「ココで挽回は、しんどいか」


「同じ人に2回フラれるのはちょっとね」

「蜜仍君の何が良かった?」


「先ずはやっぱり抑制が効いてる所かな、我慢出来て大騒ぎしないし、何でも喜んでしてる感じかな」

「ワシ、虚栄心にフラれた」


「へ、なによそれ」

「清い親友で居ましょうって」


「それもだけど、虚栄心さん好きだったの?」


「ヤれると思うし、好きは好き。ただ友人としてとか、性的とかは、区別付かなくなっちゃった。もう、異性も同性もある意味で関係無いし」


「あー、こう言う問題が発生しちゃうのね」

「だから性転換の事も、公と言うより、都市伝説とか御伽話レベルで良いかなって」


「ハナ、怒らないで聞いて欲しいんだけれど。寧ろ、ヤれない人って居る?」

「賢人君、柏木さん、憤怒さん、施設長、強欲さん、怠惰さんギリ分からん。美食さんも判定不能、んー、セバスは無理、小雪ちゃんとかマキちゃんも無理かな」


「私は?」

「ギリ」


「ギリどっちなのよ」

「ヤれる」


「顔面至上主義過ぎ」

「顔が良いって自覚してんなぁ」


「もう」

「あ、ドリアードも無理だなぁ、もう親戚感覚じゃもん」


「女媧さんは?」

「緊張感の有るお母さんでお姉ちゃんだから無理」


「ロキさん」

「アレはヤれちゃぅ」


「顔が良ければ何でも良過ぎよ」

「いやぁ、面食い自称してるし」


「面食い」

「はい」


「キリッとしないの。もう、じゃあリズちゃん」

「真っ先に無理だな、どんな状態で来ても無理だ」


「マティアスさん」


「もうワシしか居なさそうなら、粉をかける」

「レーヴィ」


「ギリヤれるけど、アレはかけてもダメだろう」

「私、そうでも無いと思うのよね。マティアスさんに譲ってただけで、マティアスさんに行かなかったらレーヴィかなって」


「そんな気配」

「ハナが御使いだったから、大人だから引いてくれてただけだと思う」


「エルヒムが復活出来たらねぇ」


「ねぇ、エルヒムも」

「怖いけどヤれるな。あ、何か呪われそうってだけね、エルヒムは普通だもの」


「巻き込んだのに、どうしてそう思えるの?」

「ワシにしか出来無いみたいな事を言ってたから、観れば良いのに」


「もう、思い出に立ち入りたく無いの。最初は第2や第3世界の事が気になって観たけど、ハナの、ハナだけの大事な記憶を覗く事に凄い罪悪感が出たの。身柱さんの笑顔とか、ワンコさんの笑顔ってハナや紫苑だけに見せた顔だから。だから、身柱さんは嫌がるだろうって」


