7月2日 独占解禁とユートピア。
「どうなの?嫌な感じしない?」
「期限が有るのは寂しいですが、何も無いよりずっと良いです」
「なら良かった。もう出来てないかな」
「気が早い」
「ですよね」
男性体になった桜木様はいつもニコニコしている。
反対に私達エルフは全てがかなりフラット。
性格も体質も、だから月経痛も陣痛も軽め。
情熱的に好きになるとかも珍しい方、恋人も家族の延長線上。
でも私には家族が居ない、居ても親戚、でもそれは別物で家族じゃない。
だけど今は家族が沢山居て、これからも沢山増える。
桜木様だからこそだと思う、凄く嬉しい。
紫苑から花子に戻り、通常営業へ。
ミーシャはお休みになってて貰い、遠野の一軒家へ。
あの何でも嬉しい感じ、これがあの時のショナの感覚か。
「ショナさん、ちょっとツラ貸してくれ」
「はい?」
「何か、君が変容したのが分かったわ、ニコニコしちゃうのな」
「今はニコニコしてませんけど、何か不安が?」
「いや、花子に戻るとスンってなった」
「それ、良い傾向じゃ無いのでは」
先生にご相談へ。
桜木さんの状態は、呪いが解けた弊害かも知れないらしい。
《実際に弊害となるかどうかは、これからかと》
「解けてるんか」
《その判断も、これからかと》
「何かすまん、歯痒いでしょうに」
「僕は、長引くよりずっと良いと思うんですが」
《そうですね、傷跡と同じで良くない方向になり易いので》
「アカン、マリッジブルーか」
《状況が劇的に変化し続けてますし、やっと落ち着けたんでしょう》
武光さん達が帰還してから、約4ヶ月。
桜木さんは日付けを遡った事も含めると、302日が過ぎている。
もしかして、日付けの感覚が。
「あの、桜木さん」
病弱な引き籠もりが、人と関わり続けて300日を超えていただと。
「もうちょっとで、1年?」
「はい、9月4日で366日です」
《もし創作物なら1周年記念のイベントか何かをしますよね》
「何かする気?」
《この反応なのですべきかと》
「ですね、召喚記念日には公務が有るかもですし」
「記念日ばっかって、究極の消費者か」
《では、そう思って頂いて、何か企画を考えて頂きましょうかね》
「先生一緒にお昼を如何ですか?」
《頂きます》
しかも、周りには好みが勢揃い。
コレ、妄想では?
桜木さんが、また妄想か何かではと心配を始めた。
こう言う時は紫苑さんになって、ルーネさんに相手をして貰うのが1番なのだけれど。
《ルーネが会えるそうですが》
「ソラちゃん」
《本来は女性です。感覚も匂いも妄想だと仰るなら、確かめてみるべきです》
「だけども」
《紫苑さんとしてご相談されるのも良いかと》
「ですね、良い消費方法のお話もまだなのでは?」
「こう、把握して、許容されてるのが」
《妄想でしたらもうちょっとご準備が楽でしょう、準備なさってから悩んで下さい》
「ぅう、はぃ」
僕らなら、何かしらを使って準備しなければいけないけれど、紫苑さんは少し腸液等を調節するだけで済む。
こう簡単だと、もし本来が紫苑さんだったらと思うと逆に心配になる。
色々な意味で。
「桜木さんが桜木さんで良かったなと思ってしまうんですが」
《紫苑さんは受け入れる間口が広くてハードルも低そうですからね、お察しします》
でも、ハーレム形成は可能だったんだろうか。
呪いも拘りも無かったら、子種を置いて、名も顔も変えて消えてしまうんじゃないだろうか。
どんな性別であれ、シオンで良かった。
『うん、凄く良い、好き』
「女体は何か気を使うわ、ふにゃふにゃで柔らかくて怖い」
『でしょ、女性の方がお相手が少ないって言うから、私は幸運だったと思う。きっと私が本来女だったら、こんな風にしてくれないでしょう?』
「無いね、どっかに制御装置が有るっぽいし」
『そう優しいのにね』
「今度優しいって言ったら何も喋らない」
『ごめん、愛してる、許して』
「許すかは考える」
それでも、本来が女性だったらとも思う、そうしたらもっと早くに出会えたかも知れない、もっと直ぐに愛して。
愛してくれたんだろうか?
