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召喚者の病弱日誌ー永住を決意したのは良いんですがー  作者: 中谷 獏天
第1章 厄災の後処理や、今後について。
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4月12日 日曜日、釣りとかした、脳味噌溶けるかと思った。

『おはよ』

「おう」


 眠りが浅かったのか、皆が寝ているのに起きてしまった。

 アレクとミーシャは元々起きているが、エナさんも寝てるし、そしてショナの寝顔。


 お久しぶりで御座います。


「また拝んでんの、物好き」

「寝直しますか桜木様」


「いや、温泉に行こうかミーシャ」

「はい」


 大きな真円のお風呂、目の前には岩の露天風呂。

 シンプルイズベスト、柔らかい温泉。


「どうでしょうか」

「静かで良いと思います」


 ミーシャに頭を流して貰い、部屋に戻るとショナが起きてしまっていた。

 残念。


「おはようございます、眠れませんでしたか?」

「いや、寝た。楽しみで早起きしちゃうタイプやねん」




 嘘は無し、本当らしい。

 申し送りも問題無かったので、見回り後にミーシャさんとアレクには一軒家に戻って貰う事に。


 3人で見回りをしている間、桜木さんは庭で一服。


 今日はミーシャさんにトリートメントをされたのか、髪がキラキラさらさらしている。


「ショナ、見回り終わりましたが」

「あ、はい。トリートメントしたんですか?」

「キモっ」


「なっ」

「変態、サクラが聞いたらビビるし。注目を浴びたと感じたら、お前がカエルと思われるかも知れないけど良いの?」


「あ、ありがとうございます」

「貸しな?」


「はい」

「何か有ったら連絡を」

「じゃあね」


 女性として見られたく無い呪いも、まだ解けてはいない。

 うっかり迂闊な事を言うのは控えないと。




 旅館に戻ってもリズちゃんは目覚める気配無し、小さいしこのままギリギリまで寝かせておく事に。


 チェックアウトし浮島へ、従者達の準備が終わるまで待機。

 抱っこされてるとはいえ、どんだけ寝るのか。




 本来は俺が桜木達を案内すべきだったんだが、気が付いた時には既に川辺り。

 準備は完璧、後は釣るだけの体制になっていた。


「すまん桜木」

「寝る子は育つ、ほれ、変身しておいで」


 昨日に引き続き小さ過ぎる体では色々と危ないので、大人の男で遊ばせて貰う。


 エミールはコレからある意味夜ふかしをする、ココの時間で言う朝の8時前まで釣りやキャンプを楽しみ、以降はアヴァロンへ戻って眠り、また15時には戻って来る。


 そして明日の早朝からは、イギリスの寮での生活に。


 神々やガーランドさんの配慮、離れるのに後腐れが有っては小野坂の様な事が起きる可能性が有ったから。

 だが昨夜に何か有ったのか、エミールはかなり落ち着いている。


 なんだろ。

 皆で其々距離を置き、釣り竿を振りながら独り言。


「なぁ、昨晩何か有っただろ」

《おうおう、ウブじゃ無いだけで助かるとはのぅ》

『ハナがキッパリ断ったんだ』


「マジか、エミールが告白でもしないとそう舵を切らないかと思ってたが」

《しこたま大人エミールがイチャイチャしてのぅ》

『アレはショナ坊が少し気の毒だったが、まぁ、良い様に転んだ』


「あぁ、モテるのは怖いな、ハーレムは諦めたわ」

《なんじゃ急にしおらしくなりおって》

『まさかお前』


「行って来たわ、最初は良かったんだがなぁ」


 ゲームの様には上手くいかず、何度も何度も暗殺され、やり直した。

 そうして1つの結論に至った、ハーレムの妻達が程良く仲が良い事がマジで大前提なのだと。


 仲が良過ぎれば稚拙な俺は除け者にされるか、ハーレムを乗っ取られるし。

 仲が良く無いと当然不穏な空気になり、ご機嫌伺いで時間を浪費するだけになる。


 息抜きにと、この性別で逆ハーレムを観察しようとしたのだが、行為へ至るスピードが早く、スキップする機能も無いので逃げ出して終わってしまった。


 多分、俺自身が反映されているハーレム。

 俺そんな直ぐに、やっちゃうか、逆ハーの男側なら。


《まぁまぁ、恋愛のプロでもモテキングでも無いんじゃったら、そう上手くはイカンじゃろうて》

「アレだな、ワンコなら滅茶苦茶上手くやりそうだが」

『それは、ハナが居ない場合だろう』


「あぁ、俺にしたらアイツも残念イケメンよな」


 写真以外の映像はボヤけるかフレームアウト、殆ど直視されなかった残念イケメン。

 桜木のライン上ギリギリのイケメン、だがアレより濃いとダメと言うワケでも無い、フェミニンだとアイツのハードルは一気に下がる。


 女装でもすりゃあゲット出来たんだろうに。


 アレか、男としてのプライドか?

