20話解放
ザンキが玉座の前に現れると、王は笑顔で迎え入れる。
「おぉーっ!ザンキ!よくぞ、参った!」
ザンキは膝を付き、挨拶しようとすると、王は
「挨拶なんかよい!」
と慌てて言い
「それより、そなたを探している者がここにおる!そなたが、17年ぶりに城に来たその日に、そなたを尋ねて来るとは、すごい偶然だとは思わんか!」
嬉しそうに話した。
「誰が、ワシを探しておるのじゃ?」
ザンキが尋ねるとサラが現れ、両手を付き頭を下げる。
「バルモント山のジルバの使いで参りました。サラと申します」
サラは頭を下げたまま、話を続けた。
「いまから7日前、ここから遥か東のエトル山の更に向こうで、赤い龍が出現した事をお伝えに参りました」
「何と!それは真か!」
ザンキが驚くと、サラは顔を上げ、おばばと一緒に目撃した事。おばばは、赤い龍を追い掛け自分はその事をザンキと言う人に伝えるため、ここに来た事を話した。
「よくぞ!伝えに来てくれたな!」
ザンキの言葉にサラは、緊張と責任から解放され、ホッとすると、そのまま気が抜けて床に倒れ込んでしまった!
ザンキが抱き起こしサラの様子を見る・・・
「いかんぞ!かなり弱っておるな・・」
ザンキは王に、サラが元気になるまで城で介抱してくれる様に頼むと、直ぐに旅立つと言い出した。
「そんなに慌てなくても良いじゃないか!ついさっき、城に着いたばかりだぞ!」
王は引き止めるが、ザンキは
「ここでのんびりすれば、この娘の思いを踏みにじる!」
「しかし、食事をする時間位あるであろう・・・」
一方その頃。オルファは思いっきり料理の匂いを吸い込んでいた!
『くぅ~~っ!たまんねぇーーっ!』
段々鼻息が荒くなり、匂いだけで満足出来なくなって来る・・・
『へへーーっ!どうせ後でオレが食べるんだ!少しくらい頂いても、かまわねぇなっ!』
と少しつまんで食べる・・これがまずかった・・・と言うより、旨すぎた!
少しのつもりが、もう一口と、手が止まらない!
段々スピードも上がり、料理を鷲掴みにして次々と口の中に詰め込んで行く!
給仕係が目を閉じても分かるほど、オルファは料理を食べまくっていた!
『・・・食べてる・・思いっきり食べてるぞ・・・ヤバい・・・』
給仕係は、怖くて目が開けれない・・・
力を込め、ギュッと目を閉じると覚悟を決めて一気に目を開いた!
部屋の中がシーンと静まり返っている・・・
給仕係が目を開けると同時に、オルファはピタリと動きを止め、こっちを見ていた。
オルファは両手に掴んでいた肉の塊をそぉーっと皿に戻し、口の中いっぱいに詰め込んでいた食べ物を「ゴクリ」と飲み込むと、給仕係を睨み
「お前のせいだ!」
と言った・・・
「えぇぇ~~っ?なぜ!オレのせいなんだぁ!」
給仕係は頭に来て、オルファに詰め寄って行ったがテーブルの上を見て愕然とする。料理のほとんどが食い荒らされていたのだ!
「あぁーあ!どうすんだよぉ、これーーっ!今からここに、王様が来んだぞ!オレ、クビになっちまうじゃねぇか!」
「お前のせいだから、仕方ねぇな・・・」
「オレのせいじゃねぇよーーっ!お前が食ったせいだろうがぁーーーっ!・・・ちきしょお・・・」
給仕係の目に涙がにじみ出ていた・・・それを目にしたオルファ!
「バカヤローッ!このくらいで泣いてんじゃねぇ!ったく!こんなもんオレに任せときな!」
と言ってオルファは立ち上がり、手付かずの料理を手で掴むと、空になった皿に盛り付けて行く・・
「へへーっどうだ!これでバレねぇだろう!」
「バレバレだ!バカか?お前・・・量は少ないし、グチャグチャで汚ならしいだろ!どう見ても変だ!あぁ・・終わりだ!クビだ!親父に叱られる・・」
給仕係が肩を落とすと、オルファは閃いた様に笑顔を見せ、部屋の隅にあった花がいっぱい生けてある花瓶を持って来る。
テーブルナイフを手に取り、葉や茎、花びらを切り取り、料理に混ぜると花瓶の水をドボドボ注ぎ込んで行く・・・
「どうだ!量も増えたし、花やかになっただろ!」
オルファが得意げに微笑むと
「な・お・ああ・・おぉ・な・にぃ・・」
給仕係は言葉にならない・・・更に、オルファは「おっ!」と閃き、給仕係の長い金髪を、ナイフでスパッと切り取り、皿に盛り付け
「へへへーーっ!これでゴージャスになったぞ!」
と喜んでいた!
「ぬぉぉ~~っ!てっ・て・・がぁ~~っ!」
給仕係はぶち切れ!オルファに掴み掛かろうとしたその時、扉の奧から声が掛けられた!
「王様が、お見栄になられました!」
素早くオルファは、テーブルの下に花瓶を隠して座り、給仕係は壁にへばり着く・・・
扉が開けられ、案内人に続き王と王妃、その後ろに王子が入って来た・・・
給仕係は震えながら天を仰ぎ・・・
『あぁ・・終わりだ!こんな事になるなんて・・・クビどころか・・牢屋行きだ・・・』
王がオルファの正面に座り、王の左側に王妃、右に王子が座った。
案内人が王と王妃をオルファに紹介し、王子の隣に立ち
「こちらは、アルベルト王子です」
それを聞いて、オルファは『何だとぉ!』王子を睨み付ける!
オルファに睨らまれても王子は、ニコニコと微笑み掛けていた・・・
『こっ・・このヤロォー!なめやがってぇ!』
とばかりに、歯をむき出しにして睨むオルファ!
『くっそおーっ!こんな奴と姫は結婚すんのか!』
オルファがどれだけ睨みを効かせても、王子はニコニコしていた・・・
王子は、まだ5歳だった・・・
「確か、オルファと申したな・・・」
王が口を開くと、オルファは一瞬、王に視線を向けたが、また王子を睨み付ける・・・
「そちは、ザンキと17年過ごしてどうであった」
王が聞くと、オルファは王子を睨んだまま
「地獄だな・・・」
と応えた・・すると、王妃は涙を拭う様にハンカチで目頭を押さえる・・・
「ザンキは厳しい男だからな・・・」
王の言葉に王妃は我慢しきれずに、すすり泣き始めた・・・
オルファは、王妃が泣いているのを見て・・
『ん?どうしたんだ・・・』
と不思議そうに王妃を見つめる・・・
王妃のすすり泣く声が、部屋の中に静かに響いていた・・・
その後ろで、給仕係も声を出して泣きそうになっていた・・・
『あぁ・・どうしよう・・・料理を口にしたら終わりだ!オレは何もしてないのに・・・あいつのせいなのに・・・あぁ・・帰りたい・・』
天井を見て泣きそうな顔をしていた・・・その時!ピーンと閃いた!
『そうだ!この場にいなければいいんだ!気付かれない様に家に帰ろう・・・今日は気分が悪くなり、家に帰った事にすればいい・・・これであいつは、オレのせいにできないぞ!』
そう思った給仕係は、気付かれない様にそぉーっと扉を目指し、にじり寄って行く・・・




