4月10日 一般の方と接触した。
やっと金曜日、明日と明後日は休みらしいが。
カレンダーを気にせず動いてた頃が懐かしい、自由に適当に、浮島に行きたい。
「おはようございます」
「おはよう、浮島巡りがしたいんですが」
「それはちょっと、もう少し先でも良いですか?」
「おう、分かった」
試したワケじゃ無いんだが、もう確実に何か有るじゃんかよ。
警戒しなくて良いのか、悪いのか。
分からん。
今日は雨だし、眠いし。
桜木さんは寝直し、朝食を蜜仍君と一緒に食べてから、女性の従者に見守られヘアメイクを終えた。
「良いでしょう」
「はい、ありがとうございました」
そのまま面談へ。
《おはようございます、では、暫くお待ち下さい》
ショナは別室へ、北海道は晴れ。
「純粋に孤独になりたい場合はどうすれば?」
《何が苦痛ですか?》
「人との食事」
《蜜仍君の事を気にされて?》
「おう、独りにはさせたく無いけど、独りになりたい、子育て出来る自信無い」
《最後の文章は一旦他所に置きますけど、祥那君が居るんですから、お好きにして大丈夫でしょう》
「そうか、ショナが居るから良いか」
《人となりを知ってらっしゃるんですから、お気持ちだけで充分かと》
「おう。色々と普通を知りたい」
《では、少し外で見学しましょうか》
ショナの着替えを待ち、指定された場所に行くと女性と子供がショナに手を振っている。
ショナを見ると凍り付いてるし。
「大丈夫か」
「知り合いでして」
《見学じゃ》
『普通のな』
「例の、隣の子です」
「何をどう言って引き摺り出したの」
《移民の子が社会見学じゃ》
『ボランティア活動に応募していたらしくな、触れ合い交流、安全面は従者か軍人が付き添う試みだそうだ』
《ショナ?もしかして?》
「みたいですね、宜しくお願い致します」
「ます」
「ふぶき、ふぶきの日に生まれたから吹雪」
《私は小雪、小雪が降る日に生まれたから、お誕生日が近いのよねー》
「1ヶ月は違う」
「僕の近所の知り合いです」
「ハナです“宜しくどうぞ”」
先ずは近くの喫茶店へ。
妹大好き年の差姉妹、小雪さんはショナと同じ年だそうで、家も近いからグループで良く遊んでいたと。
あぶれた子はグループを渡り歩くか、それでもダメなら家庭への介入が有る、前例が居るには居るらしい。
誰それちゃんとか名前が挙がり、ショナが相槌を打つ。
吹雪ちゃんと共にキョトンとするばかり。
「ふぶき、その人知らない」
《あ、ごめんごめん、同じ学区の》
「あの、個人情報はちょっと」
《あー、難しいなぁ、ごめんねショナ》
「いえ、コチラこそ」
「ふぶきは絵本が好き、この前買って貰った」
「召喚者様の絵本ですね」
「読んだ?」
「まだ」
「読んであげる」
「宜しくお願いします」
コチラが言い終わる直前に、いつもの癖なのか気を使ってか、膝の上に乗り読み聞かせをしてくれた。
子供向けになったマイルドな妖精と御使い。
オベロンとティターニアの熱愛ぶりを青年が目撃し、涙を流し過ぎて目が枯れてしまったので、妖精が治し、アヴァロンで仲良く過ごすお話。
「ふぶきは、治して貰ったからって妖精にいくのはどうかと思う」
「仰る通りで」
《真の愛に気付いたのよぅ》
「本物の方が良い」
《それ偽物じゃ無いんだってばぁ》
「全部は書かれて無い筈だから、可能性のお話で、何かが違ったらそうなってたかも知れないお話しかと」
「なるほど」
《そうそう》
「その絵本、何が良いですか」
「絵、妖精の絵、たぶんコレは本物」
《いつか見えると良いんだけどねぇ》
「ショナさん、黙りこくってますが」
「あ、すみません、プライベートと仕事が混在するのは想定外で」
《お兄さんなら平気だったでしょうねぇ》
「かも知れませんね」
「ショナ兄ちゃんにはお兄ちゃんが居る、もっと大きいお兄ちゃん、小雪が好きだった人」
「個人情報保護が上手ですね」
「うん、名前他の言わない、言ったら詳しいの言わない」
《上手いけど最後のぉ》
「今は?」
《今はねぇ、堅実に真面目な人を探してます》
「ショナ兄ちゃんは小さいからダメなんだって」
「確かに大きくはありませんね」
「サイズは関係有りますか」
《15センチ差がベストなんですって、ヒールを履いても追い越さない良い感じの差》
「小雪のお仕事だから」
「靴屋さんで働いてるって言っても大丈夫ですよ」
「どうベストなんでしょう」
《じゃ、実際に靴を見に行きましょ》
小雪さんと吹雪ちゃんに手を引かれ、ショッピングモール内の靴屋へ。
ロキのブーツを脱ぎ、ストラップの付いたハイヒールを履く。
「ちょっと、高い?」
《7センチ、ハナさんのふくらはぎや足が綺麗に見える最大値》
「もっと高いのを履くと?」
《履いてみる?》
バンビちゃん。
バランスが変。
「バランスが変」
《そうなのよ、今のは10センチ、無理しても8センチまでがオススメね》
「数センチ程度で」
《そうなのよぅ、じゃ、履き直して。私も履くから》
ショナを間に、小雪さんと自分と並ぶ。
小雪さんはショナを超すかどうかで、10センチヒールが似合う。
「似合う、バランスが良い」
《そうなのよ、靴のね。身長差的にはショナとハナさん位の差が良いのよぉ》
「絵本でもその位の身長差だって小雪がうるさい」
「職業病」
《そうなのー、どうしても妥協出来ないの》
「小さくてもショナ兄ちゃんみたいに良い人は居ると思う」
「ありがとうございます」
「その、丁度良いとは」
《あ、見た目だけじゃ無いのよ、ハグしたりキスするのが楽な限界値なんですって》
「ふぶきはショナ兄ちゃんでも首モゲる」
「モゲ無い様に抱っこしましょうか」
「うん、肩車が良い」
危ない、吹雪ちゃんが居なければ死んでいた。
吹雪ちゃんのお陰で何とか表に出さずに済んだ、危ない。
「はい、どうでしょう」
「ハナは首がモゲるか」
「それだけ大きいとモゲますな」
《小さいもんねぇ、可愛いねぇ》
「小雪うるさい、ショナ兄ちゃんが可哀相でしょ」
「そうですね」
《もう、ショナもヒール履いたら良いのよ》
「男性用が?」
「虚栄心さんが出したって大騒ぎした」
《した、だって格好良いんだもん》
「ほう」
「気になっちゃいますか」
「少し」
今日の記念にと小雪さんが靴を贈ろうと提案、押し問答の末、3人で出す事に。
そして隣の男性用の靴売り場へ。
革靴に7センチのヒールが付いたモノ、安定感は有るけれども。
「一体、何時何処で、どう、着用するんでしょうか」
《そんなに違和感無いと思うけど》
「ショナ兄ちゃん伸びて良かったね」
「倒錯的商品達、足首が素敵です」
《分かってくれるんだ、良いよねぇ》
「ショナ兄すね毛抜いて良いか」
「吹雪さん、それは今度で」
「めくってまで、飽きましたか」
「ううん、珍しいから」
「確かに、滅多に出しませんし」
「いつものお礼に差し上げます」
「いや、遠慮させて下さい」
「いやいや、お世話になってますので」
「何処で履けとおっしゃいますか?」
「出来るなら、毎日で」
《流行の最先端なんだから、ナンパ率も、あれ?指輪いつから?》
「あ、コレは業務用でして」
《なんだぁ、ビックリした》
「何でその指なの」
「魔道具だそうで、詳しくはちょっと」
《まぁ、興味無いんだし丁度良いんじゃない》
「どっちも好きじゃ無いってどんな感じだ」
「どっちも好きじゃ無いワケでは無いんですけどね」
「じゃあどっちもか」
「いえ、一応女性が好きです」
「なんだ、ふぶきが女の子好きになったらどうしたら良いか聞こうと思ったのに」
「ほう、そんなお悩みが」
《初耳、誰だれ?どこの子?》
