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召喚者の病弱日誌ー永住を決意したのは良いんですがー  作者: 中谷 獏天
第1章 厄災の後処理や、今後について。
20/377

4月11日 土曜日だから遊びに行く事になった。

 



 後宮モノを観たせいか、九龍城の奥に紫禁城が出来ている。

 いつの間に。


《嫌なら別に》

「嫌じゃ無いけど、何故奥に」


《未成年は立ち入り禁止だもの》

「と言いますと」

《どうも、ふふふ》


 色欲コラボか。

 向こうのマーリンなら喜びそうだが、コチラのマーリンは門の向こうで蜜仍君と手を振っている。


《実はまだ奥にも》

《行ってからのお楽しみ、ね》


 連行される宇宙人よろしく、奥へ奥へと向かうと少し景色が変わった。

 コレは、インドの。






 平身低頭でご挨拶させて頂き、寧ろコチラが宮殿へ出入りする許可を頂いた。

 色々な意味で直視は免れたが、凄かった。


 ちょっと平常心を取り戻さないと、コレは話すの厳しい。

 厳しいけど、トイレ。


「おはようございます」

「おはよう」


 土曜日、お休み。

 庭で一服、気を取り直し報告。


「また嫌な夢ですか?」

「いや、筆舌に尽くし難い凄いのでした、ドリームランドの九龍城の奥に紫禁城と宮殿が出来ました」

『未成年立ち入り禁止ですので、ご了承下さい』


「えーっと、大丈夫でしたか?」

「色欲さんと女媧さんに連れられたので、何とか直視は免れたが、凄かったとしか言えん。行って確認しろとも今回は言えん」


「分かりました。あの、これ、靴のお返しです」


「おぉ、香水瓶、どうも」

「いえいえ、それで中身なんですが、作りに行きませんか?」


「作ります」




 蜜仍君が起きるまで、桜木さんが香水の事を調べていると、リズさんから連絡が。

 エミール君も起きたら一緒に遊びに行こうと。

 香水を作りに行こうと思って調べた場所の近くへ、エナさんを見るとニコニコしていた。


 ちょっと慣れない、このタイミングの良さ。


『怖くない、怖くない』

「すみません、慣れないもので」

「どした」


「リズさんから連絡が有りまして、今さっき話していた場所の近くに行こう、と」

「あぁ、慣れるしか無い」

『うん』


「どうやって慣れたんですか?」

「第3の月読さんだろうなぁ」

『たすかる』


「悪く転ばないだろうって、妄想?」

『信用って言って?』


「信用とは別な気がする、信頼してるが信用はちょっと」

『えー』


「ちょっとなぁ」

『もー』


 エナさんは一応人間なのだが、桜木さんにベタベタしがち。

 桜木さんはもうエナさんが人間なのを忘れているのか、気にして無いのか。


「エナさんも、赤い玉に参加されますか」

「あ、人間だったわ」

『出来立てホヤホヤだから、まだ無理だと思う』


「あぁ、番はどうする?作る?」

『クエビ子?』

『おい止めてくれ、頼む』


『制御ばかりで構ってくれないのが悪い』

『お前が人間の自覚無しに、直ぐベタベタしようとするからだろう』


『気持ちは分かるでしょ』

