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【1】ドラゴンナイト『暗雲』  作者: 生丸八光
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8話逃走

馬車は、重い空気を感じた様に道の真ん中で止まっていた・・・


メルボさんは小窓を開け

「レオン!どうした? なぜ止まっておる」


レオンは困った様子で

「そ・それが・・・覆面をした連中が道を(ふさ)いでまして・・」


それを聞いたザンキ

「オルファはどうした?オルファを行かせればよい!」


「・・オルファさんは、先程・・おしっこに行って来るって行ったきり戻って来なくて・・」


「フン!あいつは肝心な時に役に立たんヤツじゃ」


そう言うとザンキは馬車から降りて、30mほど前方に30人程の黒ずくめの連中が、行く手を(はば)み立って()るのを見た。


「ワシが奴らの相手をしている隙に馬車を飛ばして振り切るのはどうじゃ」


「えぇ~~っ! いや、それはちょっと・・・今まで速く走らせた事がないもので、道も悪いですし」


レオンの自信のない様子にザンキは

「そうか・・・では、ゆっくりでよいが止まってはならんぞ!」


「わ・・分かりました。それなら出来そうです」

そう答えるとレオンは心の中で

『止まらない。止まらない。止まらない!』

3度繰り返してから、馬車を走らせた。



オルファはその頃、道から外れた岩影で用を足していて、その背後にも覆面をした男達が忍び寄る・・


「ったく!人が小便している時を狙うなんてよぉ!汚ねぇ奴らだなっ!」

と言った瞬間!オルファに切り掛かって行った!



馬車の方では、レオンが手綱を力一杯握り締める。


ゆっくり走る馬車に向かって覆面をした連中が、(つぎ)から次に飛び掛かって来るのをザンキが防いでいたのだ!


ザンキは馬車を飛び越え、右や左、(まえ)後ろと、(すさ)まじいスピードで動き、連中を寄せ付けない!


「す・すごい・・・」


レオンの目の前で繰り広げられる光景に緊張と興奮から力が入る!


ザンキは、とても人間技とは思えない身のこなしで飛び回り続け、覆面をした連中は次々に吹っ飛ばされるが、執拗に攻め続けて来る!


ほんの一瞬の隙を突き、男がザンキの脇をすり抜けた!


レオンが『あっ!』と、思った時にはもう、真横に立っている!


『あわわわわぁ~っ!こっ殺される~』


そう感じたレオンだが、興奮してたのか

『どうせ殺られるなら、戦ってやる!』


腰の短刀に手を掛ける!刀を抜いた勢いでこの覆面(おとこ)の足を切ってやろうと力一杯握り締め


「え~~~い!」


渾身の力を込めた一撃が覆面男の足を切り裂く!


・・・はずだったが、短刀が抜けない・・・柄頭(つかがしら)を足で押さえ付けられていた。


『ぬ・抜けない・・・』


レオンの体から力が抜けた。

『ダ・ダメだ・・殺される~』


レオンは、死ぬのを覚悟して静かに目を閉じる・・



「オレだよ、オレ!オルファだよ!」


聞き覚えのある声に目を(ひら)き、覆面の下から覗いたオルファの顔を見た。レオンはキョトンとした顔で

「ホントだ・・オルファさんだ・・」

と言った・・・


オルファは用を足していた時、背後から襲って来た相手を簡単に倒し、覆面と服を奪うと馬車へ向かいザンキの脇をすり抜け飛び乗ったのだった。


「手綱をよこしなっ!」

オルファの言葉にレオンは直ぐに手綱を渡す!


片手に手綱を握り、もう一方の手には剣。運転席の中央に立ったオルファは力強く手綱を打ち付けた!


「ビシッ」

鋭い音が鳴ると共に2頭の馬が

「ヒヒィーン!」

(いなな)き勢いよく走り出す!


ザンキを置き去りグングンスピードを上げ、覆面連中を振り切ると、オルファは着ていた黒い服と覆面を剣で切り裂き、脱ぎ捨てた!


「よぉーーし!このまま、ドランゴンまで突き進むぞぉー!」


勢い付いたオルファは、剣を鞘にしまい(むち)を手に()ると、馬の尻をビシバシ叩く、2頭の馬は今まで味わった事のない強い刺激を受けて、尻に火が付いた様に勢いを増した!


レオンは振り落とされない様、必死で運転席の(はし)にしがみ付く!


馬車は激しく揺れ、中では悲鳴が上がっていたが、オルファは構わずに鞭を入れ続け、古い木造の馬車は凸凹道で何度も飛び上がり「ぎぎぎぃ~~!」と(きし)ませながら、猛スピードで走り続けて行った!



やがて、馬車は湖の畔の道を疾走していたが、徐々にスピードが落ちて来る・・・


「ほら、どうしたぁ!もっと速く走れ!」


オルファが鞭を入れても、スピードが上がらない!それどころか馬の顎か上がってどんどん遅くなり追い抜いた馬や馬車に軽々と抜き去られて行く。


「だぁ~っ!ちっきょおー!」

ビシビシ鞭を入れるオルファ!


「もう疲れたんですよぉ!勘弁して下さ~い!」


馬がしゃべった様にレオンが口を開いた。


レオンも馬車から落ちない様に必死にしがみ付き、ヘトヘトに疲れていたのだ。


「まだだ!もっと走るんだ!」


と言いながらオルファは鞭を入れる!


「ここまで逃げれば、もう大丈夫ですよ!」

レオンは言ったがオルファは


「ダメだ!もっと逃げなきゃ!奴らが追い()くぞ!ほれ!走れ!愛の鞭だ!走るんだ!」


ビシバシ馬の尻を鞭で叩いた!


「馬が可哀想ですよ・・・」


レオンがそう言うと、オルファはやっと手を止めて馬車を木陰に止める。


「少し休んだら、またブッ飛ばして行こうぜ!」

と言うと2頭の馬は「ブルブルッ」っと身震いした。


レオンは、馬車の扉が開くのを見て、よろけながらも慌てて出迎えに走り、姫と侍女はレオンの手に(つか)まりながら笑顔で降りて来たが、地面に足を付け2,3歩進むとヘタッと座り込んだ。


「だっ大丈夫ですか!」


レオンが駆け寄ると、2人とも笑顔で「大丈夫・・」と答えたが、腰が抜けた様に立つことが出来なかった・・・


レオンはメルボさんが大丈夫か心配になり、馬車の方を覗き込むと姿を見せ降りてくる。


背筋をピーンと伸ばし大きく手を振って、(ひざ)(たか)く上げ、一直線に歩き出し、姫と侍女の前を通り()ぎるとピタッと止まり、そのまま真横に倒れた!


「あははははは!」


オルファはメルボさんを見て大笑いしたが自分以外誰も笑っていない事に気付くと

『おかしいなぁ・・面白かったのに・・・』

と首を(かし)げていた・・・


やがて、(みな)落ち着きを取り戻して、それぞれ自分の行動へ、姫は敷物に座り、侍女はお茶の準備に取り掛かる。


オルファは道の真ん中で、追って来る者がいないか真剣な顔で見つめていた・・・


メルボさんは体操をして体を動かし、激しく馬車に揺られた事が逆に良かったのか、体が軽くなったと喜んでいる。


レオンは馬に水を与え「よく頑張って走ったなぁ」と声を掛け「ポンポン」首の辺りを優しく叩くと

「ヒヒィーーン、ヒヒィーーン、ブルブルッ!」

と必死で訴え掛けるのを

『オルファを乗せないでくれ~!』


と頼んでいる様に感じていたのであった・・・
















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