「ふぶきはまだ居ないけど、図書館に新しいの有った。女の妖精が女の子を好きになるお話、最後がどうなるか書いて無い。お母さんに聞いたら、自分ならどうするかって言われた」
《なるほどねぇ》
「なるほどじゃないの、女の子同士は病院行かないと赤ちゃん生まれないは知ってる、赤ちゃん欲しいけど女の子で女の子好きなら困る」
《あー、もうそこまで考えてるかぁ。色々と教えたいんだけど、少し待ってくれる?大事な事だから長い時間が欲しいの》
「うん、今はショナ兄ちゃんのお買い物だから大丈夫、珍しいから大事」
「珍しいとは」
「基本的には1人で買い物を終えるので」
《働き始めてからずっとだもの、つまんない》
「長いんですよ皆で行くと」
《グループで買い物に行っても直ぐ勉強始めちゃうから、協調性と共感能力が心配だったんだけど、大丈夫?》
「はい、問題無いです」
「お勉強は大事、小雪達は長い」
《可愛いが好きなんだもの、吹雪も可愛いしぃ》
「ぃゃーあー好きで可愛い違うのー」
「あの、いつまで履いてれば良いんでしょうか」
「受け取るまで」
《お会計お願いしますー》
「ショナ兄ちゃんの負け」
仕舞いには編み上げブーツかコチラかと言われ、価格の安いコチラに。
価格は思った程では無く、普通の革靴と変わらない値段。
高ければ断れたものを。
「靴、返して頂けますかね、一応今回は護衛なので」
「危ないですか」
《危なく無いわよぅ》
「ふぶきが危ないは公園な」
《隠れたまま寝ちゃうんだもの》
「大騒ぎでしたからね、通信装置が有ったから良いものの」
「猫が暖かかったのは覚えてる」
「猫ですか」
「今はおウチに居る、黒猫」
《ノワールでノアちゃん、意味は黒》
「可愛い」
「お日様の匂いがする」
《夏場は熱くてビックリしちゃうのよねぇ》
「良いなぁ」
「行きますか?ネコカフェ」
「いく」
《こら吹雪》
「行きたいです」
ココでも桜木さんはお年寄りに大好評で、最年長の真っ白なお爺さん猫に胸に乗られていた。
そして膝にも。
「お膝の中猫ちゃんはソラちゃんだって」
「ソラちゃんの顔が見れない」
《お爺ちゃん大きいもんねぇ》
「苦しく無いですか?」
「うん、猫の匂いがする」
「ゴハンの匂いだ」
《ヤキモチ妬かれるなぁコレ》
「話せば分かってくれる、はず」
《だと良いんだけど、相手されなくても拗ねないでよ?》
「がんばる」
片手で白猫を支え、もう片方はキジ猫に齧られて。
「食べられてますけど」
「ダシでも出てるんだろうか」
「歯が痒いんだと思う、ふぶきも痒くて愚図ってたって、覚えて無いのに」
《何か噛ませてないと不機嫌だったんだもの》
「良く木を齧ってましたもんね」
「覚えて無いもん」
《写真有るわよぉー、ほら》
「本当に木を、美味しいんだろうか」
《味見したけど無味無臭だったわねぇ》
「たべたのか」
《念の為に齧っただけよ、ちゃんと良く洗ったし、煮沸したし》
「虫歯なったら小雪のせい」
《私無いもーん、なったらお母さんよ》
「お母さんも噛んだのか、チュー我慢したゆってたのに」
《全員で味見したわよ、念の為に》
「虫歯怖いのにぃ」
「誰かなったんですか?」
《お母さんがね、吹雪を生んで暫くしてからねー》
「凄い痛いからちゃんと磨けって言われた」
「一応、痛く無くも出来ますからね」
「怖い怖い」
「うん、こわい」
「まだ食べられてますけど」
「ね、舌は痛いのね」
《本当に、ダシでも出てるのかしら》
白猫にも舐められそうになりながら、お試し30分が過ぎ、お店を出る準備に。
3人でコロコロと毛を取り合う姿は、マトリョーシカの用で、桜木さんが近所に居たら。
居たら。
「ショナ兄ちゃん、後ろ」
「届きますか?」
《総出でコロコロするから大丈夫、ほら》
「くすぐりが効かないのが残念」
《懐かしいなぁ、お兄ちゃんにくすぐられてキレてた声》
「ショナ兄もキレるのか、みえない」
「まったくですな」
「あぁ、足が痺れてる時のですかね」
《どれだろう、暫く煩かったし》
「すみませんでした、怒っておきますね」
「タイムスリップしたい」
「ふぶきも、どんな風にキレた?」
「再現不可能なんでタイムマシーンの開発をお願いします」
「吹雪さん、宜しくお願いします」
「なんでふぶきが」
《算数大好きじゃない》
「ふぶきは妖精見る魔道具開発するから無理」
《並行出来るから大丈夫よ、さ、行きましょ》
小雪さんのあしらいが上手いのか、皆がこんなんなのか。
次は雑貨を見て回る事に。
ショナは自分が履く靴を2度見し、複雑な表情を浮かべていた。
オモロ。
「凄く不安なんですが」
《ピンヒールよりマシよ》
「ショナ兄ちゃん似合うから大丈夫」
「大きいお兄さんには似合いますか?」
《んー、アリ、もっとヒール太いゴッツいの》
「ゴッツいですか」
「ショナ兄ちゃんの2倍」
「2倍は言い過ぎかと」
《まぁ、でもほぼ合ってるじゃない、昔の写真そんなんばっかりだし》
「昔のイメージのまま過ぎでは」
「本当に半分の時有った」
「ほうほう、さぞ可愛らしいんでしょうね」
《可愛いかったぁ、昔はもう女の子みたいに髪が長くて》
「女の子の着物着てた」
「家のしきたりなんで仕方無く」
「ほうほう、今度見せて頂きたいものですな」
「写真は実家なので」
《あ、今度の休み分からない?吹雪の運動会が有るんだけど》
「お休みして頂くので期待していて下さい」
「うん、がんばる」
吹雪ちゃんはショナがお好みの様子、年の差が大変そう。
ショナは不満気。
雑貨屋ではガラス製品に目を引かれてしまった、気泡の入ったガラスの香水瓶と花瓶。
今日は買われないので一安心。
《気に入った?》
「ヒールにしたら素敵かと」
《良い案ね!何処かに応募したら?製品化されたらお金にもなるし》
「ほう、発案しただけで」
《技術が無いと発案しちゃイケないワケじゃ無いし、ただねぇ、著作権協会が煩いからなぁ》
「最近は大丈夫かと、一新したそうですし」
「どう不評で?」
《最初は転生者様を守る為に出来た協会らしいんだけど、学校とかで少しでも音楽を使ったり、ちょっとしたネットの創作話に直ぐお金を要求するか、提訴提訴で》
「今は大丈夫だそうですが」
《それでもねぇ、だってセリフ1つでパクりだインスパイアだオマージュだ、全部有料なんておかしいじゃない》
「窮屈ですな」
《そうなのよ、共通認識すら無料で共有出来無いなんて、絶対にそれを望んで無い人だって居たと思うのよね》
「亡くなられた方の声が聞けると良いですね」
《本当に、しかも利益は不正に使われてたって言うし。国連の人とか大丈夫?不便や不具合は無い?》
「無いです、お陰様で」
「そうですかね?趣味や個人の時間を取って頂けてませんけど」
《それは良く無いわよ、さっきの案とかじゃんじゃん出してお金稼いで、働かないで楽するに越した事無いんだから。皆と同じじゃなくても良いのよ、大丈夫》
「その、働かない時間に何を?」
《お金が有る前提で話すけど、虚栄心さんのお店に行ってー、通い詰めてー、世界中の靴を見て回って、欲しい靴をデザインして貰って、履く》
「吹雪さんは?」
「妖精見て回る、全部記録する」
《あ、合間にアレね、素敵な人と服を探して、美味しいモノ食べてー、景色も堪能したいしー》
「妖精百科事典作る、妖精と妖精の本をみる」
「姉妹でもこう違いますか」
「そうですね、小雪さんは昔から靴好きでしたし」
《最初はガラスの靴が欲しくて、無いのか探してたらこんなになっちゃった》
「ふぶきは妖精の絵見て、カミナリに落ちた」
「カミナリに撃たれて、恋に落ちた、で良いですか?」
「そう!それ」
「そんなに」
「うん、見た事有る気がする」
《小さい頃は見えとるらしいのぅ》
『あぁ、偶に相手をするらしい』
「応援します」