『ならハナの言う様に番を探すかどうにかしろ』


『ハナはダメなのか』

『仮にも中身は神なんだ、召し上げになったらどうする』


『それは困るけど』

「ワシの意思は介在しない?」


『イヤ?』

「刷り込みで好かれても大手を振って喜べない」

『ホレ見たことか』


『ハナに番は居ないんだから良いでしょ』

「そうマーキングされると来るもんも来ないと思うが」

『全くだ。すまんがショナ坊、目に余るなら直ぐに御してくれて構わんよ』

「はい、了解です」


『ケチ』

『ケチで結構だ』

「コレが兄弟喧嘩か」


「おはようございまーす」


 蜜仍君が起きてきたので朝食に、桜木さんは紫苑に変身し朝からケバブプレートと野菜ジュース。

 僕らは朝食プレート。


 少し休憩したかと思うと、入念にストレッチを始めた。




 日本が寒かったのも有るが、そろそろ紫苑で動き回りたかったので、虚栄心も呼びハワイの海へ。


 暖かい。


 ロングボードを借り、ひたすら転げ落ちる。


 蜜仍君もショナも直ぐに出来たのに、普通に悔しい。


「くそー」

「自転車と一緒ですよ、頑張りましょ」


「ぅう、一輪車乗れる?」

「乗れないんですか?」


「うぅ」

「それも練習しましょ、ね?」


「子供からやり直したい」


【御座いますが】


 鍛冶神達から貰った軟骨用のピアス。

 通信機用にトラガスに開けた穴に通し、海中で発動。


 縮んだせいで水着が、危ない。

 紐を限界まで締め陸に上がる、体は軽いが視界が低い。


「あら可愛いじゃない」

「桜木様と同じ位ですかね?」

「そうですね、年齢は蜜仍君位でしょうか」


 肌は紫苑よりは白く髪も真っ黒、髪型は紫苑と同じ。

 子供の頃の体型と違い過ぎるので分からんが、男の子ならこんなんなのか、顔がエナさんに近い気もするが。


『似てる』

「不思議。ワシは、ショナ系の塩顔だと思ってた」

「認知の歪みが解け始めたのね」

「僕はハッキリした顔立ちの方だと、ずっと思ってましたよ」

「曾祖母さんが言ってた、おごれぃ顔って、立派とか豪華な顔って意味ですよ?」


「あぁ、凄いな、認知の歪み」

『似た顔の夫婦は長続きするらしい』


「今は男だけどな」




 子供になった紫苑さんが、子供用のロングボードへ。


 何度目かの挑戦で無事に乗る事が出来た。

 当たり前なのだが、上手く行けばずっと続けられる集中力は有るし、普通になりたいからか粘り強さも有る。

 呪いが解け始めたからか、紫苑さんだからか。


 僕を似た顔だと認識しての親近感なら、呪いが解けて自身を自覚したら、本当に見向きもされなくなってしまうんじゃ無いだろうか。


「なに不安になってんのよショナ君」

「呪いが解けたら、もっと見向きもされなくなるのではと」


「あらー、甘酸っぱいからノーコメントにしておくわね」

『甘酸っぱい、チェリーミートの香り』




 調子に乗って何回も乗ったせいで、足を攣りかけたので休憩。

 暖かい仙薬をがぶ飲みしていると、溢れてしまった。


『大丈夫』


 ウーちゃんに溢れた魔素を吹き上げて貰い、事なきを得たが、男児の容量がこんなに小さいとは。


「ごめんよ、ありがとう、大丈夫か?」

