4月9日 色々と視察に行ったり、アレクに八つ当たりしたり。
今日は非常に夢見が悪かった。
寝起きからとてもイライラする。
「おはよう」
「おはようございます」
上に行きアレクに八つ当たり。
4の字固め。
「なん?!」
「本当に、すまないと、思っている」
「なんで」
「八つ当たりです」
「嫌な夢でも見た?」
「はい」
「俺?」
「いや」
「えー」
「白雨、すまんな」
『犬になろうか』
「頼む」
桜木さんがムスッとしながら上に行ったかと思うと、白雨さんが犬になり一緒に降りて来た。
「大丈夫ですか?」
「ちょっと八つ当たりしてきた、寝直して大丈夫だろうか」
「はい、今日は午前中は自主練だけですので」
「おう、蜜仍君が起きたら起こして」
「はい」
障子の隙間からは中々寝付けないのか、白雨さんを撫でる様子が見えた。
それからは身動き1つせず、蜜仍君に起こされるまで眠っていた。
「おはよう」
「おはようございます」
蜜仍君が出掛けるまでは良かったが、出掛けてからは不機嫌と言うか、何とも言えない感じに。
「温泉入る」
入浴でも紛れなかったので、無理矢理先生との面談を設定した。
【どうしましたか】
「嫌な夢を、嫉妬させられる夢を見ました。コンパスでスマホ刺した、多分、知り合い、ズルズル引き摺ってすみません」
【何かストレスが?】
「さぁ、体重増加の不安でしょうかね?」
【あぁ、ちゃんとストップもコントロールもしますから大丈夫ですよ】
「だとは思うんだけど、不安になるかなぁと」
【他に何か】
「なんかありそう、不穏」
【あぁ、ノーコメントで】
「ですよね」
【いつからです?】
「先生がショナに酷い事をした辺りから」
【誰かに話しました?】
「八つ当たりだけならさっきアレクにした、それと白雨がココに居る」
『ボフッ』
【悪夢の分析は?】
「誰にも愛されない不安」
【恋愛での】
「はい」
【おみくじの結果はどうでした】
「様子見しろ、時期を待て、良く見定めろ。みたいな」
【そう一貫しますか】
「おう」
【運動されては?】
「そうします」
桜木さんが先生の面談の後、白雨さんを人間に戻し寝かせると、浮島に行き川で泳ぎ始めた。
そうして限界まで泳ぎ、また一軒家に戻り、寝た。
先生に連絡すると、もうバレている、心因性の過眠だろうと。
そのメールを読み終える頃、エナさんが近寄って来た。
『どうする』
「バラしたく無いですね、暫くは」
『でも過眠も本人が困る』
「今日次第かと」
『一時しのぎだと思う』
運動のせいかストレスか、良く寝てしまった。
気分はまぁまぁ。
問題は顔が治ってしまった事、公式用にどうすべか。
【魔道具がございます】
口元の空いた顔半分を覆う仮面、傷が無かった方に付ける用だったので、飾り用かと思ったが。
ガラスの仮面は顔に張り付き効果を表した、傷が再現され、服に有った色合いに変化した。
試しに全裸になると、仮面は黒くなった。
そして髪を白くすると、仮面は白く。
なるほど。
今回は公式の視察なので礼祭服、仮面は黒く変化した。
「桜木さん、それは」
「魔道具だから大丈夫」
「一応、外して頂けます?」
付け外しはとっても簡単、両手を添えるだけでホロリと取れる。
「ほれ」
「ありがとうございました、それも泉から出て来たモノですか?」
「おう、飾りかと思ってたわ」
同行者は白雨とショナ、省庁でスーちゃんを拾ってイスタンブールへ。
ハナの体が戻って無いのか心配したのだけれど、魔道具で前の状態に戻った様に見えるだけだった。
そうして安心したのも束の間、ロキ神が紫苑の格好をしてやって来た。
『来ちゃった☆』
「おう」
『冷たい、他にも居るのになぁ』
「そう」
『もー、ほら』
カールラとクーロン。
無言で抱き締め合って、もう、泣ける。
「なんで来た」
《公務ですから》
『神獣が居なくては、箔が付きませんので』
《おめでとうございます》
『おめでとうございました』
「おう」
「ずるいなぁ、知らなかったよぉ」
「僕もです」
『なら良かった、サプラーイズ』
「ありがとう」