《頑張って吹雪、お姉ちゃんも応援するから》
「そうですね、魔法は何でも出来ますから」
《良い言葉よねぇ、好き》
「ふぶきも、ふぶきも何でも出来ると思う」
「うん、がんばれ」
「そうですね。じゃ、ちょっと買って来ますね」
《あら、それ買うの?珍しい》
「お世話になってる方へお返しに良いかと」
「ショナ兄ちゃんのクセに良いと思う」
「どうも」
他にも目に留めたモノを買われたが、自分に来るとは限らないワケで。
そして今度は目の前の公園で休憩、吹雪ちゃんがショナの補助で鉄棒に乗るとグルングルンしている。
オモロ。
「凄い」
「その格好では止めて下さいね」
「だからスカート不便でキライ」
《お出掛けの時位は良いじゃないのー》
「たるい」
「わかる」
《あら、お洒落好きじゃないの?》
「見るのは好きです」
「わかる、見るとするは違う」
《慣れよ、慣れ》
「いつ慣れます?」
「それ、教えて」
《んー、そもそもお姫様目指してたから苦じゃ無かったし》
「そう言えば、家に暖炉が無いってウチの母に泣き付いてましたね」
《サンタさんも王子様も来ないかもって絶望したんだもの》
「暖炉が無いから小雪はまだ独身か?」
《ガラスの靴が》
「おウチに有るでしょ」
《アレは飾り、履けるのも買ったけど、舞踏会が無いし》
「外国に有るってやってた」
《アレはマジでエスコート役が居ないとダメなの》
「ショナ兄ちゃんで良いでしょ、舞踏会で探すんだし」
「行ってあげるべき」
「考えさせて下さい」
《でもねぇ、理想の人が居なかったらガッカリだし、居ても自分をスルーされたら夢が壊れちゃいそうでイヤだし》
「ビビってんの!」
《はいはい、ビビってますよ。夢のままで良い夢も有るの》
「でもこの前、雨の日に王子様居たらって言ってた」
《水溜まり踏み越えようとしてヒール折れた時ね、良くも悪くも周りに人が居なかったから泣いて帰ったわ》
「お仕事でも怒られた言うてた」
《理不尽だったぁ、何処も売り上げ下がってんのに、売り上げ少ないって》
「それは本当に理不尽では」
《ね、だから上司用の通信簿に今までの鬱憤含めて書いてやったわよ。他でもやらかしてたみたいで、即座に倉庫送り》
「怖いな、上司用の通信簿」
「それだけで決まったんじゃ無いのでは」
《そりゃ勿論、質と量の問題よね。男性更年期だからって治療もしなかったみたいだし、妥当よ妥当》
「本人が無自覚だったなら怖い」
《奥さんと別居してたとか言い訳を聞かされたけど、だったら余計治療すべきだって言ったら黙っちゃて。健康自慢の人だったから、まぁ、治療は嫌ってのも分かるんだけどねぇ》
「なるほど、納得しました、妥当ですね」
《でしょ、大丈夫大丈夫、声の大きさで問題が左右される事は無いから》
「質と量ですな」
「はい」
「すべり台行って良いか?」
《はい、ショナと行ってらっしゃい》
「だー」
「あ、行って来ますね」
「うい」
小雪さんと2人きりは、どうしたら良いのだろうか。
《ショナに言えない様な悩みは有る?言える人は居る?》
「大丈夫です、同性も居ますので、ちゃんと相談もお話しも出来ます」
《なら良かった、さっきみたいに女の子に興味無さそうな子だったから、気が使えてるかどうにも心配で》
「丁度良く気を使ってくれるので気は楽です」
《あの指輪、本当に魔道具なの?》
「だそうで、効果は我々も聞いて無いんです」
《変なモテ方しないか心配で、大丈夫そう?》
「見る限りでは。あの、舞踏会のお話なんですが」
《何々、興味有る?》
「見る分には、それでその、他の国に出会えるお店が有ると聞いたのですが、主にベガスに」
《おぉ、知ってるんだ。でもなぁ、ハードル高いのよねぇ》
「舞踏会より?」
《条件はそんなに変わらないんだけどねぇ、なんか、どっちに行っても中身を知る前にウッカリ惚れちゃいそうで、怖いなぁって》
「一目惚れが怖いですか」
《うん、それで後から中身を知ってショック受けたく無いなって、芸能人とかアイドルとかは良いんだけど。あ、アイドル分かる?》
「存在してるとは知ってます」
《良かった、この人とか好きなんだけど、私生活関係の情報はシャットアウトしてるの、芸能人のこの人が好きで、中の人まで好きになって、落胆したく無い感じなんだけど》
「何となくは、憧れのままが良いとかですか」
《そうそう。欲求がチグハグなんだよね、自覚してるんだけど、傷つきたく無いから》
「ショナさんに、その感性は有るんでしょうかね」
《あー、そんな素振りも無いかぁ》
「今の所は。あ」
《ん?》
「同僚の方から、アプローチが合ったとか無いとか」
《ナイス、ショナが子供の頃の写真見せてくれ無かったら、あー、連絡先の交換もダメなのよねぇ。じゃあ……》
小雪さんがコチラをチラリと見た後、ワザと内緒話をする体制に入った。
誂われる材料が、確実に桜木さんに提供されてしまっている。
「小雪、悪い顔してた」
「ですよね、絶対に誂う材料を提供してますよアレは」
「どの話しだ」
「言いませんよ」
「チッ」
「舌打ち、学校ではしないで下さいね」
「みうちげんていだから」
「そうですか」
「ショナ兄ちゃんの好みはアレか」
「そう、見えますか」
「小雪も、ニヤニヤ我慢すると変な顔になる」
「変な顔になってましたか、失礼しました」
「好きって言った?」
「いえ」
「なんで」
「色々と、違うので」
「移民だから?差別と偏見はよくないと思う」
「吹雪さんが、妖精の王子様を好きになったら、直ぐに告白出来ます?」
「んー、妖精なってしまうか?」
「そうですね、なるかも知れませんし、妖精の王子様が人間になっちゃうかもですね」
「妖精も王子様も止めないとかもは、難しい」
「僕はカエルで、ハナさんは移民のお姫様かもですし」
「壁に叩き付けて貰ったら良いのに」
「触れない位に、カエル嫌いのお姫様かもですよ?」
「可愛いカエルも居る、フクラガエルは可愛い」
「毒の有る可愛く無いのも居ますよ」
「ショナ兄ちゃんはそこまででも無いから大丈夫だと思う」
「ありがとうございます。もう戻って良いですかね、どんどん誂う材料が提供されてそうなので」
「しかたないなぁ」
「ありがとうございます」
どこか少し、桜木さんと話している様な。
近くに住んでたらと考えたせいなのか、吹雪さんと話すのは不思議な感覚になる。
「お、もう良いんですか?」
「ショナ兄がどうしても心配だっていうから、きた」
「信用して無いワケじゃ無いんですが」
《大丈夫よぅ、ショナがどう反応するか先読みして教えてたの》
嘘が無い事が逆に怖いと言うか。
「おなかがすいてきたかも知れない」
そしてお昼にはパンのランチバイキングのお店へ、マナーがほぼ要らない食事処、ストレス値は低値。
それでも、何度記録を見直しても、ストレス値がモフモフに負けてしまっている。
何がストレスなんだろうか。
《吹雪もハナさんも硬いの好きねぇ》
「味がするので」
「柔らかいは食べた感じしない、消える」
「吹雪さん、好きな食べ物は」
「エビフライとハンバーグだが」
「やっぱり」
「ふふっ」
「ハナ、子供だと思って笑ったな」
「いや、自分と同じだなと思いまして」
「そうですね、オムライスかエビピラフなら」
「「りょうほう」」
「こころを、よんだ?」
「いえ、自分も良くそう思うので」
《もしかしてお子様扱いでそんなのばっかりを》
「いえいえ、バランス良く色々と食べて頂いてますよ」
「大人だけどセロリは無理」
「わかる」
「ふふっ」
「もー、なんでショナ兄もふぶきを笑うの」
「すみません、好みがこんなに似てるとは思わず」
「吹雪さん、笑われてるのワシの方だコレ」
「小雪、美味しいは大きくなれば変わるのか?」