『うん、重くて広がらなかったから』


 そのままウーちゃんに乾かして貰い、水分補給。

 日焼け止めを塗り直しながら、エナさんと蜜仍君とショナが遊ぶ光景を眺める。


「背中、塗ってあげるからコッチ来なさい」

「ありがとう。この状態で幼馴染だったら悩まないのに」


「アンタ自分を見誤り過ぎよ、アンタよ?どうして腐男子でも何でも無い想定なのよ」

「そんな?」


「だって良く考えてみなさいよ、父親から何か言われなくたってあの母親よ?兄姉だって居るんだもの、そう変わるなら歴史の修正力弱過ぎじゃない」

「あぁ、まぁ」


「もっと酷い鬱で、更に引き籠もってたかも知れないわね。さ、終わったわよ、遊んでらっしゃい」


「ういー」




 桜木さんは水着を気にして上手く泳げない様子、それはそれで楽しそうなのだが、コッチが気にしてしまう。


「動き難そうですね、やっぱり買いますか?」

「おう、買うます」


 近くの店に行き緑色の水着を購入、決め手はワカメっぽさらしい。


 そしてやっと本気で遊び始めた。


 今まで、身柱が桜木さんの本来が女性で有ると何故、気付かなかったのか少し疑問だったけれど、こんなに楽しそうな姿を見ると納得してしまう。


 多分、今までで1番楽しそうな表情の桜木さん、厳密には紫苑さんなのだけれど。

 楽しそうに男児として遊んでいる、分かっていても錯覚してしまいそうになる。


 跳ね上げてあげると楽しそうに宙返りし、失敗して腹打ちしても大爆笑。

 果ては水着の引っ張り合いっこ、本当に本来は男性なのかも知れない。


『そろそろ休憩しよう、また足攣りかけるよ』

「ですな」

「真水浴びましょ」


 そしてマティアスさんの気持ちも分かった、危なっかしいし突発的だし、どうしても僕が保護者側になってしまう。




 少しお昼寝し、そのまま裏道から浮島に行き温泉へ。

 離れてお互い背を向けて体を流し、入浴。

 濁り湯だから出来る事。


「全然、恥ずかしいんですが」

「ウブねぇ」

「顔は桜木様ですしね」

「紫苑になるでよ」


 紫苑なら。

 大丈夫そう。


「すみません、お手数お掛けします」

「ウブだもんねぇ」

「桜木様は、男になるつもりは無いんですか?」


「そんなに無いなぁ、なんか、女性の相手はちょっと」

「紫苑さんでは問題無い筈では」


「紫苑でも問題起きたらマジで女性不信になるが」

「ですよねぇ」

「男が男を好きになっても別に良いのよ?」


「それもな、男だぞって自負も無いから騙す感じになりそうじゃん」

「男らしかったと思いますよ?最初の大演習とか」


「アレも見本は女性なんよなぁ、ワシの個性ってなんやろ」

「いや、存在からして充分個性的かと」


「模倣の集合体でしか無いのよ?誰かの何かの欠片で出来てる。それを全て取り除いたら、何も無いただの病弱だし」

「そんな事を言うなら、僕なんて召喚者シリーズで出来てますよ?」


「僕はお父さんにお母さん、土蜘蛛様に里の人間で出来てますよ?里の記憶を全部消した時、何にも無いと思って怖くて、悲しくて泣いちゃったから、実験が中止になったんですし。それで記憶が戻った時、凄くホッとして、自分は自分なんだって思ったんですよ?」

