3話ザンキとオルファ
赤い龍の出現から数日が過ぎた早朝。靄のかかっている森の中で、剣と剣がぶつかる金属音が鳴り響いていた・・・
「キィーーン!」「カシャーーン!」
「キィーン!」
靄の中で2つの影が動き回り、激しく剣を交える音が鳴り響いている。
早朝から殺し合いかと思いきや、踏み込みが弱いと言った声が聞こえてくる。どうやら、決闘ではなく剣術の稽古をしている様だが、真剣勝負にも・・・
やがて靄は消え、日の光が森を明るく照らし始めた。なのに、2人の動きは速く、その姿をはっきり捉える事が出来ない。もう何時間も経つのに2つの影が激しくぶつかり、動き回っている様にしか見えなかった・・・
「ちょっ・ちょっとタイム!」
1人の足が止まったが、もう1人はお構い無しに切りつける!
「ガキィーーン!」
力強く降り下ろされた剣を受け止め
「ちょっと!タイムだって!」
若者はそう言ったが、足払いで倒され、喉元に剣を突き付けられ
「戦場でそんな事言っても、誰も止めてくれぬ!」
顔をグリグリ踏みつけられた!
「んぐぐぐぐ~~~!何しやがんだぁ!じじい!」
踏みつけている足を振り払おうとしたが、ひょいっとかわされ
「ここが戦場なら、お前はもう死んでおる!」
と言って、突き付けていた剣で若者の顎をクイッと持ち上げた!
「ここは、戦場じゃねぇっての!」
若者はそう言うと、剣を手で払い除け
「オレはさっきからこっちを見てる奴が、じじいに用事があるんじゃねぇかと思って、教えようとしてんじゃねぇか!」
少し離れた所に馬の背に乗る1人の男が、こちらの様子を伺っていて、老人が顔を向けると、その男は馬から降り2回ほどお辞儀をした・・・
「フンッ!」
老人は鼻から一息抜くと、背中の鞘に剣を収め、男の元へと歩き始める・・・
この老人の名はザンキ・ワン・カップ。かつては、ガムガダンの騎士と呼ばれ、ドランゴン王国の将軍にまでなった男である。
小柄で、頭はてっぺんまで禿げ上がり、残った髪の毛に眉、髭は真っ白であったが、若い頃より鍛え上げた強靭な体と剣術、俊敏な動きと体力は今も健在であった。
「稽古の邪魔をしたんじゃないですか?」
待っていた男が尋ねると
「気にする事はない、それより用件を聞こう・・」
2人が話しているのを遠目で見ていた若者は、長話を期待して片腕を枕に眠り始める。
この若者は生まれた時からザンキに育てられ、稽古をしながら世界中を旅していた。名前は、オルファ16歳。いつでも何処でもすぐ眠れる特技があって、もうすでにバカ口を開けて夢の中にいた・・・
ザンキが用件を聞いて戻って来たが、オルファに起きる様子がないので頭を蹴り上げる!
「ガツン!!」
「いってぇ~~~っ!」
頭を押さえ、自分に何が起きたのか考えたら、瞬時に『じじいに蹴られたっ!』と思い付く!文句を言おうと顔を上げると金貨が3枚降って来た!
それをすかさず掴み取り!
「金貨だ!しかも3枚!!」
大声を上げ、満面の笑みで顔を上げた!
「仕事が入った!そいつは前金じゃ!無事に仕事を終えれば、あと7枚出すぞい!」
それを聞いたオルファは大喜びし
「いったいどんな仕事だよ!こんな大金を出すなんて!」
驚くオルファにザンキは
「王女の護衛じゃ! ドランゴンまで連れて行くのが、仕事じゃ!」
「えっ?それだけ・・・」
オルファは怪しさを感じた・・・金貨1枚で1ヶ月は楽な生活が出来るのに王族の依頼とは言え、こんな簡単な仕事に金貨10枚も出すのはおかしいと・・・
「本当にあと7枚もらえるんだろうなっ!」
「無事に仕事を終えればなっ!何でも、王女の命が狙われていると言う話があったからのぅ・・もし、王女に何かあれば、ワシらも無事と言う訳には行かんじゃろう・・・」
それを聞いてオルファは
「上等だよ! 最高じゃねぇか! 命懸けで姫の命を守るなんて、燃えて来るぜぇーっ!」
と正義感からなのか、金貨10枚の仕事からなのか、やる気に燃えていた!
さっそく2人は旅立つ準備をする。と言っても、臭くて汚い袋を1つ手にするだけであったが、オルファには1つ気になっていたことがあった。それはじじいの取り分だ!自分の倍、いや、もしかしたら3倍かも・・・そいつを確かめておきたかったのだ・・
「ところでさぁ、この仕事いくらで頼まれたわけ?」
何気にオルファが尋ねると
「金貨100枚じゃ!」
「あっそ。100枚ね・・・ぬぁっ!なにぃーっ!ひゃ100枚だとぉーっ!」
さらっと答えたので聞き流しそうになったが100枚と聞いて怒りが込み上がって来る!
「ケチなじじいめぇ~っ!もっと、分け前出しやがれぇーっ!」
オルファが睨み付けると、ザンキはとぼけた顔で
「何と!ついさっきまで金貨10枚で大喜びしておったのに!どうした、急にもっと出せとは!」
「当たり前だろ!100枚の内の10枚なんて少な過ぎだ。こっちとら!命懸けでやる気になってんのに、どうしてくれんだ!このやる気をよぉーっ!」
オルファが、分け前の差にヘソを曲げてしまうと、ザンキは
「ほぉーっ!そうか、そんなにやる気があるのか!なら、今回は歩合制にしてやろう!お互いどれだけ仕事をしたか、その成果で取り分を決めてやる!」
「ブアイ・・?」
オルファは理解してない様子で、眉をしかめ、考え出した・・・
「つまり、もしお前1人で王女を無事守りきれたなら、金貨100枚全部お前の取り分ってことだ!」
『・・・なるほど!』
オルファは自分が100枚手に出来ると考えた!
「気に入った!そのブアイソウってヤツにしようぜ」
と笑顔を見せる。
「ブアイセイだ!バカもん!」
ザンキは眉をしかめ
「歩合制なら前金の金貨は返してもらうぞっ!」
と言った。
「はぁ?何でだよっ!」
オルファは手にした金貨を返したくないので、後で調整すればいい事じゃねぇかと言ったが、ザンキはダメだと言い、仕事を全部終えた後に取り分を決めるが、もし、途中で逃げ出した場合の分け前は無しだからだと言った。
「はぁ?そんな逃げるわけ・・・」
ないって言おうとしたが、オルファは過去に何度も逃げ出した事があったので、渋々金貨を返す・・・
「よし!パサのトロルと言う宿に向かうぞ! 今から走って行けば、暗くなる前には着くはずじゃ!」
ザンキは、そう言って袋を担ぎ
「途中でへばったりしたら、置いて行くからなっ!しっかり付いて来るんじゃぞ!」
「へっ!何言ってやがんだ!そっちこそ、モタモタしてたらケツ蹴っ飛ばしてやっかんなっ!」
憎まれ口をたたきつつ、2人はパサの町へと走って行く・・・