26話 雨の中の余興
お金を奪われ落ち込むサラ・・風が強まり雲行きが怪しくなって来た。
船と高波がぶつかり、砕けた波渋きがサラに降り掛かる・・・
「よう!お前は!酒場で見た娘じゃねぇか!」
あの大柄の男がサラを見掛けて声を掛けて来た。
サラの馬をまじまじと見詰めて
「随分と立派な馬を手に入れたもんだな・・・」
サラは、この男と関わりたくない・・かと言って、無視をして機嫌を損ねるのも・・・
「なぁ!また俺の未来を占ってくれねぇか!」
溜め息を付くサラ・・・男を見詰め
「あなたの事は占うまでもないです。人を傷付けて好き放題している人の未来は決まってますから」
「どう決まってんのさ!」
「捕まるか殺されるかです・・・」
男はサラを睨み
「そうかい!分かったよ・・・だが、覚えときな!俺は捕まらねぇし殺されねぇ!お前が、酒場を出た後で俺が何をしたか教えてやろうか!酒場の店主がどうなったのか!」
「言わなくて結構です!それよりも、私があなたにコッソリ教えて上げます。この船には、憲兵が1人乗っていて、その憲兵は酒場の店主とお客さんを殺した犯人を追って乗り込んでるんですよ」
「そいつは本当だろうな・・・」
険しい顔で辺りを見渡し、憲兵を見つけると
「あいつか・・」
背中を丸め、襟で顔を隠して離れて行く・・
波が高くなり船が大きく揺れ、雨がポツリポツリと降り始めた。
サラは、船の乗組員に乗船券を見せて、船室へ案内して貰う。馬は専用の部屋に、サラは二段ベッドが2つ並んだ4人部屋へ案内された。
下段のベッドに腰掛け袋の中からパンを取り出す。お婆さんが焼いてくれたパンに感謝を込めて、半分だけ食べると残りを袋に戻した。
疲れを感じベッドに横たわると、すぐに眠気に襲われウトウト眠り出した間際、大きな衝撃と音に目を覚ます!
『何・・?』
ドタバタ大きな音が響く中で足音が走り回り、サラの部屋の前でピタリと止まった!
ドアが開き、短刀を手にした少年!
「お前だけか!」
目の前に短刀を突き付ける!
「はい・・・」
「荷物を持って外に出ろ!」
背中に短刀を突き付けられ、甲板に上がると死体が転がり雨の中15人位の乗組員や乗客が両手を縛られ座っている。
1隻の大きな船がピッタリ横付けしていて、その船には海賊の旗が靡いていた・・・
『海賊に襲われたんだ!』
両手を縛られ、座らされたサラの目の前には憲兵、その隣に大柄の男がいて、2人はサラと目を合わす事もなく不機嫌な様子・・・
海賊船から板梯子が架けられ、大きな椅子を抱えた2人の海賊が渡って来ると、続いて一際体の大きい男が乗り込んで来た。
大男は縛られた人の中を歩き
「すくねぇなぁ・・・これだけか!」
すると、海賊の1人が近付き
「お頭!この船は貨物が主体でして、その分積み荷がたっぷりありますんで」
「そうだったな・・」
と言い
「おい!船長はどいつだ!」
大声を張り上げた!
縛られた手を上げ、立ち上がる男・・
「お前が船長か?」
「そうだ!」
海賊の頭が船長の目の前に立ち、懐の短刀で
「もう、船長はいらねぇ!」
そう言いながら船長の喉をかっ切って海に蹴り落とすと、ゆっくり縛られた人の前を横切る
「この船も!お前達の命も俺の物だぞ!」
と言って、ドカッっと椅子に腰掛けた!
雨に濡れ、恐怖と緊張で震える人達・・・
「さぁ!始めるか!」
お頭の一声で1人ずつ連れ出され、金品を出させる。
そこは生きるか死ぬかの別れ道・・・次々に人が殺されて行った・・
人が簡単に殺され、血と雨が混じり合う凄惨な光景にサラは目を閉じてフードをかぶり、夢なら覚めて欲しいと願っていた・・・
前に座っていた憲兵が連れられて行く・・・
「おーっ!憲兵様のお出ましだ!」
酒瓶を手に、グイグイご機嫌な様子で酒を飲むお頭の前で、憲兵は縄をほどかれ金目の物を出すように言われて、ポケットに手を突っ込み銀貨を2枚床に掘り投げた。
「それだけか?」
お頭は嬉しそうな顔で
「それじゃ足りねぇ・・闘うしかねぇな!」
と笑った・・
「こっちとら、始めっからそのつもりよぉ!」
憲兵が威勢よく刀を抜くと、海賊の1人が前に出た!
背は低いが、ガッチリとしていてヤル気満々!
2人を取り囲み1対1の闘いが始まり、刀と刀が激しくぶつかる!
お頭はそれを肴に酒を流し込んだ。
憲兵は細くて長い刀を巧みに操り、海賊は2本の牛刀で切り掛かる。互いに1歩も譲らぬ激しい攻防にお頭の酒が進む。
「ガハハッ!あの憲兵、中々ヤるな!」
雨が激しくなって来たが、海賊にはそんな事お構いなし、2人の闘いに金を賭けて盛り上がる!
「俺は憲兵に銀貨10枚賭けるぞ!」
「俺はナパに20だ!」
憲兵が何度も鋭い突きを繰り出し、ナパは少しずつ後退して行く・・・
憲兵に取って、剣の腕前を磨くのは仕事の内。弱ければ罪人を捕らえられないし出世の道もない、強くて当然なのである。
一方ナパは海賊、負けた時は死ぬ時。生きるために闘い、闘いの中で腕を磨き生き残って来た。しかし所詮は自己流、ナパは船の縁へと追い詰められ憲兵は、ここが勝機と一気に突きを早め心臓を狙う!
ナパはその一瞬を待っていた!
2本の牛刀を上手く使い、テコの要領で憲兵の刀を『ポキッ』っと根元から折ったのである。
ナパが見事に勝ち、海賊共が盛り上がる!
刀を折られた憲兵は『チッ』っと、舌打ちして刀を投げ棄てた。
それを目にしたナパ・・勝ち方が気に入らなかったのか、物足りなかったのか2本の牛刀を手放し
「掛かってきな!」
と指先で示した・・
再び憲兵の闘志に火が付き、2回戦が始まる!