「本当に、すげぇとんでもない事をするよな」

「桜木さんもですけどね」


「そこまでしてない」

「似たようなものかと」

「腕は切り落としちゃうし、縁の糸を切ったり、茨を戻してあげたりしてるじゃ無いですかぁ」


「記憶で言うなら面積や量の問題でして」

「全部足せば越えるかと」

「余裕で越せるわね」

「ですねー、繭化もですしー」


「あがりますねー」


 最近ずっと多勢に無勢みが有る、何故。


 今日これからの動きが分からんので、バスローブのまま一服。

 うまい。


『シオンさん?』

「おう、おはようエミール」


 虚栄心を帰し、花子に戻りハワイでご飯へ。




 ハナさんや皆さんと一緒にゴハン、最近通っているハワイのゴハン屋さんなんだそう。

 僕とハナさんはキューバサンド、皆さんはパスタ、今のところ毎回違うモノを食べてるそうで、このお店にドハマリ中らしい。


『チーズケーキは食べたんですか?』

「リズちゃん達に食わそうと思ってステイしてる、余れば仙薬用よね」


 食事を終えると日本の省庁へ、リズさんやスーちゃんと共に指定された座標へ。


「今日はクラフト体験巡り、先ずは香水作りだ」

「リズちゃん愛してるわ」

「発案者私なのにぃ」


「ありがとう。エミール、興味有る?」

『勿論ですよ!』


 今日は自分の為の香水作り。


 リズさんは黙々と、コチラはハナさんやスーちゃんとアレコレ相談したり、嗅がせ合ったり。

 それでも結局は不安になって、リズさんはハナさんやスーちゃんに嗅がせていた


 1番ズルいのはショナさん、全く興味が無いからとハナさんに選ばせていた。

 石けんベースの少し甘い匂い、木の香りもして良い匂いだった。


「ありがとうございました」

『僕もそうしたら良かったなぁ』

「誕生日プレゼントで良いか?」


『はい!』

「えー、絶対足りないじゃんよ」


『じゃあ、一生分をお願いします』

「なら毎年にして、後は秘密のプレゼントか」


『是非是非お願いしますね』




 桜木さんが作った香水は、僕のとは似ているのに正反対の香り方がする。

 雨上がりの様な木の甘い匂い、少し後には淡い石けんの香りがする。


 香水作りの次はフィールドアスレチック、僕ら従者はフォローとサポートなのだが、桜木さんもエミール君もホイホイ進んでしまう。


 鈴木さんは最初は不安がっていたものの、大人リズさんと一緒に何とかクリア。


 問題は、1番酷いのはエナさん。

 直ぐに仔鹿の様に震えてしまって、桜木さん達は遠慮無しに大爆笑するし、目の前で笑いを堪えるのに非常に苦労する。


『笑えば良いでしょ』

「後でそうさせて頂きます」


 細かく休憩を挟みながら全員がクリア、最後に到着したエナさんに拍手の後、再び笑いが。

 疲労からか足がガクガクと震え、紫苑さんに抱き着いていないと立てないらしい。


「いひひ、桜木、あれ、マジ仔鹿」

「やめて、リズちゃん、お腹ねじれるぅ」

『ブフッ』

「エナさん、治そうか?」

『おねがい』


 天使が姿を表すと、エナさんのガクガクが収まった。

 笑ってはいけないと思うと、余計にキツい。


「ショナ、笑えば良いと思うよ」

「ブフッ」

「もー、リズちゃん汚いー」


 賢人君も合流し、次は水着着用の温泉レジャー施設へ。

 リズさんは一軒家で元の姿に戻り、桜木さんと着替えに向かった。


「ショナ君、マジでコイツやばいな」

「なにか有ったんですか?」

「男と間違われたので、下ろした」

「え、見せたって事?」


「はい」

「はいって」


 はいって。

 今後外出中は、本当に紫苑さんの方が良いんだろうか。


 それ以外は、桜木さんがオンドルで寝てしまった以外は何事も無く、ウォータースライダーやワイン風呂を全員で楽しんだ。


「幾ら心地良くてもっすよ、あそこでマジ寝はヤベェっすよ」

「だって、アレで寝ない方が可笑しいでしょうが」

「うん、アレは俺も無理だわ」

『暖かさが心地良いんですよね』


 そして夕飯はお蕎麦、エミール君は練習したらしく普通に啜って食べている。


 桜木さんは天ぷら付きのとろろご飯膳と山菜蕎麦、自然薯の味噌漬けとムカゴを皆さんでツマミながら、賢人君と日本酒を飲んでいる。


「はぁ、旨い」

「最高っすね」

「堂々と飲まれるとムカつくな」

「良いもーん、もう浴びたしぃ」