「ワンコなら倍にして誂ってくると思う」

「もう、ハナの中で好きが溶けて混ざって、区別が付かないんでしょ?」


「うん、少しどうかしてると思う」

「相談する?先生に」


「うん、しようか」


 庭園から宮廷内の川を辿り、医局へ。

 先生は記憶が有るらしく、そのまま薬草園でお茶をする事になった。


《友情の好きかどうか、区別する必要。有りますか?》

「何でも誰でも好きになっちゃうのよ?」


《ハーレムの主上としては正しいのでは》

「先生も反対派か」


《いいえ、賛成派のハーレム推しです》

「当事者じゃ無いからって」


《宦官では無いですよ、見ますか》

「クレイジー」


《資料に目を通している医師は私だけでは有りませんし、医師で無くとも私は私なりに補佐出来る自負は有りますから》

「囲われても良い宣言に聞こえますが」


《はい》

「なぜ」


《フェロモンに充てられた時に、悪く無いなと》

「なにが」


《改めて考えた時に、悪く無いなと。珍しい経験が出来ますし、私と君の平均寿命的にも丁度良いですし。私を好きな部分が明確にハッキリしてるから、ですかね》


「詰まる所、ヤるヤらないの話になるんですぞ?」

《はい、出来ますよ》


「目と頭が可笑しい、学者馬鹿、探究心阿呆」

《受け入れると拒絶しますよね》


「すまん、ちょっと動揺して」


《それで、性豪の相がどんなモノか医学論文に》

「凄い変態だ、色欲さんにお相手して貰いなさいよ」


《彼女は色気、他者に影響を及ぼす者。性豪とは別だそうですよ》


「何重苦なのよワシ」

《生来のギフテッドとは思えませんか》


「甘受して無いので」

《しようとしてませんよね。明らかに拒絶されるであろう虚栄心を口説いたり、アレクを激しく拒絶したり。もう自傷行為スレスレですよ》


「すんません」

《幸せを受け入れると死んじゃうんですかね》


「そんな節は、有る。頭では分かってても、親に勝つ事にもう興味が薄れてる」

《そこまで意地にならなくても大丈夫かと。ドン底だったり、自信が無くなった時の復活の呪文程度の扱いで良いんですよ》


「甘ったれなので、自分で唱えるのはちょっと。キモい」

《ちょっと勝ってみませんか。君が男で私が女だったら、間違い無く歯噛みすると思いません?》


「まぁ、多少は」

《この性別のままでも、君の母親なら嫉妬して、私を良くない男だと遠ざけようとする可能性は有る。同性の友人もそう、どうです?》


「無いとは言い切れないかもだけど」

《ましてやアレク、私にロキ神、羨ましがられると思いませんか?》


「先生、顔面偏差値高い自覚有るのね」

《一応、そう言った時代も生きてますので》


「先生のメリットは性豪の論文だけ?」

《ハーレム形成における論文も書くでしょうね、後世の召喚者の為にもなりますし》


「後代を出されると弱いのよなぁ」

《それに君は色々と面白いですし》


「医師が技能使って言い包めはもう、暴挙では」

《茶化すのを嫌がる方も居るでしょうけど、ツンデレの亜種だと思うと可愛く見えるかと》


「ワシの茶化しをツンデレ亜種と申す」

《申します。なので耳飾りを下さい》


「強請られるモノですかコレ」

《そう言う場合も有るかと》


「タイム、待った」

《3回までですよ、残り2回》


「先生は最終手段と言う事で」

《誰がハーレムの統括を行うんですか?祥那君には難しいと思いますよ》


「なんでそこで」

《好きじゃ無いんですか?》


「軸に手を出すのは御法度感が凄い」

《お話には良く有る展開だと思うんですけどね、聖女とか王女とか。逆に魔王とかも良く手を出されてるそうで》


「痛い脛をバンバン叩く」

《弱点を突くのは程々にしておきましょうか》






 寝台まで案内され、寝て起きて。


 虚栄心に選ばされた服でお出掛け。

 難民の交流との事なので、蜜仍君とスーちゃんもやって来た。


「蜜仍です、宜しくお願いします」

「アポロです、宜しくお願いします」

《何か、違う様な》

「すみませんが、実はこの前のは予行演習だったんです、この方が本物です」

「ごめんなさい」

「なんで嘘ついた」


《良いのよ吹雪、予行演習は嘘も有りなの。でも、じゃあハナさんは》

「有る意味同僚と言うか、上司でもあったりします、ごめんなさい」

「大変申し訳ございませんでした、大事な事なので練習させて頂きました」

「なぜ」


《避難訓練、訓練だと思うより常に本番と思え。大事な事だから慎重になるの、そうよね?》

「あの、私が慎重にとお願いしたって事にして貰えませんか?」


《凄い、お上手なんですね》

「ハナと一緒だったので」

「はい」


《ハナさん、羨ましいなぁこんな可愛い子と一緒だったなんて。あ、イケメンって褒めた方が良いかな?》

「どっちでも大丈夫ですよ」


《可愛いぃいい、はぁ、お写真ダメなのよね、残念》

「何才か」

「6月の6日で16才です」


「おぼえやすい」

《あー、並んでる所が撮りたいぃ》


 許してくれたと言うか、有耶無耶になったと言うか。

