29話 疾走
ダストは、ブランデーを少しずつ飲んでいるうちにいい具合に酔っ払って来ていた・・・
「おいサラ!お前、逃げてどうする気だ!」
「人を探しにドランゴン王国へ・・」
「人探し・・何のため?」
サラは、赤い龍の出現を知らせる為だと言うと、ダストは龍を見た事に驚き
「すげぇな!龍を見たのか・・赤い龍・・白い龍を見たら幸せになれるって聞いた事があるけど、赤い龍はどうなるんだ?」
ダストの言葉にサラは
「おばばが言うには、赤い龍は人の心の悪い念が溢れている証で、赤い龍が出現すると世の中が荒れ、戦争が始まる前兆だって・・」
「ふぅ~ん・・だからか・・・」
ダストの意味ありげな言葉にサラは
「どうしたんです?何か思い当たる事でも・・」
「最近、船の積み荷が大砲や火薬、刀に弓矢と武器ばっかりなんだよ。お頭が言うには、武器商人が悪い連中と手を組んで武器を売りまくり、戦争を始めようとしてんだってさっ。まっ!俺達は、そんな船を狙って儲けてるんだけど・・・」
「そう・・」
酒を飲むダストの目が虚ろになっていた・・
「もう・・飲まない方が・・・」
「バッケローッ!このくらい何ともねぇさ!オレは強いんだ!今にお頭より強くなって最強の男になるんだからよぉ!酒なんかいくら飲んでも平気さ!」
と言っていたダストだが、テーブルに頭をもたげ寝てしまう・・サラは逃げるチャンスだったが、ダストに毛布を掛けるとベッドに入った・・・
夜明けが近付くと、急に船の中が騒がしくなった。
「おーい!ダストーっ!出て来い!」
ダストを呼ぶ声に目を覚ましたサラは、テーブルに頭をもたげ寝ているダストを起こす!
「起きて下さい!あなたを呼んでますよ!」
「ん?」
目を覚まし、聞こえる声に耳を澄ますと
「やべぇー!お頭の声だ!」
と慌てて走って行く!
陸に上がっていた海賊が戻って来ていた。
サラは、寝静まるのを待ってから逃げ出そうと考え、静かにその時を待つ・・・
しばらく待っていると、ダストが飛び込んで来て!
「サラ!投げ出すチャンスだぞ!」
サラは迷わずに立ち上がり、部屋を出ると、馬の所へ向かう!
「お前!馬に乗れるのか?」
ダストの言葉に応える様に馬に飛び乗り
「この馬は私の馬なの、一気に突っ走って逃げ切るわ!」
闘志を燃やすサラにダストは
「慌てる事はねぇ!ゆっくり逃げて平気さ!」
「えっ?ホントに・・」
不思議がるサラにダストは
「みんな怪我して動けねぇんだよ!」
と言って馬を引き、歩きながら話を続ける。
「お頭達は、酒場で飲んでたんだけど、そこに何処かの国のお姫さんが泊まってるって話を耳にして、誘拐して一儲けしようと企んだんだ。真夜中に一斉に襲い掛かって行ったんだけど、逆にボコボコに殴られ、手や足は骨折・・・海賊40人がたった1人を相手に、こてんぱんにヤられちまったんだ!」
「そ、そうなんですか・・・」
サラは驚き、信じられない様子・・ダストも化け物みたいに強い奴がいる事に驚いていた・・・
サラは馬に乗ってパカパカと歩いて船を降りると、海賊船の方に向かって行く。
「おいサラ!何処行く気だよ!」
引き止めるダストにサラは
「ちょっと用事が・・あなたは、ここで待ってて」
と言って、海賊船に乗り込んで行った・・・
海賊船の中は怪我人がゴロゴロ寝転んでいて、サラは怪我で動けない海賊の中を悠々と馬で進み、お頭の部屋に入って行く。お頭は、手や足に包帯をグルグルに巻き、ベッドの上に寝ていて、馬に乗ったサラが現れると驚いていたが、痛みで動けなかった。
ベッドの横のテーブルには、金や宝石、巻き上げた金品が山になっていて、サラはその中から、おばばの巾着袋を見つけて取り上げると
「これは私の物なので返して貰います!」
と言って部屋を出て行く・・・お頭は、サラの大胆で堂々とした態度にあっけに取られていた・・・
船を降りたサラは、体の調子も良く気分も晴れやかに、朝日が差し込む中で、ダストにお礼と別れの言葉を言って町に向かって走り出す。
馬に乗り、町の中を気分良く走っていると、馬車に荷物を積んでいる2人の老人が見え
「お早うございます!」と声を掛けて走り抜ける!
市場に寄って幾つか食べ物を買い、ドランゴン王国までの道を尋ねると、馬で4日も走れば着けると教えて貰い、思ったより早く行ける事に喜んでいた。
平原の中に真っ直ぐ延びる道を、軽快に突き進んで行くサラ!
走り続けていると道端に、黒ずくめの怪しい集団が30人ほど整列している『・・・海賊の次は盗賊?』
サラはスピードをゆるめ、警戒しながら集団の前を通ると、中の1人が覆面を取り
「どうも!お早うございます!」
と笑顔で挨拶して
「只今、我々は訓練中でありまして、不審な格好で御迷惑をお掛けして申し訳ありません。危害を加えたりしませんので、どうぞ安心してお通りください。」
と言った・・・サラは戸惑いながらも
「ご、ご苦労様です・・・お気を付けて頑張って下さい・・」
声を掛けると再び走り出す!
おばばの言葉を思い出し、少しでも早くドランゴン王国へ行き、ザンキ・ワン・カップという人を探し出す!と言う、責任感と決意が沸き上がっていた。
サラの瞳は力強い輝きを見せ、疾走して行く・・・