 いや、モテキングのプライドか、そこまで好きじゃなかったか、この発想が無かったか。


 無かったんだろうな、俺もこうなんなかったらこんな発想無いんだろうし。


《お、来たぞぃ》




 エミールに教えて貰ったフライ作りをしながら、魚が掛かるのを待つ。


 最初に釣り上げたのはリズちゃん。

 下処理はショナ、普通に出来るの凄いな。


 続いてスーちゃん。


 エミール。


 蜜仍君。


 トイレに行ってる隙にショナに釣られ。


 スーちゃんのトイレ中には賢人君が。


 自然界は厳しい、それともフライ作りにハマってるせいか、両方か。


 ニジマス、ヤマメ、サクラマス。

 それぞれが釣った魚が焼き上がり、美味しそうに食べている。


『一口どうですか?』

「もうちょっと我慢する」

『あっ』


 エナさんまで。

 嫌われてるなコレ。


「どうしたら、釣れるでしょうかね」


《治して欲しい》


「ぉお、白蛇さんの系譜かな」

《私は違う、治して欲しい》


「何処に」

《川向こう》

『治す気が有るなら行ってやれ』


「ショナ、川向こうに行ってくる」

「あの」

『ハナ独りで大丈夫』


 羽衣を使い川向こうへ。

 蛇か鯰かと思ったが、菊の花を持った農家の方だった。


『あ、天狗様ですか』

「まぁ、そんな感じです。お怪我ですか」


『大丈夫ですよ、ちょっと疲れて休んでるだけですから』

「お腹、お気付きで?」


『え、あ、本当ですか?』

「多分、お医者さんに聞いた方が確かですよ」


『ありがとうございます』

《治して欲しい》

「へ」


『あ、アナタ』

《人間として暮らして欲しい》

「人間界の何が良いですか」


《番に出会えるまで、沢山時間が掛かった。子供は自分達より長生きする、寂しい思いはさせたくない》

『アナタ、私に相談してくれても』

「ククノチさん、どう思う」


『召し上げは何も召喚者だけでは無い、昔は貧しい家の子、捨て子、孤児。何処にでも居たが』

《今はそうそう居ない、そして不幸を望んでもいない》

「難しいな、化けて里に降りれないのかね」


『言い伝えは残っているんだ、恐れ、逃げられ終わるだろう』

《嫁は良い子だが、そうそう良い子は居ない》

「移民はダメかね」

『アナタ、もしかして』


「天狗っぽい何かです。上手く行く算段はコレからするが、どうかね移民は。新しく言い伝えを作れば良い、それを広めたらイカンかね」


《少し、考えさせて欲しい》

『私は賛成です、可能性が多いに越した事は有りませんし、今がダメでもその先、またその先へと繋がるんですから。ね?』


《それでもだ》

『そのおつもりでお願いしますね、天狗っぽいお方』

「了解で。ただ、上手くいかなかったらまた来ますから、それで良いですか?」


《う、うむ》

「ありがとうククノチさん、出来たら奥方を」

『あぁ、任せろ』


「ワシの好物です、お体に気を付けて」

『わぁ、きんつば、ありがとうございます』




 桜木が川向こうへ行って直ぐ、エナさんから情報が入った。

 菊理媛神と接触し縁が出来たと、そして移民に伝承を新たに発生させるつもりだとも。


 菊理媛神は確か、縁結びの神様だとも聞いた様な。


