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魔女の娘ユーニス  作者: 二月映磨
3/6

第1章〈別れ〉3

 そして、ユーニスが都へ出立することとなった日の早朝。

 ユーニスは、城から抜け出して、森へ来ていた。あの日、ユミトにもう来るなと言われてから、二人は、半月も顔を合わせていない。

 ユーニスは小屋の前で、息を震わせ深呼吸する。そして今日は、ちゃんとドアを叩いた。

 しばらくして扉が開いた瞬間、肩が跳ねる。

「姫様……」

 出てきたのは、困惑した顔つきのオトマルだった。その顔を見た途端、ユーニスの気持ちは奮い立った。

「おはよう」

「おはようございます。……都に行かれるとか」

「ええ、そうよ。今日、立つわ」

 ユーニスは、未だむかっ腹を立てながら、ツンと顎を尖らせてオトマルに言った。

「ユミトはいるの? 」

「はあ……、部屋に。……その、わたしは、見回りに行きますので」

 オトマルは扉を支え、ユーニスが中へ入ったのを見ると、そのまま外へ身を乗り出した。

「ご苦労さま」

 ユーニスは、素っ気なく送り出す。罪悪感から顔を合わせていたくないのだろう、オトマルは、すぐに小屋の扉を閉めた。

 ユーニスが、小屋の中を見やると、ユミトはこちらに背を向けて、洗い物をしているところだった。

「ユミト! 」

 ユーニスが呼びかけても、背中は微動だにしない。

「ユミト……、わたし、今日から、都へ行くのよ」

 ユーニスの声は震え、喉は痛み、目から涙が出ていた。

「今まで、ありがとう……。一緒にいてくれて。楽しかったわ。ありがとう」

 ユーニスは、それだけ言い切ると、一目散に小屋を飛び出した。叩きつけるように閉めた小屋の扉によしかかり、右腕で、涙が溢れてくる目を抑え、左手で口をふさぐ。

 そうして、感情を抑え込もうと努力したが、次第に怒りが込み上げてきたのだった。やおら、振り向いて扉を開けると、ユーニスは、

「ユミトのバカ! 」

 と、叫んで、森の外へ駆け出していった。

 ユミトは、洗い物の手を止めたところで、その声を聞いたが、唇を噛み締め、耐えた。

 ユーニスとユミト、二人の仲は、ユミトがオトマルに引き取られた、七年ほど前に遡る。

 あの日、イトゥカが魔女の特別な仕事をしている最中に、ユミトを見つけたのだという。最初、ものが言えなかったユミトに、年の近いユーニスだったら、と、イトゥカが、ユーニスを連れて、ユミトに引き合わせたのだ。

 以来、ユーニスにとって、また、ユミトにとっても、お互いにかけがいのない存在のはずだったのだ。だから、十を過ぎて、オトマルが二人の仲の良さを気にしだしても、変わらない関係でいようと、誓ったはずなのに。

 ユミトが、その思いを振り切ろうとしているのだと、ユーニスは考えに至った。最後の挨拶にさえ、振り返らなかったユミトへの怒りから、裏切り者、とすら感じる。

 絶対、都へ行って、ユミト以上の友達を得るのだ。そうして、ユミトとは、もう、一緒にいない。そうだ、そうするのだ。ユーニスは、固く決意したつもりだった。

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