6話夢の続き
レオンが目を覚ますと、外はうっすら明るくなっていた。
『しまった!眠ってしまったぞ!』
ベットから焦って飛び起き廊下に出ると、オルファと侍女と姫が談笑してるのが目に入った。
レオンは3人の何事もなかった様子にホッとし、気持ちを整えると
「みなさん!おはようございます」
と3人に近付き
「昨夜は、何事もなかった様でよかったです」
と言うと侍女が
「レオンさんも気付かなかった見たいですね。私達もそうなんですけど、昨夜は大変だったみたいですよ」
「何か、あったんですか?」
オルファの顔を見た・・・
「海賊どもが襲って来やがったんだ!」
「かっ海賊がですか!」
レオンが驚いた表情を見せると、オルファは深刻な顔で
「最初は何事もなく見張っていたんだが・・真夜中を過ぎたら急に酒場で飲んでいた連中が一斉に攻めて来やがったんだ!」
と言った・・・
レオンは、自分が3日間見張りをしていた時には誰1人近付いても来なかったのに、どうして・・・と、オルファの話に耳を傾ける・・・
「奴らは、次々に階段や柱を上って来やがったが、オレはそいつらを片っ端からぶん殴ってやったんだぜ!」
オルファは殴っている様子を再現しながら、かっこよくポーズを決めた!
「そんでもってオレは、『てめぇーら、何者だ!』って言うと奴らは『俺達は海賊よぉ!ここに、何処かの国の姫が居るらしいから、誘拐して金に換えるのよぉー!』って言いやがってなっ!」
と、姫の顔をチラッと見てから胸を張り
「そんな事、このオレがさせねぇ!オレは姫を守る為に、ここに来たんだ!てめぇーらの好きにはさせねぇぞ!覚悟しな!って海賊どもを手当たり次第に殴ってやったんだ!そしたら、海賊の頭が観念したらしく『俺達の負けだ!』って、床にドカッと座り込み『こんな強い男に初めて会った。どうか俺達の頭になってくれねぇか!』って頼み込んで来やがったけど、オレは断ったんだ!」
オルファは、得意気に腕組みをして見せた。
レオンはオルファの話がウソくさいと言うか、信用出来なかったが、本人が真剣に話しているので
「もしかして、夢を見ていたんじゃないですか?」
と尋ねた・・
「夢な訳ねぇ!オレは起きてたんだからよぉー!」
と言ったが、レオンは
「少しも眠ったりしなかったんですか?」
と聞き、オルファは
「あぁ!一睡もしなかった!」
とキッパリ応える・・・
レオンは、寝ていた所を自分の目で見ていたので、オルファの話はウソか夢にしか思えなかったが、姫と侍女はすっかり信じていた。
「それから、どうなったんです?」
侍女が聞くと、オルファは
「海賊の頭が、せめてオレと仲良くなりたいって、言い出して『サルツーをすれば仲良くなれるから、やろう!』って言って来たが、そんなもんやらねぇし!『てめぇら、これ以上殴られたくなかったら今すぐ出てけ!』って、追い出してやったんだ!」
「サルツーって、何をするんですか?」
姫が尋ねた。
「ん?サルツー・・サルツーってのは・・・」
オルファは姫と侍女の顔を見て、少し考えると・・
「そいつは、知らねぇ方がいい・・・」
と言った・・・
姫と侍女は、サルツーが何の事か分からなかったが、オルファが海賊から守ってくれた事に感謝していた。
レオンはサルツーと聞いて・・・
「ん?はて・・何処かで聞いた様な・・・」
と思ったが思い出せなかった・・・
「おーい!荷物を積み終えたぞぉー!レオンの奴を起こしてくれないかー!」
メルボさんが1階の入口から声を掛けた。
「もう起きてますよーっ!」
侍女が応え
「レオンさん荷物を持って来て!そろそろ出発するみたいですよ」
レオンは荷物を取りに部屋へ、侍女と姫とオルファは、階段を下り始める。
レオンが荷物を抱え小走りで階段を下り始めると、いつもと違う酒場の様子に気付いた。いつもなら、朝になっても飲み続けている人がいたが、今日は1人も見当たらないのだ・・・
『あれ?もしかして、本当に海賊が襲って来たのかも・・・』
そう思った瞬間!サルツーって言葉をハッと思い出した!