《変わるのも有るし、変わらないでずっと好きなのも有るからなぁ》
「懐かしいオヤツやお菓子は有りますか?」
《有る有る、後で駄菓子屋さんに行きましょ》
パンも程々に駄菓子屋へ。
懐かしい。
「懐かしいですね」
《何よ、全然来て無かったの?》
「プロテインがオヤツ変わりだったので」
《ストイック、息抜きしないと良く無いよ?》
「そうだそうだ、全部欲しいですが」
「ふぶきも、また心をよんだ?」
「いえ、皆さん1度はそう思うのでは」
《靴屋でなら確かに。吹雪、15個、1000円まで》
「りょうかいでー」
「さ、ハナさんもどうぞ」
「同じ制限ですか」
「大人ですし、倍にしときます?」
「いや、同じ土俵で勝負します」
買い物を終え近くの公園へ、雨が降って来た。
桜木さんは年齢が下か上と良く合うらしく、謎のお菓子ランキングで本当に勝負していた。
吹雪さんが欲しくて悩んだモノも有ったそうで、生き別れの妹かも知れないと、吹雪さんが言い出した。
「時空が捻れたから、ふぶきがちょっと遅かった」
《相対性理論は早過ぎよぅ、ゆっくり大きくなって良いんだから》
「ハナさん、養子になっておきますか?」
「可愛がられる分には問題無いですが、どう可愛がられるのか」
「お出掛けでもスカート履かないで良いにする」
「姉の楽しみを取り上げてはイケない」
《偉い、ハナちゃんは偉いわねぇ》
「なんで小雪の味方か」
《吹雪、ハナちゃんのお姉ちゃんのお姉ちゃんは私じゃない?》
「ふぶきだけの妹には」
《ならないんだわぁ》
「どうしたらなる」
《お父さんとお母さんが離婚して、先ずは私と吹雪が違う名字になります》
「きゃっか、そっかー、ふぶきだけのは難しいのか」
《残念でしたーハナちゃんは私の妹にもなりますー》
「ショナさん、そうなってたら、どうなってたでしょうな」
「何か、変わりますかね?」
《私がお兄ちゃんと結婚出来てた、かも》
「ふぶきは14才位で、ハナは8才にしとく」
「どうにも8才の頃を想像出来無いんですが」
「吹雪さん位の頃は絵本とか良く読んでて、8才は、同い年と遊び場で遊んでましたが」
「その、年齢差がどうにも」
「がんばれ」
「がんばれ。小雪、あけて」
《はいはい》
「僕に懐きます?」
「いやぁ、難しいかと」
《そうよねぇ、鉄仮面だから吹雪も最初は懐かなかったし》
「何考えてるか分からないはこわい」
「そんなにですか?」
「いまは大丈夫」
「あぁ、興味無いと興味無いかもですな」
《大概の子供ってそうよねぇ》
「疎遠」
《好きな事に熱中するタイプなら有り得るわね》
「ふぶきも妖精が先だったら喋らない」
「喋らないまで行きますか」
「だってショナ兄ちゃんは忙しいから」
「良く無いですな、改善を願い出なくては」
《そうそう、一応女性に興味が有るなら結婚も考えないとなんだし》
「ギブアップで、同い年の設定ではダメですかね?」
《双子かぁ、絶対楽しいじゃない》
「かわいそうに、小雪のオモチャにされる」
《何よそれ、双子コーデしまくるだけだし》
「ほらぁ」
「して貰えるなら、お化粧等は不得手なので」
《するする、今でも全然しちゃうぅ》
「ハナ、バトンタッチ」
「いえーい」
「そこは乗るんですね」
《ショナ、後は何が聞きたい?》
「グループで出掛けたら、何してます?」
「好きなモノを見付けたら、フラっとどっか行っちゃうかも知れない」
「ふぶきが良く怒られるヤツだ」
「それか、意外とボーッとした子かも知れない」
「それ、1番、想像出来無いんですが」
「そんな暴れん坊か」
「暴れん坊と言うか、突拍子も無いと言うか」
「落ち着きが無い?」
「それも違うんですよ」
「コレよそうがいの味、おいしくない」
「それ、それですね」
「不味いのか」
「そっちじゃ無くて、予想外が多いなと。当たり前と言えば、当たり前なんですけどね」
「そうか、不味いってどんな不味いですか」
「あー」
「あー、うん、薬品」
「うん、おクスリの味」
《えー、咳止めシロップ味で美味しいじゃない》
「具合悪いはなんでもまずい」
《お姉ちゃん食べるから頂戴》
「コレをお分けしましょう」
「たすかる」
今日の分の駄菓子を食べ終わり、雨も止んだので解散に。
向こうの護衛はどうなってるのか聞くと、浮島でと言う事になった。
そうして浮島へ行き、一服。
薬品味のあのお菓子、今度買おう。
そして一服を終え振り向くと、ちびカールラとクーロンが。
《おウチまで見届けた》
『ずっと見てたの』
「嫉妬ドリルの予感」
《もーー》
『ねこいやぁー』
「猫さんは悪く無いでしょう」
『いやぁー』
《わたしの方がスベスベなのにぃぃぃい》
「質感が違う」
《『やー』》
「なんか、すいませんでした」
「到着の連絡も個人用に入りましたので、もう大丈夫かと」
「毎回呼ぶ気か」
《やなの?》
『やだった?』
「嫌では無いが」
《カールラ達の寿命はご主人様の何倍もあるの》
『待てないのは番にしないの』
「ほう」
『ご主人様の番選びは邪魔しないからぁ』
《公務の時だけ一緒するの》
「うーん」
《ダメ?》
『いや?』
「国連や民意は」
「問題無いですよ、寧ろ一緒じゃ無い方が心配されますから」
《大演習じゃよ》
『なんで神獣が居らん、と炎上したらしいな』
「はい」
「はい」
《『んー』》
「化粧化粧」
『洗えばおちる』
《30分は撫で撫でして!》
「面談しながらでも良いですかね」
『《しかたない》』
「じゃあ、行きましょうか」
「うい」
荒ぶる神獣を抱え面談へ、ショナも一緒。
《どうでしたか》
「普通と言うか、主にショナの話になってしまったんですが」
「ですね、誂う材料提供もされたかと」
「ふりふり、ブラフブラフ」
《確実に手に入れてそうな反応ですが。ショナ君はどうでしたか》
「プライベートと仕事が混在すると、混乱しますし、区別が付き難いのが良く分かりました」
「ん?半分はソレ用か?」
《じゃの!》
《机上の空論、文字情報の欠点なんですよね、言葉を尽くしても想像力には限界がありますし、近い経験も無ければ喉元を難なく通過してしまいますから》
「そうですね、はい」
《面白い話も出たしのぅ》
『ハナが幼馴染であればと、随分と苦戦していたな』
「お隣さんだと余計ですよ、せめて反対隣りなら」
《出来ますか?》
「ワシは無理じゃぁ」
「0と似た状態で有れば、先ずは確実にウチの親が気付いて行政の介入へ、親類次第ではそのままの家で、お祖母さんと一緒に住むのではと」
「ほう、住めなかったら離れちゃうね」
「いえ、母親がウチに住まわせちゃうかと」
『世話好きは遺伝だからな、本家もだ』
《まぁ、お節介で無くては神社仏閣なんぞには関わらんじゃろう》
「それでそのまま、ズルズルと」
「部屋はくれよ」
「あぁ、改築して桜木さんにドン引きされそうですね」
「何でそ、そこまでするってか」
「どっちでも良かったとは言ってましたけど、小雪さんを可愛がってましたし」
『だからこそ隣りと仲が良いんだ、隣りは逆でな、お互いに笑い合って話していたよ』
「やっぱりそうだったんですね、他所より少し仲が良いとは思ってましたけど」
「なら、そこに引け目を感じそう、小雪さんとか居るんだし」
「あぁ、そこは抜けてました」
「嫉妬事件はもう嫌やで」
「それは大丈夫かと、結局はグループで遊びますし」
「そも健康な子供のまま成長する、が難しいのよな、怪我して見てるだけなんてザラだったし」
《少し体が弱い程度から、除々に修正してみては?入院なら3日寝込む程度、ケガも軽くて済み直ぐに治る》
「にしても、他人の子が病弱て」
「骨折し易い子がグループに一時期居ましたし、確実にお隣りさんと連携を取るかと、目の前の家の方とも」