 そして夜の美術館へ。

 ライトアップされた屋外を周っていると、リズさんが撃沈。


 お酒を抜いて貰った賢人君が抱えて周り、宿へ。




 宿は温泉付き旅館。

 あぁ、この感じ。


「ふふ、ドリームランドのに似てない?」

「ね、不思議な感じ」


 リズちゃんを早速布団に寝かせ、ジャンケン大会。

 賢人君と蜜仍君の大勝利、以降は各自自由に入浴する事になったので、スーちゃんとショナと共にロビーへ。

 観光案内のチラシや雑誌を漁る。


「ステンドグラスかぁ」

「万華鏡はなぁ、貰ったし」

「ガラス工房も有りますけど」


「赤玉再始動ぞ、バレたら困る」

「また始めるの?!」


「バレるまでやる」

「もー、私は無理だからね、嘘つくの慣れて無いんだから」


「嘘じゃないよ、信じてれば出るから大丈夫」

「本当にもう、あんなのが何処から違和感無く出るって言うのよぅ」


「最初は筋子の粒位で、空気に触れてあのサイズになる」

「もー」

「なるほど」


「ふふっ」

「鈴木さんのは小さめにしておきましょう」

「ショナ君までー」


「ふふっ、小さい理由も無いとな、ふふっ」

「無理無理、無理だってばぁ」

「大丈夫ですって、痛く無いですし」


「もー」

「一応、賢人君とも話さないとですね」

「任せたぞショナ」


「はい」


 一緒に悪ノリしてくれるのは嬉しい。




 桜木さんの悪ノリに付き合い、蜜仍君とエミール君が勉強をしている隙に賢人君と広縁で文字情報の遣り取り。

 サムズアップで了承してくれた。


 エナさんが入浴するとの事なので、指名を受け入浴介助へ。


『次はスーちゃんかショナだ、アレクが先に見せてしまったから』

「地道に継続してたんですね」


『うん。はぁ、疲れた』

「お疲れ様です」


『動くは大変、むつかしい』

「日頃から同行し、運動されては?」


『そうなるとハナと一緒になる、ずっとハナと一緒は子供達がヤキモチするから、同行は頃合いを見て行っている』

「そこまで気を使って頂いているとは」


『私の外見は子供だから、同じと何処かで思っている。ショナも大人として羨ましがられたから、勉強してるって驚かれた。大人は子供の延長線上、まだまだそれを分かって無い』

「お2人ともですか?」


『うん、ハナが大人の見本みたいになってる。アレは大人にさせられた、良い見本では無い』

「子供っぽいですけど、そんなにダメでしょうか」


『アレは例外、一般的な経験と知識はまだまだ君より下、だから空気を読むのに必死。良き大人の見本はココの人間、君や賢人が担うべき』

「結構、プレッシャーなんですが」


『なら良き見本の数を増やせば良い、ハナにも良い効果になる』

「善処します」


 自分の身の回りで考えるなら、ウチの両親や兄、リズさんのご両親。

 柏木さんは保留としても、後は誰が。




 まだまだ寝ないエミールの為に、ライトアップされた夜の公園へ。


 上空には神獣化したパトリック、そしてショナと大人エミールと見て回る、子連れ少なめ、ほぼデートスポット。

 エミールにも好きな人が出来れば良いんだが、大丈夫かね、この子は。


「エミール、本気でお相手を見付ける気が無いなら、会うのを控えるつもりなんだが」

『え』


「こうして手を繋いで歩いてるのは君が子供だから、大人の女が良いなら他にもっと良い見本が沢山居る、ワシは良い見本じゃ無い」

「桜木さん、何も今」


「ワシは君の保護者、そして保護者不適格だから、保護者の親戚程度にしてくれ」

『僕がハナさんの好みじゃ無いから?』


「いや、可愛いと思えば大概は平気だが。君がワシの立場なら受け入れるのかね、もし受け入れるなら、ちょっと君を軽蔑するぞ」

『難しいと思いますけど』


「逆なら、刷り込みだと心配するし、外の世界を沢山見て欲しく無いかね」

『思いますけど』


「他に手が有るのかも知れないが、上手く立ち回れる知能も経験も無い。かと言ってそれを頑張る気力は無い、独りで立つのも精一杯なバンビちゃんなのよ、君を背負ったり努力する程の好意は無い」

『でも』


「諦めろだの何だのとは言って無い、外の世界をそう言った目で見るべきだと言ってる。比べろ、比較して良い悪いを見極めろ、ワシは例外が多過ぎて軸にはなれない。君があるべきだと思う女性像、男性像を構築してから、また話し合おう」