「うん、さっぱり話が読めんな」

『新たな異類婚姻譚の成立』

「え、桜木さんは」


『ククノチも居るし無事、きんつばをあげた』

「それはそれで心配なんですが」


『菊理にあげたんだ、問題無い』


「ただいま、もう聞いてるかね」

「どうして新しい異類婚姻譚を作る事になったんだ」


「いやー、妊婦さんが居て」


 詳しく聞くに、その妊婦が菊理媛神、そして新たな異類婚姻譚の成立を促された。

 いずれは日本の神々と移民を会わせるつもりだったが、早いな。


「で、アテは」

「無いよ、スーちゃん頑張って」

「へ?!私?!」


「パロスペシャルすんぞ」

「えー、なんで急に暴力的なのよぅ」

「パロスペシャルってマジで古いなお前」


「先生にも協力して貰おう、と言うか白蛇さんの希望が」

『幸せに終わるに限る、らしい』


「エナさん使えば良かったのに、何で呼んだんやろ」

『儀式的な事』


「なるほど」

「うーん、蛇の生殖って」

『爬虫類にまで広げると、メスだけの群れも有る』


「高まるぅ」

「宜しく。釣りに戻る」


 そして、白蛇の姿なのに白蛇の系譜じゃ無い。

 なんだ、誰だ。


「エナさん」

『龍神、九頭竜』


「あー」


 結局桜木は釣れないまま、エミールの就寝時間となってしまった。


『すみません、釣れなくて楽しく無かったですよね』

「いや、フライ作りも投げるのも面白かったから大丈夫」

「コイツが悪いんだ、気にすんな」


「その姿で言われると凄くムカつくわ」

「なんっ」

『ふふ、じゃあ、おやすみなさい』


「おやすみ」


 俺とスーちゃん、エナさんと賢人君はテントで朝寝。

 桜木は、まだ頑張るらしい。




 リズさん達が眠っている間に、桜木さんは何とか2匹釣り上げた。

 頗る喜んだ後、眠いのか焼き上がっていく魚と焚き火をボーッと眺めている。


「眠いですか?」

「いや、ちょっと頭空っぽで眺めてるだけ。マジで無心じゃないと釣れないって、座禅かよ」


「後半は本当にボーッと眺めてましたもんね」

「時間と脳味噌が溶けるな、ヤバいわ釣り」


「運動音痴の割にはちゃんと投げられてましたね」

「コツが掴み易かった、釣具のお陰かね。購入品?」


「はい、エミール君と従者で選んだそうです」

「ちゃんと使わないとな、本来の時期はいつなんやろ」


「ヤマメやイワナなら6月だそうですよ」

「じゃあ毎年6月は釣り大会か」


「良いですね、連休も無いので良いイベントになりますし」

「折角ならポイント制だな、つかみ取りは最低ポイント、管理釣り場も低くしないと」


「食べ切ったらポイント加算で」

「良いね、ワシ有利になった」


「フライで海釣りも出来るそうですよ、アオリイカとか」

「あぁ、絶対やりたいわ、浴びる程のイカスミでパスタ」


「いっそ、夜間にエミールさんとイカ釣り漁船に乗られては」

「ガチのか」


「良い体験になるかと」

「イカ釣りにハマったら年中だべや」


「ですね、イカスミ汁食べ放題ですよ」

「肝バターのホイル焼き、イカ飯、里芋の煮っころがし」


「お腹減ってますね、もう少しですよ」

「わーい」


