第2章〈都〉2
「ねぇ、ここはどういうことなの? 」
と、ユーニスは、何度目かになる質問を、隣に座るフアナシィーに訪ねた。
すると、フアナシィーは、優雅な手付きで、すらすらと帳面に意味を書いてくれる。
「なるほど……、ありがとう」
ユーニスが感心してお礼を言うと、フアナシィーは、軽く会釈をして、崩れた横髪を耳にかけた。その仕草は優雅で、ユーニスはますます、フアナシィーに傾倒していく気持ちを感じた。
ユミトと遊び回って、勉強など全くしなかったユーニスとは違い、フアナシィーは、教官のどんな質問にもすらすら答えた。さらには、ユーニスの疑問に答えるときも、嫌がる素振りなく丁寧だった。完璧な王太子妃候補、いや、明日にも王太子妃に選ばれてもおかしくない。
「フアナが一番よ」
ユーニスは、しっかりフアナシィーの信奉者になっていた。
「そんなことないわ」
休憩の時間、フアナシィーとお茶を飲みながら、話せる仲にまでなったのは、ユーニスの押しの強さからである。
「これから苦手なダンスの時間だもの」
「わたしだって、苦手よ」
ユーニスが胸を張って言う。ちなみに、ダンスどころか、その他諸々もからきしである。
「あーあ、フアナにあえたのはよかったけど、わたしには向いてないわ、王太子妃なんて」
ユーニスが、ため息混じりに言うと、ふふふ、とフアナシィーは笑みをもらした。
「フアナはどうなの? 王太子妃になりたいの? ううん、フアナこそ王太子妃になれるわよね」
「……そんなこと、わからないわ。あくまでも、選ばれるのは王太子殿下。勿論、選ばれることを願ってはいるけれど」
フアナシィーは、そこで言葉を区切って、表情を引き締めた。
「見初めるのは、王太子殿下。いくら、勉学に励んだとしても、女性として魅力がないと……」
「どういうこと? 」
ユーニスは、話の意図が分からず首を傾げたが、フアナシィーは、ますます硬い顔つきになった。
「わたくしは、まだ十四になったばかり。他の候補者の方より、どうしても幼いわ。殿下に、この身体つきで相手にしてもらえると思う? 」
「えっ? 身体つき? 」
ユーニスは、パチパチと目を瞬かせた。そんなユーニスを、フアナシィーは眉根を寄せ、呆れた顔で見つめた。
「あなた、婚礼の意味はわかって? 初夜に何するか知っているの? 房中術の心得は? 」
「ショヤ? ボウチュウジュツ? 」
ユーニスは、難しいことを言われた、と、目を白黒させる。
「……あなた、何をしにここへ来たの? 」
ますます表情を硬くするフアナシィーに、ユーニスは、場違いな笑顔を向けた。
「友達を作りに、よ。フアナがそうなって欲しいの」
ユーニスは、そう言って、フアナシィーの両手をいきなり握った。
「わたし、ユミトに、もう会いに来るなって言われたの。ひどいのよ。だから、ユミトを見返してやりたくて」
フアナシィーは、握られた手をやんわりとほどき、にっこりと笑ってみせた。
「ユミトって、どなた? 男の方? 」
「ユミトは、男の子よ。わたしよりひとつ上。森に、オトマルと一緒に住んでいるの。わたしたち、よく一緒に遊んだのよ。それなのに、オトマルが、わたしたちはもう大きくなったから、一緒に遊んではいけないと言うの。最初は、ユミトも、そんなの聞かなかったのに、もうわたしに会いに来るなって……」
話しているうちに、ユーニスは涙ぐんでいた。