「何故、もう1人作らんかったの」
『少し出来難いんでな、自然に任せての事だ』
「ですね、今思えば、治療してる気配な無かったので」
「すまんね、君の家の個人情報を聞いて」
「いえ、逆に僕で良かったですよ、お隣りさんのとか聞いても困りますし。あ、吹雪さんがもう少し早く生まれるかもですし」
「でも、ズルズルと居続けるワケにはいかんだろう」
「僕的には服飾や美大とか、そういった感じに行くのかなと」
「好きと出来るは違うし」
「ウチの両親ですよ?しかもお隣りさんも絡めば、絶対に伸ばすに決まってますよ」
「生存戦略故にこうなったのかもだし、ボーッと一緒に従者してたかも知れんよ」
「意外と適職かも知れませんよ、神様とも親しくしてらっしゃるんですし」
「それも育ちあっての事だし、もうそれ別人なのよなぁ」
《何度考えても、そうなりますか》
「あの出来事が良くも悪くも自分を形成してるっぽい、アレが無い平和な家庭の自分が想像出来無い」
《では、もう起こってからにしてみましょうか》
「意外と早く呪いが解けそう、クソ親だって皆が認めてくれるなら」
《認めますよ、本当にクソですし》
「介入から直ぐにカウンセリングが入るかと」
「大丈夫かな」
《余程運が悪く無ければ、ですが、運が悪い方で考えましょうか。ただ、アナタの異変に誰が気付くかですが》
「お祖母さんかウチか、小雪さんの両親か、グループの誰かが家に迎え入れる筈ですから、そこかと」
「兄ちゃんと姉ちゃんは」
《通報しなかった時点で隔離でしょうねぇ》
「無理に会わせる事もしませんし」
「誰かの家を転々とすんの?」
「何処も嫌なら別グループか、学校付属の寮になります」
《別グループへ移行する時点で、新たにカウンセラーと地域の人間が加わるので、不運はそこで打ち止めになるかと》
「それでも不運な場合は」
《親元に戻されますが、定期的なカウンセリングと介入が有りますし》
「ウチの親に会ってみますか?僕が従者関連か疑った位の人ですよ?」
『学校には教師だって居るんだ、漏れが無い様に、転生者が頑張ったんだ』
「漏れは無い?」
『無い』
《こう言い切れる国は、意外と少ないんじゃよ。自由を対価に漏れを受容した国も有るでの》
《少しは、想像する気になりました?》
「吹雪ちゃん、マジでワシ?」
「半分は」
「いや、もっと卑屈でムカつくガキぞ」
「流石に天真爛漫だろうとは思ってませんよ」
「吹雪ちゃんより酷い何で何でするし」
「兄も居ますし、調べるヒントや調べ方を教えます」
「野猿が室内犬になれるかね」
「丁度良いんじゃないでしょうかね、コチラは男2人なんですし」
「プロレスラー」
「体重コントロールはされるかと」
《膜とストレスでの事は除外しましょうね》
「白バイ隊員」
「身長が同じだと難しいかと」
「ココでもか」
「難しいだけで、出来無いとは言ってませんよ」
《目も同じ条件にしましょうかね、良く有るそうですし》
「人と虫と関わらない仕事」
「んー」
《そうきましたか》
「何でも屋って思ったけど、クソ親の影がチラついて、嫌な事が有ったら結局は辞めて、最低限しか関わらないと思う」
《校正、翻訳でしょうかね》
「それこそ動画や音楽、芸術関係もですよ」
「着地点を修正して来たね」
「もしかしてワザとやってます?」
何を?
「いや?」
嘘では無い。
幼馴染の話から、職業の事へとズレてしまったままなのだけれど。
こう、桜木さんは天然で着地点がズレてしまうらしい。
「天然ですよね」
「なにが」
《お気付きで無いなら結構です。まぁ、寮生活にしろ誰かの家にしろ、グループは色々有りますし》
「骨折の子は病院での治療が始まったので、比重が向こうへ行っただけで、断絶はしてませんよ」
《それから、イジメでしたっけ。犯罪が起これば加害者はそれなりの施設に収容されますが、復帰は犯罪の内容によります》
「秘密、内緒と言われたら、どんな内容でも解決するまで周りに言い続ける。例えそれが親からの言葉でも、最寄りのお巡りさんや教師や医師に言う。それが最初の教育です」
《他にも金品の要求、貸し借り、身体の画像のやり取りも、親兄弟に必ず言うのが子供の義務ですから》
《今は我らも関われるんじゃし》
『まぁ、アレは好き勝手にやっていたらしいがな』
『好きでしょう、マシーンやAI。実は既に誰かが誰かに抜け漏れを指摘していたそうですし、アナタがココに生まれていても問題無いかと』
《聞かなかった事にしますが。他に何が心配でしょうかね?》
「吹雪ちゃん程は可愛く無いが」
「指輪付きの僕よりモテるの分かってます?」
「君が威嚇と警戒し過ぎなのでは」
《両者共に一理有るんですよねぇ》
「あ、運動会行きなはれ」
「一応、申請はしましたけど」
『じゃあ、また遊びに行きましょうかねぇ』
『あぁ、エナも了承した』
《楽しみじゃのぅ》
「いや、ワシは遠慮するよ?」
《もう、普通は宜しいんですか?》
「いや、何か他の方法にしとく、あれ、ほら、ルーネとか出来たし」
《ココまで知れますかね?》
《ごえいはまかせて》
『できるもんーーー』
「遠慮しないでも大丈夫ですよ、次はもっとしっかりやれますし」
「紫苑は?」
『しょうがないですねぇ』
《まぁ、行かんよりは良いじゃろぅ》
『行くなら申請を通すそうだが』
神々や精霊の嘘が、低音と高音で跳ねる様に響いた。
既定路線、何かの企みの一部になってしまったらしい。
「行くます」
《では、一服どうぞ。ショナ君はこのままで》
「はい」
「うい、置いてくから静かにね」
《『あい』》
『君に、気付かれてしまいましたね』
《まぁ、今回は困惑も出ていたので桜木花子は誤魔化せましたが。祥那君は、どう思ってらっしゃいますかね》
「何かの企みの一部になっているなと」
《概ね正解ですが、今回のは大した事は有りませんよ》
『大丈夫、対価は発生しないからね』
「では、知るには」
《知れぬよ、知る位置にお主は居らんのじゃし》
『安全は考慮されている、問題無い』
「そうですか」
《大丈夫ですよ、桜木花子の為になる事ですから》
《くふふ、それよりじゃ、コヤツじゃよ》
『そうですねぇ、もう少し何とかなりません?』
「え、あ、どの事でしょうか?」
『先ず、何故ちゃんと褒めないんですか?召喚者桜木花子では無く、移民のハナなんですよ?』
《アナタが社交辞令ですら褒めないので、幼馴染さん余計に気を使わせてしまったんですし》
《指輪もじゃよ、好きな人に貰ったとでも言えば、幼馴染も遠慮したじゃろうに》
「流石にそれは、褒めなかったのは確かに申し訳無いとは思いますが」
《花瓶の時もじゃ、チャンスは幾らでも有ったと言うのに》
『舞踏会のエスコートも、他に背の高い男性を紹介しますと、賢人君でも紹介すれば良かったモノを』
「それはすみません、つい流してしまって」
《カエルと移民姫は良かったんじゃが》
『子供扱いが好きですよねぇ、ドリームランドでもですし。学ぶ気、有ります?』
《格上ですからね。矮小化し、身近に感じるので手一杯なのでしょう》
「そんなつ、すみません。ずっと、幼馴染ならと考えてて」
《それは良いんじゃよ、それは》
『ただ、ココに思い出の無いアノ子の前で、思い出話はどうかと』
《ネコカフェあんないした》
『撫で撫でさせた』
「えっと、それは我慢して下さい」
《まぁ、向こうから水を向けられたんじゃし、ウブじゃ仕方あるまいよ》
《それでもですよ、万が一にも恋の芽が有ったとしても、アレでは普通、潰えるでしょうね》
「そんなにですか?」
《逆の立場、マティアスや身柱と桜木花子が親しげに思い出話をしていても、何も思わず心も揺らぎませんか?》
話し込んでる。
そんな悩みが、嫌だった?