 僕だけになると表情が消える、無表情で喜ばれるのはちょっと、傷付くと言うか。

 前から全く変わって貰えない部分。




 目を覚ますと桜木も眠っていた、ショナ君に聞くと俺らが寝た直後に2匹釣れたらしい。

 偶々にしたって、意図的に感じるのは穿った見方なのか、違うなコレ、エナさん見るとサムズアップしてんもん。


 土産用に何匹か釣り、撤収作業へ。

 今回の釣り竿は拭くだけ、手入れが簡単なモノを選んでくれたらしい。


 それと、大人の男の体。

 サイズ違うしやっぱり楽だ、ちゃんと手伝えるのが良い。


 後は、桜木の寝てるテントと焼台だけ。


「起きろ」


「だれ」

「リズだが」


「あぁ、おはよう」

「おう、撤収だ」


 この姿でリズと名乗るのにはまだ慣れないが、まだ先だしな。


 普通のストレージは火気厳禁、焼台をそのまま桜木にしまって貰い、次は陶芸体験へ。


 ロクロを使いこなしやがって、俺は小さい状態で四苦八苦してるのに。


 イライラにデジャヴ。

 コレがイヤイヤ期か、なるほど。


 桜木は当然の様に世紀末大革命恋愛大皿左巻きと、普通にデカい湯呑みと茶碗。

 俺やスーちゃん達は湯呑みと茶碗で時間切れ。

 蜜仍君も上手かった、早々に大皿と茶碗と湯呑みを作り終え、俺らに教えて回ってくれた。


 凄いのはエナさんだ、色々と未経験なのだから当然なんだが。


 失敗する様がもう。


「リズちゃん、アレ、もう安田やん」

「安田さんな」

「もー、そのネタ知らないぃ」


 出来上がりには時間が掛かるので、次はそのまま休憩に園内のカフェへ。


 バラのジュースにハーブティー、普通に優雅だが。

 昨日の夜、桜木はココで揉めてんだよなぁ。


「一服してくる」

「おう」

「いってらー」


 しかも、それをショナ君が目撃してなぁ。


「ショナ君、ケーキを見に行きたいんだが」

「はい」


「なぁ、昨日、大丈夫だったのか?」

「まぁ、多少凹んでましたけど」


「じゃなくて、君がだ」


「辛いだろうな、怖いなと」

「怖いよな、近くに居られなくなるかも知れないんだもんな」




 リズさんの言う通り、桜木さんに蛙化現象が起きてしまったら、話す事は勿論、近寄る事すら難しくなりそうで、正直怖い。

 従者としての繋がりしか無いのに、側仕え出来無くなったら、一生会えなくなる可能性も有る。


「変な事をお聞きするんですが、女性から嫌悪感を抱かれるのって」

「男としてと言うか、人間としての尊厳をゴリゴリおろし金で削られる感じだな。ガキの頃は軽口が当たり前だったから良いけど、大人になってからは、それでもキツかった。後から有り得ないとか噂されたって知って、ゴリゴリされたわ」


「人間としてですか」

「向こうの男のテンプレート知ってるだろ、男じゃ無いと人間じゃ無いみたいに、男らしさから外れるともうね、あるべきとか、らしいとか。今この姿だから言えるんだけどな、向こうじゃ当たり前で気付かなかったし」


「それの被害者でも有るんですよね、皆さん」

「加害者でもあった、女をらしく無いと責めたし、らしく無い男をバカにした。こう、数十年であんな違い出るのかって思ったが、土台が違うんだよな。俺んち、それなりに平和だったし」