ルーネもマリッジブルーと言うか、女性体のホルモン作用なのか、突如として不安気な顔になった。
女だったら、愛して貰えなかったのかと思うと、悲しいって。
『だって、男の私の外見に釣られたのも有るんでしょ?』
「赤ちゃんの事は即答しなかったと思う。歪んでるから、試練を乗り越えて貰わないと、愛せないかもだから」
『ノアの、魔道具の事?彼らの歪さは珍しい方だよ?』
「歪さを露わにして、良い夢を壊した部分も有るじゃない」
『無い、最初から大して良い夢じゃ無かった』
「君が言うかね」
『シオンより良く連絡してるもの』
「はいはい、ごめんね、好き好き」
『もー……純粋無垢な女の子だったら、相手にもしてくれなかった?』
「純粋無垢でこの性癖の女の子は激レアでは」
『で、どうなの』
「面倒で、相手しなかったと思う」
『正直、ばか』
「この組み合わせだって、ちょっとでも歯車が違ってたら違う事になってたかもだし」
『後悔してる?』
「ルーネには何も後悔して無いよ」
『他には後悔が有るんだね』
「それなりにね、愚直で不器用だから」
『慣れてる部分と慣れて無い部分が歪で好き』
「ルーネは真っ直ぐなド変態で好き」
『ふふ、シオンに出会えて本当に良かった』
偽りまみれなのに。
だからなのかな。
桜木さんが帰って来たのはお夕飯前。
今日はパイの食べ比べ、それとキノコチャウダー。
食べ始めて直ぐに、桜木さんの手が止まった。
「しんどい」
《え?胃もたれ?》
偽りの姿なのに、ルーネさんが幸せそうなのが辛いらしい。
でも、紫苑さんだけを知っている現状にも満足している、と。
《紫苑さんの生活実態を、もう少し豊かにしてみましょうか》
《そうだね、はい、食べて》
安全面からも現在が良い状態なのを理解しているなら、紫苑さんが虚像だから不安なのではと。
なら、虚像では無くさせれば良いと。
「あぁ、確かに紫苑の時間が短いけど」
《と言うか、いずれは紫苑さんで長く居る時期が来るんですし、今のウチに中身を詰めましょうかね》
《そうしよう、次はコッチの中身ね》
パイは全部美味しかった。
「美味しかったけども」
《ミューズやリャナンシーの家系で、第3世界の櫂さんの経歴を真似ましょう》
《家は、フィンランドで良い?私もハーレム要因だって事で顔を合わせるつもりだし》
「新しい買い物が出来ますね、桜木さん」
良く言って創作家のフィクサー。
雑に言うとマジで何でも屋さん。
何でも屋さん。
「何でも屋さん」
「ですね」
《ですので、知見を広めて頂きます》
《南国リゾート、今から》
南国のユートピア、カリブ海共和国。
公共の乗り物に溢れ、殆どが公務員。
転職は自由だが、習熟度により労働時間は変わるので、短時間だったり長時間だったり様々。
妊娠したら配置転換が強制的に行われる、コレは胎児を保護する為の強制措置。
事故や事件に専門分野が関わらなくてはいけないから、どの国でも強制的に行われているので、偶に議論になるらしい。
ベーシックインカム的な寄り合い国家。
ココでの必要最低限は無償で得られる、医療費や大学までの費用、家も食量も。
得られるにはココの国民であり、最低限働けば良い、更に何か欲しければ労働すれば良い。
もし海外での先端医療を受けたければ、家族や村規模で国にお願いし。
国が他国へお願いする。
外貨は外交と観光、他国に居る自国民への個人的な資金援助は一切禁止。
だが外国から自国への送金は推奨されている。
そして治安も良い。
ただ、河瀬は嫌いだろうな。
農村部へ行けば行く程に距離感が近く、常に人の目が有る感じ、濃縮された村国家。
ディストピアに最も近く、最も遠い。
「しんどい」
「帰りましょうか」
では他国ではどうなのか、先ずは産休。
ココではどの職業でも会社から一律で3万の給与が発生するが、産休中の研修、復職面談等に対応するのが大前提。
国では無く医師会からの産休ラインが示され、労働内容や時間の上限へ言及されているので、その範囲内でなら早期復職が可能。
期間内に復職が可能出来無い場合は、休職扱いになる。
母体は勿論、胎児も優先されての保護法。
「マティアス、抜けが有ると思う?」
《無いと思うよ?》
社会勉強の無さなのか、抜け漏れが有るかどうか不明だが、こんなもんじゃ無いかとは思う。
「後は市井の声だが」
「それは明日以降で」
だよな、もう日付が変わるものね。