 エミールも。

 泣かせる気も、傷付ける気も無いのに。


 舞い降りたパトリックとショナにエミールを任せ、近くの喫煙所で一服。


《一体、何人泣かせる気じゃろうか》

「誰1人、泣かす気は無いんだが」

『さ、アナタは誰に慰めて貰いましょうかねぇ』


「アレク犬」

『誰、と言ったんですが?』


「じゃあ、白雨」

《来れぬと思うて舐めた口を、良かろぅ。我は樹、樹にはウロ、ウロは穴、穴は未知への道となり、通じるは世界のウロなりや。さぁさぁ、来い来い白雨や来い》


 まるで不思議の国の絵本の様に、樹のウロが広がり、白雨が出て来てしまった。

 気付かれたらエミールが余計泣くのでは。


「バカ、余計な事を」

《舐めた口を利くんじゃもん》


「つかそんな事を出来るなら」

《最近じゃしぃ》

『ククノチとカヤノだ』

『ハナ』


「間が悪い、戻せ」

《我の任意じゃもーん》


「バカ、ごめん白雨、戻れ」

『何か有ったのか』


「修羅場はゴメンだ、後で話すから帰れ」

『分かった』

《チッ》


「チッ、じゃないの、何してんねん」

《イベントじゃよイベント。やっぱり上手くは行かぬなぁ》


「エミールが余計に泣くだけじゃろうが」

《お主のイベントじゃしぃ》


「ゲームちゃうねんぞ」

《小説は事実より、じゃろ?》


「おま、意図的に」

《お主がイベントをこなさんから、強制イベントが発生したんじゃよぅ》


「屁理屈を、つか何もイベント無かったでしょうが」

《第2、第3を含んでおるが?》


「ぁあ、燃やしてぇ」

《コレは所詮仮りの樹じゃしぃ》


「はぁ、マーリンよ」


 うっかり、つい、名をよんでしまった。

 助けを求めると言うか、愚痴を言いたくて、口から溢れてしまった。


 現れてしまった、見られてしまった。

 コレも神々の一計だとしたら、本当にイベントから逃げられないじゃないか。




 神獣パトリックがエミール君を慰めるのと、桜木さんがドリアードと揉めているのを交互に見ていたのだが。

 桜木さんが肩を落とし俯いて直ぐ、マーリンさんが現れた。


 優しい目で、しゃがみ込む桜木さんの頭を撫でる。


 エミール君もそれを見てしまった、そして桜木さんと目が合ってしまった。


 本当に失恋してしまった様に、今度は静かに涙を零して。


「エミール君、アレは」

『大丈夫です、そう言うのじゃ無いって分かってます。ハナさんが落ち込んでるのが嬉しくて、だから自分は余計に子供なんだと思ったら、違う意味で悲しくなっちゃって、すみません』


「エミール、ごめん、ちょっと揉めて」

『すみません、子供で、ありがとうございます、ごめんなさい』


「いや、ドリアードが白雨出しちゃって」

「出しちゃってって言うのは」


「ウロから吐き出した、元の場所には戻したけど、対応に疲れてうっかりマーリンの名を言ったもんで」

《だって、舐めた口を利くんじゃもん》

『すまんな、こんな時に』




 落ち込んだ風に見えたのは、僕の事ですら無かった。

 子供は自分中心の自己中だって知っていたのに、子供の思考をしてしまった。

 早く大人になりたかったのに、一緒に居たかったのに、全然ダメだ。


「ごめんよ、向こうに戻るね」


 子供なら引き留めるし、縋り付かない。

 でも大人なら、直ぐに諦めるんだろうか。


《すまんすまんて、アレでもお主の事で少しは落ち込んでおるんじゃ》

『え?』


《断る苦痛も慮ってやっておくれ》

『でもだって、対応に疲れてって』


《今さっきじゃ、誰に慰めて貰いたいか聞いたんじゃが、アレク犬だ白雨だと言うのでな、ちょっとイジメるつもりが、ヤリ過ぎたのかマーリンに泣き付きおってのぅ。今、我、2人からめっちゃ怒られとる》