《大丈夫じゃよ、ちぃとばかしお説教じゃて》
「お説教」
《万が一にもお主が普通で有ったなら、恋の芽が消える振る舞いじゃったが、どうなんじゃとな。ウブ過ぎてストレス炸裂じゃよ》
「あぁ、その気が無いんだもの仕方無い」
《アホなウブじゃし、分からんよ?》
「期待はせんよ、何なら他に目を向け様としてるんだ、余計な事はして欲しく無いんだが」
《怒らんでおくれよぅ、可能性の話じゃし》
「アレじゃあ幼馴染でも無理だろう、従者の夢は揺るがんよ」
《比べるのは酷じゃよ、役目が違うんじゃし》
「比べても居らんかったが、せいちゃんの事か」
《アレの方がまだマシじゃったのぅ》
「それ言ったらマティアスの方がマシになるが」
《年上じゃよ?》
「他の警戒心で霞んでたけど、アレは平気だったんよな」
《出会い方の問題かも知れんのぅ》
「ノエルもだし、まぁ、そう接されて無いからだろ」
「あの、桜木さん」
「へい、終わったか?」
「まぁ、はい、次は桜木さんだそうです」
「うい、ちょっと待ってて」
「はい。あの、僕の何がストレスなんでしょうか」
「いや、多分人間全部ストレスだと思うし、先生でもエナさんでも、何かしらストレスは感じると思うが、どうした」
「僕と居る時に、ストレス値が少し有って」
「何と比べて」
「その、モフモフしてる時と」
「比べちゃイカンよ、平と快は違うんだし、平だけで比べ無いと、気にし過ぎ」
「不満有ります?」
「そっちは?」
「自由に伸び伸びと過ごして頂けて無いなと」
「いつの何と比べて」
「第2、第3世界と」
「偉い人じゃ無いし、しがない公務員とかで、公式の召喚者様じゃ無いもの」
「戻って来て、後悔してませんか?」
「戻った事が余計な事だったかもとは、まだ少し思ってます」
「小野坂さんの事ですか」
「予備なら戻らないでも、こうなってただろうから」
『少し違うだろう、救えた人数に違いが出る可能性が有るそうだ。当然お前が居なかったら、鈴木千佳が戻れたかどうか、これだけの人数を救えたかどうか、怪しいそうだ』
「その答えを出せるのはエルヒムだけど、そんな事で目覚めさせるのはなぁ」
『そのエルヒムもだ、幾らお前が居なくなったからと言って、あの小野坂が持って帰るとは思えん、とな』
「宇宙船が無事なら」
【自壊コードの解除は私だけでは不可能ですよぅ】
《はい》
「桜木さんは嫌かも知れませんが、桜木さんが戻って来てくれて、嬉しい人が、神様や精霊が居るんですよ」
「さっきの発言、虚栄心にぶっ飛ばされそう」
《先ずおタケじゃろうなぁ》
「頬が吹っ飛びそう」
《治せるじゃろ、とな、コワいコワい》
「しますかね?」
「泣きながら怒りそう」
《容易に想像できるんじゃぁ》
《桜木さん、お菓子如何ですか》
「おう、行ってくる」
「はい」
《もし逆なら、女を泣かせる色男、なんでしょうけれど》
「逆って有るの?」
《つまらないんですが、そのまま。男を泣かせる色女、だそうですよ》
「つまらんな」
《ですよね。どうでした、普通は》
「移民、しっくり来たわ」
《ですよね、実際にはほぼ同条件ですし》
「一目惚れが怖いって新鮮だった」
《深入りする深度の問題かと、彼女は浅くアナタは深い段階で躊躇う。もっと深い深度だと、マリッジブルーですかね》
「あぁ」
《やっぱりちょっと、召喚者様を辞めませんか?》
「お金の問題が」
《そこは大丈夫です》
「何で急に?」
《召喚者様だから、伸び伸び自由を謳歌出来無いんですよね?》
「まぁ、だからってもう、凄い数を見殺しにしたので、それより以前の水準はちょっと」
《それ以下ですし、辞めませんか?》
「エミールに負担が」
《エミール君も辞めさせます》
「リズちゃん達は」
《連携が深まったので仕事量は格段に減って、普通に過ごせます》
「周りに、辞めるデメリットは?」
《民意的には不安でしょうね》
「不安にはさせたく無いんだが」
《それでも、召喚者と言えど人間です。救済の役目を終えた人間に公務まで背負わせるのは酷だ、との話が出てるんですよ》
「優しいのは嬉しいが」
《他に気掛かりが?》
「ショナはどう思ってるのか、先生はどうなのかと」
《先ずは私ですが、良いと思いますよ。アナタにとって良い選択肢が出たと思いますし、アナタへのカウンセラーの仕事はどっちにしろ継続ですから》
「裏で動けなくなるのでは」
《公の記録に残る事は、この前の様に看取る事は不可能と思って頂ければと》
「隠れてヤればええんやね」
《良くも悪くも残りませんし、語り継がれる事も》
「要らん。え?本当に良いの?メリットしか無いけど?」
《ショナ君は従者ですよ?》
「蜜仍君は?」
《黒子なので変わらずです、アレク君も家も何もかも。ただ純粋に、生粋の従者はもう手伝えなくなるかと》
「保留で」
《はい、存分にお悩み下さい》
辞めたら、ショナの夢が消えてしまう。
桜木さんの話も終わり浮島へ、カールラ達と温泉へ入ってからお別れし、一軒家へ。
浮かない表情で特に何も話さないまま、お昼寝へ。
「アレク、戻って来れますか」
【良いけど、何か有った?】
「多分、桜木さんに何か有ったと思います」
【分かった、帰る】
ショナの連絡で戻ると、サクラの歯軋りの音。
何がそんな。
「さっき始まったばかりなんで、狼の姿でお願い出来ますか」
「おう」
詳しく聞けないままに狼に変身し、肩の上に顎を乗せる。
少しして気付いたのか、腕が動いて背中が撫でられた。
歯軋りも止まった。
「ありがとうございます、僕も少し眠りますね」
寝逃げってヤツだろうか、魔王の時には良く分らなかった逃避方法。
ショナとサクラに逃避しないとイケない何かが起きた、多分、神々が何かしたんだろう。
《なんじゃ睨みおって、何もハナの不利益を画策しとるワケでは無いんじゃ》
『ただな、少し、選択を迫ったとも言えるな』
『選択肢を増やしただけですよ』
選ぶのだって悩むのだって人間は大変なのに、神々や精霊は偶に無遠慮で配慮に欠けると思う。
《まぁ、そうじゃな、うむ》
俺は元魔王だし、考えや思考を読まれるのは良いけど、サクラはただの人間なんだから、もう少し優しくしてあげて欲しい。
『今だからこそ、そうもいかないんですよねぇ』
吸血鬼か。
《それも有るんじゃがな、茨の呪いを自身の素手で取り払わねばならんのじゃよ》
サクラがかけた呪いじゃ無いのに。
『そうなんですけどね、だから呪いなんですよ。まして呪いに関わった人間が存在しない以上、呪われた人間自身がどうにかするしか無い。例え他者がその呪いを解いたとしても、呪いの根は残り、再び呪いが侵食し、同じ過ちを繰り返す』
《コヤツは人生の半分以上を呪いと共に過ごした、それと共に成長し、呪いは何層にも身に食い込んで居る。じゃからどうしても、痛みを伴うんじゃよ》
それでも、神様なんだから痛くしないであげて欲しい。
『アナタは偶々、魔王の素質を失う様な方法が成功しただけ、記憶と感情の分離方法で魔王の呪いが解けましたけど。このままの状態で呪いを解くんですよ、記憶操作でもしますか?』
《まぁまぁ、自身の運の良さは何処かで分かっとるじゃろう。アレクや、お主にとってのハナの様な存在が、ハナには存在せんのじゃ。そこから築き上げねばならんのじゃ、合鍵じゃ、合鍵を制作中なんじゃ》
俺じゃダメ?