桜木さんの調子は完全に戻ったらしく、普通に皆さんと食事を摂り、浮島に植樹する事に。
宇宙船の内部に有った種や挿し木を植え、成長させる。
移民達にとっては最早、神様に近い存在。
手や足にキスされるのを何とか止めさせ、植物の解説をお婆さんに行って貰う事に。
藍、クチナシ、麻や桑の葉、リンゴやイチジク。
遺伝子解析でも近しい種類だと出たのだが、全く同じでは無いので「浮島産の」と頭に付ける事に。
種や枝の持ち込みは禁止なので、ココで加工し地上へ。
他の植生を脅かす事になるので、監督者が付く事に。
神々や精霊と人間、白雨やお婆さん達何人かがココに居住し、国連の人間と従者が監督や補佐をする事に。
『問題無い』
「折角のモフモフが」
『え』
《後でお伺いしましょう》
物流と人流は泉で、移民達もハンに住む事に合意した。
そしてそのまま染める為の道具が運び込まれた、染め方や織り機までもほぼ同じ。
最初からココに移住する為だったのか、文明はある程度同じ道を辿るのか。
摘む時に歌があって、葉を刻む時にも、布を水に浸す時にも歌が有る。
スーちゃんも知ってるそうで、一緒に口ずさんでいる。
滅ぼしちゃったんだよな。
「ずっと前からなんだ、何か嬉しいなぁ」
「滅ぼしちゃったんよな」
『え、あ、滅びてませんよ、ずっとココに残るんですから』
「そうそう、録音したし、楽譜だって有るし。だから大丈夫よ」
『そうです、続いてるから、滅びてません』
桜木さんはまだ、救った側で無く滅ぼした側だと思っている。
片や移民達は救って貰ったと思っているし、コチラの人間に至っては賛否両論。
もっと他に良い方法が有ったのではと、桜木さんの要望で今も議論が続いている。
その議論に真に答えを出せるであろう人物が居るが、その蘇生の議論も続いている。
「エルヒムは喜ぶんかしら」
「ねー、蘇生させてくれたら不毛な議論も終わるのに」
「どうかねぇ」
「少なくとも、他の答えが合ってるかは分かるじゃない」
新鮮な生葉でしか出来無い、水色の綺麗なストール。
試作1号は桜木さんへ。
「良いんでしょうかね」
『はい』
「受け取らないと動かないと思う」
「頂きます」
貰ってしまった。
そして本来の藍の時期はもう少し先だそうで、暑くなったら葉を摘み、軽く乾燥させたり揉んだり叩いたり、ココでも0でも技法は変わらないんだそう。
発酵も加わるので長く掛かるのだが。
「今、お願いして良い?」
「おう」
なんせココには魔法が有るので。
藍を成長させ、他にも笹の葉の様なモノや実を煮出し、触染剤と言うモノを作るんだそう。
ふと後ろを振り向くと、家が。
イスタンブール人には見えるのだが、無音で黙々と家を建てている。
木の柱を使い、日干し煉瓦を積み、土壁を塗り、2階建ての家になった、ブータンの建築法とほぼ同じらしい。
お酒かお重を差し出すと、お重が地面へと吸い込まれた。
「今のは?」
「日本式アフタヌーンティーセット」
「見せて見せて」
ミーシャの作った出来立ての蒸しパンが好評で増産決定となった、そして梅干しを食べて大爆笑している。
こんな酸っぱいモノが食べ物なのが面白いんだそう。
そして自分達が飲んでいた紅茶も作りたいと、茶葉を生やすとまた違う歌が。
さっきのは綺麗に染まれ、今は美味しくなれの歌なんだそう。
穏やかで緩やかな音階、景色も牧歌的。
眠くなる。
桜木さんが、また眠ってしまった。
それに気付いたカールラが小さくなり、手の中に潜り込んだ。
「過眠の可能性が有るそうですが」
《コレはただのお昼寝なの》
『心地好く寝てらっしゃいますよ』
神獣と離れるのが早過ぎたのは桜木さんの方らしい、カールラとクーロンに会ってからのストレス値は最近だと1番低い。
人間より神獣、神様や精霊と居る方が、居るだけでストレス値が下がる。
僕も、ストレスらしい。
「何が、どれがダメなんでしょう」
《みんなは借り物》
『ですね』
『お預かりしてる感覚だそうですよ』
「ソロモンさんまで、ねぇ、どうしてなの?」
《手を付けられたと思われては、お主らの婚姻の邪魔になるじゃろう。じゃから適度な距離を取り、妬まれぬ様に配慮しとるんじゃよ》