 今日は飲茶屋さん、一品料理も有る食べ放題のお店。

 吹雪ちゃんは蜜仍君に、小雪ちゃんはスーちゃんに夢中になってくれて助かるのだが。


「なぜ、張り詰めた感じなのよ」

「すみません、報告書を読んだので」


「何が…ワシの転勤の心配か」

「はい、そんな感じです」

《ハナさん、どっか行っちゃうの?》


「いや、異動願いは出して無いんですけどね、前に一時的に、急に異動になったので」

「異動は嫌なのか」


「ですね、もう落ち着きたいので」

《あの、もしかして私より年上とかは》

「同い年ですよ僕らと」


《あ、ごめんなさい、もう少し、アポロ君位かなーって》

「やっぱり、もう少しお化粧すべきですかね」


《ううん、そうじゃ無いんだけど》

「補導される位ですからね」

「これ、それ言うか」


「1回ならまだしもですよ」

「お代わりお願いしまーす」

《ふふ、もしかして凄い偉い人だったりして》

「召喚者さまか」


「実は、全然違うんですよ」

「なんだ、ビックリした」


「そらもう、怪我したままですからね、召喚者様は」

「特殊メイクで隠してるかも知れない」


「お触りあそばせい」

「魔法?」

《魔道具かも知れないわね。あ、アポロ君は会った事は?》

「言えないんです、会ったか会って無いかも」


《そっかぁ、ごめんね》

「いえいえ」

「ハナと同じで髪長い」

「それだけだと無理があるなぁ」


「白くする魔法」

「魔道具は外せないから証明が難しいな」

《凄い可愛いの付けてる、もっと見せたら良いのに》


「髪切りたいんですよね、こう、バッサリと」

「《「えー」》」

「反対多数ですね」

「吹雪も勿体無いと思う、沢山三編みできる」


「飽きるよきっと」

「大丈夫、吹雪は早々飽きない」

《ご飯が終わってから、改めてお願いしましょうねー》

「仲が良いんですね」


《もう、溺愛》

「結婚の事、調べた。昔だと小雪はもう行き遅れ」

「どの時代の?」


「1500年とかの」

《大昔じゃない、今は一夫多妻だって認められてるのに》

「多夫一妻は?」


《探して調べた事は無いけれど、どこかにはあっても良いと思うなぁ》

「選べないとそうなるのか」

「私達の国がそうだったの、3人の夫と1人の妻」


《へー、妊娠中とかどうするの?》

「子供が既に居たら交代で面倒を見たり、代わりに仕事をしたり、家の事も外の事も夫がするの」

「ココとは性別の割合が逆転してたそうで、7割が男性だったそうです」


《じゃあ出産時の死亡率って》

「ほぼ無かったと思う」


《なら、夫同士ってどうだったのかしら》

「仕事も育児も家の事も交代するし、毎日同じ仕事じゃ無いから良く話し合ってた。ココの仕事仲間みたいな感じ」


《もうちょっと、深堀りしたいなぁ》

「ショナ」

「蜜仍君、吹雪さん、席を移りましょうか」

「はい」

「しょうがない」


《ショナも、アッチ行ってて》

「え、はい」


《その、夜はどうなるの?》

「妊娠し易い時期は、一晩で、3人とです」

「わお」


「人によっては順番は毎回循環してて、誰かが疲れて出来ないと連帯責任」

《あー、そうやってバランスを保ってるのね。じゃあじゃあ、選ぶ基準は?》


「匂いです。次に得意分野が被らない事、勉学や運動や器用さで。最後に好みかどうか」

《匂いかぁ、どう確かめるの?》


「ちょっと濃密なお出掛けをして、匂いを確かめます」

《男の人に拒否権は?》


「匂いがダメな場合だけで、離婚はそんなに無いです。七去って有るんですけど」


 1、女児が生まれない。

 2、他の相手と致す。

 3、非従順と非協調。

 4、悪口や噂話の流布。

 5、窃盗。

 6、嫉妬深い。

 7、重い怪我や病になる。


 主に女性から言い出す事だそうで、離縁には充分なんだとか。


《女児が生まれないって、そっちも産み分けは男側って事になってるのね》

「はい、精子の段階で決定付けされてるそうですね」

「例外は?」


 1、家族の誰かを看取った。

 2、家族が居ない。

 3、結婚してから立派になった。


 上記を満たせば離婚はされない。


「って感じです」

《あ!中つ国のに似てるんだ、なる程ね。不思議》


「専門家の方は、環境も似てたので同じ様な歴史を辿った可能性が有るって」

「茶器とかまんまだもんね」


「それと正式な結婚には何段階か有って、最初は通い婚で、男が通うんです。婚姻前や継続の掟も有りますよ」


 1、誰かに粉をかけられていたら断る。

 2、誰と付き合ってるか言わない。

 3、人前でイチャイチャしない。


 1、常に平等に。

 2、夫を加えたり離縁する時は話し合う。

 3、誰かが出来ない時は皆で我慢。


《嫉妬させない為?》

「そうです、奪い合いで揉めない様に。それに、良いなと思ったら女からでも夜這いをして、匂いを確かめ合ってそのまましちゃうとか。ただし、絶対に夜明け前に帰らないとダメなんです、誰が誰をってバレちゃうので、泥を投げ付けるんです」