『少し足り無いんです、誰でも、世界中を探しても、エナさんでも。広範囲の根深い呪い、何度も何度も形を変え、何度も何度も解錠しなくてはいけない。コレでも、苦痛は最大限に取り除いてる方ですよ』
『お前は直に話せる、動けるし温もりも有る。お前に出来る事が有ると思えば、したら良い。願われるより先に、お前は出来る立場と位置に有る。お前が出来る事を、お前がしてやれば良い』
良いのか。
《勿論じゃよ、もう馬鹿みたいに遠慮を先に覚えおって》
『ただ、譲る部分もちゃんと考えて下さいよ』
『次は協調、調和を理解し覚える番だ』
目を覚ますと、狼になったアレクが腕の中に居た、もふもふぅ。
「アレク、用事は」
《さくぅら、ゆぅせん》
「歯軋りか」
《ぅん》
「すまんね」
《ぁりぃがとぅ》
「ありがとう」
《ぅん》
全身でもふもふを味わいゴロゴロしていると、ショナと目が合った。
どうしようか、いつ話そうか。
反対されたら従者だなと思うし、反対されなかったら。
何かショック、見放された感覚。
見放されるワケでは無いけど、関わりや繋がりが要らないと意思表示されるワケで。
それがショック、ショックで当たり前。
「ショナ、お話が有ります」
「はい、なんでしょうか」
「召喚者を辞めても良いと言われました」
「え、誰からですか?」
「先生、世論的にも有りだと。従者以外の環境は変わらずで、辞めても問題無いと」
「蜜仍君達は」
「黒子だから一緒らしい」
「じゃあ僕も黒子側に行きます」
ます。
どんだけ召喚者マニアよ。
「公式の動きは出来無いので、名も残らず公にも出来ません」
「はい」
はいて。
「君は従者じゃ無くなるし、ワシは召喚者じゃ無くなるワケで」
「はい、僕は問題無いですけど。もしかして桜木さんには何かデメリットが?」
「いや、今の所は無いが。従者に戻ったり、従者関連の仕事にいけなくなるかもで」
「それは大丈夫です、僕なりに方向性は出来たので」
「お伺いしても?」
「根本としては世界の為になる事をしようと思ってますので、桜木さんの従者でも、エミールさんでも、黒子であっても。それに沿わなければしませんし、それに沿えない職なら辞めて、他を探すだけですから」
「大丈夫?頭打った?」
「実は、記憶が少し飛ん」
「え、いつから」
「冗談ですよ、本当に嘘が分からないんですね」
「いや、ブラフブラフ」
「はいはい、因みにそれはいつからで」
「まだ確定じゃ無いっぽい言い方だったし、式典だけは出ようかと思うが」
「じゃあ、有給消化しましょう」
「いや、直ぐに辞めれるとは限らんのだし」
「召喚者で居たいんですか?」
「召喚者で出来る事はしないと」
「真面目ですよね」
「部分的には」
ネイハムの言った事は半分本当じゃし、半分嘘。
ただ普通と同じで在る様に、辞められると選択を提示しただけ、実際にはまだ時間の掛かる案なんじゃが。
《合意と納得は得られた様じゃな》
《何よりです》
『本当に辞めるとなれば、どうする気だ』
《個人的に雇用して頂くだけですね、信頼と安心を得て頂くにはそれが1番かと》
《まぁ、不要そうじゃがなぁ》
《そこが心配なんですよね、他にも頼れる者を作って頂きたいんですが》
《名案が有るぞぃ?》
《却下しますね》
《何でじゃぁ》
《アナタの場合は碌な案では無いので》
『まぁ、そうだな』
《ぶーーーーっ》
《マイナスイオンをどうも》
《きぇー!》
桜木さんが起き抜けに大事な話があると言ったので、また辞めさせられるのかと思っていたが、寧ろその逆だった。
何なら今まで辞めさせようとしていたのは、全部本当に僕の為で、僕の従者としての職を守る為の事だった。
恥ずかしい、心配したり真意を見誤ったり、本当に記憶を消してしまいたい。
「どうしたんですか?顔面を押さえて」
「あ、お帰りなさい蜜仍君」
「ただいま帰りました、桜木様は?」
「お手洗いかと」
「おう、お帰り」
「ただいま帰りました、お洗濯したらお風呂に入ろうかと思うんですが」
「洗濯はするから温泉行きなっせ、ほれ」
「はーい」
「世話好きですよね」
「大人は子供の世話をするものでしょうよ」
「すみません、子供扱いが抜け無くて」
「君もか」
「どうにも幼さと申しますか」
「ほう、洗濯してきます」
「はい」
書類で年齢を把握しては居たのだが、どうにも幼い外見で、何処かで子供扱いしてしまっていた。
小雪さんとも同い年なのに、実際に年齢を言わなかったらあの状態になったんですし、幼さを認めて欲しいと言うか。
『幼いから頼りなく見える、でも幼いは命が溢れてる、だからそれに老人や魔は引っ張られる』
「外見って、難しい問題なんですね」
『外見に拘らなくて済む世界の弊害、外見が及ぼす影響を忘れ過ぎてる』
「そうですね、自覚しました」
『そういう環境だから仕方無い』
「甘んじたくは無いのですが」
『保護者で居てくれても構わない、ただその先の結果を想像して欲しい。親子なら、どうなるか』
「親離れ、結婚ですか」
『その立場で居続けると、変更は難しい。マティアスやノエル、晶の様になる』
仮の居住だからと保護者で居て頂いたマティアスさん、贖罪の為と言えど永住する機会を与えてくれたノエルさん。
桜木さんをただただ慮ってくれた晶さん、もし僕と同じ気持ちだったなら、仮の居住では無かったなら。
「何をエナさんと見つめ合って、マジで頭打った?」
「いえ、男の子の日が近くて」
「あぁ、どうなったんよエナさん」
『柏木が渡した』
「マジですか」
『マジマジ。困った時にはコレをお使い下さい、上級品の筈ですから、良く考えて使う様に。って、ノリノリだた』
「凄い、そんな事もなさるんですね」
『桜木様の期待は裏切れませんので。って、土蜘蛛まで混ざったから、蜜仍はまだ信じてる』
「マジかよ、ひひひ」
「もう、いかに継続するかになって来ましたね」
「だな、ふふふふ」
『再始動で良い?』
「そらもう全力で」
女性なのにと思うのが間違いで、子供だと思えば全てがしっくり来てしまう。
でも、子供扱いは厳禁。
『おはようございます』
「おはようエミール、寝坊?」
『はい、その、実はショナさんに相談しようか悩んで、寝坊しちゃいました』
「それは深刻だ、ワシ一服してくるから、お話しなさいな」
『すみません、ありがとうございます』
こうやって気遣いの為の一服だったりもするので、止めて貰う事はもう止めた。
実際には健康に害は無いんだし、あったとしてもストレスよりはマシなのだし。
「何でもお話し下さい」
『この、赤い玉が』
神々の先読み、勿体無いとは思うが。
神々は悪ノリが大好き過ぎる。
「あぁ、エミールさんもですか、おめでとうございます。この前は蜜仍君もだったんですよ」
『あの、本当なんですか?』
「もうそろそろ蜜仍君が戻って来るかと、その時に。大丈夫ですよ、悪い事じゃ無いんですから」
『ノリノリだ、振り切れると怖いなアレは』
《じゃのぅ、フルスマイルで恐ろしい、ワンコの影響かのぅ》
「アイツめ、映画館で顔面モザイクにしてやれば良かったか」
《顔面猥褻物扱いは可哀想じゃろぅ》
「綺麗な顔して卑猥なんだから、実質猥褻物だろ」
『良く耐えた、ワシは偉いと思うぞ』
