30話 深い眠り
風を切って走るサラの後ろから、大きな音を立て、猛スピードで迫ってくる馬車!
「オラ!オラ!どけ!どけ!どけ!」
大声を上げてサラの後ろに迫る!
サラが、すぐに馬を端に寄せると、運転席に立った男は勝ち誇った顔を見せ!
「ハッハッハッハッハッ!誰も先には行かせねぇ!ブッ飛んでくぜぇーっ!」
とビシバシ鞭を入れ追い抜いて行く!
猛スピードで走って行く馬車を見つめるサラ・・
『ああいう人は、刺激しちゃ危険・・』
そう思って手綱を引いた。
馬に水を与え、しばらく間を置いて再び走り出す。
湖の畔を軽快に走るサラ。
目の前に見覚えのある馬車が・・・さっきの勢いが嘘のようにゆっくり走っている・・すぐに後ろまで迫ってしまった!
サラは追い抜くのを躊躇したが、一気にスピードを上げ抜き去ると『ちっきょおー!』声が上がったのを尻目に駆け抜ける。
振り返って追い掛けて来ない事にホッとしつつも、更に脚を早めた。
日暮れギリギリまで走ったサラは、岩陰に腰掛け、袋から取り出したパンと林檎を食べると、体を小さく丸めて眠りにつく。
朝から走りっぱなしでヘトヘトに疲れていたサラは、すぐに深い眠りに落ちて行った・・・
「・・先生・・呼吸が落ち着いて来たようです」
サラを看病をしている侍女の言葉に医師は・・
「・・脈が弱い・・・」
浮かない顔で呟いた・・・
夜明けが近づき、鳥の囀ずりで目を覚ましたサラ。起き上がると、荷物を持って馬の様子を見に行く。
サラの顔を見た馬は、元気に鼻息を鳴らし、走る気マンマン!
「今日も一杯走るからお願いね!」
と優しく頬を撫で、馬に乗り出発する。
馬は軽快に走り出し、ここ数日間の疲れを全く感じさせずにグングンスピードを上げて行く!
『お前は、何てスゴイの!』
まるで空を飛ぶように駆け抜けて行った・・・
丘を越え、崖や谷を走り抜けて、昼を過ぎた頃には両側に岩壁が続く曲がりくねった道に入っていた。
『この谷を抜ければ、ドランゴン王国はすぐそこだわ!』
思ってた以上に馬の早足と頑張りで、予定していたより、かなり早く着ける気になっていた・・・
先の見えない大きなカーブをスピードを緩めて曲がり切るとゲートがあるのが見えた。ゲートの前には数人の兵士が立っていて、岩壁の上にも人影・・・
サラは不安を感じながらも、ゲートの前で脚を止めると、1人の兵士が近付いて来る。
「ドランゴン王国へ行くつもりか?」
「はい・・」
「フードを取って顔を見せろ!」
サラがフードを上げると兵士は
「女か・・1人・・」
眉をしかめ溜め息まじりに考え込み、サラを見る。他の兵士も近付いて来た。
「お前!ナルル王国から来たのか!」
「いえ、違います!」
「名前は?」
「サラです。」
2人の兵士は、サラの顔をチラチラ見ながら小声で
『お前、どう思う?』
『俺には、分からねぇ・・・姫の顔も知らねぇし、嘘を言ってるとも思えねぇ・・』
『だよな・・・』
『大体、姫が1人で行動するか・・・』
更に、もう1人の兵士が加わり3人でコソコソ話し出す・・・
『一応・・将軍に報告した方がいいな!』
『そうだな!』
兵士はサラを見上げ
「オイ!ここで待ってろ!」
と言ってゲートを少しだけ開き、中に入って行く!
兵士の話し方や態度にサラの不安が増して行き、馬もその感情を敏感に感じ取り、鼻息を荒げ落ち着かない様子・・・
しばらくして兵士が戻ってくると、ゲートを開き
「オイ!通っていいぞ!」
サラが手綱を操りゲートを抜けると、そこには大勢の兵士が整列していた。
『皆がこっちを見ている・・いったい、この人達は集まって何をするつもり?戦争を始める?・・』
武装した兵士の視線に恐怖と緊張を感じて進んでいたが、早くこの場から抜けようと馬を走らせた。が、馬は逆方向に向かって走り出す。
サラは慌てて手綱を引いくが、馬は抗い、逃げるようにゲートの方に戻って行った。
「そいつを逃がすな!」
声が上がったと同時に10騎の騎馬兵がサラを追い掛ける。
馬はゲートを目指し一直線!
前には、兵士がゲートを閉じようとしている。
サラには、やましい事も逃げる理由もない。馬を止め話し合いたいが、馬の方は、ここから逃げたくて必死な様子・・
「どうしたの?落ち着いて!」
手綱を締め上げた時!サラの耳をかすめて岩壁に矢が突き刺さる!
ぞっとして、矢が来た方向に目を向けると、こっちを狙っている大勢の兵士!
サラが身を屈め手綱を緩めると、馬は、ありったけの瞬発力を発揮し、素早く左右に動きながら走り、ゲートを蹴破った!
逃げるサラを目掛け、岩壁の上からも矢が飛んで来る!
サラは矢が降り注ぐ中で、曲がりくねった道を猛スピードのまま絶妙なコーナーリングで走り抜け、後ろの騎兵をグングン引き離したが、しつこく追い掛けて来る!
『まだ、追い掛けてくる・・・』
日も傾き始めたが騎兵の追い掛けてくる気配に逃げ続け、もと来た道を戻り、暗くなった頃には昨夜の岩陰の所に戻っていた。
まる1日走り続けて元の場所に戻ったサラ。
疲れているのか落ち込んでいるのか、静かに馬から降りると馬を優しく撫でてやり・・・
「兵士が大勢いて怖かったのね・・・」
と話し掛けて林檎を食べさせてやると、昨夜と同じ様に眠りについた・・・