24話 不安の中で
酒場の様子が気になっていたサラ・・・
馬を手に入れた後、酒場に寄ってから西へ向かうつもりでいたが、港から船で行った方が速いと聞き、迷いながらも北に向かったのだった・・・
馬に乗りグングンとスピードを上げて行くサラ・・
『・・この馬・・凄く乗りやすい・・』
そう思うのも当然だった・・・
旦那が金を奪い易くするため、扱い易い馬に鞍を付け、金と一緒に奪い返す積もりでいた・・・当然、そんな事を知らないサラは、この馬と相性がいい位にしか思っていなかった・・・
その頃旦那は、馬小屋で頭を抱え
「あの馬に追い付けるのは、コイツだけか・・・」
本来なら、サラが乗るはずの馬を見つめ、溜め息を付くとオバサンが
「仕方ないよ・・・その馬で、小娘の所まで行き『馬を間違えた!』って、上手く誤魔化して、隙を伺うしかないね・・・」
旦那は気が乗らない様子で馬に乗る・・・
「頼んだよ、あんた!こんなチャンスは滅多にないんだ!小娘から金を奪えば今月の支払い処か借金を全部返せる!憲兵に先を越されんじゃないよ!」
勢い付ける様に馬の尻を「ペシッ!」と叩くと馬は暴れて飛び跳ねる!旦那は、振り落とされない様に手綱を操り、どうにかこうにか港に向かって走らせて行った・・・
暗闇を駆け抜け、朝日がサラに差し込んで来た
遠くに見える小さな港町を見下ろし、丘を駆け降りて行くサラの後方で、馬に乗った3人の憲兵が、猛スピードで追い掛けて来る
サラは後ろから迫って来る気配に、先に行かせようとスピードを緩めた・・・
横を駆け抜けて行く憲兵達は、サラの顔を覗き込むと、手綱を引きサラを囲い込む!
「おい娘!お前はドランゴン王国に向かっているのか!」
「はい・・そうですけど・・」
1人の憲兵が刀を抜き「馬から降りろ!」と言い
「お前には、酒場の主人と客を殺した容疑が掛かっている!」
と言った
「えっ!・・そんな・・」
サラは直ぐに、馬から降り
「私は殺人なんてしてません!」
憲兵に向かってハッキリ言ったが
「お前は大金を持ってるそうだな!酒場で奪ったんだろ!」
「違います!お金は旅費で、祖母から貰ったんです!」
「見せてみろ!」
憲兵は刀を突き立てた!
サラが袋を取り出し、中の金貨を掴んで見せると、憲兵達の目の色が変わる!
サラの袋に手を伸ばす憲兵・・掴み掛けたその時!サラは腕を引っ張り、憲兵を馬から引きずり落とした!
「ぶわっ!なっ何しやがる!」
サラは、憲兵の背中を踏み台に馬に飛び乗り、走り出す!
サラの素早い動きに、2人の憲兵はあっけに取られていた・・・
「バカヤロー!何ぼーっとしてんだ!」
馬によじ登った憲兵が慌ててサラを追い掛ける
「あの小娘!ナメたマネしやがってぇー!」
サラは、直感でお金が奪われると感じて憲兵を掴み落としてしまった・・・猛スピードで港を目指す!追い掛けてくる憲兵・・・
港町の中を逃げ回り、路地裏に身を隠す・・・
憲兵が通り過ぎ、サラはホッと息を付くと馬を引き路地裏を歩いて行った・・・
船が見える所まで来てサラは立ち止まる。桟橋には2隻の船と3人の憲兵・・・
『・・・どうしょう・・』
とりあえず・・一旦、引き返すサラ・・トボトボと路地裏の中を歩く・・・
「立派な馬だねぇ!」
サラの馬を見上げ、老婆が口を開いた
「お嬢ちゃんの馬かい?」
サラは笑顔で頷き
「あの・・すみません。お婆さん、この近くで安い宿を探してるんですが分かります?」
と尋ねた
「こんな朝早くから宿探しかい!」
「はい・・ここまで夜通し走り続けて、少し休める所があればと・・・」
疲れた様子のサラに
「それなら家に来るといいさっ!うるさい爺さんが1人居るが、馬小屋もあるし金はいらんでな」
サラは、有り難く老婆の誘いを受け入れ、後に付いて行く
「お嬢ちゃん、お名前は?」
「サラです」
老婆の家はすぐそこで、小さいが石造りの確りとした家で、サラは馬を小屋に入れると家の中に入って行く・・
ベットのある部屋に案内され
「ここで、ゆっくり休んでおくれ」
「有難うございます!」
老婆が出て行くと、サラはベットの上に腰掛け
『ふぅーっ・・』
一息付き、そのまま仰向けに寝転び、酒場の店主や憲兵の事、この先の事に思いを巡らせているうちに眠ってしまった・・・
3時間ほど眠り、パンの焼ける香ばしい匂いに目を覚ますサラ。天井を眺め、どうすれば上手く船に乗れるか考えていると、ドアがノックされ
「サラや!パンを焼いたでな、スープもあるから熱いうちに食べにおいで」
「はい!有難うございます!」
サラは食卓に付き、ジャムを塗り食べ始めると、外から老人が声を上げ入って来る
「婆さん!馬小屋に偉く立派な馬が居るが、誰か客でも来とるのか?」
と言った処でサラと目があった・・・
「嬢ちゃんの馬かい?」
「はい・・お邪魔してます・・」
サラが頭を下げると
「へぇーーっ!大したもんだ!家のロバとは大違いじゃな!ガハハハハ!」
爺さんが笑いながら椅子に座ると、お婆さんは
「サラと言ってな、朝早くから宿を探してるって言うから家に連れて来たんじゃよ」
と爺さんの前に焼きたてのパンを出し
「で、お前さんの釣りの方はどうだった・・何匹釣れた?」
と聞いた。
「1匹も釣れんかった!ここの海にはもう、魚が居らんのかも知れんな!ガハハハハ!」
笑ってごまかし
「おまけに憲兵共が走り回っておってな、気が散って仕方なかったわい!」
「憲兵・・何かあったんだろか・・・」
不安な表情を見せる老婆・・・サラはそれを見て
「憲兵は、私を探しているんだと思います・・」
と言った・・
「へっ?」
サラの顔を不思議そうに見つめる2人・・・