「あの、幼馴染とかどう思いますか?」

「昔は憧れたけど、幼馴染によるよな。どうなんだ?」


「こう、そう思った事が、今までに無くてですね」

「あーあ、甘酸っぱいチェリーミートの香りじゃねぇかこんちくしょうが。コレ、頼んでくれ」


「あ、はい」




 すっごい気になるのに聞くタイミングを完全に失っちゃってたけど、ハナとエミール、どうなったのか気になるぅ。


 どっちから聞こう。


「ハナ、昨夜の事を教えて」

「エミールに聞いた方が面白いかと」


「え、顔に出てた?」

「そらもう、エミールから聞く時はニヤニヤしないでおくれよ」


「勿論じゃよ」

「絶対に。な、泣かれたんだから」


「また泣かして」

「成長してくれってだけで、どうせいっちゅうのよ」


「あはー甘酸っぱぃいい」

「ニヤ事じゃ無いのよ」


「自分の事じゃないしー」

「どっかで聞いたな」


「おう、戻ったか、ケーキ食うぞ」

「お昼前なのに」

「まぁまぁ、甘酸っぱいを食べましょ」


 食後は庭園を回って、次はお土産屋さんへ。


 ハナは手の込んだモノが好き。

 寄木細工の秘密箱、高額な最大回数のモノを買おうか、一瞬悩んで10回の秘密箱を買っていた。


「何を容れようか」

「思い出」


「足りないわぁ」

「そうよねぇ」

「デッカいの作って貰うか」


「ワシが入る位の」

「入るな入るな」

「誰が閉めるのよ」


「自動で、回数は最大値」

「マジックかよ」

「あ、マジックの漫画でオススメ見付けたの」


 お買い物の後は温泉、箱根の湖を眺めながらまったり。

 貸し切りの休憩室も眺めが良いし、ご飯美味しいし、最高。




 桜木さんがお布団を取り出すと、横向きに寝転がり、リズさんに鈴木さん、エナさんと眠り始めた。


「小さいはエコっすねぇ」

「ですね」

「僕らも寝ましょうよ」


「どぞどぞ、俺は昨日早かったんで大丈夫っすよ」

「ね?」

「じゃあ、少しだけ」




 桜木の布団でちょっと寝るつもりが、1時間半も眠ってしまった。

 勿体無い気もするが、子供だしこんなもんか。


 スーちゃんはかなり早めに起きたらしく、蜜仍君とショナ君の寝顔を桜木に送信しまくっていた、桜木は無言のままに無表情でサムズアップ。


 そしてウォーミングアップにと卓球大会、やっぱり従者って凄いな。


「ココで関心するのもなんだが、やっぱ凄いな」

「そうよね、つい忘れちゃうけどトップエリートなのよねぇ」

「昨日のプロレスも凄かったしな」


「なんだそれ」

「リズちゃん寝た後に、なんだっけ」

「ショナが賢人君にロメロスペシャル掛けた」


「はー、見たかったなおい」

《録画して有ります》

「マジか」

「凄い」


 動画を送って貰い、再び入浴。

 今度は神社巡り。


 普通におみくじ引いて、御朱印貰って、お水汲んで。

 おみくじの内容以外、普通なんだよな。


 水辺沿いの歩道が有るので暫し徒歩、当然おみくじの話へ。


「何処かに待てが入るぅうう」

「本当ね、私のには無いし」

「俺は入ってるぞ、ほれ」


「待ち人、待て。ウケる」

「精々ゆっくり待つ待つ」

「あらもう良いの?」


「実は、紫禁城行ったんだわ」

「大丈夫だったかリズちゃん」

「えー、我慢してたのにぃ」


「アレは、体験しちまうから不味いぞ」

「へー」

「え、ハナ」


「通り過ぎただけ」


 ショナ君、桜木に見えないとは言え、もの凄い表情に出たな。


「その、体験するって言うのって」

「行為」

「わぉ」


「わぉ、ってハナ」

「ワシ関わっとらんし」

「ただな、俺や俺の意思が反映されてた可能性が有る、至らない可能性も無くは無いと思うが」


「なんか、怖いかも」

「恐怖心有るなら止めた方が良いよ、影響し合うだろうから」

「お前ら一緒に行けよ」


「え、ヤっちゃったらどうすんのよ」

「えー、アリ」

「バカ、単身だと欲望の振り幅で凄い事になるかも知れんから、対で行けって事だよ」


「俺とどうっすかショナさん」

「え」

「きゃー」

「もう1回、録画するから言って」

