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【1】ドラゴンナイト『暗雲』  作者: 生丸八光
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7話ドラゴンナイト

朝の穏やかな光の中、馬車は小さな港町を抜けて、平原の中に真っ直ぐ伸びる一本道をゆっくりと走っていた・・・


時折、大きな石や凸凹をうまく避けながら手綱を握っていたレオンであったが、心の中は落ち込み、反省していた・・・


『はぁ・・・海賊から守ってくれたオルファさんに夢を見ていたなどと言ってしまい、気分を悪くしたかも・・』


と溜め息を付いた・・・


するとそこへ、オルファが馬車と並走しながら走り、レオンと目が合うと笑顔で手を振ってきた。


『ん?なぜ、オルファさんは走ってるんだろう?・・そうかっ!この馬車は4人乗りだった!』


そう思ったレオンは、隣に乗ってもらおうと手綱を引こうとした瞬間「ポン!」と隣にオルファが飛び乗って来た!


「うわわわわぁ~!」


レオンは、まさか走っている馬車に飛び乗るなんてと、びっくりしたが

「ど・・どうぞ座って下さい」

オルファに座る様に勧めた。

「いや!オレは走って追い掛けるから」

「えっ!ドランゴンまで、遠いですよ!」


「そんなこと関係ねぇ!馬車は後ろが死角になる!そこを狙われねぇ様に走って見張るのさっ!」

と言い

「変なヤツが来たら、すぐオレに知らせろよ!」

サッと後ろに飛び降りた!


『なっ、なんて凄い人なんだ!』


レオンは、オルファの軽やかな口調と身のこなしで馬車から飛び降り、みんなを守る為なら走り続け、誰が来ても迎え撃つ!そんな覚悟と勇敢な心に感動した。


「強い人だ!」

そう呟くと・・・


『・・それに引きかえ、自分は、何て気が小さくて臆病な男なんだ・・臆病だから素直に人を信用する事が出来ないんだ。そうか!信用するんだ!人は信じる事で強くなれるんだ!よぉーし!僕は信じるぞ!そして強くなる!」


目の前の霧が晴れた様に、落ち込んでいたレオンの目が、力強さと輝きを見せ、自信がみなぎって来る!


真っ直ぐ前を向き、自分の進むべき道を見据えると自然と手綱を握っている手にもグッと力が入り、馬車のスピードも速くなった様に感じた。その時!車輪が大きな石に乗り上げ飛び上がると「ドスン!」と鈍い音を立てて着地した!


一瞬ヒヤリとしたが、実際、馬車はゆっくり走っていたため大事に至る事はなく、レオンは「ふぅー」と息を付いたが、着地の瞬間「ふぎゃっ!」と声が聞こえたのが気になった。


恐らくメルボさんの声だと思えたが・・・案の定、後ろの小窓が開きメルボさんに


「レオン!もっとしっかり道を見んか!」

と叱られた。レオンは

「すみません。気を付けます」

とあやまり

『自分が今するべき事は馬車の運転だった!』

と手綱を握り直す!


馬車の中では、メルボさんが背筋を伸ばしたり、ひねったりして腰の具合を確かめていて、姫と侍女は馬車が飛び上がった時の宙に浮く感覚と、ちょっとしたスリルにびっくりして、お互いの顔を見合わせたが、その顔がおもしろかったのか「プッ」と吹き出し楽しそうに笑っていた。


そんな2人をザンキは微笑ましく見ていたが、姫の()に付けている首飾りに目が行く。


いままでは、服の内側に隠れて気付かなかったが、馬車が飛び上がった弾みで服の外に出ていた。


首飾りは、2㎝程の水晶の結晶の様な六角柱の形で、薄いオレンジ色の中に(あわ)い緑の光を放つ球状の(もの)があった。それは、知っている人がみれば一目で分かるドラゴンナイトと呼ばれる物であった・・・


「姫!姫のその首飾りは、ドラゴンナイトでは!」

ザンキは目を輝かせ声を上げた!


「えぇ、そうですけど・・・」

姫が答えるとザンキは

「いやぁーっ!懐かしい!昔はよく見掛けたが、今では、すっかり見なくなってしもうた!」

と言い

「姫はドラゴンナイトがどういう物か、ご存知ですかな?」

と尋ねた。


「願いを叶えてくれると聞いてますけど・・」


「そうじゃ!本物ならばな!」

それを聞いた侍女が

「ニセ物があるんですか?」

ザンキに尋ねると

「ある!ほとんど全部ニセ物じゃ!」

きっぱり言い切るとメルボさんが

「では、姫のドラゴンナイトがニセ物と!」

ザンキは頷き、しばらく考え込む様に沈黙し・・


「今から何十年も昔の事じゃが・・・」

と話し始める・・・


「昔、ベルデスの商人と言うのがおってな。とある町に訪れた時に、そこには腕のいい職人がたくさんいるのに全く売れる品物を造る事が出来なかった。職人達はいい仕事を幾らしても()()()な生活が出来ないでいたんじゃ。

そこで、ベルデスの商人は職人達にドラゴンナイトを大量に造らせ、それを持って世界中を廻り、金持ちを見つけると高値で売りさばいた。当然、買った者は皆、本物のドラゴンナイトと信じて金を出したんじゃ。