「何よそれ、武将みたいな事を」
『ほぼ、それみたいですよ。自分の所属するグループを会社、従者や周りの人間は部下。上役や顧問が神々や精霊、と言った感じですね』
『まぁ、圧倒的な権力や力を持っているのは間違い無いんだ、気を使って当然だろう』
『俺にもアレクにも、いつかは受け入れる人間が現れるかも知れないと思ってる』
『自分だけの人間が居ないからねぇ、寂しいと思うよ、サクラちゃん』
「私でも、ダメなのね」
《自分を選ぶのはココでの経験値が足りんだけじゃと、他に良いのが居るじゃろ、とな》
『アレクや白雨にもですよ、時代が変わったこの世界を、知らないも同然なんですから』
『実際に、ココの人間とはそれ程には接していないんだ、反論は難しいだろう』
「それはハナもじゃない?」
《そうでも無いぞい、ちゃんと友人になれそうじゃよ、普通の人間と普通にのぅ》
『ルーネだ、普通に趣味の話を続けている』
『蛙化現象も、今の所は出てませんし。それを盾に取られれば、更に反論が難しくなるかと』
「もー、離婚しなきゃ良かった」
《無理じゃろなぁ》
『いつか何処かで起きた事です、問題はこれから先をどうするか、ですよ』
『そうだな、行動次第だろう』
『じゃあ、もう手を出しちゃえば?』
「無理よ、気の迷いか相談で済まされそう」
《じゃろうな、全然ヤれるとか言うとるんじゃし。良い思い出で済ますじゃろ》
『だからと言って良い事では無いんだ、止めてくれ』
『精霊が居るので有り得ないでしょう』
『折角、ヤり放題なのにねぇ』
「全然、ハーレムじゃ無いじゃない、保育園じゃないの」
「そうなると、園児と園長先生ですか」
《じゃの!》
「なら、誰が1番近いのかしら」
《ネイハムじゃろうなぁ》
「え」
《向こうから容易く拒絶し、離れる事が可能じゃろ》
「まぁ、そうだろうけど」
『あのフェロモンですからねぇ』
「その、召喚者的に」
《理性の塊、仕事への一貫性、力的にも対等なんじゃ》
『それに、選ばれて納得するかどうかですね』
「あー、乗り越える系好きだもんねぇ」
「その、乗り越える系とは」
「作品の傾向ね、障害を乗り越えてくれる王子様が好きなの。特に、世間体を乗り越えて来られたら、多分、イチコロ」
《じゃの、ネイハムは適任じゃ》
「職を離する事になるからですか?」
《だけでは無い。例えばじゃ、愛する国を捨てるだとか、社会や地位を捨てるじゃとか、今まで持っていたモノを捨てる程の事》
『まぁ、そこまでされれば誰だって靡くでしょうけれど。バランスが問題なんですよねぇ』
『周りとしてはな、蓄えが有るか、知識や常識に経験が有るか』
「私、なんも無いし、しかも身近に居る時点で詰んでるぅ」
《時間は掛かるが無理では無いぞぃ》
「それまでガードしてないと誰かに取られちゃうじゃない」
《じゃのぅ》
『やっぱり、手篭めにしちゃえば?』
「ロキ神」
『しないしない、今は』
「今はって、いつかしちゃうじゃなーぃ」
《ある意味では安心なんじゃよなぁ》
『大事にはするらしいからな』
『残念な事に、相性は悪く無いんですよねぇ』
「先生に、蛙化現象を起こす可能性は無いんですか?」
『無いですねぇ』
《理想の王子様なんじゃよ》
『条件としてはな』
『しかも、遊びでは無いと確実に分かり、大切にするであろう事が伝わるなら、接近速度は心配いらないんですよ』
『しかもあの見た目だ』
《まぁ、デートの度に拝む所から始まりそうじゃよなぁ》
「悔しいけど普通に想像出来ちゃうぅ」
「あの、エルフの生態について詳しく知らないのですが」
《人間と寿命は違うでな、人間を選ぶ事はそう無いんじゃ。記憶力も良いんでな、もしそうなるんであれば、ハナが最後になるじゃろう。そこもじゃろうなぁ》
『あぁ、実にロマンチックですよねぇ』
『お前のそういう所が心配なんだ』
「まさかのライバルでちょっと、どうしたら良いか分からないんだけど」
《まぁまぁ、今のネイハムにその気が無いんじゃし、大丈夫じゃよ》
「それにしたって不穏分子だわ」