「おま。マジで考えてくれ、お互いの性癖を知る事になる可能性が有るんだ、マジで話し合ってくれ」


「ハナは、私の大丈夫だもんね」

「それか俺と賢人君か、平凡だって自負は有るしな」

「寧ろリズちゃんとワシが先じゃね?過激なのはウブにはちょっと」

「そうっすね、念には念をで」


「桜木、今回は睡眠時間を公務に入れるからな」

「へ」

「そうよ、お仕事だもの」


 決行はお昼寝の時間に、準備が整い次第決行となった。


 そして空間移動で九頭竜神社の本宮へ、少し歩いて白龍神社に到着。


 桜木が会ったのは多分ココの神様なんだが、気付かないもんかね、桜木でも。


 お参りを終え、ここで一旦グループ分け。

 桜木はショナと酒蔵へ、俺らは触れ合い動物園へ。

 桜木もモフモフしたがったが、梅酒が旨いとの評判にホイホイと向かって行った。




 リズちゃんに教えて貰った酒造へ行き、試飲パーティー。

 うん、マジで梅酒が旨い。


 一通り買い終えた頃、エミールが起きる時間に。

 リズちゃん達を拾い、ロープウェー乗り場で待ち合わせ。


 そして大涌谷へ。


「くっさいが大丈夫?」

『なんとか』


 片っ端から買い食いし、再びお土産屋へ。


「なぁ桜木、毎年コレ食ったら実質不老不死だよな」

「50位で死ぬ薬の方が」

「ダメダメ、折角だし3桁いきましょうよ」


「曾祖母ちゃん死んだの、99だったんだよなぁ」

「惜しいっ!」

「マジでな、良いな、99」


 どんな人間でも99なら惜しいと思われるだろうって、確かにな。


 そしてまたロープウェーに乗り、今度はガラスの美術館へ。




 桜木さんの好みに合った美術館。

 庭園だけで無く館内も好みだったらしく、時折、欲しい、作りたいと言ってはマジマジとガラス工芸を見ている。


 リズさんは興味が無いかとも思ったのだが、有り得ない程に細い柄のゴブレットに興味津々で、ガラスのポテンシャルを再確認すべきだと何かメモを始めた。


 お土産屋でも、作りたいを連発し。

 購入を断念させられた。


「大丈夫っすよショナさん、アレマジで言ってる感じですし」

「ですよね、キットの方を探してみます」


 そして体験工房へ。

 ガラス同士を溶かし込むフュージングと言われる製法で、フォトフレームを作る事に。




 透明なガラスの板に、パールやオパールの様に光るチタンガラスを置く、何をデザインするでも無く斜めに配置。


 休憩にカフェへ、夕焼けが始まりそうな色。


 軽食にとピザやアイスを堪能していると、フォトフレームが届けられた。


 写真入れんの勿体無いな。


「このデザイン、春?」

「適当に配置した」

「桜と青空っぽいけどな」


「リズちゃんのは桜?」

「おう」

「私も」


 中に入れる写真は選べないので、複数枚をカスタマイズ。

 この中に自分が居るのが不思議、なんで居るんだろう。


「桜木、ライトアップされてんの行かないのか」

「見る」




 キラキラ綺麗なのに、ハナは魂が抜けそうになってる。


 前の自分ならきっとそうだった、この見た目じゃ無かったら気後れしてた。

 気後れして、なんで自分なんかが居るんだろうって思ってしまう。


 ココの人達は、外見は容易く変えられるから大事じゃない。

 そう勘違いしてる、大事だから結局は変える事を選ぶんだし、綺麗にして着飾るのに、中身重視って言い張ってる。


 寛容だけど、そもそも平均値が確実に上がってる事に気付いて無い。

 ハナの目には眩しすぎる世界。


「ハナ、この中で誰が1番可愛い?」

「スーちゃん」

「即答かよ、イチャイチャしやがって」


 皆は呪いを解きたがってるけど、呪いが解けた時の方が私は怖い。

 もっと自信を無くして、もっと卑屈になって、もっと引き籠もってしまったら、私には掛ける言葉が無い。


 ハナには悪いけれど、ハナの親を見て自分の親がマシだと思った。

 愛情の偏りはあったけど、私に結婚しろって言ってくれてた。

 無理だ馬鹿だと思ったけれど、曲がりなりにも私を、私の将来を案じてくれた。


 でも、ハナが覚えて無いだけかも知れないけれど、あの父親はハナの心配をしなかった。

