19話瞳の奥
ザンキが来た事が伝わると、城の中があわただしく動き出す。
王の顔にも緊張が走った・・・
ナルル王国の姫は、すでに王と王妃に挨拶し、入浴も済ませ、部屋で侍女に髪の手入れをしてもらっていた・・・
「トン!トン!トン!」
ドアがノックされ、侍女が向かう。
「食事は1時間後です。その時、王子も御一緒しますので」
「承知しました!」
侍女は一礼し、ドアを閉めると、気合を入れながら戻って来る。
「姫様、1時間後!いよいよ、王子様と御対面です!気合を入れて、お化粧しますよっ!」
侍女の目がランランと燃えていた!
その頃オルファは、風呂場に着くなり服を脱ぎ捨て湯船に飛び込んだ!
「うっひょぉーっ!最高だぜ!」
ここは兵士が利用する大浴場で、40人程が、一度にゆったり入れる広さがあり、オルファは大ハシャギで泳ぎまくる。
ザンキは、湯船に浸かると直ぐに立ち上がり
「ワシはもう出る!お前は、たっぷり垢を落として来い!」
と言ってさっさと出て行く・・・
「はやっ!」
オルファは思わず口に出した・・・
ザンキが風呂から上がり、新しい服に袖を通すと、1人の兵士が待っていた・・この兵士は、4.5日前に森で話をしていた使者の男で
「陛下の元へ参りますか?」
と尋ねると、ザンキは
「まずは、上王に挨拶に行く」
と言って歩き出し、使者の男はその後に続く・・・
上王の部屋の前には、部屋番の兵士が立っていて、ザンキが近付くと直ぐに扉が開かれた。
部屋の中は薄暗く、天井の高い大広間が広がっていて、壁には大きな絵が幾つも掛けられている。
その中には、ザンキの若かりし頃の勇壮な姿が描かれた絵も見えた・・・
使者の男は扉の所で待ち、ザンキが奧へと進んで行くと、1人の老人が椅子に座っている。
その老人は、口は半開き髪の毛もほとんどなく、目も開いているのか・・・ただ、ぼーっと遠くを眺めていた・・・
ザンキは老人の前に来ると、静かに片膝を付き、頭を下げ目を閉じる・・・
ザンキが目の前に来てもぼーっとしたまま動かず、生きているのか死んでいるのかも分からない、この老人の首には、ドラゴンナイトが掛けられている。
ザンキは、心を通わせる様に静かに、目を閉じていた・・・
城の厨房では次々に料理が作られ、テーブルの上に運び込まれて行く。門番の態度で、ザンキの機嫌が悪いと言う噂が広がりピリピリした空気が漂う・・
門番一筋15年の男は、門番長にこっぴどく叱られ、ひどくへこんでいて、新米の門番は気まずい思いで門の前に立っている。
そこに、小さな人影がヨロヨロと近付いて来た・・
ボロボロのフードを被り、顔は薄汚れ、少女とは思えぬ程であったが、しゃべり出す声が少女だと思わせた。
「あの・・すみません・・私はサラと申します・・王様にお会いしたいのですが・・・」
サラが尋ねると、新米の門番は
「えっ?いや・・あの・・許可証がないと・・」
優しく断ろうとしたが、隣で聞いていた門番が息を吹き返し、いきり立った!
「王様に会うだとぉ!てめぇ!何考えてんだぁ!」
門番長に叱られ、たまったストレスを爆発させる様に怒鳴り散らし、少女に詰めより、首根っこを掴みかけたその時!
「これをお見せすれば、お会いできると・・・」
胸元の袋からロメロ金章を取り出す。
それを目にした門番は、ピタッと固まり・・・
「う・・嘘だろ・・」
サラは、バルモント山のジルバの使いで来た事を門番に伝えると、新米の門番は門番長を呼びに走って行った・・・
ベテランの門番は、何か腑に落ちない気持ち悪さを感じて・・・
『今夜はいったい、どうなってんだ・・・』
と呟いた・・・
オルファが風呂から上がり、新しい服を着て、案内された部屋には、山の様な料理がテーブルに並んでいる・・・
「ここに、お掛け下さい」
オルファは言われるままに座り、右を見ても左を見ても旨そうな料理が並んでいるのを見て「ゴクリ」と生唾を飲み込む・・・
「皆様が揃うまで、そのままお待ち下さい」
そう言うと、案内人は部屋を出て行き、オルファは目の前の豪華な料理をじっと見つめる・・・
門の所では、門番長がサラの元へ来て
「急いでいるのか?」
と尋ねると、サラは「はい」と応えた。
門番長に案内され城に入り、サラはホッとしたが、今度は王様に会う緊張が襲ってきた・・・
気を落ち着かせる間もなく、玉座の前に案内されると、両膝と両手を付き頭を下げる・・・
「・・わ・私は・王様にお尋ねしたい事があり・・まっ参りました・・サラと申します・・・」
王は、顔を上げ何を聞きたいのか申してみよ!と言い、サラは恐る恐る顔を上げると、優しそうな王様の目に落ち着く事が出来た。
「ガムガダンの騎士、ザンキ・ワン・カップと言うお方を探しています。何処に居るか王様ならご存知だと聞いて参りました」
そう言うと、サラには王様の顔が驚いているのが分かった・・・
「今、そちは!ザンキを探していると言ったな!」
「はい、左様でございます」
サラが答えると、王は嬉しそうな表情を浮かべ
「サラと申したな、そちはツイておる!ザンキなら今、この城に来ておるぞ!」
と言い
「おい!誰か、ザンキをここへ連れて参れ!」
サラは思い掛けない状況に、只々、驚いていた・・
「ゴッ・ゴホン・ゴホンッ!」
オルファが、目の前の料理にそぉーっと鼻を近付け匂いを嗅ごうとしたり、ちょっと手を伸ばすと咳払いをする男がいた・・・
その男は長身で金髪を肩まで伸ばし、腕にナプキンを掛け、気取った感じでオルファの正面の壁際に立っている。
部屋には2人きり・・・
「おい!何なんだてめぇ!さっきから!」
オルファが言うと、男は
「私は給仕係です。ご用件があればお申し付け下さい」
「ご用件?」
と言い、オルファは給仕係を睨み付け!
「よぉーーし!じゃあ、ご用件を言ってやる!目を閉じてなっ!」
給仕係は『えっ?・・それが用件・・』と思ったがオルファが怖い顔で睨んでいたので『・・・何だか面倒な奴だぞ・・ここは、言う通りにしておくか』と少しくらい、つまみ食いされる事を覚悟して、目を閉じた・・・
「ザンキ殿、陛下がお呼びです!」
ザンキは目を開け、鼻から一息吐くと立ち上がる!




