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saiph

作者: とろたく

ーーー星を見ていた

車も通らず、人も通らない、静かな丘で

僕はたった1人、星を眺めていた。

「……綺麗だ」

オリオン座を眺めながら、冷えた手を擦り合わせる。

数多の星、壮大な宇宙に比べると、自分はなんてちっぽけなのだろう。

そう思いながらも、瞬いている星たちに気持ちを引き寄せられていた。

「銀河…」

僕は無意識にそう呟いた。声は風にかき消されどこにも届かない。

とっくに吹っ切れたと思っていたが、昔なくした友人を時折思い出すことが多くなった。

「あの時も…オリオン座が綺麗だったなぁ…」


ーーーーーーーーーーー

僕は、音楽が好きだった。

だった、だ。

音楽は人を元気にする、希望を与えてくれる。

そう疑って信じなかった。

友人であった銀河も同じように音楽が好きだった。


銀河とは学生の頃に出会った

「お前は、音楽好きか?」

初対面のはずなのに、突然の質問に僕は少し戸惑ったが、好きだと伝えた。

「お!そうか!俺、銀河、よろしくな」

銀河と自己紹介を終えたあと、幾度か会話をした。

その際に、銀河はアーティストとしてデビューをしたいこと。

バンドを組まずに自身で作詞作曲をしていること。

とにかく色々話してくれて、素直に面白いやつだなと思った


「俺が作った曲!聴いてみてよ!」

銀河はその言葉を発すると同時にイヤホンを俺に渡してきた。

ーー軽快な音楽だ、ジャンルとかはよく分からないが…

爽やかな銀河が作りそうな曲だ。

歌詞はまだ付いていないが、充分素晴らしい出来だった。

「な!な!どうよ、感想を聞かせてほしい!」

僕は素直に思ったことを伝えた。

明るい雰囲気の曲であった。

「まじで!?ありがとう!そう言って貰えて良かったよ…」

銀河は内心、少し不安だったのだろう。

それもそのはず、あとから聞いたが、この曲は、元々動画サイトに投稿するつもりで作っていたとのことだ。


動画サイトにあがってから少しして、銀河から話を聞いた。

再生数は延びてはいないが、何人かでも聴いてもらえるのが嬉しいらしい。

延びないのは仕方ない、これだけ動画の多いネット世界、探すのも大変だろう。実際、僕も探すのが大変だった。


銀河はそれからも何曲か作成し、上げ続けていた。

明るい曲調の物が多かった、だが、どれも元気が貰える素敵な曲だった。

僕は、どの曲もとても気に入っていた。


だが、あることをキッカケに銀河は動画を上げることは無かった。


「なん…だよ…これ」

インターネット特有の、匿名での誹謗中傷だ。

いつかは来ると思っていた。

誰もが通る道だ、銀河はその誹謗中傷を受け止めきれなかった。

いや、違う、受け止めてはいたのだろう。

だが、感情が追いつかなかったのだ。

銀河はコメントを見るや否や、膝から崩れ落ちてしまった。

「なぁ…俺の作る曲、本当は誰も求めてないのか?」

そんなわけがない。

すぐにそう伝えるべきだった。

落胆する銀河を見て、すぐに伝えることが出来なかった。

銀河は泣きじゃくっていた。

友人として、支えることも出来ない自分が情けなかった。


銀河は、動画投稿も学校に来ることもなくなってしまった。

ただ、時折一緒に出かけ、他愛もない話をしたり、

一緒に夕飯を食べるくらいの関係が続いていた。


出掛けている銀河は、どことなく元気の無い様子だった。

幾度か出かけていると銀河が突然

「なぁ、星を見に行かないか?」

と言った、彼の気分転換になるのならそれもいいか、そう思った。

僕達2人の家はそれ程離れてはいない。

ちょうど中間あたりの丘で会うことにした。


「お待たせ!」

「わぁ…既にここからでも沢山見えるな……お、あれ俺知ってる、オリオン座だよな」


銀河は瞬いている星を指さしていた。

「俺も……行きたかったなぁ……」

行きたい?どこに?そう思った僕はそのまま質問した。

「ん?あー……コンサートとか、ライブとか、開催してみたかったな、と思ってさ」

今からでも出来るよ、と言ったが銀河にその思いは届かなかった。

誹謗中傷のことは、思っているよりも銀河を深く傷つけていた。

「今日は冷えるなぁ」

2人して風邪をひかないうちに帰ることになった。そしてその翌日。

ーーー銀河が亡くなった。

自宅で首を吊っていた、とのことだった。

何故?どうして?だって…昨日まで…話して

頭の中が真っ白になり、何も考えられなかった。

なぜ気づいてあげられなかった?

昨日は普通だったはずなのに……。

亡くなったその日は、一生分の涙を流したんじゃないかってくらい、泣いた。泣きわめいた。

泣いたって、銀河が戻ってくる訳では無いのに。



ーーー思い出に浸りながら星をもう一度眺める

「行きたかったって……」

「死んじゃったら、ライブも開催できないじゃないか……」

寒い季節には見合わない暖かい雫が頬を伝う。

僕は声も出さずに1人泣いていた。

銀河が亡くなったのはもう数年前の事だ。

この数年間で、僕は作曲活動を始めた。

銀河の思いを、夢を一緒に叶えるために。

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