 何度も入院したのにお見舞いに来なかった、家族旅行もしなかった、親子参観も、何も。

 もう、それだけで充分に愛情を感じられないのに、私が言われたら発狂してたと思う。


 その暴言を受け入れても拒絶しても、どうしたってしこりが残る。


「ハナは凄い、偉い、好き」

「知ってる」


 もし誰かを受け入れて、それが裏切られて。

 もし受け入れる前でも裏切られたら、私なら立ち直れない。


 でも呪いが有れば、茨が有れば守られる。

 だから暫くはこのままで居て欲しいのに、男共は解きたがる。


 私は邪魔はしないけど、絶対に協力しない。


「毎年6月は釣り大会?よね?」

「誰かが結婚するまでね、家族が1番だから」

「お前が結婚しても開催するからな、強制だ」


「春はお花見、夏はキャンプね」

「つかみ取りと流しそうめんだろ、スイカ割りとあれだ、打ち上げ花火作らせるか」

「規模がデカいんじゃが」


「秋は紅葉狩り、キノコ狩り、栗拾いかな?」

「秋はイベント多いからなぁ、秋刀魚食いてぇ」

「肝あげる、アレは無理」


「いや、俺も今は無理だ」

「まだ食べて無いなぁ」

「秋は炭火焼き大会決定やな」

『僕も良いですか?』


「勉強と部活をしても余裕が有ればね」

「何やるんだ?」

『お料理です、お手伝いしかした事が無いので』

「凄いなぁ、私も何か決めないと」


「漫研だろ」

「描いた事無いし」

「昔の将来の夢は?」


「花嫁さん」

「じゃあモデルやな」

「あぁ、着放題だもんな」


「その発想、無かった」

「モデル部って有るんかね」

「調べてみるが、意識高そうだな」




 明日からはまた普通の日、スーちゃんとリズちゃんと賢人君は夕飯前に省庁へ。

 コチラはまだまだ遊べる時間が有る、一軒家に帰ってゲーム。


 昆虫から地球を守ったり、世界も少女も救ったり。


 ピザと炭酸ジュース美味し。


「帰ってからの方が活き活きしてますね」

「引き籠もりのナイトウォーカーですから」


 だって見てるの画面だし、顔面格差無いし。


『スーちゃんみたいに、恋愛ゲームとかはしないんですか?』

「向こうでもほぼ無いな、つかアイツやってんのかい」


『コレ、途中で性転換出来るシステムだそうで、難易度が変化するから面白いって』

「高度なシミュレーションを」

『答えが豊富に有るから統合した』


「アナタかよ」

『うん』

『相手の性別も最初からカスタム出来るそうですよ』


『本当の疑似に使えるし、新しいシナリオのβ版』

「なんつー、シナリオそんなに?」


『有る、選べる、有料のDLC』

「まさか」


『売り上げは召喚者』

「わぉ」


 先ずは大まかに時代とシナリオを選べる、中世だの近代だの、そして地域も。

 お相手だけのDLCも有るし、値段もそこまで高く無いのがまた。


『シミュレーションへの熱が凄いですよね』

「なぜ」

『シミュレーションへの正答が出る、こんなに上手くいったら良いのに、意外とココはすんなりだった、とか。慮って欲しいから、大変だって分かって欲しいから』


「で、新板って」

『僕ら4人のです、現代の召喚者と従者篇。一般の方からの攻略対象にもなるそうで』


「えー」

『だからβなの、誤解されたら困るでしょ』


「はい」

『架空って言っても、本人違う言うても揉めるから、隠しキャラ。表はガチ従者ゲーム』


「ガチ従者ゲーって」

『従者育成ゲーム、土蜘蛛ルート、一般ルート、エリートルート』


「ガチだな」

『ハナのルートで揉めてる、誰にも落ち無いから、攻略出来ないとクレームくる』


「リアル感有って良いじゃん、落ちるとは限りませんって言えば良いんだし」

『隠しキャラだから公言出来ない、そこでも揉めてる。ねぇ、やって』

『僕もやりましたし、ね?』


「やったんかい」

『はい』


 そのゲームだけが入ったゲーム機をショナから渡された、開発者用データでの起動、本来有る筈のカスタマイズは飛ばされ本編から。


「ショナ」

「全く知りませんでした」

『エミール、リズ、スー』