「かと言って離れさせれば」
「ハナから行ってくっつかれる心配が有るし」
「このままでも」
「ハナが、ハナが好きになったら厄介だわ」
《全然ヤれる言うておるが?》
「ぐぬぬ、最悪は先生かハナを眠らせましょ、繭化の魔法無いの?」
《残念じゃが、お主らには適性が無いのぅ》
「なら適性の有る方は」
『怖い怖いですね人間は』
《くわばらくわばらじゃ》
『退散しよう、そうしよう』
『あー、過度な介入ラインかぁ、上手くいかないねぇ』
「ぁあ、しくじったわぁー」
「でも、本当に、どうしたら良いんでしょうね」
『簡単だよ、サクラちゃんみたいに周りと交流を持って、それでも好きって言えば良いじゃない』
「大人なら、合コン?」
「やっぱり、そうなりますかね」
「私は先ず大人になる所からじゃなぃいいい」
『まぁまぁ、子供なら子供なりに交流を幅広く持って、そういう目線で周りを見たけどダメだったー。で、大丈夫だと思うよ?』
「そうかなぁ」
『真剣なのが1番だと思うな』
「だろうけど」
『そこで折れそうなら、最初からいかない方がサクラちゃんの為になると思わない?』
「途中で翻した日には、そんなに好きじゃなかったのか、と」
『そうそう、中途半端が1番良く無いと思うよ』
「最高潮からのアプローチかぁ、ハードルが、いや、適切なのかも?」
「そうかも知れません」
「回り回って自分を分かってる、のかしら」
「そこの自覚が有るかは不明ですけど、自衛としては納得かと」
「容易く殺せる能力が有るんだし、そうよね、嫉妬させない人じゃないとね」
「そうですね、桜木さんと周りの為にも」
ショナ君も良い感じで、ハナも対価が支払えたのは良いんだけれど、先生って。
ハナにはちゃんと選んで欲しいのに、ショナ君は完全に尻込みしてるし、周りは幼いし、先生とか最強の駒が居るし。
ちょっと、私でどうにか。
「あ、雨宮さん、どうしてるんだっけアンちゃん」
『もうそろそろ、コチラに視察に来られるかと』
「あぁ、ハナが、紫苑が起きる前に話したいのよ、賢人君」
「うっす、連絡しとくっすよ」
オヤツ前、紫苑が起きる30分前には来てくれた。
オッパイ、ナイスオッパイさん。
「あの、お話しとは?」
「ちょっとコッチ、ハナの恋愛についてなんだけど」
「はい、是非」
今まではお互いに様子見、ましてハナのライバルなのか疑ってたから全く話さなかったけれど。
マキさんは王道のショナ推しだと分かった。
「もー、何だ、そっか」
「え?何か有ったんですか?」
「いやいや、大丈夫、うん。それで、ちょっと、ぶっちゃけ最強のカードが出て来ちゃって、独りじゃ難しいなーって」
「ルーネさんですか?」
「ネイハム先生」
「え」
「いや、先生には全くその気は無いらしいんだけど、条件的に最強だってなっちゃって」
「あぁ、先生からしてハードルが高いですもんね」
「そうなのよ、従者ってその点はハードルが低いって言うか、その為の従者感も有るじゃない?」
「そうですね、ちょっとハナさんにしたら物足りないと言うか」
「従者だから、召喚者だからって立場がマイナスになっちゃうじゃない」
「先生と召喚者様でしたら、ある意味では対等ですものね、なるほど。不味いじゃないですか」
「そうなのよぉ、複数候補から選んで貰いたいのにぃ」
「選ぼうとしてらっしゃいませんもんね」
「そこを、どうにかしたい」
「普通なら、物語なら必ず何かイベントが有りますよね?」
「並のイベントじゃ逆効果なのよぉ、蛙化現象起きちゃうもの」
「ぁあ、あぁ」
壁ドンでドン引き。
ピンチは勝手に抜け出すだろうし、ツンデレは興味を失うし。
欲しい物は手に入れちゃうし。
「あれ?難しく無い?」
「ですね、性別を逆転させては?」
「ガラスの靴は返して、家を世話して終わっちゃいそう」
「眠っているお姫様を助けた後、どこかへ行ってしまいそうですし」
「髪を垂らされてもお話しして終わっちゃうぅううう」
「伝説と同じ様に、もう無理にでも娶らせるしか無いのでは?」
「無理難題を解決しちゃうのよ?」