《身を隠させる為と、嫉妬?》

「はい」


《拒否は?》

「家に入れない、窓を閉めちゃえば良いだけですから」

「神都は少し違くない?」


「うん、村では男女が一緒に居ても問題無かったんですけど。神都では男女2人だけはダメでした、常に同性と2人行動」

《逆ハーレムかぁ、でもなぁ、選ぶ方法が恥ずかしいって思っちゃうかも》


「神都だと1日着た衣類の提出、その匂いで選ぶ感じ」

「それはそれで恥ずかしい」

《ぅう、他に穏便な方法は無いかなぁ》


「無いけど。でも、果物やお花を贈るって素敵だと思いますよ」

《でも結局は匂いってなりそう、そんなに大事だったワケだし》


「ですね、ただ、交際中の違和感に気付いて、直ぐに離れられる程度なので。ラインが違うって言うんでしょうかね?」

《あー、親しくなる境界線をずらすのね、ならアリかも》

「めっちゃ得ようとしてますな」


《だって、離婚率凄い低いんでしょ?》

「まぁ、寿命も短かったので」


《だからよ、長いから我慢なんて可笑しな話だし。短いなりに出来るだけの事をって考えられた仕組みなんでしょ、その技術や知識が広まってしかるべきだと思うの。それに、事故や災害で若くても死んじゃうのは一緒なんだし。恋人は欲しいけど、大前提として離縁しない、合う人が良いって全世界共通認識だと思う》


「良い面しか言って無いからです、実際はそんなに断われ無かったんですよ。特に神都に召し上げられたりとか、偉い方に見初られると」

《昔話や御伽話には良く有るじゃない、それに今はもう廃止されてるんでしょう?悪習を悪習と理解して撤廃すれば、後は良い事だけが残るじゃない?》


「ありがとうございます」

《私だけの考えじゃ無いからね?資料として公開されてるから、当然友達とか親と話し合って、その結論になったの。今回も具体的に聞けて良かったし、もっと知りたい。通い婚って、有るじゃない?もっとこう具体的に、どうしたらそこに到れるのかとかとか》

「グイグイ行きますな」


《そりゃね、待ってて良いのは本当のお姫様だけだから。平民でもお姫様になりたいなら、自分から探しに行かないと》


「顔面や外見は重視しないって聞いてたんですけど?」

《怪我とか遺伝しない外見の特徴をね、気にしないってだけ。全然、イケメン好きだし》

「濃い目の」


《あ、じゃあお兄さん見た事有るんだ》

「遠目から、遺伝子を疑いましたな」


《そうなのよ、風習を知らなかったから妹だとばっかり。男の子だって知った時にはもうね、泣いたわ》

「どんだけ」


《ウチの親、転勤でココに来て一時期仲が悪かったらしいの。で、お隣さんが居てくれて、落ち着いたら私が出来て、またお父さんの仕事が忙しくなって不仲になって、それの繰り返し。どっちが悪いとかじゃ無いんだけど、お母さんも不器用な人だから。で、私が独り立ちするかどうかで吹雪が出来て、もう、王子様より妹》


