第1章〈別れ〉3
そして、ユーニスが都へ出立することとなった日の早朝。
ユーニスは、城から抜け出して、森へ来ていた。あの日、ユミトにもう来るなと言われてから、二人は、半月も顔を合わせていない。
ユーニスは小屋の前で、息を震わせ深呼吸する。そして今日は、ちゃんとドアを叩いた。
しばらくして扉が開いた瞬間、肩が跳ねる。
「姫様……」
出てきたのは、困惑した顔つきのオトマルだった。その顔を見た途端、ユーニスの気持ちは奮い立った。
「おはよう」
「おはようございます。……都に行かれるとか」
「ええ、そうよ。今日、立つわ」
ユーニスは、未だむかっ腹を立てながら、ツンと顎を尖らせてオトマルに言った。
「ユミトはいるの? 」
「はあ……、部屋に。……その、わたしは、見回りに行きますので」
オトマルは扉を支え、ユーニスが中へ入ったのを見ると、そのまま外へ身を乗り出した。
「ご苦労さま」
ユーニスは、素っ気なく送り出す。罪悪感から顔を合わせていたくないのだろう、オトマルは、すぐに小屋の扉を閉めた。
ユーニスが、小屋の中を見やると、ユミトはこちらに背を向けて、洗い物をしているところだった。
「ユミト! 」
ユーニスが呼びかけても、背中は微動だにしない。
「ユミト……、わたし、今日から、都へ行くのよ」
ユーニスの声は震え、喉は痛み、目から涙が出ていた。
「今まで、ありがとう……。一緒にいてくれて。楽しかったわ。ありがとう」
ユーニスは、それだけ言い切ると、一目散に小屋を飛び出した。叩きつけるように閉めた小屋の扉によしかかり、右腕で、涙が溢れてくる目を抑え、左手で口をふさぐ。
そうして、感情を抑え込もうと努力したが、次第に怒りが込み上げてきたのだった。やおら、振り向いて扉を開けると、ユーニスは、
「ユミトのバカ! 」
と、叫んで、森の外へ駆け出していった。
ユミトは、洗い物の手を止めたところで、その声を聞いたが、唇を噛み締め、耐えた。
ユーニスとユミト、二人の仲は、ユミトがオトマルに引き取られた、七年ほど前に遡る。
あの日、イトゥカが魔女の特別な仕事をしている最中に、ユミトを見つけたのだという。最初、ものが言えなかったユミトに、年の近いユーニスだったら、と、イトゥカが、ユーニスを連れて、ユミトに引き合わせたのだ。
以来、ユーニスにとって、また、ユミトにとっても、お互いにかけがいのない存在のはずだったのだ。だから、十を過ぎて、オトマルが二人の仲の良さを気にしだしても、変わらない関係でいようと、誓ったはずなのに。
ユミトが、その思いを振り切ろうとしているのだと、ユーニスは考えに至った。最後の挨拶にさえ、振り返らなかったユミトへの怒りから、裏切り者、とすら感じる。
絶対、都へ行って、ユミト以上の友達を得るのだ。そうして、ユミトとは、もう、一緒にいない。そうだ、そうするのだ。ユーニスは、固く決意したつもりだった。