『ショナ坊、エミール、コレで分かっただろう。灯台は子供には諸刃だ、アレもまだ幼い、明日からは互いに適正な距離に戻るだけだ』


《無理に変わる必要は無いんじゃからな?ハナも言うておったろう?》

『そうですけど』

『焦って功を急げば歪さが生じる』


《まぁ、それが分かるのも先じゃろうが》

『今は良く泣け、止めずとも良い。思いを見せ付けてやると良いさ』




 ボロボロに泣かしてしまった。


《すまんて、誤解は解いたんじゃし、許すのも大事じゃよ?》

「おま、もう良い」


《大丈夫じゃて、童の時には》

『童の時には語る事も童の如く、か』

「最後が解せん、大人と子供は連続し、繋がってるだろう。捨てる理由が分からん、捨てた大人を見ても納得は無理だ」


『宗教概念、そしてべきであろうも一緒くたに語られているのなら、さもありなんだ』

『翻訳次第ですよ。真っ直ぐでまっさらな視野を持っていた子供の頃の視野を、捨ててしまった。との翻訳も有りますからね』


「ほう」

『次なんかは特に良いと思いますけどね、認知の歪みも含みますから。今現在は歪な鏡で自身を認識しているに過ぎず、物事と相対し全てを認識されてこそ、全てを認識するであろう』

《まぁ、認識の手助けにはなったんじゃ》

『大人としてはまぁまぁだろう』


「後はショナがどう思うかだ」




 桜木さんがコチラを見たので、泣き止んだエミール君と目を治してくれた天使さんと共に、再び園内を回る事に。

 桜木さんを視界に入れないのはとても不安だが、桜木さんの意思に沿う事が1番。


『本当に、ハナさんが?』

《はい、コリントの信徒への手紙、第13章。あの映画のお陰ですね》


『ハナさんは、どう思っているのでしょうか』

《お聞きになれば宜しいのに》


『童の時には語る事も童の如く』

《幼子らしく、で宜しいかと。幼子らしさを、主が悪だと仰った事は無いかと。良くも悪くも、幼子らしさを捨て去ってしまう大人も居ますが、それも良いか悪いかは別かと》


『あの、お話ししてきます』

《はい、いってらっしゃい》


『あの、コリントの信徒への手紙のお話をしていたって』

「あぁ、あの節だけね、全体は流し読みだったけど」


『お話ししても?』

「どうぞどうぞ」


 愛や思い遣りが無ければ、苦言も何もかも五月蝿く思われるだけ。

 どんな力も知識も信仰心が有ったとしても、身や財産を投げ打とうとも、無、だと。


 妬まず僻まず、例え失礼な敵であっても、忍耐強くあれ。

 高潔に耐え忍び、望み、信じろ。


 知識や予言、流言は廃れるが、愛や思い遣りは滅びない。


 子供の真っ直ぐな視野と心で居れば、愛と思い遣りは滅びない。


 そうして最初に戻る、と。


『僕の意訳です』

「良いと思うが、中抜きしたろ」


『心得ですから。常に目が曇り、全てが見えてはいないと思えって』

「良いと思う、素晴らしいと思うけど。耐えるの大変だぞー、ちょっと介護しただけで何度心が折れたか、思い出し泣き余裕だもの」


『そう言う時は、どうしてたんですか?』

「スベスベの毛布やヌイグルミと、映画とか漫画見て一時現世から離れる。それにすら集中出来無い時は、もう、お薬よ、思考力を物理で落として、一時凌ぎを続ける」


『それでもダメなら』

「ダメなら潰れてたと思う、潰れかけたから過食が出たり、急に、偶に食べられなくもなった。でも体は病弱に慣れてるからか、腹が減って食えてた。1番辛かったのは寝れない事、どんなに体が疲れてても、すっと寝れないわ途中で起きるわ。それを理解されない、否定されるのが辛かった。ただ、なるほどねとか、そんな事もあるんだね、で良かったのに」