「そこは都合良く、仲良く3年寝床を共にするとか、毎朝のキスとか」
「ショナ君だけじゃ無く、他にも目を向けさせたいんだけど?」
「えへへ、でもでも、皆さんにも適応出来ると思うんですよ」
「そうだけど」
「アレですよ、太陽の東と月の西」
ギリシャ神話プシュケーとエロースのお話しにそっくり、暗闇の中で寝床を共にし、一時的に実家に帰る事で試練を越えなくてはいけない窮地に陥る。
が、ショナ君にその心配は無さそうだけれど。
「でも、試練を越えるのは」
「ショナさん達ですよ、ハナさんはエロース様であり白熊さん。その魔神で白熊さんが紫苑さんなら」
「紫苑を愛させるの?!」
「先ずはそこからで!」
寝て起きるとモフモフな感触に気付いた、カールラのモフモフ。
そして草や煮汁の芳香が香る、不思議な匂い。
マキさんとスーちゃんが何やら話し込んでるし、ショナはテンション低いし。
「何かあったか」
「いえ、特には」
嘘か分からん。
新しく出来た家に行き、トイレを借りた。
簡素な洋式で流水が流れ続けるタイプ、下流なのか赤や青の水が流れて来て中々に面白い。
白雨は男性達と住むそうで、川向こうの家が女性達の家と畑と加工場。
橋を渡らないと何処にも行けないのだが、川の神と橋の精霊に守られたこの環境が良いんだそう。
そして例の少年はこの浮島に居る、ずっと遠くで作業を続けている。
もう知ってしまったらしい、良いのか悪いのか。
「話してくるから誰も来るで無いよ」
「はい」
カールラもクーロンも置いて、少年の前に座る。
藍の茎を叩く作業、重労働だろうに。
「“知ってしまいましたか”」
『“はい、すみませんでした”』
「結構、もう2度と無い様に、次は好きな人と幸せになっておくれ」
『はい、ありがとうございます』
うん、可愛いし完全に許した。
可愛く無かったらとかは無しだ、メンクイを貫き通す、ただそれだけ。
「分かったかねソロモンさん、それと他のも」
『はい』
《分かっておるわぃ》
『お前が妥当と思うなら、妥当なのだろう』
「妥当です」
私達の王子様、ハナはオヤツの時間。
仙薬ときんつばをこれでもかと飲み込んでいき、今度は綿花を途中まで育て上げた。
染料の仕込みが落ち着いたら、次は綿花の収穫が出来る様にと。
私達に休日の概念は無い、体調や天候が悪ければ休むし、仕事の無い期間も有る。
自然と一緒に生きて来たから、地上のカレンダー通りの生活に馴染むには、まだ時間が掛かってしまう。
特に、龍が連れて来た人達にも大事な場所、だから均衡を崩さないとは思うけれど、守りは欲しかった、けど。
「ごめんねハナ、白雨さんを借りる事になって」
「いや、アレは間違い犯さないからコッチも安心。向こうも顔見て安心したっつーか、ちょっとガッカリすらしてんのな、オモロ」
女性従者は女性用の家に居留する事に、賢人君は今は地上の男衆を纏めてくれている。
そして地上の女性の纏め役はアンちゃん。
「後は」
「中つ国か、何も情報無いんだが」
『アレク君が紫苑役だったからねぇ』
中つ国では紫禁城の様な場所で、男女が共に住んでいるらしい。
勿論、お互いに接触しないようにと南北に分かれて過ごして居るそうだが。
「どうしてたん」
「まぁまぁ、見に行こうよ」
ショナとスーちゃんと中つ国へ。
3でも見たお城だが、外縁が丸い、そして周りは全部畑。
《いらっしゃい》
「この度は大変お世話になってお」
《別に気にしないでよ、楽しいは楽しいんだから》
「さ、どうぞ」
移民達の為のお城、太極図の様に分かれているらしい。
目の様な小さな円でのみ交流が行われるらしい。
《陽中陰と陰中陽って言うんだからね》
「太極とは陰陽はキッパリと分かれる事無く、陽にも陰が、陰にも陽が有るとの事なんですよ」
「ほうほう、中医学の方は?」
《居るけれど、あんなに見目の良いのは居ないわよ》
「いや、その目的は無いので大丈夫です。ちょっと食事指導をと思いまして、後でね」
「はい、では先ず中を1周しますね」
完全な自給自足、家は中つ国だが生活はまさしく神都で見た様な状態。
それをもう少し楽しげに、賑やかにした感じ。