「だけかよ」

「僕も知らなかったんですからね?」

『土蜘蛛は知ってる、さ、やってやって』




 桜木さんが桜木さんを攻略すると言う、おかしな展開。

 確かに、本人がやれば攻略出来そうだが。


 ワザとなのか本気なのか、無理と即答した。


「先ずだ、第2、第3と飛ばされないとルート開かんよ」

『やっぱり』


「それか、元のシナリオ変えないと」

『どう?』


「タケちゃんが実は教育係だったんなら、その流れが成功したシナリオじゃないと、第2とか挟む事になるかと」

『それ考えたけど、逆に第2や第3に留まりそうだし、ゲームが変わっちゃう』


「ワシ篇を別に出せば良いべ」

『良いの?』


「出来次第、最高のシナリオには興味有る」


 攻略における最高のシナリオでは無く、世界が考える最高のシナリオ。

 ただ、それには1つ足りない要素が。


『エルヒムが居ないと無理』

「何年先になるか分からんな。もう都度修整で良いんじゃね、向こうじゃ良く有るし。普通にグラフィック有りでゲームしてみたいし」


『じゃあ、コレ暫くやってて』


 通常版、桜木さんがやって楽しいんだろうか。


「いや、今は皆で出来る何かをしようよ、ちゃんと明日からやるし」

『うん、やるなら公務時間に入れるね』


「甘い、モノになんないならお給料の無駄やん」

『お勉強と精神分析の為。安心して欲しいでしょ?』


「まぁ、はい」




 エミールがお料理部に入るとの事なので、お料理をする。

 先ずはサンドイッチ、簡単だけど不味くも出来る。


 エミールにツナサンドを適当に作らせ、次は豆知識おじさんショナの見本。

 食べ比べ。


『全然違いますね、凄く美味しいです』

「好みによるんですけど、最低でもバターかマヨネーズを両方に塗らないと、水分を吸ってふやけてしまうので」

「美味いはカロリーですな」


『次は、ハナさんのタマゴサンド教えて下さい、あの焼いたヤツ』

「気構えられると緊張して無理」

「向こうでレシピを見ましょうか、質問が有ればお答え出来るかと」


『はい』


 計量しない適当料理。

 卵3つ位、牛乳少し、塩も少し、バターたっぷりで焼いて、マヨネーズ塗るだけ。


 コレを料理と言って良いものか。


「コレを料理と言って良いものか。計量もしないし、少し落ち着かせてから食うべき、馴染ませるって言うのか?」

「それで大丈夫かと、冷ますとは少し違うので」

『表現からなんですね、難しいなぁ』


「失敗作を自分で食べるのがコツ、バターかマヨネーズか塩を足せば大概は食え、あ、バタートーストで試せば分かる筈」


 アホみたいにバターを使ったトースト、好きだった喫茶店の味。


『バタートーストって初めてかも、美味しいです』

「再現した時にバターの量にドン引きしたので、月1で食うかどうかの贅沢品」


『でも少ないと、もう物足りなく感じちゃいますね』

「なー、ピザトーストもチーズが多い方が良い」


 ショナの作るピザトーストからナポリタンへ、そのまま具材が一緒なのでオムライスも。

 野菜ジュースが有るとは言え、夕飯ファッティーね。


『確かに、具材も調味料も殆ど一緒なんですよねぇ』

「一緒っつったら醤油、味噌、納豆、豆腐。全部大豆、恐ろしい」

「油断すると食卓の半分を占拠しますからね」

「桜木様、海苔トースト知ってます?」


「名前だけは」


 転生者が持ち込んだレシピだそうで、美味いんだが。


「あれ?お口に合いませんでした?」

「ほぼ酒のおツマミやん、酒盛り用のお重箱入り決定」


「やった」


 酒盛り用の重箱には唐揚げ等の揚げ物類、珍味、海苔トースト。

 オベロンは喜ぶかしら。


「アヴァロンは、ダメか」

「はい、すみませんが」


「エミール、持って行ってあげて」


『はい。じゃあ、おやすみなさい』

「おう」




 今日は蜜仍が狼になってサクラと添い寝、蜜仍が出しゃばったり我儘を言わなかったご褒美。

 人間の時には味わえない安心感と、心地良さ。

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