「否定しないと、死んでしまう呪いが掛かった方なんでしょうね」

「でも少しは寝れてるんでしょ、食べれるなら大丈夫派もか」


「マウンティングし続け無いと、息が出来無い呪いかと」

「可哀想に。居ないからって言いたい放題やんな」


「なんせ居ませんから」

《居ったら本当にそうしてヤるから大丈夫じゃよ》

『僕からもお願いしますね』

「ちょ」


「大丈夫ですよ、愛や思い遣りが有るとは到底思えませんし」

《そうですね、我々からもお願いしておきましょう》

「自分達にその呪いが来る心配は無いのかね」


「無意識に傷付けたままよりは良いかと」

『そうですね、呪われたら自分がした事が分かるんですし、便利で良くないですか?』

《便利は悪では有りませんし》

《しょうがないのぅ》

「おま」


 本当にその呪いが掛けられたのか、ただ魔素が光っただけなのか。

 園内に光が広がり、人々のざわめきも聞こえた。


「じゃあ、もう帰りましょうか」

「そんな平然と」

『悪い呪いじゃ無いんですから、戻って温泉に入りましょ』




 旅館に戻るとミーシャが加わり、アレクがゴロゴロしていた。

 どうしてか、どうにも八つ当たりしたくなる。


「おかえり、え、なに」

「本当に、すまないと」


 逆エビ固め。

 エビ好きなら、エビ技関連を覚えるべきか。


「桜木様、もっと決めたいなら頭にケツ乗せる位に反らせないと」

「それ死にそうだが。他にエビシリーズ有る?」


「いや、他はちょっとドギツいんで。ロメロスペシャルとかどうすっか?」

「どんなん?」


「ショナさん」

「いや、今回は遠慮します」


 ジリジリと、さながら本当のプロレスか空手の試合でも見ている様な手さばき。


 倒されたら最後、見事に賢人君に掛けられた。


「痛い?」

「ももうら、ひざうらが」

「痛くしましたし。崩れる時が大変なんで、どいてて下さいね」


 ドスンと落としても、小さな拍手でも起きないリズちゃん。


「凄いなリズちゃん」

「そっちっすか?!」


「だって、蜜仍君かエミール位じゃないと無理では」

「あぁ、アレクさん用って事ならパロスペシャルは」


「痛く無さそう」

「あれ」

「絶対知ってますよね」


「詳しいやり方は知らない」

「んー、じゃあ、これっすかね」


 キャメルクラッチ、試しに適当にやったせいで手を舐められた。


「逆エビが至高」

「ロープ無いですしね」

「ギブっすか?」

「ギブギブ」


「ロープもレフリーも存在しないモノとします」

「え、ごめん、ごめんなさぃい」


「本当に辛いのか?」

「マジ、やろうか?」


「スーちゃんなら良い」

「私?!無理無理怖い怖い」


 残念。




 鈴木さんの寝る時間になったので、部屋を分け、休憩の合間に釣りの話しになり、釣り針作りへ移行してくれた。

 女性、まして召喚者様にプロレス技を掛けるのは、僕には。


「次は、紫苑でだな」

「え、受けんの?」


「おう、花子でエグい顔は流石に見せたく無いし」

「そこか」

「そこは女の子なんすよねぇ」

「何故そこまで」


「受けないとどうすれば痛いか分からない」

「その探究心を」

「ヘアメイクには無理っすよねぇ」


「プロレスは料理、ヘアメイクは外で食うケーキ」

『こうやってハンドメイドみたいに、自分を作るって考えるワケには?』


「土台から変えちゃいたいし、それは最終手段で」

「スポンジが気に食わないんすもんね」


「オレンジ風味はちょっとな」

「どんな風味なら良いんすか?」


「香ばしいキャラメル、望ましいご尊顔様達です」

「これ、メンクイの好み出て無いっすか?」

「殆どハーフやクォーターの方ですし」


「私見で、不遜を承知で言うが、この顔ってだけで幸せだろうと思い込んでます」

「じゃ、プライベート探ってみます?」


「いや、個人情報はちょっと」

『フルパワー灯台のハナとそう変わらない筈』


「フルパワー灯台にはどうなれますか」

『それはちょっと言えない』


「不穏よなぁ、せめて気構えは教えて欲しいわ」

『それも難しい』


「エミールは、何か知ってる?」

『うん』

『はい』


「ごめんねエミール」

『いえ、大した事は無いので大丈夫ですよ』


 釣り針作りを終え、エミール君の少し早いお昼寝へ。

 桜木さんも就寝、明日は早朝からルアーフィシング。

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