『そうだ!あれは夢の中で、海賊の頭が髪の毛を鷲掴みにして、ナイフを突き付け言った言葉だ!』
と、その時の恐怖が甦り、体がビクッと硬直すると足がつっかえ、階段を踏み外し転げ落ちる!
「ドタッ・ドタタタタッ・・・!」
オルファと姫の間、侍女の横をキレイにすり抜け下まで一気に転げ落ちてしまった・・・
「いてててて・・・」
「だっ・・大丈夫ですか?レオンさん!」
侍女が近寄り、声を掛けると
「大丈夫じゃないけど・・・大丈夫です・・」
レオンは荷物を抱え、心配する3人をよそに足を引きずり歩き出す・・・
外には馬車が1台。ナルル王国から乗って来た古い木造の2頭立ての4人乗りで、屋根の上には姫の荷物が山積みに縛り付けてあった。
ザンキとメルボさんは荷物を積み終え、みんなが来るのを待っていて、レオンが外に出ると真っ先にメルボさんの元へ行き小声で
「メルボさん!昨夜、海賊が襲って来たって本当ですか?」
と尋ねた・・・
「おぉ本当じゃ!夜中にドタバタしてたんで部屋の外に出ると、体のデカイのが次から次と攻めて来たんじゃが、さすが、ドランゴンが手配した助っ人じゃ!簡単にやっつけ追い出してしまいおった!」
それを聞いてレオンは「そうですか・・」と力なく答え、馬車の運転席に上がった・・・
メルボさんは、レオンの元気のない様子が気になったが、姫の姿が見えたので馬車の扉を開き出迎える。
姫がメルボさんの前に来ると
「じぃ!レオンさんの具合どうでした?階段から落ちて、痛そうにしていたのですが・・・」
心配そうに尋ねるとメルボさんは
『なるほど・・・それでか』と納得し
「少し元気がない様じゃが大丈夫。心配無用じゃ!まだ若いからのぉ!わしの膝と腰に比べれば、かわいいもんですわぃ!」
と言い
「さぁ、さぁ!お乗り下さい。出発しますぞ!」
姫と侍女を伴い、馬車に乗り込んだ。
オルファも続いて乗り込もうとしたが、ザンキに服を掴まれ
「お前は乗らんでもよい」
と止められた。
「ん?なんで?」
と聞くとザンキは
「お前は馬車の後ろを走って付いてくるんじゃ!」
と言った・・・
「はぁ?何でオレが、そんな目にあわなきゃなんねぇんだよぉ!」
無理やり馬車に乗り込もうとしたが、グィっと引き寄せられ
「いいか!これは重要な役目だぞ!馬車は、後ろが死角になる。そこを狙われ攻められると厄介じゃ!誰も近付けぬ様、周りを見張りながら付いて来る者が必要なんじゃ!お前がいやなら、ワシが代わるがどうする・・・」
「オレがやるに決まってんじゃねぇか!」
オルファは、クルっと馬車に背を向けザンキの耳元で
「今の所、オレの取り分はどれだけだ!」
と聞くとザンキは「100じゃ!」と答えた。
オルファはその答えに満足し、笑顔を見せると
「ハッハッハッ!どこまでだって走ってやるぜぇ!どっからでも掛かって来いってんだ!」
ご機嫌で体をほぐし始める・・・
ザンキが馬車に乗り込み扉が閉まると、メルボさんは運転席に通じる小窓を開き、レオンに出発する様に命じた。
手綱が波打ち、馬車はゆっくりと動き出す・・・