男性陣も同様に伸び伸びと暮らしている、何でココに来なかったんだろうか。
「浮島のは何でココに来なかったん」
「そこは大丈夫よ、行き来出来るし、都組と田舎組に分かれただけだから」
そしてどう教育したのか、ココの男性陣は殆ど怯えない。
竜組は向こうに殆ど居るとは言え、なんで。
「何で怯えない?」
《単純よ、怯えたら不快だからオヤツ抜きにしたの》
「女媧様と毎回一緒のオヤツタイムですから」
「スパルタ」
《その成果は有ったでしょ》
「不快は不快で、喜びは喜びで」
「頑張ります」
《別に、同じにしろってワケじゃ無いし》
「そろそろオヤツの時間ですね」
「つまらないものですが」
ハナが珍しく恐々としてる。
恐る恐るお重を差し出して、ジッと様子を伺っている。
《この蒸しパンが凄く良いわ》
ココでもミーシャさんの蒸しパンが大好評、特に黒糖が良いらしい。
分かる、私も生前好きだったし。
「黒糖量産決定やな」
《体を温め気を増やす、まだまだココの男は虚弱だから》
「メープルシロップは平、脾肺、潤し促すので桜木様にもオススメかと」
「シェリーちゃん」
「少し、付け焼きですが」
《合ってるから大丈夫よ》
ハナが心配していた栄養の偏りは特に無し、ただ小豆は気を降ろす作用が有るそうで量は控えめにと。
暫くはメープルシロップや黒糖にクルミ、ラム肉は継続なんだそう。
「まだ足りないの?」
「ある意味そうですね」
《心身の円熟期はコレからだもの》
ハナが満開になったら、大丈夫なのかしら。
「よし“不満が有る人は挙手”」
《ふむ、大丈夫そうじゃな》
『強引ですねぇ、もう帰る気ですか?』
「いや、個人的な話をね。太るにはどうすべかと」
また不時着、いや、合ってるんだけどね。
もう兎に角補うしか無いと、しかも心身共にと。
好きなモノを好きなだけ食べ、運動は程好く、心穏やかに楽しく過ごせと。
スクナさんもコッチをガン見しながら頷いてるし。
「もう心配はそんなに無いんだし、休みにはちゃんと出来るもんね?」
「引き籠もって良い?」
《別に良いけれど、少しは陽の光を浴びなさいよね》
「へい」
ココは特に何をする事も無く、帰る事に。
物足りない。
《コレ、上げるわ、じゃあね》
「器もお使い下さい、では」
手持ち付きの木のお重、温かい。
「ありがとうございます」
黒山羊ちゃんには会えないまま、スーちゃんをイスタンブールの浮島に送り、カールラとクーロンとロキと共に日本の浮島へ。
一服。
落ち着かない、何かがおかしい。
何か忘れてる?
「お疲れ様でした」
「何か、ワシ忘れてる?」
「いえ、特には無いかと」
「落ち着かない、何か変」
お尻がソワソワする。
カールラとクーロン、ロキ神が帰った後も、温泉に入っても落ち着かない雰囲気のまま、一軒家へ。
エミール君と蜜仍君、アレクは仲良くお勉強中。
ミーシャさんは蒸しパンの量産体制に既に入っていた、そして桜木さんは手伝いを拒否されゴロゴロ。
「何処か行かれますか?」
「いや、普通の、同年代の方はどうしてるんだろうか?」
「趣味をされているのでは」
「1週間の行動見本が欲しい、ココの」
「従者のでは無く、ですよね」
「おう、リアルな普通のやつ」
オススメした動画では納得せず、リズさんの紹介した漫画に暫し没頭。
だが、まだ足りないらしく、どんどん漁って夕飯の時間になった。
「今夜は中華にしますか?」
「する」
夜の中華街へ向かい、食べ放題のお店へ。
桜木さんは少しだけ杏露酒を飲みながら、ココでは少し多いかどうかの量で止め、食べ歩きへ。
肉まんや焼き小龍包、エッグタルトを食べ歩き、飲茶セットや月餅を購入し帰路へ。
大勢で食べる良さは色々食べられる事、飲茶なら4人が至高。
自分が凄い食べるのも誤魔化されるし、大分慣れたけど、ちょっとしんどい。
お行儀は勿論、バランス良く食べなきゃだし。
毎食牛丼で良いんだけど、子供が居る手前は。
一服も止めるつもり無いし。
うん、子供育てられる自信皆無。
今日も桜木さんが趣味をする事無く、1日が終わってしまった。