中には、金貨1000枚も払った者もいたらしいが・・

やがてニセ物と分かった頃には、もう商人達は何処かへ行っていて、多くの者が騙された事に気付いたんじゃ・・・」


その話を聞いた侍女は

「悪い商人・・・」

と呟くと、メルボさんが

「商人なんて、みんなそんなもんじゃよ・・」

と言い、ザンキも静かに頷く・・・


「当時は、あちこちにニセ物を持ったもので溢れていたが、ワシは本物のドラゴンナイトを手にした事があってな!もしよかったら姫のドラゴンナイトが本物か見せてもらってもよろしいかな?」


と聞くと姫は、心よく「はい」と答え、ドラゴンナイトを手渡した。


「このドラゴンナイトはどうやって姫の手元に?」


「祖父が若い頃、祖母のためにベルデスの商人から手に入れ、それを譲り受けました。」


姫がそう答えると、メルボさんは天を仰いだ・・

『ニセ物・・じゃな・・』


ザンキは、ドラゴンナイトをじっと見つめ・・


「ふむ、なかなかよく出来ておるな・・」

と言うと侍女が

「どうやって、本物と見分けるんですか?」


「じぃーっと見るんじゃ!」


「じぃーっと?」


そう言いながら侍女もドラゴンナイトを見つめ()し、つられる様にメルボさんと姫も『じぃーっ』とドラゴンナイトを見つめた。するとザンキが


「多くの者がドラゴンナイトを魔法の石か宝石の(たぐ)いの様に思っているが、こいつは1つの生命体でな。もし、これが本物なら今に必ず動くはずじゃ」


そう言いながら、じぃーっと見つめていると、中央の淡い緑の光を放っている球体が一瞬「ビクッ!」っと収縮した!


「あっ!動いた!」

侍女が思わず声を上げ


「姫様!今、動いたの分かりましたか!」


「えぇ、確かに少し動いた様に見えました・・」

姫が答えるとメルボさんが


「でっ、では、こ・・このドラゴンナイトは、ほっほっ本物と言う事か!」


メルボさんはニセ物と諦めていた分余計に驚いた。


侍女は嬉しそうに姫の顔を見て

「姫様!何か願い事をしましょう!」

と言うと慌ててメルボさんが

「わしの膝と腰の具合をよくするのはどうじゃ!」

と言い侍女は

「私はもう少し鼻を高くしたいなぁ・・」

と言った。


「では、2つとも願ってみます」

姫が笑顔で答えると2人は大喜び!


3人が笑顔の中ザンキ1人だけは、ドラゴンナイトをじっと見つめ険しい顔をしていた・・・


その様子に姫が気付き

「ザンキ様どうされました。怖いお顔をなさって、やっぱりニセ物でしたか・・」


「・・いや、こいつは本物のドラゴンナイトじゃ!ワシは、今までなぜベルデスの商人が本物そっくりの物を造らせる事が出来たのか不思議に思っておったが、これで納得したわぃ!」


そう言うと、険しい顔のまま今度は姫の顔をじっと見つめ


「ワシはなぁ姫・・・このドラゴンナイトがニセ物であった方がよかったと思っておってな・・・」


とドラゴンナイトを姫の元へ返した。


「どうしてですか?」

姫が尋ねるとザンキは


「本物を手にした所でいい事なんぞ(なん)もない、とは言え、棄ててしまうには勿体ない・・・本物のドラゴンナイトを手にする事が、いかに困難か知っておるからのぉ・・」


そう言うと昔を思い出し、(まばゆ)い光を浴びた()()様に目を閉じ話し出す。


「ドラゴンナイトは、5000年以上生きた龍の目の中にあってな、実際、ワシは龍の目に手を突っ込み取り出したんじゃ!」


ザンキはゆっくり目を開けると話を続ける。


「ここに本物があると言う事は、誰かがワシと同じ様に手に入れ、それが巡り巡ってここにある!姫の手の中にじゃ!」


姫は、手の中のドラゴンナイトを見つめた・・


「そいつは、欲しいと思って手に入る物じゃない。本物を手にすると言う事は、まさに奇跡じゃ!本物を巡りどれだけ多くの血が流れて来た事か・・」


ザンキは、大きく息を吸い込み姫を見ると

「よいか姫!ドラゴンナイトには、世界をひっくり返す程の力が秘められておる!どんな願いをしようと姫の自由じゃとワシは思うが願いが叶うのは一度だけじゃ!なぜなら、願いが叶えばドラゴンナイトは消え、願った本人の命も消えてしまうからじゃ!願う事なく次の誰かに譲るのが一番じゃが・・」


願いが叶っても死んでしまう・・ガッカリする様な沈黙が広がる中、ザンキは険しい顔で再び口を開く。


「本物を手にした事が只の偶然ならよいが、もし運命だとしたら・・この先、命を投げ出してでも願わなければならない事が姫の身に待っておるじゃろう・・・」


話し終えるとザンキは静かに溜め息を付いた・・


「ありがとうございます!ザンキ様のおかげでドラゴンナイトに付いて知る事が出来ました」

姫が礼を述べると侍女は・・・


「姫様・・・私、この鼻でガマンする事にします・・」


姫は優しく微笑み返したが、ザンキの話で、この先姫の人生に大きな不幸が待っている様な気になり、心配と不安から馬車の中は時間が止まった様に静まり帰っていた・・・


「あれ?止まっているではないか!」


メルボさんが止まっている事に気付いた。と言っても止まっているのは時間ではなく、馬車であった・・・







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