『まぁ、耐え無くても良かったとは思いますけどね。そんな程度で嫌うなら、その程度なんですし』
「天使と悪魔ごっこ、と言うかマジでそれやってる?」
『バランスですよバランス、代わりに取ってるだけですよ』
「世話好きよね」
『あまり褒めないで頂けます?こそばゆいんですけど』
「ドM」
『はい』
「ひゃー、どんな感じなの?」
『例えば』
《お、上がったようじゃな》
「ココに開けるか。蜜仍君、今はお話し中だから、お伺いしてから入っておくれ」
「はーい」
『ショタ』
「早く成長して欲しいわ」
蜜仍君が入って暫くすると、庭の何処からかクスクスと小さな笑い声が木霊し始めた。
加われないのは残念だが、神々や精霊が面白いなら、よし。
《くふふふ》
「ドリアードは気になるからヤメい」
《ぶーーーーっ》
蜜仍君とエミールさんが本気で信じ、安心してくれた所で桜木さんも呼び、オヤツ。
金曜なので桜木さんとエミールさんは魚のフルブレックファスト、僕とアレクと蜜仍君はきんつば。
「良い加減にニュースとか見たいんじゃが」
『地方のなら良いよ』
「どこの」
『大分』
「ふふ、ココでも大分か」
『大分』
地方局の、ほのぼのとした雰囲気でニュースが流れる。
召喚者や転生者に関する情報は一切流れない、コレは他の国の転生者様の案だそう。
全国のニュースが流れるので、コレはコレで僕らにとってもかなり有益。
「大丈夫?つまらんく無い?」
『いえ、新鮮で懐かしくて良い感じですね』
「ウチはいつもコレ流れてましたよー」
「ネット配信も有りますよ」
「便利」
放送を流したままで、お勉強会。
先ずは桜木さんの為の歴史、区切りが付いたらミーシャさんの砂糖漬け作りへ。
それも区切りが付いたら一服し、そのまま外の縁側で太極拳を始めた。
僕には見えてはいないが、エナさんの視線からして女媧さんが居るらしい、僕らに気を使わせない為なのだろう。
女媧さんに外の縁側で太極拳を習い、体をポカポカさせた後、ふと思い付き虚栄心を呼び出した。
「あら、血色良いわね」
「女媧さんと太極拳してた。コレ、知ってる?」
「可愛い香水瓶ね、欲しいの?」
「この水泡みたいなヒールの靴、無い?」
「もしかして私の靴、見たの?」
「ショナに買った」
「あら何よちょっと、どうなってるワケ」
《くふふふ、実はのぅ》
ドリアードに説明を任せ、虚栄心の靴のラインをスマホで眺める。
コルセットとニーハイブーツのセット、見覚えしか無い。
「虚栄心、コレ、アレやんな」
「そうなのよ、良いなーって作っちゃったわ」
「ありがとうございます」
「ふふふ、フルで付けて欲しいわよねぇ」
「ノーコメント」
「因みに、こんなのなら有るわよ」
「江戸切子みたいで素敵やん」
「でもねぇ、どうせ履かないんでしょう」
「履いたら眺められない」
「はいはい、用はそれだけ?」
「召喚者を辞めても良いってだけで、気が楽になってしまった」
「まだ決定じゃ無いんでしょう?」
「それでも、選択肢が有るかもってだけでも」
《ショナ坊が従者をぶぅ》
「何よ、辞めて付いて来てくれるって?」
「まぁ、そんな感じで、安心した」
《んもごんん、ぅぐう》
「あら可愛いわねぇ、良い子良い子」
桜木様が虚栄心さんを呼び、何かを話し込んだ後。
顔を真っ赤にさせ、猫可愛いがりされている。
ショナさんが少しイラッとしながら眺めているのが、とても新鮮。
僕ら子供は勉強で手一杯なのに、余裕が有って良いなぁ。
「ショナさんは勉強が無くて良いですね、余裕有りそうで」
「こう見えても勉強してるんですが」
『大人の勉強ってどんなのですか?』
「今は服飾関係ですよ、桜木さんが興味の有る分野なので」
『そうなんですね、他にも勉強した事って有るんですか?』
「商業、染め物に植生でしょうか」
『従者さんて皆さんそこまでするなんて、大変ですね』
「ショナさん位ですよ、そこまで先回りし続ける人って」
「ですね、個人差は有るかと」
「勉強が好きなんですかね?」
『僕は大人になったら勉強したく無いなぁ』
「どの職業でも勉強は付いて回りますよ、法律が絡めば改正したら覚え直しですし、新技術が出れば調べるでしょうし」
『あー、勉強しないで良い職業って無いんですね、そっか』
「桜木様には勉強よりもっと遊んで欲しいんですけどね、大人の見本としてちゃんと息抜きして欲しいです」
「それ良いですね、戻って来たら言いましょう。良い大人の見本として、勤務時間外は少しは楽しんで下さいと」
「そうですね!そうしましょ」
『ですね』
虚栄心にしこたま誂われ良い子良い子され、一緒に部屋に戻ると、大人はそんなに遊んではダメなのかとティーンズに詰め寄られ、ショナに良い見本として振る舞うべきだと畳み掛けられた。
ちょっと居ぬ間に徒党を組まれた、恐ろしい。
「まぁ、一理有るわよねぇ。最近、何したのよ」
「本読んでるが」
「だけじゃ無いですかー」
『ゲームもしないですしー』
「趣味を全然しませんもんね」
「徒党を組んで」
「組まれる方にも問題が有るのよねぇ」
「じゃあ君らが大人になったら何をするってのよ」
「桜木様が趣味をしてくれないから、ショナさんみたいに勉強ばっかりかもですねー」
「当て擦りでは?」
「はい、桜木様が悪いんですよ?」
「どストレートにハナの完敗ね、スーちゃんとは連絡を取ってるの?」
「いや」
「じゃあ僕も大人になったらそうしますねー?」
「良く無いわねぇ、あの子の趣味を一緒に楽しんだら?」
虚栄心まで。
「はい、じゃあ夕飯後に」
今日の夕飯はエミールの選んだカレー。
インドカレー、数種有る中でほうれん草のエビカレーとキーマ、サフランライスとナンでお腹いっぱい。
いっぱいだ。
ティーンズを上の部屋に追いやり、ハナと一緒に鑑賞会。
スーちゃんと回線を繋ぎドラマを同時視聴、後宮モノ。
「こう趣味がクロスマッチするものねぇ」
「うん、こう共通、共有するとは」
【あらすじと紹介文を見た時にピンときたの!どう?】
「良い、続き観たい」
ド派手な濃い顔の男は出ない、女は可愛いから綺麗まで、恋愛模様の組み合わせも多種多様。
本当に2人にピッタリ。
誰が良いだのどれを着たいのだの、ショナ君は情報収集に忙しそうにして。
もう、ハナマニアに近いわねぇ。
「ショナ君、最近の女子もこんな感じなのかしら?」
「そうですね、実家の母と義姉もこんな感じです」
【面白いし綺麗だし、昔もこんな感じなんじゃない?】
「まぁ、そうね。観劇も何だかんだで女性が多かったし」
「ミュージカルは無理」
【えー、一緒にオペラ行こうと思ってたのにぃ】
「それは多分大丈夫、魔笛聞きまくってたし」
【それ、アニメ経由じゃない】
「オリンピアとかも聞いてたもん」
【機械好きよねー?何が良いの?】
「嫌がられてるかそんなに心配しなくて良いじゃない」
【そこ?じゃあ感情が生まれちゃったら?】
「困る、殺されちゃうかもだし」
【あ、この子好き】
「キッツい顔好きやねぇ」
【可愛い子ってギャップ怖いんだもん】
「あー」
2本観終わり虚栄心ともお別れし、寝室へ。
今日もミーシャの付き添いは無し、個人を尊重してくれてるらしい。
まぁ、大人なので独りで寝れるし。