「恋愛は家族より不安定だって聞いてます」

《そうなのよ、確実に私を嫌わない吹雪だけで良いかなって思ってたけど。吹雪に好きな人が出来たらね、王子様を探さないとだし》


「あの、お姫様じゃ無い理由は?」

《あ、性別ね。特には無いけど、筋肉有る女子ってもう人気高過ぎてマジムリ》

「筋肉有りき」


《逞しいって言うか、強さへの憧れ?守りたいし、守って欲しいから》

「ほう?」

「だから先ずは外見の筋肉なんですね」


《そうそう》

「ハナは少し違うのよね」

「守って欲しいより、制御はして欲しい」


《少し似てるけど違う感じは分かる、ハナさん暴れん坊系?》

「うん、はい、そうです、凄いです」

「アポロ君」


《そっかぁ、ならもう確実にショナの上じゃない》

「ノーコメントでー」

「そろそろ合流しましょうか」


「なんのないしょ話か」

「恋愛と結婚についてです」

「うん、マジでそうだった」

《そうそう、ソッチは?》

「似た様なものかと」

「ですね、デザートはもう良いんですか?」


「ワシは満足」

「私も」

《うん、何ならまだ話せるわよ》

「吹雪はもう良い」

「ごめんなさい、僕がご機嫌を損ねました」

「お会計してきますね」


「蜜仍君」

「はい」

「吹雪、フラれた、2人に」

《ちょっ、どうしてそうなってるの?》


「僕もショナさんも好きな人が居るので、ごめんなさいさせて頂きました」

《吹雪、せめて1人ずつになさいな》

「どっちも素敵だから、いつ会えるかわからない、仕方無い」

「合理的でらっしゃる」

「ですね、ハナもこう欲張りなら良いのに」


「吹雪、欲張りか」

《ちょっとね、でもまぁ成功してたら欲張りとは言われないかも》


「失敗したからか」

《段取りや準備は何にでも必要で重要なの》

「僕が言うのもなんですけど、1回の失敗程度じゃ僕は諦めませんよ」


《そうそう、しつこいのも諦めが早いのも良くないわね》

「むつかしい」

「分かる、お互いに頑張りましょうね」


「すき」

《ちょ、吹雪、切り替え早いわね》

「ブフッ」


「髪の毛キラキラしてるから、小雪の王子様なる前にツバ付ける」

《え?本当に男の子なの?》

「はい、今は一応そうです」


《ごめぇえん、ボーイッシュな可愛い女の子とばっかり》

「小雪は見る目が無い」


《ぅう、ごめんね?また会ってくれる?》

「小雪ちゃん、どっちの意味で」


《両方の意味で☆》


「お会計終わりましたけど、どうかしました?」

《後で後で、じゃ、出ましょうか》


 小雪ちゃんや吹雪ちゃんの逞しさを身に付けねばと思いました。


 そして少しモール内を見て回り、最寄り駅まで送る事に。

 初電車、そこまでの混雑は無く、駅でお別れ。


「じゃあ、帰りましょうか」

「家までは」


「カールラとクーロンが居ますよ、向こうに公園が有るので行きましょう」


 公園の裏から先ずはスーちゃんの家へ。

 と言うかリズちゃんの家なのね。


「おう、お疲れ」

「おう」

「ただいま、お土産だよー」


 加治田さんにもご挨拶し、浮島へ。


 一服。




 桜木さんはまだ人見知りするらしく、緊張したのか溜息をついて一服し始めた。

 クエビコ様のお陰で話の内容が聞けたのは良いのだが、突っ込んで聞くべきかどうか。


「大丈夫でしたか?」

「内容は聞いてたかね」


「はい、ほぼ。ただ、機微までは」

「何も気になる事は無かったが、気にした方が良いの有った?」


「いえ」

「そう、知恵熱出そうです」


「お疲れ様です」

「ハーレムなんて、良いんですかね。見殺し野郎が」


「何も出来なかった人間には凄く刺さるんですが」

「出来ないとしないは違うべや」


「出来た筈だと思えば、そんなに変わらないのでは」

「屁理屈と言うか何と言うか」


「一般の方は、じゃあお前らが何をしたんだと言われる事が、1番怖いそうですよ。見もしない体験もしていない人間が、批判した際にそう言い返されるのが、1番怖いそうです」

「あー、そんなのも読んでるのか、すまんね」


「いえ、オモイカネ様が検閲して下さってるので、僕ですらほんの一部です」

「もっと聞いても良いだろうか」


「怪我を治さないのは、現代医学への挑戦状だ。治療魔法の議論をすべきだ。ご婚姻はどうなるのか」


「すまんね、賢人君にでも聞くよ」

「いえ、本当に僕は大丈夫です。理由も理解してますし」


「怪我は単なる偽装で深い意味は無いとか」

「特に何かを望んでいるワケでも無い、ただ良い方向にいけば良いとは願ってるかと」


「流石っす」

「いえ、まだまだだと思います。全く分からない事も沢山有るので」


「そうか?」


《ご主人様》

『お疲れ様です』

「成人状態での過剰な身体接触禁止」


《『あい』》


 2人の激しい嫉妬ドリルに遭いながら、頬擦りしたり撫でたり。

 何が有ったかを話し合い、そしてお風呂へ。


 その合間に報告書の作成。


 そして今日は蜜仍君が狼にと呼ばれた。

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